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予想する6歩目

 俺は、リュエールとエストレアが、お願いした何個かの武具を持って来る間に、貸し出し帳を捲っていた。

 (ん、この最後のページにだけ、『特品』ってあるけど•••えっ、ウルトラ星人スーツ!?貸し出しは、1人だけ•••ウラギール•ヨーネ⁉)


 貸し出し帳を閉じ、テーブル横に置くと同時くらいに、二人が武具を持って来る。

 「片山様、これで大丈夫でしょうか?」

 「うん、ありがとう」

 持って来た物をテーブルに並べる二人に、俺は尋ねた。

 「あの、ウラギール•ヨーネって人を知ってますか?」

 「ウラギール侯爵様でしょうか、他に思い当たる方はいらっしゃいませんが」

 エストレアも、首を振る。


 (特別なオタク武具だから、王国内の人でも記載したのか•••)


 「侯爵?偉いんですか?」

 リュエールは、持って来た武具をテーブルに並べながら答える。

 「ウラギール様は、帝国境界辺りに領地をお持ちの貴族でして、帝国に対しての防衛や色々な交渉を任されてらっしゃる方ですね、現在王国は帝国以外に争いになるような国が周辺に在りませんので、その点から言えば、両制公爵様に次ぐ3番目に偉い方と言えるかもしれません、ただ帝国との悪い噂もありますが」

 「それと、確かこの工房の建築を勧められ、資金を出されたのも、ウラギール様だったはずです、建前上では、城内では万が一、何か起こった時に国王様や王妃様が避難出来ないといけないといった点でしたが、武具を借りるのに城内に入るのは面倒だと、御子息で戦士長のダローサ様の我が儘があったとお聞きしました」

 「戦士長って、侯爵の息子ですよね、騎士団ではないんですか、まさか弱いとか•••」

 リュエールとエストレアは、顔を見合わせ不快そうな表情をしながら口を開く。

 「当初は騎士団に所属していらっしゃって、剣の腕はかなりのものです、ただ性格的に問題があると言いますか、自己中心的な方でして、騎士団から追放されてしまったのです」

 「それなりだけど、ダメダメ」

 「ご自身でやりたいと思った事しかやらない、嫌な事は人任せ、だから現在任されている市民の訓練も適当なんですよ」

 「お山の大将」

 「男が1番偉いとか、父の権力で何をしても許されると思っていて、分かっていない事も分かった振りして周りに迷惑ばかりかける」

 「男尊七光男」

 「ちょっと剣術が出来るからって•••」


 戦士長は、とても評判が悪いようだ。俺が居る事など関係ない様に、悪評が二人の口から飛び出してくる。


 二人の話を聞きながら、いくつかの考えが頭をよぎり、俺は、動けなくなる•••

 (もし、全部じゃなく、1つ、いや2つ、俺の予想が当たっていたらヤバい)

 「すみません、申し訳ないのすが、この周辺の国が戦争を始めるとしたら、何月頃ですか?」

 突然、大きな声で椅子を後ろに倒しながら立ち上がった俺に、リュエールは、手で口を押さえるように慌てふためきながら答える。

 「え、えっと最近はないですが、青の季から緑の季の6カ月に起きていたはずです、麦の収穫時期と雪が降る季節を避けた期間です」

 「ちなみに、青の季とはいつから」

 「今が、白の季、海の月ですので、あと10日ほどで青の季になります」

 (10日•••ギリギリか)

 「ティアとデセールの2人に大至急連絡をとりたいんですが、何処に居るかわかりますか?」

 「神官長様と両制公爵様の所に行ったはずです、そのあとは分かりませんが•••」


 (どうする、手分けして探す?いや、俺が迷子になる•••)


