13 16歳になって
「姉上、入っても良いですか?」
「ええ」
ソラリスが部屋に入ってくる。ロゼもソラリスも共に16歳になった。ソラリスは背が伸びて、身長が止まってしまったロゼは見上げる程になった。声も綺麗な可愛らしい声から、落ち着いた優しげな大人の声になった。美貌はますます華やかさを帯び、宮の内でも若い使用人たちに人気があるようだった。
成長していくソラリスに、ロゼはなんだか寂しいものを覚えていた。
「今日はラファティが来ないようで安心しました」
開口一番そう言うソラリスに、ロゼは思わず笑ってしまう。ソラリスとラファティは、相変わらず仲が良いのか悪いのか判断がつかない。
「ラファティが聞いたらがっかりするわよ」
「しませんよ」
ソラリスは、嫌そうに顔を顰めた。
「姉上、桜の花を見に行きましょう」
「そうね。今日はお天気も良いし。行きましょう」
差し伸べてくる手を取って、ロゼは庭に向かった。
外は良く晴れ渡り小鳥の囀りが聞こえている。桜の花が青空に霞むように見えた。
「ソラリスと初めて会ったときみたい」
そう言ってふわりと笑うロゼを、ソラリスは懐かしそうな目をして見つめた。
愛らしく優しい姉は、出会った頃から優しかったとソラリスは思う。優しい笑顔、可愛らしい声、そしてなにより愛情深い性格をソラリスは愛していた。どこの者ともわからない自分を受け入れて、大切にしてくれた、心から大切な人ーー。
姉上は、僕と血が繋がっていると信じてる。だから、心安く僕と過ごしてくれる。
けれど本当は、僕と姉上は本当の姉弟ではない。僕が姉上をどれほど想おうとも、姉上は僕を意識してくれはしないと、ソラリスは思う。
「ソラリス! 見て、花びらをつかまえたわ」
風が吹いて花びらが舞い、ロゼの長い髪をそよがせる。姉は綺麗になった。こちらに向けてくる眼差しはどこまでも優しい。
姉上が好きだ、とソラリスは思う。誰にも渡したくはない。ラファティにさえ近づけたくはない。ずっとふたりで、この6年間過ごしたように、これからも過ごせたらーーいつか、好きですと伝えることができたなら、とソラリスはロゼの笑顔を見て思う。
「姉上、髪に花びらがついてますよ」
そう言って、姉の髪に止まった花びらを取る。触れた姉の髪はとてもやわらかだ。
「あリがとう」
目を細めて礼を言ってくれる姉を、眩しく見つめる。卑怯なのはわかっている。だが、この弟と言う立場は利用しようと思う。
そしてもうひとつ気がかりなのがラファティだ。相変わらずロゼのもとに遊びに来る。ラファティが姉を好きなのがわかる。同じ気持ち同士だから、不本意ながらわかってしまう。
まだラファティと姉の婚約の話も出ていない。
今のうちに、姉との距離を詰めておかねばならないとソラリスは思う。
もうひとりは耐えられない。この優しい場所を知ってしまっては、人を愛する気持ちを知ってしまってはーー。
「ソラリスも、花びらがついてるわよ」
姉が笑いながら言い、背伸びをして自分の髪についた花びらを取ろうとしてくれるので、ソラリスは少し屈んだ。
「良かった。取れたわ。これ、押し花にしましょう。できたらソラリスにあげるわ」
この優しい時がいつまでも続きますように、とソラリスは願わずにはいられなかった。