第4話 ふわふわポルンと、鳴き石さがしの森さんぽ
その日は、森の奥で「鳴き石」を探していた。
鳴き石は、風が通ると小さく鳴る不思議な鉱石で、クラフト職人たちの間では“音を宿す石”と呼ばれている。ノアが作っている癒し道具のバリエーションに使えないかな、とふたりで話していたのがきっかけだった。
木漏れ日の中を、ぼくとノアは並んで歩いていた。
「ねえレト。鳴き石って、どんな音がするの?」
「ぼくが聞いたのは、すごく優しい音。かすかに鈴が鳴るみたいに、“ころん……”って」
「いいなあ……小瓶に入れて、振ると鳴くようにできたら最高……!」
ノアの目がきらきらしている。
この子は、ほんとうに“すごいもの”が好きだ。
素材を見て、何を作ろうか考えるときの表情は、まるで星空を見上げてるみたいに明るい。
森はすっかり夏のにおいだった。 湿った草、甘い実、虫の羽音。けれど木陰は涼しくて、足元にはちいさな白い花がぽつぽつ咲いている。
「しずかだね……」
「うん。鳴き石が鳴くには、ちょうどいい風かも」
ぼくらは耳を澄ませた。 そのときだった。
「……ふぁ」
……?
今、なにか……聞こえた?
空耳じゃない。たしかに、すごくちいさな、息のような……
「今、聞こえたよね?」
「うん……あっち」
ふたりで同時に、同じ茂みに目を向けた。
草の向こうで、なにかが──“ふわっ”と動いた。
◇ ◇ ◇
そーっと近づいて、ぼくらはそっと顔をのぞかせた。
そこにいたのは、
まんまるで、白くて、ふわふわした毛玉だった。
毛玉、としか言いようがない。
けれどそれは、ふよふよと少し浮かんでいて、まるで小さな雲のよう。
そして、大きなつぶらな目が、じーっとこっちを見ていた。
「……魔物?」
「たぶん、ふわもこ属の……《ウィスプリング》かな。温和な子だよ」
ノアが、そっと手をのばしかけた。
その瞬間、ふわもこはぴょんと跳ねて、ぶるんぶるん震えた。
「きゃっ、逃げた!」
「ちょっと待ってて」
ぼくはポーチの中を探り、昨日作った《木苺ジャムクッキー》を取り出した。
「これ、置いてみよう」
ノアがそれを草の上にそっと置く。
しばらくの沈黙。
……そして。
ふわもこは、ふよふよ戻ってきた。
ぴた、とクッキーの前で止まり、くんくん。 そっと、もにゅ……と口(?)をつけた。
「……たべた……!」
ノアが小さく歓声をあげる。
それから、ふわもこは、ぽすんとノアの足元に座り込んだ。
「……な、なんか……かわいすぎない……!?」
「うん。あったかそう」
「さわってもいい……?」
ノアがそっと手を伸ばすと、ふわもこはぷるぷるっと震えてから、すり……と身を寄せた。
「ふわっ……!!」
「名前つけよう」
「えっ、もう仲間にする気!?」
「うん」
ノアは目を輝かせて、しばらく考え込んだ。
「……ポルン」
「ポルン?」
「ぽわぽわしてて、ふるえるから、“ポルポル”って。それをやさしく言うと、ポルン」
名前を聞いたふわもこ──いや、ポルンは、ぽわっと淡い光を放った。
気に入ってくれたらしい。
◇ ◇ ◇
そのあとは、3人で(?)森を歩いた。
ポルンはふよふよとノアの後ろをついてきて、たまに草の間から顔を出してきょろきょろしていた。
途中、ノアが「これ!」と指差したところに、《鳴き石》がころんと落ちていた。
「すごい……見つけるの上手だね、ポルン!」
「これ、共鳴してるのかも」
ぼくが言うと、ポルンはふるふる、と得意げに(?)震えた。
ポルンの魔力は、どうやら周囲の素材と反応して共鳴するみたいだった。
◇ ◇ ◇
小屋に帰ると、ノアはすぐに《鳴き石》で試作に入った。
ポルンはその間、机の上でちょこんと丸まって、光のように寝息を立てていた。
「完成……!」
できあがったのは、小さなベル付きの瓶。 中に《鳴き石》と《しゅわ草》が入っていて、ポルンの魔力で共鳴すると、ちいさく“ころん……”と音が鳴る。
「癒し瓶・二号。名づけて“ころぽわベル”!」
「……センスはあると思う」
「またその反応……っ」
ふたりで笑って、ポルンもきらっと光って、一緒にころんと揺れた。
こうして、森の小さな仲間がひとり、いや、ひとふわ、増えた。
スローで、ふわっと、あたたかい日々のはじまりだった。