表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
93/96

90_生まれた意味


 ゼネラル・エレクトロニクスの降伏を受けたその後は、驚くほど平和に話が進んだ。降伏した艦は俺たちが宙域を離脱するまで主機を停止させ、その後は本部からの連絡を待つ為にオルフェオン支社へ向かうとのことだった。

 それが本当かを確かめる術を俺たちは持ちえなかったが、意気消沈した彼らの姿を見るにこれ以上何かするつもりはなさそうだった。



 その後、ブラントン星系のスターゲートを使って帝都バレンシア星系まで跳んだ俺たちを待っていたのは、草臥れた帽子がトレードマークのグローリー大佐だった。

 俺は知らなかったことだが、彼は外縁艦隊の指揮官ではなく情報局の将官だったそうだ。通りでヴォイド殲滅戦時の駐屯軍側の戦力が充実していた訳だ。


 その横には愛想笑いを浮かべるクレアの姿もあった。一目見たら分かる、機嫌悪いヤツやん。開口一番、青い顔を浮かべたハイデマリーには心から同意した。絶対に口には出さないが。


 クレアが怒るのも当然だ。

 オプシディアン・ハーベスターズとブラックメタル鉱業の新会社の権利を幾らか渡すから後始末宜しく、あと出土したΑΩ回収したから話の分かる帝国軍にアポとってくれない?

 そんなお願いをメール一本で送ってしまっていたのだから、そりゃ怒るのも当然だろう。


 しかもその連絡を送った後、回答を待たずに戦闘態勢に入ったものだから、俺のメールフォルダや受信履歴にはとんでもない数の通知が残っていた。本当はメールじゃなく通話でお願いするのが筋なんだろうが、ご機嫌取りに何を要求されるか分からないとビビった俺のせいだ、本当に申し訳ございません。


 これで戦闘後に詫びの通信でもしておけば少しはリカバリーできたのかもしれないが、警戒態勢を維持したままの通話が億劫になった俺は、それでも何かは返さなければとと思い、半ば委任する形でシズに事の次第をしたためたメールを出して貰ったのだが……このザマです。


 

 とにかく、到着したエスペランサコロニーで対面したクレアがスゴクコワイって話だ。

 プルプル震えながら俺の腕にしがみ付いて目線から逃れようとしていたハイデマリーも、にこりと笑い掛けるクレアを見るや否や、港湾ブロックの低重力下で見事な五体投地を見せたくらいだと言えば、どれ程怖かったかが伝わるだろう。

 その姿のまま後ろに控えていたアリアドネに曳航されていった姿には思わず合掌した。すまん、力になれなくて本当にすまない……。

 ところで、後ろに控えていたもう一人の女性は誰だったのだろう。少しクレアに似た人だった。



 そんなこんなで事情聴取に連れていかれたシズとハイデマリー、企業代表として連れていかれたカリナナを除いたラビットクルーは、機密保護の観点からラビットⅡでの待機を命じられている。これ幸いと働き詰めだった俺たちは各々休みに入るつもりで解散したのだが……


「入れて」


 リタが部屋まで訪ねて来た。


「何かあったのか?」


 風呂には入ったのか、少し濡れている髪の下の表情は何時もの無表情に比べれば暗い。部屋の時計を確認するに、コロニー標準時でPM8:00。今日はもう眠りたかったが、前にΑΩの影響で倒れたリタを部屋の外で立たせる訳にもいかない。とりあえず部屋に入れて話を聞くしかないようだ。


「っとと、一体どうした」


 部屋に入れるや否や、身体をこちらに預けて来た。

 今日はそういう気分じゃないと伝えようとしたが、どうやらリタもそんなつもりで来たわけではなさそうだ。

 少し震えている肩を支えてベッドまで連れて行くと、そのまま体勢を崩して横になったまま俺の膝に頭を乗せて来た。片腕で目元を覆うように隠しているから様子は分からないが、とりあえず落ち着くまで頭を撫でてやることにする。


 そうやっている間に少しは落ち着いて来たのか、口を何度か空けては閉じて、言葉を選んでいるようだった。


「……ここは、オキタから何があったのか聞くべきだと思うんだけど」


「引っ張っておいてそれか。ったく、分かりましたよリターナお嬢様。お嬢様はこのむさ苦しい部屋まで何用で来られたんでしょうか?」


「うん、苦しゅうない。さっきの戦闘でちょっと思う所があって……個人的なことなんだけど」


「個人的なこと? 珍しいな、お前が相談しにくるなんて」


 こういう話はエリーとはよくしているが、リタとは案外初めてだったりする。一人で完結するタイプだと思っていたから少し驚いた。


「……何を考えてるのか心を読むまでもないけど、私だって悩みごとの一つや二つはあるから。オキタの所に来たのは、そうした方が良いかなって思っただけ」


 相変わらず顔が隠れて表情が読めないが、頼ってくれるのは素直に嬉しい。頼られたことにニヤ付きそうになるのを見られたくなかったから、お返しに二の腕をぷにぷにと揉んでやると腕を払われてしまった。


「……あの人たちと戦って、オキタは何か感じなかった?」


「何かって、さっきの戦闘の反省会でもしたいのか? って、お前が聞きたいのはそう言う意味じゃないよな」


 当然そんなのじゃないと、今度は無言で俺の視界を遮ろうとして来る手を抑えて再度目元まで戻してやる。珍しくメンタルをやられているようだが、戦闘じゃなくて夢無き者についての感想でも聞きたいのか?


