15 ソラリスの告白
「ロゼ、ラファティとはどうなっているんだい?」
夕餉の時間。父が突然聞いてきて、ロゼは思わずむせてしまう。ソラリスが大丈夫ですか、とロゼの背中をさすった。
「だ、大丈夫。ソラリス、あリがとう」
そう礼を言い、父に視線を向ける。父が優しそうな顔をしているのを見て、ほっとする。
「……ラファティはお友達です」
「ふむ……でもラファティはそう思っていないみたいだよ。婚約について打診があった。」
「なんですって……!」
声を上げたのは、ロゼではなくソラリスだった。ラファティのことだ。にこにこ笑いながら外堀を埋めようとしているのだ。
「ソラリスは、どう思う?」
「僕は反対です!」
「それは何故?」
「姉上には……まだ結婚は早いです」
父は頭を振る。
「ロゼももう、16だ。許婚がいるのはおかしいことではないよ」
「ですが……」
更に言い募ろうとするソラリスをロゼが制して父に向き直った。
「父様、ラファティはお友達にしか思えません」
「結婚は家と家との結びつきだよ。ラファティがおまえを許婚に、と思っていることは覚えておいてあげさない」
「……はい」
ロゼはそう頷くしかなくて、そっとため息をついてうつむいた。
「姉上、まさか婚約されませんよね!?」
「ソラリス……」
食事が終わり、ロゼの後をついて部屋に入ったソラリスは、ロゼに詰め寄った。
そんなことは承認できない。なんとしても。ロゼはこころなしか、寂しそうに笑った。手を伸ばし、ソラリスの肩を宥めるように叩く。
「父様がああ言っている以上、きちんと考えなければならないわ」
「そんな……! 僕は嫌です」
「ソラリスももう姉離れをしないと……」
ソラリスはぐっと息をのみ、部屋の侍女たちを人払いをした。訝しがるロゼに、ソラリスは詰め寄った。
「僕は姉上が好きです」
「それは私も……」
「姉ではなく、ひとりの女性として好きです」
驚くロゼに、ソラリスは距離を詰めた。すぐそこにロゼの顔がある。ソラリスはもう一度、ロゼの瞳を見ながらゆっくりと言った。
「僕は、あなたが好きです……」
「だって、そんな……あなたは父の……義弟じゃないの」
ロゼの声が掠れている。目は大きく開き、自分だけを見つめている。ずっとこんな風に見つめられていたいとソラリスは願った。
姉の手を取り、ソラリスは更に言い募ろうとした。その時、扉が叩かれた。
「姫様、就寝の準備に参りました」
ロゼの視線が外れ、扉に目をやる。それが悲しくてソラリスは、ロゼを抱きしめた。耳元で振り絞るようにもう一度、囁く。
「僕はずっとあなたが好きです……」
そう一言言うと、ぱっとロゼを離して部屋を出て行った。
一人残されたロゼは、呆然と床に座り込んだ。
呆然としたまま夜着に着替え、ロゼは床に入った。ソラリスが、私を好き……先ほどの言葉が甦って、ロゼは頭を振った。抱きしめられた力は強かった。思い出すと、鼓動が高鳴る。
弟なのに、何故、こんな気持ちになるのだろう。罪悪感が頭をもたげた。
ソラリスのことは大切だし好きだ。弟として……? とロゼは考え込む。
ロゼはその夜、まんじりともせずに何度も寝返りを打った。