トラック運転手と売り出し中のミュージシャンのあり得ない恋。読めば、あり得ない恋をしたくなるかも?第二部です。
宏は、エフエムを聞きながら、相変わらず街道を走らせていた。途中で拾った女の子、カスミちゃんは、小さな寝息を立てながらトラックの寝台で寝ている。宏が、寝間着代わりにしているジャージを着て。色々な話をしていたが、途中で眠たくなったらしく、貸してぇと言って着替えて寝てしまった。彼女は、二十三歳。ストリートでやっていたところを、今の事務所の社長が声を掛けてきたらしい。夢にまで見たデビューだったが、その期待が大き過ぎてプレッシャーに押し潰されそうに最近はなっていたらしい。そのため、デビュー後の初めての休みを、今とは全く違う状況で過ごそうと思って、ライブ後に抜け出して来たらしい。無茶するなぁと思ったが、気持ちはわからなくもない。昼過ぎに、カスミは目を覚ました。
「あ〜、良く寝たぁ。ヒロ、おはよ。今、どの辺?」運転席と寝台の間のカーテンから、顔だけ出して言った。
「おはよ。今、名古屋の手前。それにしても、大きなイビキだったなぁ。」
「えっ!?うそぉー!!イビキかいてた!?」
「うん、ゴォー!って。」「マジで!?」
「ウソだよぉ〜。」
バシッ!と後頭部を叩かれた。何気ないやりとりが三十八歳の宏には嬉しい。久し振りに、ドキドキしている。
「ヒロ、ひどくない!?女の子にそんなこと言ったらダメよぉ。」
少し膨れっ面で言う。そこがまた、可愛い。寝る前にメイクを落とし、スッピンだがナチュラルメイクらしく、あまり変わらない。
「ゴメン、ゴメン、それより何か食べる?」
「うん、食べる。お腹減ったぁ。何がいいかなぁ?」「あっ、レストランとか無理だからね。トラックじゃ入れないし、後、ドライブスルーもね。だから、コンビニか食堂になるけど…」「あぁ、そうよねぇ。じゃあ、食堂がいいかなぁ。コンビニ弁当は、ちょっとねぇ。」
「オッケー!でも、カスミちゃん、入ってバレないかな?」
「大丈夫よ。スッピンだし、ヒロのジャージ着てるし。人違いですって言えばいいよ。それか、彼女ですって言うから。」
「えー!?彼女って…そりゃ彼女いないから、彼女なら嬉しいけどさぁ。まぁ、まずあり得ないけどねぇ。」
「あはは、正直彼氏とかいないし、キープするなら今のうちだよ。」
イタズラっぽい笑顔で言う。
「おい、おい、おじさんをからかうなよ。」
「あははは、困ってる、困ってる。」
「じゃあ、メシ食うか。」宏は、街道沿いの食堂に入った。トラック野郎御用達の食堂だ。十台ぐらい止まっている。宏は、トンカツ定食、カスミはオムライスを注文して、待っている間テレビを見ていた。幸いにも、カスミに気付くものがいない。
「ちょっと、行方不明になったって言ってるよ。ホントに、大丈夫?」
昼のワイドショーで流れていたのだった。
「しーっ!黙って、黙って。後で連絡するから、大丈夫よ。怒られるだろうけどね。」
「当たり前じゃん。内緒で抜け出して来たんでしょ。」
「まぁね。」
ペロッと下を出す。運ばれてきたオムライスを、カスミは美味しそうに食べ始めた。しばらく、それを見ていたらカスミが気付き、
「なぁに?そんなに見ないで。ヒロも早く食べたら。」
「ゴメン、ゴメン、美味しそうに食べるから、思わず見てしまった。」
「恥ずかしいでしょ。バァカ」
別に怒ってはいなかった。逆に、照れたような笑みを浮かべていた。宏は、半分本気でこんな彼女がいたらいいなぁと、思っていた。その反面、とてもあり得ないことだとも分かっている。この年で、何かを期待するのは、野暮だろう。それに、住む世界があまりにも違いすぎる。彼女の気まぐれで、たまたま出会ったオジサンの一人にすぎない。宏は、東京に行く時のいい思い出が出来たと思っていた。そんなことを考えながら、カスミとトラックに戻った。