 「片山、コレ」

 エストレアが、緑色の小さな宝石の付いた銀のイヤリングを手のひらにのせてきた。

 「これは?メッセージ?」

 プレートに書かれた付与魔法を読む、でも、これ☆付き•••

 「☆が付いてるって事は、魔力を注がないと発動しないんじゃ」

 「そう、でも探すより早い」

 「お二人は使えないんですか?」

 「生活魔法とは使う魔力量が違うので、私達では魔集石がないと足りないのです」


 魔集石がどんな物か分からないが、それがないと二人には付与した武具は使えないようだ。


 「俺が、魔法の注ぎ方を覚えるしかないのか」

 「簡単、やれ」

 やれって、でも、探すのに時間を使うなら、覚える方が効率的だ。

 「リュエールさん、何かコツのようなものはありますか?」

 「そうですね、私の場合は•••」

 リュエールが、不意に俺の手を両手で包んだ。

 「冷たい相手の手に、自分の体温を流すイメージだと教えて頂きました」

 リュエールの手から、温もりが流れ込んてくる感じがした。

 「なるほど、やってみます」

 エストレアから渡された、イヤリングを耳に着け、手を当てて集中する。

 十秒、二十秒•••無理かと思い始めた時、イヤリングの宝石が光り出した。

 「片山様、成功です」

 リュエールが、手を叩いて喜ぶ。

 「これは、どう使えばいいんですか?」

 「メッセージの魔法は、相手の名前と顔を思い浮かべて、頭の中で呼びかければ相手が反応してくれるはずです、数秒呼びかけなければ終わります」

 俺は、すぐにティアの顔を思い浮かべながら、呼びかけた。


          ∇

 『ティアさん、聞こえますか、ティアさん』

 数秒の間を置いて。

 『えっ、あ、ちょっとゴメンなさい、どなたでしょうか?』

 慌てた感じで、ティアが反応した。

 『あ、すみません、片山です、大至急お話したい事が出来たので、何処かに集まってもらえませんか』

 『え、魔法?でも•••』

 『細かい事は、後で話しますので急いで下さい』

 『分かりました、まだ、大地様の工房でしょうか、なら、そこでお待ち下さい、私とデセール様が向かいますので』

 『はい、お願いします』

           ∆


 俺は、イヤリングを外しながら、二人に笑顔でガッツポーズをしながら、

 「何とか、上手くいきました、ありがとうございます」

 「片山、なかなか上手い」

 エストレアが、数回手を叩く。

 「流石です、片山様、転移された方は最初、魔力を注ぐだけで10分ほどかかるのですが、わずか30秒ほどでマスターされるとは」

 リュエールが胸の前で手を合わせながら褒めてくれる。

 「リュエールさんの説明が上手なおかげですよ」

 「ありがとうございます、ところで、随分と慌てていらっしゃいましたが、何かあったのでしょうか?」

 「まだ、自分の予想だけなので、ティアさんとデセールさんが来てからお話したいと思いますが、親父の失踪とモンスターの侵攻に繋がりがあるのではと感じたので」

 「強力なモンスターが、大地様を拉致したという事でしょうか?でも何の為に?」


 俺は、自分の予想の一片を二人に話す。


 「親父を拉致したのがモンスターなら、魔法を付与させるのが最大の目的でしょう、吸血鬼やエルダーリッチのような知力の高いモンスターが居るなら考えられます」

 「吸血鬼、居る」

 エストレアが北の方を指差しながら呟く。

 「そうですね、ただ、あの吸血鬼は、近隣のすべての国と不侵略条約を結び北の山脈にある城で暮らしているはずですね」


 引きこもりの吸血鬼なんて聞いた事ないが、もし出会う事があれば事情を聞いてみたいものだ。


 「なるほど、寝ている獅子なら問題ないでしょう、ほかに強いモンスターがいるか、ティアさんやデセールさんにも聞いてみましょう」

 俺は、解除用ボックスとエストレアの持って来たスモールシールドを手にした。

 「さあ、二人が来る前に、解除してしまいましょう、残った時間で魔力を注ぐ練習をして、皆さんのご迷惑にならないくらいスムーズに出来るようにしたいので」

 「承知しました、では、エストレアはそちらに」

 エストレアは頷き、俺の右側に移動してくる。


 〈チャリン〉

 シールドから、鎖が落ちる、すると横に居るリュエールがシールドを受け取る、すかさず、エストレアが、俺にネックレスを渡してくる、プレートをボックスにハメやすい位置で手渡してくれるのは、流石だと感心してしまう。

 「これなら、すぐ終わりますね」

 〈チャリン〉

 「片山様、転移して早々に大変ですね、普通でしたら最初の数日は国王様や貴族の方々とお会いしたり、城下の町を散策して、この国に慣れていただくのですが•••」

 「転移直後に、ティアさんも言ってましたね、でも親父を探す目的で来たので、ゆっくり観光とかは無理だと思ってましたから、大丈夫ですよ。出来るだけ早く見つけますので、その後に美味しい料理店とか案内して下さい」

 リュエールは、胸に手を置き、笑顔で応えてくれる。

 「承知しました、サッパリ系からコッテリ系まで、リストアップしておきますね」

 「片山、文句言わずに食え」

 まだ、何を食べるのかも分からないのに、軽い脅迫だ。

 「御二人と食べれるなら、文句なんか言いませんよ」


 ゲテモノじゃない事を祈りつつ、渡された指輪に付いたプレートを外した。

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