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2 ずっと一緒

「父様、ソラリスと一緒に眠っても良いですか?」 

 その日の夕餉の時間にそう父に尋ねると、父は少し困ったような顔をする。ロゼは、言葉を続けた。

「ソラリスはうちに来たばかりで心細いと思うの。ね、お願い」

 重ねてそう頼むと、父は仕方ないなと言うように笑った。

「こう言っているけど、良いかい?ソラリス」

「え……ああ……はい」

 ソラリスが少し驚いた表情をして頷く。ロゼは、やった、と手を鳴らす。ソラリスが心配なのも本当だが、ロゼには同年代の友達がいない。年の近い子と親しく話してみたいと言う気持ちもあった。

 夕餉をとり終えると、ロゼはソラリスの手を取って長い廊下を渡り自分の宮へと案内した。部屋に着いて彼を見ると、どこか所在なげな顔をしている。ロゼは、安心させるように彼の手を握った。

「ソラリス、安心して良いのよ。父様も姉様もついてるわ。ここの家では安心して良いのよ」

「姉上もついている……?」

「そうよ」

 ロゼは、安心させるように頷いた。そして微笑む。

「私たち、ずっと一緒よ」

「……ずっと……?」

「そうよ、だから安心して。ここの家でのびのび過ごして欲しいの。ソラリスと仲良くなれたら私も嬉しいし」

 そう微笑むとソラリスは、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。吸い込まれるように美しい瞳だ、とロゼは思う。深い菫色の綺麗な瞳。笑った顔がみたいな、とロゼは思った。使用人に手伝ってもらってそれぞれ夜着に着替えると、ロゼは布団に入った。やはり所在なげにしているソラリスの手を引いて、一緒の布団に入らせる。

 じっと顔を見つめると、ソラリスはうつむいた。

「どうしてうつむいてしまうの?」

「僕の顔、変でしょう……?」

「変!?」

 ロゼは驚いて大声になった。静まり返った宮に、その声は大きく響いてロゼは慌てて声のトーンを落とした。

「なにを言ってるの? とても綺麗よ」

 そう言ってソラリスの頭を撫でる。

「父様とにている白銀の髪も、深くて綺麗な菫色の瞳も、本当に、私は大好き」

「大好き……」

「うん。大好き。だから、もうそんなことを言わないで」

「……はい」

 ソラリスは込み上げる感情を抑えようとするかのように、1度目をつぶり、それからロゼを見る。

「姉上も……とても、可愛らしいです」

「ふふ……あリがとう」

 ロゼは、ソラリスの頭を撫でる。

「ソラリスの好きな色は何?」

「色、ですか……白、が好きです。優しくて、綺麗な……」

 そう、とロゼは頷く。覚えておかなくては、と思う。

「好きなことはなに?」

「……本を読むことは好きです」

「わあ、私もよ。嬉しい」

 ロゼは笑顔になった。ロゼの部屋にはいろんな書物が置いてある。ロゼの父は外交を担当していて、レアルをはじめとする遠い国々の本も所有していた。その本の挿絵を見るのがロゼは好きだった。そう話すと、ソラリスは頷く。

「音楽はできる?」

「いいえ……姉上は?」

「私は横笛を習ってるの。良かったら今度、一緒に習ってみましょうよ」

「はい……あリがとうございます」

 そこまで話して眠気が込み上げて、ロゼはひとつあくびをする。

「もう寝ましょうか。おやすみなさい、ソラリス」

「おやすみなさい……姉上」

 ロゼはソラリスの手を握り微笑んだ。

 今日は本当は少し驚いた。父が亡くなった母のほかに妻がいたというのは、ほんの少しだけ彼女の心を傷つけた。でもそれがこのアルーアでは普通のこと。むしろ、母が亡くなったあとに妻を娶ろうとしない父の方が珍しかったのだ。そしてそれはソラリスとは、関係ないことだ、とロゼは思う。この子はとても良い子だ、と思ってロゼは眠りに落ちる。 

 だからソラリスが眠れずにいることを、彼女は気づかなかった。


 

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