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 ☆聖女山修道院


 ここは聖女山修道院、勇者随伴聖女を養成する目的で各国が資金を出して運営をしているらしい。

 私はナターシャ修道院長に婚約者が振り向いてくれない事を相談した。



「・・・そう、人は愛故に苦しむのです。愛の反対は無関心です。忘れたら良いのです」


「えっ」


 皆、そう言うわ。ここも同じね。


「あの、どうやったら忘れられますか?」


 どうせ、時間が解決すると言うのだわ。


「簡単ですわ。やってみますか?」

「はい、是非」


 この苦しみを消せる事が出来るのならと快諾をした。



「では、ついて来なさい」


 ナターシャ様についていった。


 この修道院は標高800メートルの山の中にある。

 頂上に連れて行かれたわ。


「この縄を足に結びますわ。この縄の後端はゴムひもで結ばれていますから大丈夫ですわ」


「あの、何が大丈夫なのですか?何をするのですか?」


「説明をしたら、貴女はやめますか?」

「いいえ」


 縄を足に結んだら絶壁からあと少しで落ちる所で背中を押された。


「エイ!」


 えっ


【ヒャアアアアアーーーーーーーーー】


 視界が上下逆さまになった。


 落とされた!


 ビヨ~ンと縄が伸びて縮む。


【ヒャアアアアーーーーー】


 上下にゆれて目が回るわ。

 やだ。スカートを抑えていない。


 落ち着いたら、スカートがガサと視界をふさいだわ。パンツ見られてないかしら!



 ・・・・・



「はあ、はあ、はあ、ヒドイです!」

「落ちている最中、婚約者の事は考えていましたか?」


「考える訳ないじゃないですか?!」


「何を考えていましたか?」


「私は淑女を目指しています。あんな姿を人に見られたら恥ずかしいですわ」


「そう、これが答えです。本当の愛じゃなかった。振り向いてくれない婚約者に恋する自分に酔っていた?違いますか?」


「・・・違います!」


「そう、ならばそれも良し。忘れたくなったら、また来なさい。さあ、お帰り下さい」


「待って下さい!」


 私はこの修道院に入る事にした。






 ☆


 この修道院はおかしい。

 私は幼年部からの修行になった。小さい子に混じって修行をする。

 修道院は普通は祈るのだが、祈り方がおかしい。


 皆、女神像の前で祈りをしているが、丸太の上に立っているわ。




「一の型!乙女の祈り!」


 ドン!


「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」



「来たわね。新入り!早速指導だ。丸太の上で祈りの型を取れ!」

「あの、説明をお願いします」


「あ~ん。説明をしたらお前はやらないのか?恋心を何とかしたいのだろう?」


 まるで、ゴロツキのようなシスターが竹の束で作った剣を持っているわ。


 バシ!バシ!と地面を叩く。


「令嬢の舞踏会じゃないのよ。さっさと祈りな!」


「はい!キャア!」


 ドタン!


 丸太の上から転げ落ちたわ。



 朝食も、食堂の前に丸太が並べられている。



「お姉さん。早くいくのです」


 スタタタタ~


 と幼年部の子たちは駆け上がっていく。


 私が丸太の上に乗るとすぐに滑り落ちた。


「キャア!」


 なら、四つん這いで歩けば。


 ギロ!


「おい、そこのシスター見習い!ズルはダメだ!」

「は、はい」



 結局食べられなかったわ。



 掃除、祈り。水くみ。私は子供達に勉強を教える。


 だけど、確実に私は足を引っ張っている。


 夜。丸太の上に乗って練習をするわ。

 つま先で立つ。体が痛くて仕方ない。



 やめようか。こんなことしても何も変わらない。


 荷物を取りに大部屋に戻ると。


【グスン、グスン、母さん。捨てないで!ウギャアアアーーーー】


「どうしたの?」


 ロゼちゃんがうなされていた。


「はあ、はあ、はあ。皆様、ごめんなさい」

「「「いいのよ」」」


 何でもこの子は貧農出身。口減らしのために捨てられた!


「恋で悩む私はなんて贅沢なのでしょう・・・」


「お姉さん。それ禁句!お貴族様、コジキ、それぞれ悩みがある。自分の悩みを他人と比べてたいした事ないと思うようになったら、下しか見なくなるよ!」



 この子たち、大人だ。




 ☆一月後


 ドン!


