表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/47

35 重なる笛の音

 厳しい冬が終わりやわらかな春が来た。桜の花が一斉に芽吹き、まるで霞のように淡いピンク色の花を咲かせていた。時折吹く風に揺られながらも、桜の花はまだ散ろうとはしなかった。

 ロゼは、渡り廊下からその様を眺めていた。陽射しは暖かく、燦々と降り注いでいる。 

 ロゼは横笛を手に持ち思いを馳せた。春になったというのに、まだソラリスは帰ってこなかった。便りもなく、今ごろどうしているのだろうかと思う。

 渡り廊下を降りて庭に出ると、桜の花霞が一層美しい迫力を持って揺れていた。

 淡いピンク色の花は、目にとても優しい。

 ロゼは横笛を構え、そっと息を吹き込んだ。美しい旋律が桜並木に吸い込まれていくようだった。目を閉じて一心に笛を吹く。脳裏に浮かぶのはソラリスだった。彼が旅立ってもう1年が過ぎた。時が経つのが遅く感じた1年だった。

 ソラリスを想い、ふたりで良く吹いた曲を奏でる。

 ふと、ロゼの横笛の音に、音色が重なった。どこまでも伸びやかで心を打つ美しい旋律が。ロゼは笛を吹く手を止めて、驚いて目を開けた。

 桜の花霞に隠れてしまうかのように、しかし確かに、白銀の煌めきが見えた。

 風に白銀の髪が揺れる。ロゼは呆然とその姿に見入り、音色に聞き入った。

「ソラリス……?」

 信じられない思いでつぶやくのと、横笛の旋律が終わるのは同時だった。ロゼは駆けた。一心に走ってゆくと、だんだんと白銀の煌めきと共に、ソラリスの顔が見えた。ロゼは手を伸ばす。

 にこりと花が零れるような笑みを見た。

「ロゼ……ただいま戻りました」

 ロゼは手を広げて、そして、しがみつくように抱きしめる。

 さあっと風が吹いて桜の花を揺らした。

「ソラリス……ソラリス……」

 本当はきちんと話したいのに言葉が出てこない。だから、ただ、ソラリスの名を呼んで抱きしめた。

 ソラリスが、少し躊躇いがちにそっとロゼの背に手を回す。

 本当はよく顔を見たいのに、ロゼの目には涙が溢れて視界がぼやけた。よく姿を見たい、よく声を聞きたい、そして話をしたい。それなのにままならないから、ロゼは抱きしめる手に力を込めた。ソラリスのロゼを抱く手にも力がこもる。

「ただいま帰りました」

 その言葉に、ロゼは言葉もなく、何度も頷いた。

「ロゼの作ってくれた服を大切にしていたのですが、背が伸びて着られなくなってしまいました。また……作ってくれますか?」

「うん……うん……」

 ロゼは何度も頷く。

「お……おかえり、なさい」

 やっと、それだけを伝えてソラリスの胸に顔を埋めた。

 桜の花が、まるでふたりのことを祝福しているかのように風に大きく揺れる。その可憐な花を風に乗せてふたりの姿を隠した。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