11 見合い当日
縁談の当日、ロゼは侍女たちに念入りに手入れをされていた。温泉に入り身を清め、長い髪を櫛で丁寧に梳いてもらい、纏めてもらう。可愛らしく生花を髪に挿し、紅をほんのりとひいた。
ブラウスに長いスカートを履き、銀糸の帯を締める。1枚布を腰から巻いて銀細工の花のブローチを肩口につけた。袖口を折った上着を羽織る。正直とても堅苦しい。
そこへソラリスがやってくる。すっかりよそ行きの支度のロゼに驚いたように、しげしげと眺めた。
「あまり見ないで。恥ずかしいから」
「姉上、とてもお綺麗です」
「ソラリスに言われても実感ないけど、あリがとう」
ソラリスは、少し複雑そうな顔をした。姉の美しく着飾った姿を見るのは嬉しい。けれどそれは自分の為ではないことがもどかしかった。
「僕も同席します」
「え?」
「父上の許可はいただきました。姉上をひとりにはできません」
「そんな、子どもじゃないんだし……」
ロゼは渋ったが、ソラリスは頑として譲ろうとはしなかった。
見合いというのは堅苦しいと、父は宮のよく陽がさす部屋に子どもたちだけを集めた。
その少年はとても穏やかで快活そうに見えた。
右目の下に泣きぼくろがあるのが印象的だった。彼はにっこりと人好きする笑顔を浮かべ深くお辞儀をした。笑うとえくぼができる。
「ラファティと言います。よろしく」
「ロゼです。よろしくお願いします」
「ソラリスです」
ソラリスがしれっと間に入り挨拶をする。一歩前に出てロゼを隠してしまう。ラファティは首を傾げた。ラファティも年は同じ14歳だった。今日は見合いと聞いている。なのに何故、部外者がいるのだろうか。
「君が噂の弟君か」
「噂は知りませんが、その通りです」
「俺は君のお姉さんと話をしたいのだけど」
「姉上に関することなら僕でも答えられますから」
ラファティとソラリスの間になにか緊張感のようなものが走るのを見た。ロゼは慌ててソラリスの服を引っ張った。
「ソラリス、後ろに下がって」
小声で言っても、ソラリスは動こうとしなかった。ロゼは困り果ててしまう。これでは縁談にならない。父の顔を潰してしまう。
「ソラリス、下がって」
少し強めに言うと、ソラリスの肩がぴくりと動き、渋々といった体でロゼの隣に並んだ。姉を取られるような気がしているのかしら、とロゼは思う。改めてラファティに向き直り、深くお辞儀をした。
「弟が失礼をしました。ラファティ様」
「様は、いらないよ。ラファティと呼んで欲しいな」
ラファティはおおらかに笑う。その飾らなさに好ましいものを覚えた。
「では、ラファティ。顔合わせも済んだことだし、父上たちの元へ戻りましょう」
「……君に言ったわけじゃないんだけど」
「ソラリス、失礼よ……!」
そう窘めても、ソラリスは黙っている。ロゼの手を握ると、一礼をして歩き出した。
「ソラリス……! ラファティ、ごめんなさい。失礼します」
取り残されたラファティは、呆気にとられなかわらも、面白い事になったなあというように笑った。