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10話『Mission2 手持ちの服はゴミ箱へ!【後編】』

 冗談なのか、本気のアドバイスなのか――。

 赤色やゼブラ柄なんて、間違いなく上級者のチョイスだ。


 さすがにここは主張したほうがいいと思い、店員さんに助けを求める。


「いや、ディーノさんじゃなくて店員さんに聞いたんですよ!ね?どうですか、ワコさん!」


 俺はすがるように彼女の名を呼んで、ハッとする。初対面で下の名前で呼ぶなど失礼ではないだろうか。


 そんな俺の心配をよそに、彼女はまったく気にしていない様子だった。


「そうですね。赤やゼブラ柄はコーディネートの難易度が高めかと思います。大事な日の勝負服選びなんですから、真面目にアドバイスくださいね。ディーノさん!」

「ワコちゃんは怒った顔もキュートだネ」

「はぐらかさないでください!」


 もはやコントのように繰り広げられる彼らのやりとり。あまりにも自然で楽しそうだ。

 俺は微笑ましく思いながらも、いまこの瞬間しか学べない貴重な恋愛教材として彼らを見つめていた。


「大河内様、ぜひ実際にご試着されてみてはいかがでしょうか?」

「そうですね。お願いします」


 俺はこの日、20種類近くのYシャツとジャケットを試着させてもらった。

 試着の様子を見ていたディーノさんは、飽きずにすべてのコーディネートに意見をくれた。


 最後の試着が終わると、ディーノさんに「白いYシャツ、今日そのまま着て帰りなヨ」と言われた。


 もともと着ていたチェック柄のシャツと、白色のタンクトップはというと…

「もういらないから」とのお達しで、お店に処分してもらうことになった。


 結局、Yシャツは黒、白、紺、薄いブルー、グレーの5色を。そして、ジャケットは紺、黒と白のストライプ、ベージュの3色を買うことにした。


 ディーノさんはお会計をしながら、「僕のアドバイスを無視された」「全然遊びゴコロがないチョイスだ」と、面白くなさそうにしていたが。使いやすく、組み合わせもしやすい色を選べて大満足だ。


「長い時間、試着に付き合ってくださり、本当にありがとうございました」

「とんでもございません。素敵なお買い物ができていましたら幸いです」

「店長、今日はありがとうございました。また近く、自分のを新調しに来ますね。

 ワコちゃんもありがとうね。また僕に似合うオーダースーツ見繕ってネ!」


 こうして俺とディーノさんは店を後にした。


「ディーノさん、ありがとうございました!ハリがある皺のないYシャツを着ていると、背筋がピンと伸びますね」

「着てるだけで気持ちが引き締まって、自信を与えてくれるよネ」

「はい。もっとファッションを学びたいと思いました」

「せっかく痩せたんだから、もっと体型がわかるシルエットの服が似合うと思うヨ」

「アドバイスありがとうございます。参考にします」

「そういえば、チェック柄のシャツ、何着も持ってるって言ってたよネ?今日、全部処分ネ」

「え……でも高校時代から着てるので、けっこう愛着があって…」

「高校時代!?What!?ファッションを学びたい男に、愛着なんて不要!家にある服全部、ゴミ箱行き!これ師匠の命令ネ!」


 こんな時に限って、師匠風を吹かせるとは。ズルすぎる。


「わかりました……。クローゼットの中身、すべて処分します……」


 俺がそう言うと、ディーノさんは満足げな表情を浮かべた。


 ――この人、絶対、アドバイス通りの色を選ばなかったこと根に持ってたな…。


 今の自分には、赤色をスタイリッシュに着こなせる自信がない。でも、いつかまたこの店に来て、堂々と赤色のYシャツを買いたいと思った。


「次はどこに行きますか?」

「う~ん……。僕、疲れちゃったからカフェで休みたいヨ~」


 時刻は13時を回ろうとしている。お腹もほどよく空いている。


「俺、このあたり土地勘がないので…今、お店探してみますね」

「No。僕、行きたい店ある。ついてきて」


 しばらく歩き続けていると、『外苑前駅』という場所に来ていた。

 表参道は商業施設やおしゃれなショップが軒を連ねて賑やかだったが、この辺りは人通りも少しだけ落ち着いている。


 大通りから小道に折れた先、住宅も点在するエリアで、ディーノさんは足を止めた。


「ここ」


 ガラス張りの開放感あふれる外観。変に目立とうとするような派手さはなく、店名もドアに小さく書かれているのみ。街並みに自然と溶け込んでいる。


 そこはまさに隠れ家と呼ぶにふさわしい場所。知る人ぞ知る、という言葉がぴったりのCafé&Restaurantだった。


「いらっしゃいませ。2名様でよろしいでしょうか?」

「はい」


 いままで訪れたお店はディーノさんの知り合いの店だったが、ここはどうやら違うらしい。

 外向きの顔をしているディーノさんをはじめて見た。


 席に案内される時に辺りを見渡すと、おしゃれな女性たちやカップルばかりだった。


 着席と同時に、「女性が多いですね」と小声でディーノさんに話しかける。


「本当は女の子を連れてきたかったヨ……」


 ディーノさんはあからさまに残念そうな顔をする。


「だったら、もっと大衆的な店にすればよかったじゃないですか!」

「大衆的?No,No,No!これもキミのための恋愛レッスンの一環だヨ!」

「?????」

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