「祈りの型!」


「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」



「・・・カーリン、お前、いつの間に、その不安定な足場、丸太三本をピラミット型にしてその上に乗っている!」


「指導シスター殿、今は祈り中です」


「よっしゃ!幼年部卒業じゃ!」


 何とか幼年部は卒業できたわ。







 ☆中等部


 中等部は街に食材を買いに行く。

 籠いっぱいに食材をいれて、山に帰る。


「カーリンさん。こう持つんだよ」


「え、腕を平行にあげ。両手に籠を持つ・・・」


 籠の中はいっぱいだわ。この状態で坂道を歩くと。少しでも上体にブレがあれば籠から食材がこぼれ落ちる。



 ポロッ!


 しまった。落とした。食材が転げ落ちる。


「カーリンさん。ごめん。規則で手伝えない。先に行くよ」


「はい、どうぞ先へ」


 ジャガイモを拾う。


 今日のお食事はシチューかしら。

 ・・・あ、クルト様の事を考えなくなった・・・時々思い出す程度だわ。

 でも、気持は消えていないのね。



 ・・・・・・




「皆様、今日はお魚ですわ。鮮度が落ちますから私は先に行きますわ!」

「カーリンさん。お願い!」


 スタタタタターと坂道をかけあがり。

 そのまま。街に戻った。


「皆様、今日はブリと大根ですわ。お魚を届けたから皆様のお手伝いをしますわ」


「「「速い!」」」



 次々に課題をクリアしていき。上級シスター課程に編入出来たわ。

 ここではシスターではなく、聖女様が指導をしてくれる。

 二人いるわ。



「オラは熊子だ。攻撃担当の転移聖女だぁ!覚えておくだ」


「はい!クマコ様!」


「オーホホ、私はイザベラですわ。防御担当ですわ」


「はい、イザベラ様!」



「男に体力で勝てないだ。しかし、女にも男と劣らぬ固い所がある。それはどこか?」


「え、と分かりません」


「肘だぁ!」



 ・・・・・


 肘打ちの練習をした。

 真半身になって体勢を低くし、肘を突き出す撃ち方だ。


「スー、ハッ!こうだぁ!」


 ドン!


 すごい。足が地面にめり込んだ。


 クマコ様は感覚で教えるから目で覚えなければ・・

 あれ、覚えられた。



「筋はいいだ。しかし、魂がこもってないだ。丹田に力を込めるだ!これぞ奥義ハッケイだぁ!」


「はい!」


 しかし、この肘打ち。よほど近づかなければ当たらないのでは?

 それに息を吐いて、その体が伸びる感覚で突き刺すから大げさだわ。



「オーホホホホ、次は私ですわ。あなた。この石を私に投げてご覧下さいな」


「え、でも」


「手加減は侮辱ですわ」


「はい」


 石を投げた。


 しかし、イザベラ様はあのナターシャ様のようによけた。


「あら、ごめんあそばせ」


 もしかして、



「オーホホホホー、令嬢水鳥の舞ですわ。水鳥は華麗に水を進みますわ。しかし、足は水面下で必死にもがいていますわ」



 歩き方を教えてもらった。

 つま先で立ち。一ミリもあげてはいけないすり足だ。小刻みな歩幅が必要だ。

 これって、幼年部で習ったつま先立ちだ。


「はい、頑張ります」


 初めは、紙を丸めたものを投げてよける練習をした。


「まだ、まだですわ」

「はい!」


 紙がよけられたら、泥団子。


 それが出来たら石。


 石をクリアしたら。

 ナイフだ。


 シュン!シュン!カキン!


 さすがにナイフは危ない。危なそうなナイフは鉄扇で払う。


 修行を開始してから、1年でナターシャ修道院長が面会をしてくれたわ。



「貴女、踊り子のジョブがあったのですね」

「はい、クルト様からは、下賤の職だからとバレエをやめさせられました・・」


「そう、ギフト持ちね。フフフフフ、齢56歳、このナターシャ嫉妬しました」



 この歩行、上体がブレずにまるで滑るように進む歩行は。


「この歩行は王家の婦人限定秘蔵の大歩行です。バレエのルルを元にしています。さあ、山を下りなさい。そして、なすべき事をしなさい」


「はい!」



 山を下りる時、皆が送迎してくれたわ。



「おねーちゃん!」

「カーリンさん!」

「おう、イケメンがいたら紹介してくんろ」

「まあ、私は美少年が良いですわ!」

「オホホホホホ」


 幼年部のみんな。

 中等部高等部のみんな。

 イザベラ様、

 クマコ様、

 ナターシャ様。


 私はカーテシーをして、何度も振り返りながら山を下りた。




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― 新着の感想 ―
うゎ~、少林寺三十六房を思い出したよ懐かしい
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