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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
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86_ゼネラル・エレクトロニクス秘匿戦③



 ハイパーレーンを進むラビットⅡ。離脱まで残り僅かとなった所で、ラビットⅡの艦内に戦闘配置を知らせる警報が鳴った。



『ラビットⅡ第一戦闘配置。繰り返します、第一戦闘配置』



「シズ、ラビットⅡ戦闘管制システム”Optimus”の制御権をこっちに回して。ウチが直接指揮を執る」


『承知しました。では私は艦の操舵に専念します』


 艦長席に座るハイデマリーを中心に、360度を囲むように展開されたホログラフィック・インターフェース。ラビットⅡや艦載機の情報、宙域や周辺環境まで、戦闘に必要なあらゆる情報が表示されているそれは、ラビット級強襲揚陸艦が誇る最新鋭のソフトウェア。


 ”Optimus(オプティマス)”と名付けられたシステムはハイデマリーが自ら設計、運用方法を策定した新機軸の情報統合システムだ。


 このシステムの助けを受けることで、戦闘に不慣れな者でも敵部隊の解析、艦の火器管制から艦載機のバックアップまで幅広い役割を支援AIの助けを受けて担うことが可能になった。直接戦闘に関われなくても、ラビット小隊を援護する術を求めたハイデマリーの新しい武器だった。


「ラビットホームからラビット各位。ハイパーレーンを降りた後のドローン撃墜は予定通りラビットⅡでやるさかい、ラビット1から3は当初の作戦を実行してな。

 特にラビット2、無茶は禁物やで。機体の代わりはあっても皆の代わりはないんやからな」


「ラビット2からラビットホーム、むしろお前たちの方が心配だ。カリナナを残すとはいえあんま期待し過ぎるなよ? 俺と同じ働きが出来るとは思わないように」


「ラビット2と同じ働きを期待されているのですか!? むむむ、無理ですぅ!?」


「あー! オッキーがまたカリナナを虐めてる!」


「ラビット3からラビット4、そこまで求めてないから。自分の仕事に集中して」


 ブリッジが第一戦闘配置を発する中、ラビット小隊各位は搭乗機で発進準備に取り掛かっていた。いつも通りの者も、慣れない環境におかれた者もいい具合に緊張が解けており、休養明けで心身共に絶好調でこの戦いに臨んでいる彼らの士気は高い。


『ハイパーレーン離脱まで120sec』


「総員傾注。ラビット各位、最終確認だ」


ラビット1(エリー)、感度良好」

ラビット3(リタ)、同じく」

ラ、ラビット4(カリナナ)良好なのです!」


「いいか、勝敗を決めるのはスピードだ。敵増援がワープアウトする前にG.E艦隊を突破する。発進直後は各自ミッションプランに従って行動しろ。

 初撃を与えた後はいつも通り、前衛を務めるラビット1~3で押し切る。3機編隊での連携が肝だ、各機の距離には注意しろ」


「「了解!」」


「ラビット4はラビットⅡの直掩だ。前に出過ぎるなよ、死ぬぞ」


「了解なのです!」


「ラビットホーム、想定通りだと乱戦になる。正面からの殴り合いだ、自慢の新造艦の力を見せてくれ」


「任せとき!」


『目標まで30sec……。。。ハイパーレーンを抜けます。ラビットⅡ減速開始、慣性航行へ入ります』


「ラビットⅡセンサレンジ最大。ジャミング開始、索敵ドローンへのカウンター処理へ入るよ」


 ハイパーレーンを離脱するラビットⅡ。艦載機発進までの僅かな時間を稼ぐため、エレンはすぐさまレーダージャミング、ワープジャミングを最大出力で展開、敵の目を欺く欺瞞処置に入った。


「ラビット小隊、出撃準備」


 アレンの発進管制を受けてラビット1、ラビット3が発進位置へリフトアップされていく。


「ラビットⅡ全ハッチオープン。ラビット1、ラビット3カタパルト接続。

 リニアカタパルト出力上昇。進路クリア、発進どうぞ」


「ラビット1、セイバーリング・アンセスター行くよ!」

「ラビット3、ヴェルニス・パイロットライン行きます」


 発艦していく二機。すぐさま艦内エレベータが稼働し、続けてオキタとカリナナの機体がリニアカタパルトに接続される。


「続けてラビット2、ラビット4発進位置へ。進路クリア、発進どうぞ」


「ラビット2、デスペラード出るぞ!」

「ラビット4、行きます!」


 全機発艦完了。その内の一機、ラビット4を残し、3機はデスペラードを中心に編隊を組む。


「ラビット2、アクティブステルス起動。編隊は0時方向へ慣性航行開始、作戦行動に入る。無線封鎖」

「「了解」」


 デスペラードに搭載されている機能の一つ、アクティブステルスを作動させるオキタ。自機とその周辺に強力なジャミングを施すことにより、レーダー探知から一時的に逃れることが出来る。その効果はラビットⅡの光学映像には機影が映っているが、レーダーからは完全に消え去っている程。


