前
「アハハハハ、でさ。おぅ、カーリン、来たか。お前の席ないから立っとけ」
「・・はい。クルト様」
「キャハハハ、カーリン様、可哀想」
「でも、赤茶髪に薄いブラウンの瞳で凡庸だわ。クルト様の隣では、ちょっと、あ~、身を引いてくれないかしら」
「「「クスクスクス~」」」
私はカーリン、今日は婚約者のクルト様とのお茶会なのに、令嬢を侍らせている。
私の席はない。
「あ、時間までそこにいろよ。でないとお前の親うるさいからな」
「はい」
クルト様は侯爵家で私は伯爵家だわ。
家に帰ると、お父様、お母様、弟デービットは心配してくれる。
「婚約を解消しよう・・何、政略は別の事を考える」
「大丈夫よ。他に良い方はいるわ」
「姉上、僕が家を出て、姉上が婿を取り伯爵家を継いで下さい。婚約者のいない騎士、貴公子なら沢山いますよ。次男、三男だから皆必死に頑張っています。誠実であろうと必死ですよ」
「皆、有難う・・でも、クルト様の事が好きなのです」
そう、私は16歳、同年代は皆婚約者がいる。
探せばいるはずだわ。低位貴族でも家格を気にしなければ・・・
でも、クルト様が好きで仕方が無い。婚約解消は嫌だわ。
「クルト様も結婚をしたら変わるわ」
「まあ、我慢出来なくなったらすぐに父に言うのだぞ」
「はい」
この気持を抑えようと、刺繍をしたけれども、
「痛い」
「お嬢様、今、救急箱を持ってきます」
「アン、お願い」
勉強も頑張ったけども。
「最近、成績が落ちている。悩みは婚約者の事か?」
「先生、申し訳ありません」
学園でも、クルト様はハーレムを作っている。
男爵令嬢から、義妹まで、幅広い。
「おう、カーリン、今度、パーティーがあるけど、エスコート無しな。ミミーと行くわ」
「そ、そんな」
グスン、グスンと泣く毎日、ある日、王女殿下が声をかけてくれたわ。
「見ていられないわ。相談に乗るわ。王命で婚約解消は出来るわ」
「・・・でも、私、クルト様が好きなのです。結婚をしたら変わるかもしれません」
「変わらないわ。侯爵も女好きよ」
「そ、そんな」
「恋心が苦しくて、もう、おかしくなりそうですわ」
「そう、分かったわ。しばらく、遊学しなさい。紹介状を書いてあげるから、クルト様の顔を見ない方がいいわね」
「はい、お言葉に甘えます」
私は外国に行った。
名門と評判の魔道学園に行く。
「先生!恋心を忘れる方法はありますか?」
「時間が解決する」
「しかし、魔道では心を操る魔法があると聞いています」
「それは心の負担が大きい。別人になる。一つの感情を消したらバランスがおかしくなる。負の感情も君の一つなのだよ。失恋をしなさい。
そして、他の楽しみを見つけるか。新しい婚約者でも見つけるのだな」
「そ、そんな」
また、王女殿下の紹介状を頼りに賢者に会いに行く。
「恋心を忘れる方法はありますか?」
「それは恋心を思い出として共に生きていくことだ」
「どうやったら、辛くなくなりますか?」
「それは、時間が解決する」
皆、恋を忘れる方法は時間が解決するとしか言わない。
今が辛いのに。
次はどこに行こうか?トボトボと歩いていたら、ゴロツキたちに路地に連れて行かれたわ。
「キャア!」
「ヒヒヒヒ、口を押さえろ」
「中々上玉じゃないか?」
「パンツ何色だ?乳バンドとセットかい?」
「ヒィ!誰かぁーーー、ウグ」
口を塞がれたわ。
たすけて・・
「ヒヒヒ、殺しやしない。ちょっと、傷物になってもらうだけだ。黙っとけばいい。でないと、傷物令嬢として噂が広まるぜ。気持ちよくしてやるぜ。お互いにメリットはある」
「ウグ、ウグ!」
なんて理屈?!怖い。怖いわ。
【お止めなさい!】
声が聞こえた。中年の女性の声だわ。駆けつけてくれたのね。
けど、一人だけだわ。
いえ、あれは聖女の服だわ。
聖女様の前ならゴロツキどもは大人しくなるかしら。
「白昼堂々と、聖女山のシマで悪逆非道を働くなんて・・貴方たち、剣があるわね。よそ者の冒険者ですね。
やめて下さい。いますぐその令嬢から手を放しなさい。この聖女山修道院長ナターシャがお願いします」
「ヒィ、聖女山?化け物ナターシャ!」
「あれは、噂だ!」
「構うものか!どうせハッタリだ!」
「こっちは剣があるぜ!」
ゴロツキたちが狼狽している。
キラ!
ゴロツキ達が剣を抜いたわ。
「あさましや。貴方たちも人の親、子でしょう。なら、【いた仕方なし!】」
聖女様は叫ぶと、聖女様はゴロツキ達に向かって歩く。無防備だわ。
いえ、あれは、
上体がまったく動いていない。ブレがない。ダンスの上級者のようだ。
滑るようにゴロツキ達に向かう。
「王家令嬢大歩行を極めし者は、引かず!媚びず!省みず!」
「「「ヒィ!」」」
ゴロツキ達はたまらず攻撃をするが、剣をわずかな動きだけで躱して、
「扇の乱れ打ち!」
バチン!バチン!
あれは鉄の扇、しかも、顎を打っているわ。
ドタン!
ゴロツキ達は倒れて起き上がれないわ。
「な、何だ。体が動かない!」
「まるで、酔っ払ったみたいだ」
「命まで取りません。傷物になってもらいます」
「やめるぜ。悔い改めるぜ!助けてぇ」
「みなさま~!ゴロツキを捕まえました!男色窟まで運んでお小遣いにして下さい」
「「「おう!」」」
聖女様に呼ばれて集まった群衆たちが、ゴロツキ達を取り囲んだ。
「久しぶりだな。ここで悪さを働くなんて」
「パンツ何色だ?男色窟に売ってやるぜ」
「ヒィ、やめてくれ!」
「「「オラオラ!」」」
「ここはどこのシマだと思っているんだ!」
ゴロツキたちは服を脱がされ、蹴りを入れられて、担がれてどっかに行ったわ。
「さあ、ご令嬢、私は聖女山の修道院長、ナターシャです。大丈夫ですか?」
「あ、有難うございます。カーリン・エーダです」
「では、お気をつけて、大通りを歩けば安全ですわ」
「あ、あの、悩みを聞いて下さい!」
「まあ、何かしら」
「恋の悩みです!」
私は何故かナターシャさんを怖いとは思わなかった。