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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
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89_適合者の目覚め


 夢無き者(Anoiric)を載せたゼネラル・エレクトロニクスの試作第11世代機、計12機が迫る。


 その内の4機が編隊を外れてラビットⅡへと進路を取った。


「っ! エリーはラビットⅡの直掩に行け!」


 母艦の直掩にはカリナナがいるが、夢無き者となった4機を相手にするには不安が残る。それが自分とリタの挙動を学習したとあれば、如何にラビットⅡのシールドが強固とはいえ長くは持たないだろう。


「でも、アイツら相手に二人だけじゃ危ないよ!」


 納得のいかないエリーが声を張り上げる。


 自分に等しい敵、それも多数を相手にすればどうなるか。最悪な結末になる可能性もオキタには分かっている。だが、それでもここで戦力を分けることに迷いはない。


 何よりも優先すべきは母艦、ハイデマリーを守ることが自分たちの役割。オキタはエリーに向けて努めて冷静に話し掛ける。


「俺たちじゃなくて自分の心配をしろ。結構辛いこと言ってるんだぜ、俺は。なあ、リタ?」


「私たちは二人で8機、エリーは殆ど一人で4機を相手にすることになる。たぶん私たちの方が楽」


 話している間も飛んでくる攻撃を躱し、射撃を繰り返すがお互い決定打には程遠い。こうして言い合っている間にも、編隊から離脱した4機は涙目になりながら迎撃の砲撃を繰り返すカリナナとハイデマリーに迫っている。


「俺とリタを相手にして一人で生き残れるのはお前だけだ。頼むぜ、相棒」


「行って。ここは死んでも通さない」


「~~~っ! 絶対に帰って来てよ!!」


 かぶりを振ったエリーは機体を反転、2人に背を向ける。


『行かせませんよ』


 その背中を狙うようにライフルを構える1機。オキタはその射線上に機体を投げ出して、放たれたビームを機体のシールドで受けきった。


「夢無き者だか何だか知らないが、そう簡単に此処を抜けると思うなよ!」


 気を吐くオキタの隣にリタが並び立つ。


「オキタに助けられた私が、こんな役回りをするなんてね。こんな時だけど私、今最高に燃えてる」


 リタは嘗ての力が無かった頃の自分を思い出す。


 何も出来なかったコロニー失陥時。あの時、自分を守るために戦ってくれた背中と、こうして仲間を守る為に隣に立っている。その瞳は琥珀色から赤色へと移り変わる、気持ちが昂らない訳がなかった。


 オキタはリタの声を聴くと同時に、返事を返さずにフットペダルを踏み込んだ。口元に僅かな笑みを浮かべ、生意気にも自分と並んだ気でいる後輩(ラビット3)に見せつけるようにありったけの弾丸を敵機に向かって打ち込んだ。


 敵の懐へと飛び込んで行くデスペラード。それに追従する形でヴェルニスも戦闘を再開する。


「囲まれるな! 動き続けろ!」


「分かってる!」


 全身に取り付けられたスラスターを使い、機動戦を仕掛けるオキタとリタ。


 それに難なく追随する8機。今まで相手にしてきた誰よりも手強い感覚に、操縦桿を握る手にも力が入る。


 数で劣勢。更に相手は自分たちの挙動を学習し、現在進行形でアップデートを繰り返している。そしてΑΩを介したデータリンクは連携を強みとしていた二人の上を行っていた。

 目が回るような高速戦闘。文字通り四方八方から飛んでくるビームを避け、ミサイルを捌き、反撃の糸口を見つけようとする二人。致命的な直撃こそ避ける二人だが、次第に被弾が増えていくにつれて機体のシールドエネルギーが目減りしていく。


「くぅぅ…っ! ΑΩはまだ稼働させられないの!?」


「ぐぉっの、さっきからやってるけど、うんともすんとも言わねぇんだよ!」


 この状況を打開するにはΑΩを稼働させ、逆転の一手を放つしかない。デスペラードに搭載されたΑΩを稼働させ、嘗てのように未来予知を発現させたい二人だったが、デスペラードに搭載されているOSーS.P.A.Tーは起動しない。


 疾うにヒトの限界を超えた機動を見せているリタとオキタ。その二人を追い詰めている夢無き者たちの脳裏に勝利の二文字が浮かぶ。この一瞬、ただそれだけのためにヒトを辞めた甲斐があるのだと。