「ラビットⅡ、カウンタードローンを後方へ投射開始。ワープジャミング起動」


 後続からの増援を発つためにカウンタードローンを敷設する。ラビット商会は正面戦力にしか力を入れていないため、搭載しているのは元々商品として売るつもりだった品々だ。気休めとはいえ、時間稼ぎくらいにはなるだろうとハイデマリーが戦力としての投入を決めたのだった。


「センサーに感、前方に索敵ドローンです。ラビットⅡへのスキャン可能距離まで接近中」


 ラビットⅡに向かってくる索敵ドローン。ジャミングが効いているのか、艦影を捉え切れていないようで無防備にも近寄って来る。


「自動近接レーザータレット”ヘリオスヘイロー”起動。目標索敵ドローン、自動追尾開始……撃ち方始め!」


 ハイデマリーの命令で、普段はラビットⅡの艦内に納められている16基のレーザータレットが艦の外部装甲上へ展開、レーダー照準が索敵ドローンを捉える。


 ロックオンを感知したドローンが回避行動を取るが、既に狙いを付けた照射レンズからは寸分の狂いもなくレーザーが照射された。


「”ヘリオスヘイロー”照射完了、撃墜を確認」


 本格的な戦闘行動に入る前だったのか、単調な動きしか見せなかった索敵ドローンは光線に焼かれた。



 周囲に敵影無し。宙域は静けさを取り戻すが、すぐさまラビットⅡに搭載されたセンサーが空間跳躍による揺らぎ、座標予約を検知する。


「前方に巡洋艦クラスの座標予約を検知。艦数3、ラビットⅡワープジャミング実行中」


「ラビット小隊の位置は?」


「3機編隊は現在慣性航行にて移動中、目標まで40sec」


「エレン、そこまではジャミングを維持してな」


「了解。ラビットⅡの演算能力をジャミングに回すよ」



 端末を操作するエレンの操作に追随するように、Optimusに表示されたインジゲーターが許容範囲の限界値へと振れる。


 オキタ達3機編隊が所定の位置に辿り着くまでのきっちり40秒後、ジャミングが切れたと同時に巡洋艦三隻が宙域に姿を現した。



『―――先程、こちらで爆発があったようだが』


「え、そうなん? 気付かんかったわ」


 一隻の巡洋艦からのリクエストに応えて通信回線を開いたハイデマリーだったが、お互い名乗りもせずに通信が始まった。音声通信のため顔も見えないままだが、お互い相手が何者で、何を求めているかは既に理解した上でのことだ。


 ハイデマリーは、ゼネラル・エレクトロニクスであることを。

 ゼネラル・エレクトロニクス側はここ2日の情報収集で得た第三者の存在、ラビット商会が目の前に現れたことを。


『―――持っているのか?』


「さあ、どうやろな? ウチら善良な帝国臣民が運営する商会や。持ち物は全部、()()()()()()()()()しか取り扱ってないわ」


『――――――成程』


 ハイデマリーの含みを持たせた一言に返答が遅れたG.Eだったが、、、



『―――……目標を発見。全艦、艦載機発艦開始、オールウェポンズフリー。

 オプシディアン・ハーベスターズを攻略中の全隊を呼び戻せ、ラビット商会を撃破して本件の打開を図る』



 G.E艦隊は目の前に現れたラビット商会が求めていた物を運んでいると判断し、艦の武装を全てラビットⅡへと向けてくる。


 レーダー照準、ラビットⅡのブリッジにアラートが鳴り響く。


「さあ来るで! グラビティシールド展開!」


「グラビティシールド展開します」


 Optimus越しに敵艦を睨みつけるハイデマリー。ラビットⅡの纏うシールドは戦闘出力まで上昇し、周囲の空間がシールド発振器より発生した重力の力場によって一時的に捻じ曲がる様を見せた。


「”トルメンタ(連装ビーム主砲)”起動、ミサイル発射管全門(40基)”ルシエルガー”装填。照準G.E艦隊!」


 続けて命令を下すハイデマリーの音声に応え、ラビットⅡに装備されている全三門の連装ビーム砲”トルメンタ”、対艦ミサイル”ルシエルガー”は全てG.E艦隊へと向けられ。。。


