第7話 遠出と、市場と、ふわふわカゴいっぱいの素材たち
朝、まだ空が淡い桃色をしているころ。 ぼくとノア、それからポルンは、ちょっと遠くの街──リーファの町へと出発した。
「歩いても行けるけど、今日は街行きの魔導バスが出てるんだって」
「うわぁ、乗ったことない……! レト、切符ある?」
「うん。ほら、ちゃんと三枚」
ポルンの分は小さいけど、乗務員さんはにっこり笑ってOKしてくれた。 バスの中はふかふかの座席と、大きな窓。 ポルンは興味津々で窓の外にぺたっと張りつき、ノアはきょろきょろと座席のまわりを見ていた。
「なんか、小旅行みたいだね」 「うん……わくわくする……」
◇ ◇ ◇
リーファの町は、森から三つ丘を越えた先にある、小さな交易の町。 石畳の道に、花の鉢が並ぶ通り。 朝市が立っていて、香ばしいパンとスパイスの匂いが漂っていた。
「わあっ、あのカゴに入ってるの、乾燥マロニエの実かな? 魔力耐性があるやつ!」
「これ、ノア用の素材袋、もうひとついるかもね」
ぼくらは市場をそぞろ歩きしながら、ひとつひとつのお店を見て回る。 乾燥ハーブ、色粉、軽石、樹皮チップ──知らない素材もたくさんあった。
ポルンはお店の人たちに「ぷるん」と挨拶して回っていて、気づけばおまけまでいっぱいもらっていた。
「これ、ふわもち草のドライだって。ポルンのおやつにぴったりかも」 「ぷるん♪」
◇ ◇ ◇
素材をあらかた揃えたあとは、町の端にある広場でお昼をとることにした。 木陰のベンチに座って、持ってきたパンとドライハーブのバターをぬって食べる。
ほのかな風と、広がる空の下でのランチタイム。 ノアはノートを開いて、見つけた素材のことを一つずつ記録していた。
「ねぇ、あの店にあった“ウィンドコア”、覚えてる?」
「ああ、風を集めて循環させる石。魔導ミトンの出力調整に使えるかもって言ってたね」
「うん。ちょっと高かったけど、やっぱり買ってよかったな……」
ポルンはベンチの上でお昼寝していた。ぐっすりと気持ちよさそう。
◇ ◇ ◇
帰り道、バスを待ちながら、小さな喫茶店に立ち寄った。 白いカーテンがゆれる窓辺の席で、ぼくたちはハーブティーをすすった。
「素材を買うだけのつもりだったのに、なんだか旅気分だったね」
「ね……また行きたいなぁ」
「次はもっと遠くの市にも行けるかも」
そう言ったとき、ノアの目が少しだけきらっと輝いた。
「……じゃあさ、次の作品、あの街の素材だけで作ってみようかな」
「いいね。旅する職人って感じだ」
ポルンが「ぷるるっ」と寝言のように鳴いた。 その音が、遠出の一日の静かな余韻のように聞こえた。
◇ ◇ ◇
小屋に帰ったころには、夕暮れが空を茜色に染めていた。 カゴの中の素材が、きらきらと夕日を反射していて。
ぼくたちはその日拾ったもの全部──素材も記憶も──大切に、小屋にしまった。
今日も、やさしい冒険だった。 そして、たぶん明日も。