第41話 特級フラグ建築士
ダンジョンの中は朝・昼・夜の区別がない。
厳密に言えば、どれかに設定すればできるが、ずっと朝だしずっと昼だしずっと夜なのである。
つまり、日付感覚というものがない。
『無名のダンジョン』の中にある管理室で戦況を見守る俺は、ふとそんなことを考えていた。
1週間? 2週間?
体感そのくらいの時間は経っていそうだが、戦況は一向に変化していない。
迷宮管理者権限で、召喚した魔物と視界を共有する。
スレ民たちと一緒に戦わせているワイバーンの視界だ。
日本中に魔物が溢れかえっていることもあって、『無名のダンジョン』に侵入してくる魔物の数もかなり多いが、スレ民や俺が召喚している魔物たちが強いこともあって危機的状況に陥る心配は無さそうである。
あと…………
ワイバーンを操り、チラリと横を見る。
『いいいいいやっふううううううううう!! ふぉおおおおおおおおおおおお!!!!』
あの……バカニキがバカ……(小〇構文)
なんか拳ブンブン振り回して、なんか走り回ってるんだけど……周辺の魔物が全部吹き飛んでいくよ……?
え? 怖いよ……? シンプルな恐怖よ……?
あと、なんか手から渦巻き状のナニカが出てるんだけど……?
え、あんなの鬼〇の刃の妓〇太郎でしか見たことないんだけど?
あれって血〇術だから許されたことじゃないの?
『〇鬼術、円斬旋回・飛び血鎌ッッ!!』
『グオオオオオオオオオッッッ!!』
いや……じゃあもう血〇術じゃねーかよ!!
えぇ………………?
俺は視界共有をやめた。
ジャ〇プ漫画みたいなのを現実でやられたせいで感覚が鈍りそうだったからだ。
続いて、地上の様子。
管理室に設置された無数のモニターには全国複数箇所の様子が映し出されている。
どこも特に危なそうな様子は見られないし……とりあえずワンオペのケンヤでも見るか。
『無名のダンジョン』の初期出入り口付近を映した映像を、管理室の壁に取り付けられた大画面で表示する。
このあたりは『深淵のスターリヴォア』周辺ということもあり、他地域と比べても魔物が強いと聞いている。
だからこそ、日本最強冒険者のケンヤを配置しているし、何かあったらすぐにサボリニキが駆けつけられるようにしている。
数分前にサボリニキがケンヤのところにいったから今は大丈夫だと思うけど……
『ズズ……お茶うっま』
あれおかしいな。
チャンネル間違えたかな。
『あと、おはぎと饅頭とお団子置いておくね』
あれおかしいな。
スタンピード中ってスイーツ食べる暇あるんだ。
あと和菓子好きだなおい。
『あぁすまねぇな。あとお茶のおかわりってあるか?』
『あったかいのしかないけどいい?』
『あぁ。サンキュー』
あれおかしいな。
もしかしなくても2杯目いってるよな?
あと、なんで温かい方があるんだよ。相場は冷たいお茶だろ。
相場ってどこだよ。
……といったように、戦況が変わらないのだ。
海外からの支援やこの『無名のダンジョン』のおかげで人間が死ぬことはないが、対する魔物は無限に湧き出てくる。
どーしろっちゅうねん。
──……。
あの……そろそろ……いいよ?
今ね。1000文字にわたってフラグ立てたよ?
ね、ほら……多分『深淵のスターリヴォア』さんなんでしょ、主犯。
ちょっと、平坦な物語は俺もそろそろツッコみづらいからさ?
『な──ッ!! 地震か!?』
『これは……マズそうだね……ケンヤ、僕から離れないでね』
え、よっしゃ。なんか思い通じた。
皆さん知っていましたか。フラグって本当に実在するみたいですよ。
サボリニキはすぐそばにいるケンヤとともに、風魔法で空高く飛び上がる。
俺が見ているこのモニターは地上に設置されたカメラからの映像なのでサボリニキたちの姿は捉えられないが、おそらく地震が収まるまで空で待機するのだろう。
当たり前のように人間が空に浮かないでほしいが、それはもうツッコミ疲れたからいいや。
ふと他の場所の映像を見てみるが、埼玉ほどは揺れていないように見える。
……本当に『深淵のスターリヴォア』が犯人の可能性が見えてきて俺は震えてる。
そして次の瞬間──、ザーッという音がしたかと思うとモニターに何も映らなくなった。
カメラが地震の揺れに耐えきれなかったか……。
俺はスマホを取り出し、サボリニキに電話をかける。
「もしも──」
『ブオオオオオオオオオアオッッッ!!』
「いや風の音うるせええええええええアッ……ッ!」
『|あー! ごめん! ちょっと待ってよ……《ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオ》よし、聞こえる?』
「─△─」
『あれ? スレ主? スレ主いいいいいいいいいいいいいいいッ!!』
『氷室お前は味方を何キルしたら気が済むんだ』
『そんなにキルしてないけど? 待ってて、うおっほん! ンンッ! ンッッ!!』
『なんで声のチューニング?』
『──……う〜ん……どこが変なのかなぁ☆』
「栗"原"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!」
っは! 俺は何を!?
『もうやだ……俺はお前らが怖いよ……』
「サボリニキ、そっちどんな様子だ? 今の地震でそこのカメラが壊れちまって」
『地震自体はまぁただ酷いなって感じだけど、それよりも『深淵のスターリヴォア』から感じる魔力の方が半端ないね……』
ふむ。やはり『深淵のスターリヴォア』なのか。
とりあえず、俺のフラグが原因でないことを祈っておこう。
『おい、氷室……あれ…………』
『……あちゃぁ……』
「えなに? 建物崩れた?」
『いや、それはもう今更すぎる。『深淵のスターリヴォア』からつよーい魔物どもが溢れてきてんだよ』
『僕ならまだワンパン圏内だけど、このまま無限に襲ってくる魔物を倒すだけじゃ埒が明かないよね』
「んじゃ────そろそろ行くか?」
俺は首に掛けているネックレスを力強く握る。
指と指の隙間から漏れ出る水色の淡い光は、妹の琴葉がまだ健康に生きていることを示してくれている。
黒いシルクハットに怪しい仮面。漆黒のタキシードに鋭いレイピア。
俺の、家族から何まで全てを奪っていったアイツのことだけは、今日この日まで一度たりとも忘れた日は無い。
忘れたいほど苦しい過去であることには間違いないが、忘れたくないほど憎い存在であることにも変わりない。
全て────この手で決着をつける。
『お、やっと地震が収まったっぽいぞ?』
『それじゃスレ主。こっち来る?』
『え? お前って戦えんの!?』
ケンヤの驚いた声が聞こえてくる。
俺は確かに『迷宮管理者』だ。
だが────、
「あぁ。今行くぜ!」
何も、管理するだけがこのスキルじゃない。
今までやってきたダンジョンメイキングなんて、ほんの一端に過ぎないんだから。
俺はニヤッと笑いながら、ワイバーンを呼び出しその背中に乗って管理室を後にした。
全ての決着をつける地──『深淵のスターリヴォア』に向かって────…………。
あっ、『一端に過ぎない』事に気づいたのは、たしか3日前です。
てへ。
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