「アイツらの事か?」


 うんともすんとも言わないが、否定しないなら当たっているのだろう。

 んー、夢無き者についてか。

 そうだな……身の上話を聞いた時は、そこまでして強くなる必要があるのかと言う疑問が浮かんだ。戦った後は、可哀そうな奴らだなと思った。

 生き方を選べない、選ぶ権利を与えられなかった。いや、違う。生きるためには夢無き者としての道を選ぶしかなかった。


 自分の一生を他人に委ねる、そんな人生にいったい何の意味があるんだろうと思った。




 ――――――ああ、そうか。リタは、彼らの一生を自分に重ねたのか。



「馬鹿だな。お前はお前だよ」


「馬鹿って言うな、馬鹿。……こういう時だけ察しがいいの、ズルいよ」


 ラビットに来る前のリタと彼らの境遇は似ている。

 決して断れない選択肢を突き付けられる人生。生きる為にはその道を選ぶしかなくて、選んだ先でも死と隣り合わせの環境に身を置かされ続ける。他人に振り回されて、ふと振り返った時に残っているのは傷ついた自分。


 その果てにあるのは開放という死だけ。


「あの人たちの人生に、何か意味はあったのかな」


「きっと、アイツらにだってあったさ。だからあんな存在になって、しがみ付いてでもあの場に出て来た」


 震える声に何て返してやればいいんだろう。同情だろうか、それとも励ましの言葉だろうか。薄っぺらい感情で掛ける言葉にどれだけの力があるのだろう。


「あの人たちは、この世界に何かを残せたのかな」


「アイツらはその何かを残すために望んでああなった。外からとやかく言ってたら、またアイツらに否定されるぞ?」


「けど、そこまでしても何の意味も無かった。何も残せなかった。私たちに勝ちたいからヒトであることを捨てたのに、それを潰したのは私たちだった。だから、あの人たちは何も残せなかったんじゃないの?」


「俺は……俺には、アイツらがああなった意味はあったと思う。アイツらが何も残せなかった、なんてことはない。少なくとも、俺の戦歴には忘れられないくらい刻まれたよ。ゼネラル・エレクトロニクスのテストパイロットには、凄腕の難敵がいたんだって」


「……」


「パイロットとしての矜持なのか、生きる為に仕方なく選んだのかは分からない。けど、その選択にはアイツらなりの意味があった。そうやって選んだ以上、その先には何かが生まれたはずだ。それが何かはアイツらにしか分からないことだけど、きっとアイツらは自分たちが求めた答えを得たんだと思う」


 俺がこの道を選んだのと同じように、その選択から得られるものは絶対にある。それがどれ程の大きさとベクトルを持っているかは人それぞれだ、受け止め方も人それぞれだ。他人がそれを推し量ってやることはできない。だから俺には、こうして話を聞いてやるのが精一杯だ。


「ねえ」


「なんだ?」


 リタが目元を覆っていた手を伸ばし、俺の頬に触れてくる。握り返してやると、意を決したように視線を俺に合わせて来た。


「私の人生にも、何か意味はあるのかな」


 ……俺のやらかしだな。リタに余計な負担を与えてしまった。

 何に悩んでいるのかは察しが付く。だからそれを汲んだ上で言わせて貰うと……


「俺はお前が居てくれて良かったよ」


 ちゃんと伝わるように心からの気持ち伝えると、リタは眼を見開いて固まってしまった。


「……どうした、急に固まって」


「えぇっと……ノータイムでそう返されるとは思わなかったから」


「っ、お前なぁ!」


 思わず語気が強くなる。似た境遇の連中と出会ってナイーブになるのは分かる。分かるけど腹立つ。何が腹立つって、初めて会った時も、再会してからも、俺がどれだけリタのことを考えていたのか分かってないようなその仕草だ。自覚してないのがスゲー腹立つ!


「おらぁ!」


「わっ!? お、オキタ!?」


 横になっているアホを持ち上げてベッドの真ん中に放り投げる。そのまま顔を挟むように両腕を着いて被さる。


「人生に意味があるか分からないって? だったら教えてやるよ、連れてってやるよ」


 目を丸くしたリタが驚いたように見てくるが止まれない。

 普段は効いているはずの理性が抑えきれない。


「俺がお前の人生になってやるから、お前は死ぬ気で俺に付いて来い。それでチャラだ」


 俺は頭が良くないから、リタの苦悩を癒すような言葉を送ってやることはできない。

 だから馬鹿は馬鹿なりに、馬鹿な事を考える奴には体当たりでこの感情を()()()()必要がある。


「覚悟しろよ。言っとくけど、戦闘開けで昂ってるから容赦なんて出来ないからな」


「え、えぇ……? 何でそうなるの……!?」


「お前が悪いんだからな。意味のある人生ってやつを理解らせてやる」




キリのいい93まで毎日1話ずつ上げて今年は終わります。12:30で予約投稿入れておきました。


全然本編と関係ないですけど、Geminiのバナナ画像作成ツールって凄いですね。キャラ画像取り込んで日本語指定するだけであら簡単、いろんなシチュの画像が作り放題。ツールの進歩早すぎて怖いですが、ローカル環境は捨てきれないですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一方その頃何かを察知したクレアさん。 巻きで折檻され限界を迎える灰になったマリー。 乱入者が来る焼き直しの展開があるのかっ!ベッドヤクザの明日はどっちだっ!? まあ、それはそれとして、最初からず…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