トラック野郎に恋して…
カスミ、香と二人に対して揺れ動く宏の気持ち…
どうなる、三人の恋模様…
宏は、香から告白されてから、正直悩んでいた。カスミからの連絡は、途絶えたままだ。カスミに対する気持ちは、変わっていないのだが、連絡が取れないうえに、連絡先も分からない為半分諦めの気持ちも有るのだった。
「ヒロ、少しは元気になった?」
宏は、自分の気持ちに悩みながら、香と喫茶店で向かい合っていた。
「まぁ、少しはね」
「それで、何?二人で昼間に、喫茶店も新鮮な感じよね。」
ニコッと笑って、辺りを見渡している。
「実はさ、香から言ってくれたこと嬉しかったんだ。それまで、そんな恋愛対象として見てなかったから分からなかったけど、改めて言われて考えてみたら、これが一番いいのかなぁ、って思って。まぁ、俺みたいな男いいなら、ヨロシクな。」
宏は、言ってコーヒーを飲んだ。手には汗をかいていた。さすがに、かなり緊張していた。
「そう…、嬉しい…、ありがと、ヒロ。」
うつむきながら言って、顔を上げた香の目には、涙が少し浮かんでいた。宏は、香に返事をしたのだが、心の中は半々だった。香は、宏の返事を聞いたとき素直に嬉しかった。でも、宏の気持ちが完全に自分に向いていないのも分かっていた。
《相変わらず、優しいヤツ》
と思って、その優しさが嬉しく、つい涙ぐんでしまった。
「おい、泣くことないだろ! ?」
「うるさい!泣いて悪いか!?」
「いや、今まで見たことがなかったから…」
「当たり前でしょ、私の涙は高いんだから。」
香は泣き笑いで言った。
「高いって、いくらだよ!?」
宏も笑いながら言った。二人は、その後夕方近くまで話し込んでいた。
宏は、約二ヶ月振りに東京に行く仕事になった。到着日は、明後日の月曜日だ。帰りの荷物は、火曜日に川崎からだった。一泊しなければならなかった。こういう時間のある仕事だと、カスミのことも考えてしまう。
《今ごろ、何してるんだろう?忙しいみたいだから、忘れてるかもな。》
あれこれ、考えながらハンドルを握っていた。カスミは、マネージャーが変わってからのこの数ヶ月、宏に逢うどころか連絡も取れないでいた。
《ヒロに逢いたい…やっぱりヒロのことが好き、失いたくない!》
気持ちは変わらないでいた。年の差も関係なかった。マスコミに取り上げられることが多くなってきて、仕事先で声を掛けられるが、マネージャーと一緒の打ち合わせ以外は全て断ってきた。
「いつになったら、携帯返してくれるのよ!?」
「社長がいいと言うまで、持たせることは出来ません。」
「全く…、いい加減にして欲しいわ…」
何とかして、このマネージャーの隙を見て、ヒロに連絡を取りたいと思っているのだが、この数ヶ月隙を見せたことがない。
《何とかしないと…》
カスミは、唇を噛んだ。
宏は、順調に国道を走らせていた。時間がある時は、高速道路は走らない。ちょうど、浜松を走らせている。日が暮れようとしていた。ついさっき、香が電話してきた。
「ヒロ、無理したらダメよ、気をつけてね。」
そう言って、電話を切った。
《たまには、可愛げのあることを言うんだな》
と思い苦笑いした。
《このぶんなら、掛川で仮眠出来るな》
そう思いながら走らせていた。すると、電話が鳴った。見ると公衆電話の表示だった。
《誰だろう?》
宏は少し緊張しながら出た。
「もし、もし」
「ヒロ!?わたし。」
電話の主は、カスミだった。
「久し振り、元気?どうしたの?携帯は?」
宏は気持ちの高ぶりを押さえながら言った。
「ゴメン…連絡出来なくて…携帯取り上げられて、返してくれないの。マネージャーも女の人に変わって、ずっと見張られてる感じなの。」
カスミは早口で言った。隙を見て掛けているからだろうと思いながら、
「そうだったのかぁ。今は大丈夫?」
「うん、社長からの急な呼び出しで事務所に戻ったから。ねぇ、ヒロ。いつ東京に来る?ヒロに逢いたい!」
まだ、早口で言ってる。
「明日、東京だよ。」
「そうなんだ!?それで、いつ帰るの?」
「明日は泊まりだから、明後日だけど。」
「やったぁ!明日、休みだからデートしよ。何とかして、出るから。じゃあ、この前の場所に、朝十時に待ち合わせしよ。遅れるなよぉ〜、ヒロぉ〜」
「ホントに大丈夫なの!?俺は、すごく嬉しいけど…」
「大丈夫だって!何とかするから、心配しないでいいよ。」
「でもさぁ、一つ間違えば今のカスミの立場が…」
「いいの!私は、ヒロに逢いたいの!!失いたくないの!!」
カスミは、いつしか涙声になっていた。
「そうか、分かった…待ってるから。」
「うん、ありがと。」
そう言って、電話を切った。宏は、正直嬉しかったが、香に返事をしてしまっている。器用に二人と付き合うことは出来ない。
《気持ちに素直になるのか、それとも…》
宏は、また悩むことになった。