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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
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88_夢無き者


 ワープアウトした戦艦から出てくるG.Eの試作11世代機。機影は12、戦艦が搭載するにはあまりにも少ない。如何に最新鋭機とはいえ、帝国軍次期主力機選定計画でオキタとリタが叩きのめした機体だ。この程度でどうにかなると思っているならG.E首脳陣の思考を疑うところだが……


『真っ直ぐ突っ込んでくる? なら!』


 正面から来る敵機を迎撃しようとソードライフルを構えるエリーを見て、リタの背中に悪寒が走った。


『エリー、ダメ! 』

「っ、総員回避機動!」


 瞬間、12機が3人の視界から消えた。


『なんッ!?!?』


 サイドブースターを使った爆発的な加速で視覚外へと移動、次いで降り注ぐビームの中をラビット各機は回避行動を取っていく。


『何コイツら!? さっきまでの連中と動きが全然違う!』


「このまま頭を抑えられるとマズい、包囲網が出来る前に一時後退するぞ」


『こいつらの動きが読めない……!』


 回避行動を取りながらも撃ち返すリタだが、敵機は鋭角な軌道を描きながらそれらを全て躱し、お返しとばかりに射撃兵装で撃ち返してくる。


『ΑΩを載せたら戦闘力が上がるって前評判だけどさ! たかが石ころ一つでここまでになるの!?』


「文句は分かるが目の前に集中しろ!」


 掌に滲む汗を感じながら操縦桿を動かす。ラビット各機は連携しながら引き撃ちを敢行するも、入れ替わり立ち代わり襲い掛かる12機は僅かな時間しか視界に映らない。真面に捉えることが出来ないオキタは舌打ちした。


『全員後退! 主砲、艦対空ミサイルいくで!』


 ハイデマリーの通信から間髪入れず、各機は全力のバックブーストで後退した。僅かな時間もおかずにラビットⅡの主砲が放つ膨大なエネルギーが3機の隙間を通り過ぎて敵機へ迫るが、ラビット各機が当てられない敵機に大味な射撃が当たるはずもなく全てが躱された。


 だが本命はその後からやって来るミサイルの雨だ。48の艦対空ミサイルの3斉射が敵機へと迫る。

 流石に何機かは墜とせるだろう。そう楽観視したオキタの視界の先で、12機はミサイルの雨を()()()()()()()()()()突破してきた。


「―――ああ、成程」


『あはは、あははは! そういうことかぁ……っ!』


『……舐めやがって』


 ここまでされると3人とも気付いた。ロックオンを外す鋭角な機動も、ミサイルの隙間を縫うように回避していく機動も、その全てがオキタとリタを模倣したものだと。


『我々のおもてなしはご満足頂けましたか?』


 ミサイルを躱し、敵機の動きが止まった所で通信回線が開かれる。オキタ達は警戒しながらも動きを止めて網膜に映る通信回線に意識を向けると、そこには男の顔が映っていた。


「随分な挨拶をどうも、雑魚ばかりで眠たくなってた所だったんだ」


『そこに下手糞なモノマネを見せられたせいで目が覚めた所かな』


『ご満足頂けたようで何より、お二人の戦闘データを学習した甲斐があったと言う物です。

 時にオキタ中尉にリターナ中尉、私を覚えていますか?』


「……?」


『G.Eのテストパイロット、だよね』


『ああ良かった、忘れられていたらこの空気をどうしようかと思いましたよ』


 思い出せなかったオキタもリタの呟きに頭を捻ると、一度も自身とリタに勝てなかったテストパイロットの一人であることを思い出せた。


「で、お前はどこにいるんだ?」


 通信先に映る男の背景は暗く、コックピットの中とは思えなかった。かといって敵艦の中とも思えない。パイロットなら向かい合う機体のコックピットにいるはずだが、何故かそこに居るとも思えない。

 いったい何処にいるのか? そう問いかけるオキタに、男は淡々と続ける。


『私は機体に居ますよ。もっとも、貴方が知る人の形はしていませんが』


「へぇ? その言い方、B.M.Iに引き込まれて戻れなくなった連中の典型的な言い草だな。人の形を保てなくなって機体に引っ張られたってオチか?」


 B.M.Iは人体機能の拡張を目的に行われている。その中には脳の処理能力を強化することで機体を自分の体のように扱える技術も含まれているが、帝国式B.M.Iは安全とは言い難い不完全な技術だ。

 それでも生存確率を上げる為にB.M.I強化手術を行い、B.M.I強度を上げたことで機体との繋がりを強固にして”戻って来れなくなる”者たちをオキタは何度も目にしてきた。目の前の男もそれと同じなのだろうか?


