3歩目封印された扉
館の外に案内される。
親父の武具があるのは、別の建物らしい。
元の世界とは違い、暖かいそよ風が吹き、花々が咲き乱れている。
「こちらの世界にも季節はあるのですか?」
近くの木から、ヒラヒラ舞い落ちてくる花びらをつかむ。
桜に似ているが、青い花びら。
「はい、この世界にも季節はあります、今は、片山様の世界でいう、春になりますね」
前を行くティアが、少し振り返りながら答える。
「自分の世界は、もうすぐ冬でしたから、暖かいですね」
俺は、花びらを摘みながら、日光で透かしてみる。
「この花は、何という名前なんですか、自分の居た所にもよく似ている木があるんですよ、桜と言います、ただ、花はピンクですが」
「それは、ルインミアという木ですね」
後ろを歩いていたキャローレが、横に並び歩きながら教えてくれる。
「そうなんですね、ありがとうございます」
彼女は歩きながらだが、左手を胸に置く。
「片山様、こちらの建物です」
ティアが、持っていたカギで鍵を開ける、その時、解錠の合言葉も唱える。
「スカポンタン」
(えっ何、スカポンタン、あの名ゼリフを合言葉に、何を考えて)
突っ込みたくなる衝動を必死に抑え、館をみる。
白い石造りの館だが、窓から見える内側が妙だ。
窓の中に壁が見える•••
部屋の中に石を積んだのか?
その答えは扉を開け、玄関ホールに入ってわかった。
「家の中に家ですか•••」
そう、窓から見えたのは、屋敷の内側に建っていた屋敷の壁なのだ。
「なぜ、2重の建物に?」
「これは、大地殿の提案で作られたのだ、外観から他の館と区別されないように、それと、外側の館に防御魔法が付与されているので、簡単に破壊されない様にとの事だ」
(秘密基地感覚か、まあ、割れるバリアとかに比べれば、こちらの方々も理解出来る構造って事か)
「なるほど、敵に場所がバレれば、集中的に破壊作戦を練られてしまう恐れがありますもんね」
親父も説明したであろう理由を述べる。
この世界の、転送や飛行でどの程度、別の国に極秘で入り込めるかは未知だが、親父の武具で戦況が変わるなら重要拠点の1つに選ばれるだろう、防衛に力を入れるのも納得だ。
デセールとティアに案内され、大きな扉の前に着く。
内側の館の玄関扉、1枚片開きの金属製の扉には、龍が天に昇る装飾がされている。
「ここが、大地殿の工房兼保管庫だ」
見ると、大きな扉の前に石板が置いてあり、その横に、タヌキが剣を抜く姿の彫刻が立っている。
「石板と青いタヌキ」
「うむ、その石板が読めんのだ、大地殿が書かれたのだが」
俺は、石板を眺めながら。
「解除を試した方はいるんですよね」
「魔法協会、神官協会、冒険者ギルドと何人もの方々が挑戦しましたが、石版の解読すら出来ないのです、解錠の呪文も試されたようですが、全く開きません」
石板には、日本語で。
『生まれ、生きる生命が人生に生え出し生業は、生直か殺生か、はたまた養生か、詰まるところは、生生流転なり』と書かれその下には、片仮名で。
『トケタ、ビンタン、ラケン、オタタケ、ア、タゲタ、ケンロ』
NEXT CONIAN‘S HINT 〈TANUKI〉
とある。
「片山殿、これを読めますか?」
「はい、日本語ですね、皆さんは魔法で読む事は出来ないのですか?」
「はい、私達の魔法では、1回で1種類の文字しか解読出来ないのです、そのため4種類の文字を別々に読んで組み合わせても、とくに最初の文は上手く読めないのです」
俺は、親父らしいやり方だと思った、日本人が読めば、最初の文は飛ばし、カタカナとヒントのTANUKIで答えを導けるだろう。
あえて、余計な文を付け、しかも同じ漢字で別の読み方を並べる念に入れよう。
それに、アニメ子猫探偵の次回予告のフレーズをぶっ込むオタクぷり、流石としか言いようがない。
「自分の国、日本では、漢字、平仮名、片仮名、ローマ字、英語と主要語の3種と別の国の言葉を日本語読みに変えた物と、別の国の表記そのまま使う文字とあるので、会話はそれほど難しくないのですが、読み書きとなると世界で1番厄介な言葉かもしれません」