『フフ……戦えている、私たちは今、貴方たちと戦えている』


『それだけではない、私たちが圧倒している。これがΑΩ、人という垣根を超えた私たちのチカラ』


『ホンモノとはいえ所詮はヒト。ヒトを捨てた私たちに勝つ術などなかったのだ』


「リタ!? クソッ、やらせるか!!」


 ミサイルを避けきれないと判断したヴェルニスを蹴飛ばし、変わりに直撃を受けるデスペラード。シールド越しでも響く振動がコックピットを揺らし、身体は姿勢を維持しようと揺れるシートの上で硬直する。


 決定的な隙。ビームサーベルを抜き、トドメを差すために夢無き者が迫る。感情を捨てた者たちが嘲笑う。


『終わりです、特異点に至れなかったホンモノ』


「オキタ―――!」


 オキタの目の前で振り上げられたビームサーベル。顔を上げた先には迫りくる死の刃。避けるタイミングを失い、一振りで命を刈り取るだろうそれが振り下ろされるその時。死を目前にしたことで、理性的に戦闘行動を組み立てていたオキタの意識が一つに集約される。


 そしてオキタは自身の意識が入れ替わるような感覚を覚えるのと同時に、デスペラードのコックピットブロックからは青白い光が放たれた。その光は嘗ての淡い光とは違い、機体はオーラを発散するように蒼く輝いて行く。


 同時に、夢無き者は自らの脳裏に蒼く輝く何かを視た。


『ク、眼くらましなど――――――なに? どこへ消えた?』


 一瞬の光に目を奪われた次の瞬間には、夢無き者の目の前からデスペラードが消え去っていた。


 いったいどこに行ったのか。レーダーに映る敵影は未だ2機。しかし……


『味方機のシグナルが2つ消失? ……まさか、まさか!?』


 振りむいた視線の先に映るのは、二つの爆炎の中から飛び出して来るTSF。蒼い輝きを発するデスペラードとヴェルニスの姿だった。


「観測出来る未来予知(イメージ)が多過ぎる!」


 ヴォイド殲滅戦の時のように流れ込んでくる無数のイメージ。観測できる未来が無限に広がり、押し寄せる情報の波に翻弄されるオキタは悪態を吐く。


「共振の対象範囲を絞って!」


 だが、こうなる事を予測していたリタはオキタへと一つ指示を出した。


 ΑΩは一種の共振器の性質を持っている。ヴォイド殲滅戦で無差別に見せた未来予知でそれは想定済みだった。コントロールの効かない未来予知は敵味方問わず影響を与えるが、オキタが適合者であるならその効果範囲、選び取るべき未来を限定することだって出来るはず。


 事前の打ち合わせも無いぶっつけ本番。それでもオキタなら期待に応えることが出来ると、リタはオキタを信じた。


「扱いが難しいんだよ、このじゃじゃ馬は!」


 顔を顰めながら深呼吸で集中力を高めるオキタは、かつてこの力を扱う際に言われた言葉を思い出していた。


 ”純粋な意志で、引き金を引く”


 やるべきことはただ一つ、目の前の敵を倒す。


「俺だけじゃない。俺が適合者だって言うなら応えてみろ! リタも、エリーも、ラビットの全員がこの局面を打開できるだけの力を寄越せ!」


 オキタの意志に応えるように、発散されていた力の奔流がデスペラードとヴェルニスに収束していく。


「行くぞ!」


 操縦桿を前へと押し込み、フットペダルを踏み込む。反応し、追随する6機の夢無き者たちだが、そこに先程まで無かったはずの差が生まれ始める。


 デスペラード、ヴェルニスは本来のスペックから逸脱した機体性能を発揮し始めていた。


『ΑΩの起動を確認。しかし、それは我々とて同じこと』


『貴様たちが強くなればなるほど、私たちもそれを学習するのです』


『所詮はヒト、戦術すら予測した通りに動いてくれる』


 夢無き者の射撃が2人の退路を狭めていく。夢無き者の機械予測が導き出した通りに動いていたオキタとリタは再度足を止められ、そこへ1機がとどめを刺そうとサーベルを振りかぶって迫る。


「ビームサーベル!」


「ッ!」


 ヴェルニスから投げ渡されたビームサーベルを掴み、デスペラードは敵機の振りかぶった腕を切り裂いた。予測の範疇にない挙動に動揺したのか、呆気に取られたその機体はそのまま機体横からコックピットブロックを貫かれる。


