8 発熱
お読み下さって本当にありがとうございます。
次は13時頃に更新します。
どうぞよろしくお願いします
雨はすぐに止み、その小康状態の中、山を下りた。下りるときも、ソラリスは、ロゼを気遣って手を引いてくれた。
そしていま、ロゼは熱を出していた。雨に濡れ細ったのが祟ったのだろう。
体は痛み、激しい咳が出て時折、体を曲げて咳き込んだ。水が飲みたい、と思ったとき、体を支えられ口元に椀を宛てがわれた。ロゼはその、水をこくこくと飲んだ。ぼんやりと視線を向けると、そこにいたのはソラリスだった。
「ソラリス……どうして」
水が飲みたいことがわかったの? と聞きたかったが、声を出すのも辛かった。また酷い咳が出て、ソラリスはロゼの背をさすった。
「姉上……大丈夫ですか……?」
その声は本当に心細そうな声で、ロゼはなんとか頷く。
「ここにいたらダメよ……。あなたに風邪がうつってしまう……」
「大丈夫です。そんなこと気にせずに休んでください」
そう言われて、ロゼは再び、浅い眠りに落ちた。見る夢はとりとめのない悪夢ばかりだった。
再び目を開けると、もう夜も暗くなっていた。横を見ると手を繋いだまま、眠ってしまっているソラリスがいた。
風邪がうつってしまう、そう思ったけれど、思考するのにもまだ辛かった。ソラリスのひんやりとした手が気持ちよくて、手を繋いだまま、ロゼも再び眠りに落ちた。
ソラリスは、結局、その2日後に熱をだした。侍女に聞けばロゼの側を離れようともせず、看病をしたり、手を繋いでいてくれたらしい。
ロゼもまだ体調が回復してなかったが、なんとか身を起こして見舞いに行くと、風邪がぶり返したらいけないからと、頑として中へ入れてくれようとはしなかった。
「ソラリスは、私の看病をしてくれたのに……」
扉越しにそう言うと、ソラリスは、咳き込みながら返事をする。
「僕は、姉上よりも、頑丈だから良いんです」
「だって、しっかりうつっているじゃない」
「姉上に比べたら、大したことはありません。それより、姉上も、まだ治りきってないのですから、早く部屋に、戻ってください……」
頑として扉を開けてくれない。これ以上、ここにいても却ってソラリスを悪化させてしまうと、ロゼは仕方なく自室に戻った。
それから2日後、完治したロゼはソラリスの部屋へと急いで向かったが、彼はまだ、発熱していた。自分がうつしたのだと思うと申しわけがなくて、ロゼはつきっきりでソラリスの看病をしたのだった。
ソラリスはぼんやりとロゼを見た。
「すみません……姉上……」
「何言ってるの。それは私の台詞だわ……」
ロゼは手拭いを濡らして、ソラリスの頭に乗せた。ソラリスは、ぼんやりとした目でその様子を見ている。
「……熱を出すのも、悪くないものですね……」
「何言ってるの」
「誰かに……姉上に、看病してもらえるのなら……」
そう言って、ソラリスは眠りに落ちた。ロゼは思う。ソラリスには、誰かに看病してもらった経験はないのだろうか、と。
「ここにいるわ。安心して、ソラリス……」
ロゼはそう言うと、ソラリスがそうしてくれたように、ぎゅっと彼の手を握ったのだった。