1 ソラリスとの出会い
その日のことをロゼは良く覚えている。春の天
気の良い日のことだった。桜の薄紅色の花びらが風に吹かれて辺り一面に舞っていた。
空の青と薄紅色の花びらで視界が霞む中、その子の白銀の髪が虹色に煌めいて見えた。長い睫毛に縁取られた菫色の瞳、陶磁器のように滑らかな白い肌。息をのむほどに美しい男の子だった。
「この子の名前はソラリス。今日からロゼの弟になるんだよ」
父であるヘリオスにそう言われて、父とその子を見較べる。父は薄い白銀の髪をしている。ああ、そうかと思った。この子は父と母以外の女性から産まれた子なんだと。自分の義理の弟にあたる子なんだと。この国は一夫多妻制だ。なんらおかしいことはない。
ロゼはふわりと微笑む。ロゼの乳白色の長い髪が風に靡いた。
「初めまして。私はロゼ。よろしくねソラリス」
そう言うと、ソラリスと呼ばれた子はぱちぱちと瞬きをした。少しまぶしそうに目を細め、頭を深く下げる。
「よろしくお願いします。……ロゼ……姉上」
まだ変声期前の、綺麗な高い声。姉上と呼ばれたことがくすぐったくてロゼは笑う。近寄って手を取ると、ソラリスは真っすぐに自分を見つめた。
ロゼは十歳。ソラリスもまた、数カ月だけ年下の同い年だった。
「こんなに綺麗な弟ができて嬉しい」
そう伝えると、心底不思議そうに瞬きをする。握った手のひらはほんのりと冷たくて気持ちが良かった。その手にわずかに力がこもった。
「僕も、嬉しいです」
小さくつぶやくような声が聞こえた。ロゼはもう1度、ふわりと笑うと、ソラリスの手を引いて花の中を歩いた。
アルーアは海に囲まれた島国だ。民は褐色の肌に白い髪、黒い瞳をしている。ロゼもまた、肌の色はやや薄いものの、白い髪とつぶらな黒い瞳をしていた。
父が薄い白銀の髪なのは、数代遡ると王弟を祖としていて、その妻が海を隔てたレアルという国から政略のために嫁いだからだ。その人は、レアルの民の中でも位が高く、特殊能力を持ち、白銀の髪をしていたらしい。それで、ロゼの家系には時々、普通のアルーアの民と違う見た目をしている者も現れる。所謂、先祖返りだ。
「ロゼ、人を見た目で判断してはいけないよ」
それは父の口癖で、父は辛い思いをしたことがあったのかもしれない、とロゼは思ったものだった。ソラリスを見て、更に納得する。この子がいたから、父はロゼに何度も繰り返していたのだと。
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