石板にある文から『生』の文字を指さし。
「とくに、漢字が面倒で、幾つも読み方が存在します、この『生』なんて、8種の使い分けで書かれてますから、いきなり解読は無理ですよ」
「なんと書いてあるのでしょうか?」
後ろにいた、キャローレが声を上げる。
「コラ、片山様に失礼ですよ、申し訳ありません、キャローレは片山様の居た世界に興味津々でして」
キャローレは、リュエールに怒られながらも、こちらを見て目を輝かせている。
「いえ、大丈夫ですよ、ん~簡単に言うと、生まれてきた人がその人生で何を行うか、堅実に働くか悪事を行うか、それとも魂の休息なのか、でも結局全ての物は絶えず生まれ変化し移り変わって行くからどれか正しいのかは分からないって意味だと思います」
ほぉ~、とキャローレは興奮した様子で胸の前で、両手を握り、小刻みに体を揺らしている。
「キャローレさんは、親父とは話した事はあるんですか?」
キャローレは首を振り。
「大地様とお仕事されるのは、魔法使いや神官の方々がほとんどでして、私達は、食事やお茶の時くらいしかお目にかかれませんので」
「では、時間があったら、俺の世界の事を色々教えますよ」
それを耳にした、キャローレは、エストレアに抱きついて喜ぶ。
「ウム、これが分かった事で封印は解けるのか?」
デセールも、興奮しながら聞いてくる。
「いえ、この文は封印とは関係ありません、まあ、簡単に解除されない為に、見せかけや囮の様な意味があったのだと思います、現にこれが解読出来ないから扉が開かないと思っていたでしょ」
「普通であれば、解除の言葉を表す物や時間の事を回りくどく説明したりすると思うぞ、あのスフィンクスとか言うモンスターの謎掛けのように」
ティアも頷く。
「本題は、この下です」
「これは、何なのだ、片山殿の世界の独特な単語なのか、こちらの言葉に当てはまる物がないのだが」
自分は、その下にあるTANUKIの文字を指差し、次にタヌキの彫刻を指差す。
「このTANUKIというのが、彫刻のタヌキを示しています」
「ヒントとありますが、謎を解く鍵なのですか?」
「はい、言葉遊びの1つなのですが、1度も経験がないと何を言っているのかも分からないでしょうから、分かりやすく説明しますね」
タヌキの彫刻を指差しながら。
「このタヌキは剣を抜こうとしていますよね、この場合、この片仮名の文からタとケとンの文字を外すして読めって事なんです、タヌキはタを抜く、剣を抜くはケとンを抜くと言う意味なんです」
「タとケとン、ですね」
ティアが呪文を唱え、石板を覗き込む。
「ト、ビ、ラ、オ、ア、ケ゚、ロ、でしょうか」
俺は頷く。
「どうゆう事なのだ、サッパリ分からんぞ」
デセールは首を傾げる。
「デセールさん、扉は開いてますよ、開けてみて下さい」
デセールは、扉の前に立ち、ドアノブを握り、押したり引いたりしている。
「片山殿、ビクともしないぞ」
「代わって下さい」
笑顔でデセールと交代すると、俺は、ドアノブと龍の装飾の尻尾の部分に手をかけ、持ち上げる。
「カチッ」と頭上で音がする。
すると、先程まで全く動く気配のなかった扉が、上にスライドして行く。
「なんと、そのような仕掛けだったのか」
「最初から封印も鍵も無かったから魔法も効果がなかったって事?」
2人は驚きながら、上がっていく扉を見ている。
「扉は、押すか引いて開けると思うのが常識、その固定観念を利用した扉ですね、親父らしい細工だ」
「失礼します、片山様、固定観念とは?」
キャローレが質問してくる。
「物事はこうだと決めつけてしまう考えです、こちらでは魔法があるので、そんなに強くないと思いますが、この仕事は男がやるものだとか、この野菜は煮るのが美味しいとか、イメージを固定してしまう事ですね」
「扉だって、押したり引いたりだけでなく、横に滑らせても、上に上げても、下の隙間に落としても本当は問題ないはずが、古来から押し引きが普通になっているから、突然こんなタイプがあると対応出来なくなるんです」
俺は、手のホコリを叩いて落としながら。
「さて、では皆さん行ってみますか」