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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
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93_一時離脱


 エスペランサコロニー到着から2日後。

 ラビット商会は諸々の事情聴取を終え、再度オルフェオン銀河系への出発日を迎えていた。

 目的はグラスレー侯爵に売るオーパーツの回収だ。

 その回収の旅の途中、ブラックメタル鉱業連合の本拠地までは帝国情報局の分遣艦隊が同行することになったそうだ。

 企業間戦争の調停、新たに起業されるブラックメタルとオプシディアン・ハーベスターズの新会社に帝国が介入する宣言に、ΑΩが出土した現地確認などなど。話を聞くだけでも面倒この上ない仕事ばかりだ。


 こんな仕事はオルフェオン方面軍に任せればいいだろうに。

 そう言って肩を落としたのは、派遣部隊の指揮官を命じられたグローリー大佐だ。

 帝国軍が表の暴力装置なら、参謀本部直轄の帝国情報局は裏の暴力装置だ。

 不安分子捜索や対テロ、対共和国の防諜。帝国内外の情報を集め、必要あれば事が起こる前に処理する役割を担い、帝国中に構成員を配置している。

 言ってしまえばスパイ組織であって、今回のような表仕事を任されるようなことは無いらしい。


 だから今回の一件は専門外だと断ったものの、貴族連・中央評議会の介入前にΑΩという特大ネタを手に入れるチャンスを逃すなと参謀本部から命じられたそうだ。色んな思惑が絡んでいそうで心中お察しする。俺たちの窓口になってしまったことを恨んでくれ。


 そんなグローリー大佐の愚痴を聞き流しつつ、俺たちラビット一行はコロニーエスペランサの港湾ブロックまでやって来た。





「じゃあオキタ中尉、また宇宙の何処かで会える日を楽しみにしているのです」


「ああ、カリナナも元気でな。狙撃は上手いんだ、伸ばしていけよ」


「かのヴォイドキラーにそう言われると、お世辞でもその気になってしまうのですよ。頑張ってみるのです」


「おう。次会う時は楽しみにしてるからな」



 軽くハグをし、船に乗り込んで行く後ろ姿を見送る。

 機体整備のためバレンシア星系に留守番することになった俺は、カリナナとは此処で別れることになった。

 出会いこそあまりいい思い出ではなかったが、ここ数日でその蟠りもきれいさっぱり無くなった。

 ハイデマリーが新会社の権利を幾つか持つことになるから、鉱物資源なんかはカリナナ達から買い付けることになるだろう。これから先も関係は続いて行くだろうから、後腐れなく別れられることになって良かった。

 とはいえ会う機会は少なくなるだろうから、此処で一旦のお別れだ。

 カリナナはパイロットとしての腕もそれほど悪くはないし、これから伸びていくだろう。サンドマンの名がオルフェオンに轟く日も近いかもな。




「オキタ」


「ん? どうしたリタ」


 カリナナの姿が見えなくなったと思えば、しょぼくれたリタがふらつきながら歩いて来た。何だこいつ、元気ないな。


「やっぱり私も残る」


「お前なぁ……何度も言ったけど、俺もこっちで遊び惚けるわけじゃないからな? 仕事だよ仕事。お前もちゃんと自分の仕事しろ」


「クレアの護衛でしょ、私もやる。それにオキタは私の面倒を見る係だったはず」


「お前はエリーと違って手が掛からないから面倒見係は必要ない。安心してラビットの傭兵業に専念しろ。アンドー、悪いけどコイツの事頼むぞ」


「おう、任せろ。ほれリタ、ワシらも船に入るぞ」


「なーぜ~」


 自分も残るとごね続けるリタの背中を押してアンドーに預ける。


 背中を押されて艦に入っていく後ろ姿を見つめていると、視界に金髪が映った後に胸に結構な衝撃が走った。




「……」


「おいおい勘弁してくれ、お前までごねてどうするんだよって、いてててて!」


 サバ折りでもするつもりかと力を籠めてくるエリー。その肩を掴んで引っぺがそうとするが流石はフィジカルモンスター、小さな体躯に似合わない力で抱き着かれて離れてくれない。