「撃てえ!」


 G.E艦隊との激しい撃ち合いが始まった。

 ラビットⅡから発射された大出力ビームとミサイルが宇宙を切り裂いて飛んでいく。


 ほぼ同じタイミングでG.E艦隊から発射された倍以上のビームとミサイルの数々。ラビットⅡを目がけて飛んでくるそれらをレーダー越しに確認したハイデマリーは息を呑んだ。


 1対3とはいえ、ラビットⅡに搭載されているENG出力は戦艦クラス。そもそもが帝国軍主力戦艦と正面から殴り合うことを念頭に建造されたラビットⅡだ、巡洋艦の主砲程度が直撃しようとシールドで受けきることなど容易い。


 遅れてやって来るミサイルは、迎撃可能距離になった瞬間から16基のヘリオスヘイローの連続照射によって撃ち落とされていくが、、、


「くぅぅ! やっぱ怖いなこんちくしょー!!」


『シールド出力安定。ミス・ハイデマリー、なんてことは無いです』


 搭乗員はその限りではない。運悪く直撃コースに入ったビームは全てグラビティシールドによって軌道を捻じ曲げることに成功したが、その振動はブリッジを揺らした。


トルメンタ(連装ビーム砲)はチャージが完了次第順次発射!

 アンドー、そっちは問題ないな!?」


「ENGも火器もピンピンしとる! 気にせず撃ちまくれぃ!」


 ラビットⅡのダメージコントロールをシズの子機と担っているアンドーは高らかに吼えた。初めての本格的な艦隊戦、元々は陸戦隊の荒くれを率いていたアンドーのテンションは最高潮だ。


「敵艦から小型の熱源射出を確認。艦載機が発艦した模様」


「レーダー照準、ヘリオスヘイローは自動追尾! 射程に入り次第迎撃開始や! 並びに対空防御ミサイル装填用意! カリナナ!」


「こちらの射程に入り次第、ラビット4は砲狙撃戦開始するのです!」


 スナイパーライフルを構えるラビット4。スコープ越しに見える機体の数は増えている。その全てがG.Eが用意した特殊部隊、普通なら後ずさりして許しを乞う所だが、


「特務隊がおいでなすったか。けどな、こっちは一騎当千のエースを三枚持っとるんや!!」


 既に覚悟を決めているハイデマリーの叫びに呼応するように、巡洋艦の直上方向から二つのスラスターの光が彗星の如く煌めいた。




「さあ行くよ!」


「まずは一隻、確実に仕留める」




 エリーのセイバーリングとリタのヴェルニス。


 デスペラードのステルス影響範囲から抜け出した二人は、2機連携で巡洋艦目掛けてスラスターを全開まで解放した。セイバーリングのウイングスラスター、VSF(戦闘艦)モードでスラスターを後部に一点に集中したヴェルニスは驚異的な加速をもって敵艦へと突撃する。


 狙われた巡洋艦を守ろうと三隻による対空砲火と、発艦したばかりの艦載機が迎撃を開始するが、速度の乗った二機を捉えることが出来ない。



「今更気付いた所で!」


「ヴォイドより薄い対空砲火なんかに……!」



 二人は迎撃の合間を縫うように直進し、チャージしていたビームライフル、ビームキャノンを巡洋艦に向けて発射。大出力ビームの直撃を受けた巡洋艦のシールドが激しく明滅、暗闇を明るく染め上げた。




「二人ともいい働きだ! その場から後退しろ!」



 奇襲に成功した二人の耳に、間髪入れずオキタからの無線が届く。


 エリーとリタは敵艦隊に対して即座に反転。二機の離脱を確認した頃には、オキタのデスペラードは最大火力である圧縮陽電子砲スフォルツァートの照準を定め終わっていた。



「消し飛べ!!」



 限界まで圧縮された砲弾が発射され、その衝撃で機体が軋む音がオキタの耳に響く。膨大なエネルギーを持つそれが巡洋艦のシールドに触れた瞬間、砲弾は大規模な爆発を起こして巡洋艦の装甲を削り取っていく。


「砲塔強制冷却開始、次弾発射可能まで180sec!」


 爆発の光が消えた時、1隻の巡洋艦は跡形も無く消し飛んでいた。




「二人とも行くよ! ボクたちで敵部隊を削り切る!」


「リタ、遅れるなよ!」


「誰に言ってるの。私が前に出る」



 合流し、編隊を組みなおしたラビット小隊。



 その姿を確認したG.Eの指揮官は、座っている椅子の肘起きを力任せに叩いた。




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ラビットⅡとラビット2のコールサインが口頭で同じなのは割と問題では?
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