「次」


 ゆっくりとビームサーベル引き抜き、邪魔だと言わんばかりに足で蹴られた夢無き者は宙を漂った後に爆散した。


『……機械予測を再度実施。敵情報をアップデート』


『誘い込まれています』


『各機後退』


「逃がすか!」


 バックブーストで距離を空けようとする夢無き者に迫るヴェルニスとデスペラード。

 降り注ぐビームの隙間を縫うように進むVSF形態のヴェルニスはTSFへと変形、脚部推進装置が飛行形態から人型、足裏へと向きが代わると同時に全開でソレを噴射する。瞬間的に目の前から消える機動に、夢無き者でさえその一瞬を捉えることが出来ない。


『化け物が……!』


 機械予測に導かれるまま上部に向けて放たれるビームライフル。しかし今のリタにとって、それすら予知の範囲内だ。敵機の直上を取ったヴェルニスは機体を捻り、射撃を躱しつつビームサーベルを抜刀、斬り抜ける。残り5機。


 振り返るリタの先で爆発が4回立て続けに起きる。残り1機。


『馬鹿な、こんなことが、ΑΩの機械予測が追い付かないなんて、こんな事があっていいはずがない』


 既に夢無き者を置き去りにしているオキタのデスペラード。その関節部からは限界を超えた稼働からスパークが発生している。それでも止まらない。蒼く輝く光を纏ったデスペラードは夢無き者を翻弄し続ける。


「自分が自分を過信し過ぎだ! 確かに機械任せで何でも出来るなら俺たちは必要ないだろうさ! けどな、扱うのはいつだって生身の人間だ!」


『貴方が言うことか。傲慢だ、選ぶ権利を持つ者が言ってはならない。その傲慢が私たちをヒトから逸脱させたのです』


「選択まで他人任せな人生に何の意味があるかよ! 生きてるなら、生き方くらい自分で選んでみろ!」


『特異点、今ここで!』


 吶喊する夢無き者をサイドブースターの噴射で避け、そのままショットガンの照準を合わせる。11世代機のシールドを貫通するには数発の直撃が必要な威力しか持たないソレは、通常ではありえないことに一撃で装甲を喰い破った。


『やはり……共振だけでは、ない……増幅……これが、特異点……』


「……終わりだな」


 既に勝敗は決した。ラビットⅡへと向かった4機も全てエリーが墜としており、残るゼネラル・エレクトロニクスの戦力は抵抗する意思を失っている。


「……何か言い残すことはあるか?」


 普段なら撃った敵に話しかけることはないが、自分を追い掛けてここまで来た顔見知りを思うと、最後の恨み言くらい聞いておくべきだろう。そう思い問いかける。


『フフ……ヒトを捨てたのに、このザマなのですよ……負け犬の遠吠えなど、貴方には聞かせてあげません』


「そうかよ。……まあ、お前らは強かったよ。俺が戦ってきた連中の中でも、かなりの敵だった」


『……ありがとう、ございます』


 オキタの目の前で最後に一つ、夢破れた者が宙に散った。


 それを見届けたオキタは機体をゼネラル・エレクトロニクスの残存部隊へと向ける。これ以上やると言うなら容赦はしない。虫の居所の悪さも込めて、文字通り殲滅してやると睨みつけた所で、オープンチャンネルでの通信回線が開かれた。


『ラビットホームよりラビット小隊各機へ。ゼネラル・エレクトロニクスから降伏信号を受信、状況終了や。みんな、よく頑張ってくれたな。ホンマにお疲れ様!』


 明るい笑顔を見せているハイデマリーに溜息一つ。気を抜いた頃には機体を覆っていた蒼い光は失われ、通常時に戻っていた。


「ラビット2了解、これより帰艦する」



10月半ばから入院してました。予定通りの日程でしたが、机に向かえるようになるまでが長かったです。またのんびり書いて行きます。


年内はこれが最後か、あと1話出せればいい方ですね。

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― 新着の感想 ―
久しぶりの熱い展開、これを待っていた! マグネットなコーティングでもしないと機体性能が追い付かないとか、デスペラードの受難は続くっ! 退院されたこと喜ばしく思います、私生活共にご無理をなさりませ…
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