『いいえ、これは不完全な技術などではありません。私たちは完全な存在になったのです。

 もしかしたら、そちらにも知っている方がいるのではありませんか? オーパーツ、帝国の遺失技術によって生み出された有機物(ヒト)無機(モノ)のハイブリッドのことを』


 自然とオキタ達の視線が通信回線に映るハイデマリーへと移る。


『何でもかんでもウチが知っとる思われるんは困るんやけど……まあ、知っとる。

 有機無機複合体、通称”夢無き者(Anoiric)”。元は不老不死を目指して生まれた技術やけど、不滅の身体を与えられても人の精神が永遠に耐えられんかった。長い年月の果てに摩耗した精神はそれでも意識を保てたけど、永遠の命を欲したはずの感情や欲望の一切を奪われた存在。そんな連中に皮肉を込めて名付けられたのが”夢無き者”、帝国がAIと一緒に封印した遺失技術の一つや。

 まさかG.Eがそんなもんに手を出しとるとはな。あんさん、脳幹を直接コックピットに……いや、ひょっとしたらΑΩに移植されたんか?』


『ええ、そうです。G.Eの技術は素晴らしい。私たちの脳をすり潰し、MOFの構造を持つΑΩに浸透させ、それを新たな脳として機能させることで”私たち”という存在を確立させたのですから。私たちは今や失われた技術と伝説的な鉱物で作られた最強の存在となりました』


『く、狂ってるのです……』


 カリナナが引き攣りながら呟く。


『狂っている? 私たちが?』


「狂ってるだろ。そこまでして、お前らいったい何がしたいんだよ」


 嫌悪感を隠さず話すオキタ。それに怒るわけでもなく、不思議がるでもなく、一切の感情を失った男は淡々と返す。


『そうさせた張本人が言いますか。あの開発計画で私たちの存在意義を奪ったあなた自身が』


「知るかよ。立場上競い合う関係だったのはそうだが、それは仕方のないことだろ。それに最後にあったヴォイド殲滅戦では同じ敵に立ち向かう仲間だったじゃないか」


『仲間? 嘗てなら兎も角、”夢無き者”となった今は何を言われても響きません』


 本当に人としての感情を失っているのか。訴えかけるオキタだったが、帰ってきた言葉はそれまで通り淡々としたものだった。


『あのヴォイド殲滅戦の折、気が遠くなるまで繰り返される明確な死のイメージによって心を折られた私たちには、あれ以降戦う意志を持つことが出来ませんでした。

 けれど戦えないパイロットに存在意味はない。加えて、少し腕が立つ程度では”本物”相手に何の役にも立たないと証明されてしまった。であれば、企業の暗部がやることなど一つでしょう』


『足りないなら足せばいい。その答えが”夢無き者”への進化?』


『リターナ中尉の仰る通りです。私たちは戦うだけの存在に最適化された”本物”です。足りない技量は本物のデータを学習させれば、あっという間にエースパイロットを量産できる。その先駆けが私たち』


 敵機のツインアイが黄色に染まる。B.M.Iの赤色とは違うそれが放つ異様な雰囲気に、ラビット各機の警戒心は跳ね上がった。


『さあ、お話はここまでです。人とΑΩが一体化した”夢無き者”の力、存分に思い知るがいい』



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― 新着の感想 ―
ご友人キャンされちゃったね…しかしΑΩ便利すぎる!生態と融合できるなら生物兵器も出来ちゃう?アミダΩ来ちゃう? にしても、人間の脳を補助として搭載される系はよく見るけれど、パイロットとしてしかもデータ…
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