第5話 ポルンはふしぎな子? 〜図書館とお菓子とちょっぴり特別〜
今日は、久しぶりに王都の「創具学院」まで足を伸ばすことにした。
ノアが試作品を先生に見せに行くついでに、学院の図書室を使ってみようという話になったのだ。
ぼくも、ポルンのことをもう少し調べてみたいと思っていた。
ポルンは、あの日からすっかりぼくらの仲間になった。 ふわふわとノアのポシェットにおさまって、一緒にごはんを食べ(クッキー限定)、一緒に眠る(レトの小屋の窓辺がお気に入り)。
魔力感知も素材探索も、なんとなくやってのける不思議な能力を持っているけど、それにしても“浮いてる”ことや“光る”ことが多すぎるような……。
「もしかして、ポルンって、すごく珍しい魔物だったりして?」
「えっ……あたし、ただのもふもふだと思ってた……」
そんな会話をしながら、ポルンは相変わらず“ふよ〜ん”と浮いている。
◇ ◇ ◇
創具学院の図書室は、木の香りと古紙の匂いが混じる、静かで落ち着いた場所だった。
高い棚にぎっしりと並ぶ本たちの間を、ぼくとノア、そしてポルンが並んで歩く。
ノアは課題の参考文献を探しに行き、ぼくは「ふわもこ属・魔物図鑑」の棚に向かった。
「ふわもこ……ふわもこ……あ、あった」
表紙に描かれた、丸っこい魔物たちのイラスト。
ぱらぱらとページをめくっていくと、そこに載っていた。
《ウィスプリング》──小型魔物。高原や深い森に生息。毛色は黒または茶が一般的。臆病で人懐っこい。浮遊能力あり。魔力感知に優れる。
「黒か茶……?」
ぼくは、ポルンを見た。 白い、ふわふわ。
ページの下に、小さな注釈があった。
《まれに、突然変異により“銀白”の個体が生まれることがある。魔力親和性が高く、非常に珍しい。観測例は少ない》
「……ポルン、君、レアだったんだ」
ポルンは、ぷるんっと丸く震えた。 どこか照れたような、その動きに、ぼくは思わず笑った。
◇ ◇ ◇
お昼は、図書室の裏庭にある小さなベンチで、ノアと合流してお弁当タイム。
「見て見て。今日のは“にんじんとハーブのしっとり蒸しパン”」
「レト、料理上手すぎる……」
ノアが感動しながらもぐもぐ食べている横で、ポルンには木苺クッキーを差し出す。 ポルンはいつものように、ふよふよと浮かびながら、もにゅ……とクッキーを口に含んだ。
「……で、どうだった? 図鑑」
「うん。やっぱりウィスプリングだったよ。でも、普通は黒とか茶色。白いのは、すごく珍しい“銀白種”なんだって」
「へえ……すご……! つまり、ポルンって超レアもふ?」
「たぶんね。あと、魔力親和性が高いらしい。だから素材が見つけやすいのかも」
ノアは、少しポルンを見つめて、それからふわりと笑った。
「……でも、あたしにとっては、レアとか関係なくて、ただのかわいい仲間だな」
「うん。それがいちばんだよね」
ポルンは、嬉しそうにぽわっと光った。
◇ ◇ ◇
その帰り道、ポルンはしばらくノアの肩にちょこんとのっていた。 まるで、話を聞いていたように、安心したように、やさしい光をまとって。
珍しくても、特別でも、どこかの図鑑に載っていようといまいと。
ポルンは、ぼくらの大事な仲間で、
ポシェットの中でいちばんあったかい場所に住んでいる──そんな存在だった。
今日は、そんなふわっと優しい、図書館とお昼ごはんと、仲間のことを想う一日だった。