17 ソラリスの望み
「では、ソラリスは……亡くなった叔母様の子どもなのですか」
叔母が亡くなったのはまだ自分が赤ん坊の頃だ。ロゼは驚いて尋ねた。叔母の境遇も知らなかった。誰も教えてくれなかったから。父は短い息を吐く。
「そうだ。ソラリスとおまえは従兄弟になるね」
「従兄弟……」
「婚姻も、できる。養子であることを抜ければだが」
「そんな……」
ロゼは頭が追いつかない。次々と明かされる真相に。
「ソラリスは王宮へ行ったよ」
「なぜですか? まさか家を出ていくなんてこと……」
「ロゼ。ソラリスはおまえのことが好きなのだろう? 自分のできる限りのことをしたいのではないかな?」
ロゼは押し黙る。自分は一体、どうしたら良かったのか、と。どうするのがいちばんの最善になるのか。ロゼにはまだ答えが出せなかった。
「私になんの用だ」
極秘裏に父から王宮に連絡を取ってもらい、ひとり参上した。生物学上の父は、ソラリスを見ると嫌そうに眉を顰めた。ソラリスはその人を見やる。
後ろに流した白い髪の色、褐色の肌、漆黒の瞳。どれも自分には似ているところなど見当たらないし、なにも感慨も湧いてこない。自分にとっての家族は、ロゼと父上なのだと改めて認識した。
ソラリスは真っ直ぐ視線を向ける。
「僕を、レアルに遣わしてください」
「レアルに?」
王は怪訝そうに尋ねた。ソラリスは頷く。
「僕の髪の色は白銀です。レアルでは天主を除いた最高位の身分です。1年で良いのです。レアルに遣わせてください。見聞を広め、必ずや王家の役に立ってみせます」
王はしばらく何も言わず考え込んでいた。アルーアにいてもなにも役には立たない。確かにそれならばレアルに遣わせて両国間を取り持つようにした方が良いのかもしれない。だがーー。
「なにが望みだ?」
王は静かに尋ねる。息子などと思ったことはない。それでもかつて愛した妃の忘れ形見であることには変わりなかった。
死んだはずの王子ーーそれは今は、姻戚のヘリオス家に養子に行った。今さら、なにが望みだというのか。
「もしも、私がレアルに行って成果をあげられたら、養子であることを抜け、独り立ちしたいのです。望むことはそれだけです」
「宮家を望むのか」
「宮家でなくとも構いません。家臣の当主の座を賜りたいと思っています」
ソラリスの声は凛として響いた。
王は考える。
「良かろう」
しばらく考え込んで頷いた。いてもいなくとも構わぬ子どもだ。もしも役に立ったらそれで良い。
「許す。仔細はヘリオスに任せよう」
父の名を出されて、ソラリスは頭を深く下げた。
ロゼと1年もの間、離れるしかない。そのことだけが、ソラリスの胸を締め付けていた。