「――――――良し! 補充完了! 行ってくるね!」


「お土産頼んだぞ~」


「じゃあ金採って来るね!」


 30秒程経った後で離してくれたエリーは、ニカッと笑って駆けだした。金色のポニーテールが揺る後ろ姿を見送るのは、ラビット商会に入ってからだと初めてになるな。


「なあオキたん、ちょい耳貸して」


「ん? どうした?」


 こそこそ話でもしたいのか、ハイデマリーが手招きしながら近づいて来た。

 中腰になって顔を近づけると、ハイデマリーはチラチラと俺の後方を見ている。その視線の先には壁際で待機しているクレアの姿があった。

 それを数度見ては難しい顔を浮かべ、口元を手で隠しながら話しかけて来た。


「あんな、頼むからウチがおらん間にセクレトに引き抜かれんとってよ?」


「何だそんな事か。大丈夫、俺の雇い主はお前だけだ」


「ホンマにホンマ? 信じてもええんやね? 帰ってきた時にセクレトに転籍した~とか言ったら、ウチホンマに泣いてまうからな?」


「随分疑り深いじゃないか。そんなに信用ならないか?」


 クレアだけじゃない。どれだけ良い条件を提示されたとしても、ハイデマリー以外の下で働くつもりは無い。

 ハイデマリーは途方に暮れていた俺を見つけてくれた人だ。最初に必要だと言ってくれて、抱えたもの全部纏めて引き受けると言ってくれた恩人だ。

 そんな彼女を捨てて誰かの下につくようなことは絶対にない。だいたい、条件だけで選ぶならクレアに誘われた時に移籍している。




「だってほら、クレアさんってオキたんの好きなキレイ系美人やん? あんな人に言い寄られたら、オキたんがころっと靡いてまわんかウチは心配で心配で……」


 ……おーっとぉ? その視点から心配されると俺も汗を隠せなくなるが? 安心させるために用意した笑顔が張り付いて動かなくなってしまうぞ?

 この間の一件か? 絶対にそうだよな。あの性癖開示事件がまだ引き摺られているとは思いもよらなかったぞ。


 しかもハイデマリーからしたら悪いことに? 俺的には嬉しいことに? 関係とか、実はあったりしてまして……。


「クレアさんって本気でオキたんのこと狙っとるやん? グラナダに行っとった時はりーさんが壁になってくれてたらしいけど、りーさんは今回ウチらと一緒に行くやろ?」


 その壁本当に大丈夫か? たぶんめっちゃ脆いぞ。むしろその壁ごと迫ってきた実績持ちだぞ。


「ガード薄いオキたん相手に手段問わず迫られたら思うとな、ウチめっちゃ不安やねん。ホンマにハニトラだけは注意してな? ウチは目瞑るさかい、我慢出来んかったらちゃんとそういうとこ行くんやで? 」


 申し訳なくて血反吐を吐きそうなほど心が悲鳴を上げています。何だろう、本気で心配そうなハイデマリーを見ると今すぐ自分の頭を撃ち抜きたくなるんだが。アンドー、これがハイデマリーのオカン(チカラ)なのか……?

 もう全部ゲロるか? どうせアンドーにはバレてるんだ、雇い主に伝えないのは不誠実なんじゃないか?

 チラッと振り返ると、スゴクイイエガオのクレアがこちらを見ている。

 無理、無理、絶対無理! 必ずこじれる! 今じゃない、そう、今じゃない!

 逆に考えるんだ。絡めとられていても、全部堕ちきってはいないんだと。


 不誠実なカスで、今度はクレアに申し訳なくなって死にたくなってくる……。



「頼むで。まだウチらと一緒におってな?」


 不安そうに見上げるその頭を撫でてやる。小さいからか子供をあやしている気持ちになって来るが、お兄さんの顔面は多分引き攣っている。


「ダイジョウブ。二人きりになっても巧くやるさ」


 前と後ろに挟まれた状態では滅多な事が言えず、カタコトになってしまう。

 そんな俺を怪しんだのか、お前もしかして? 実は嘘ついてへんやろな? と眉間に皺を寄せた眼光が痛い痛い。


「……ほな行ってくるわ。2週間くらいで帰って来れるさかい、迎えに行くの待っといてや」


「おう、気を付けてな」



 俺以外を乗せたラビットⅡが港湾ブロックのシールドを抜けて宇宙空間へと旅立つのを見送る。


 今日から2週間、長いようで短い個人傭兵稼業の始まりだ。





「お見送りはもう良いですか?」


「ああ。悪いな、クレア。バレンシア会議が終わったばかりなのに面倒掛けることになって」


「先んじてバックアップ要員(リングリット)には一足早くオルフェオンに戻って貰っていますので、私が何かするわけではありませんわ。それよりも……うふふ、ようやくオキタ様とお仕事ができますね」

 

 見慣れた愛想笑いとは違い、嬉しそうな笑顔を浮かべたクレアが話しかけてくる。初めて一緒に仕事をした時とは違い気心知れた間柄だ。たまにはこういう縁を辿った仕事があってもいいんだろうな。……あのリングリットって妹さんには殺意の籠った目で睨まれ続けたが。


「じゃあ早速ですけど、お仕事着に着替えて来て下さいね?」


 前言撤回。こいつ、もう俺の事を部下だと思っているぞ。



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執行猶予は二週間、と…(ぉぃこら
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