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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
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84_ゼネラル・エレクトロニクス秘匿戦①


 ガリアンⅠコロニー、ブラックメタル鉱業連合本社ビルの一室には剣吞とした空気が漂っていた。

 ブラックメタルの爺婆に加え、今の今まで敵として戦っていたオプシディアン・ハーベスターズの代表までが雁首揃えて並んでいるからだ。




 事の発端は、カリナナからの連絡だった。

 ブラックメタルとオプシディアン・ハーベスターズの代表が会談するから、オブザーバーとして参加して欲しいとのことだった。


 降伏勧告や和平交渉ならこちらの関与することではないと断ったハイデマリーだったが、どうしてもラビット商会にも参加して欲しいとカリナナは強く訴えてくる。


 G.Eの部隊が迫っていることは商会内で共有済みだったからか、キナ臭さしか感じられない懇願は無視して出航すべきとエリー、アンドーは主張した。


 反対に俺とリタは、このタイミングで敵対組織が顔を揃えるにはそれなりの理由があること、G.Eが迫る土壇場での和平交渉など、どう考えても各陣営にとって想定外が起きている可能性が高いから参加すべきと訴え、2対2の主張がぶつかり合うこととなった。


 そして少しの討論を経て、致命的な情報を逃した場合が最も危うくなると考え、会議に参加することを決めた。





 俺たちがぼけーっと眺めている間に両社の和平交渉は和やかに進んだ。

 ここまでは呼ばれた理由が分からなかった俺たちだったが、議題が争いの元となったΑΩの処遇になってからは眉間に皺が寄るのを隠せなくなっていった。


 

「なあ、アンタらふざけたこと抜かすのもええ加減にせえよ。何が”ラビット商会にΑΩの輸送依頼を出す”やねん。そんなもん、アンタらの代わりにウチらがG.Eにやられて来い言っとるようなもんやろうが。

 アレン、エレン、ウチなんか間違ったこと言っとるか?」


「いいえ、私達もハイデマリー氏と同じ気持ちですよ。この人たちの話はあまりにも身勝手だ。貴族が自身の行動に責任を取れなくなるなど、最早その存在意義を失ったも同然です」


「いくら御老体で介護が必要だとしても、まだ自分のお尻くらいは拭けるでしょう? それとも排泄すら自分で出来ないほど耄碌しているのなら、私達の誤解を解くためにも早くそう言って貰えないですかね」


 ハイデマリー、アレン、エレンは既に嫌悪感丸出しで吐き捨てている。

 俺もそうしたい所だが、出発前にリタとシズから血が昇った仲間の代わりに俯瞰しろと言いつけられていたため、ファッキンクソ野郎と睨みつけるだけで何とか済ましている。


「お嬢ちゃん、もう受けてくれんと、あんたらも口封じの対象になっとる思わんか? タダで逃げるぐらいなら、なんか土産でも持って逃げた方がようけええじゃろうが」


「そっちの都合で勝手に解釈してくんなや。こちとら星域中に今回の一件を垂れ流しながらバレンシアまで散歩してもええんやで」


「そんなことをすれば、君たちは更にG.Eから狙われることになるぞ。セクレトに泣き付こうがそれは変わらない。今回の一件が終わった後も、君たちが息の根を止めるか、ヴァン・サイファーの怒りが静まるまでずっとだ」


「せやったらグラスレー領にでも引き籠って細々とやってくわ。オタクらと違ってオルフェオンじゃないと商売できん理由なんてないしな。なあエレン、どう思う?」


「それでもいいのでは。もしグラスレー領から出たくなった場合でも、幸いにして我々の友人は多い。活躍する場所など幾らでも見つかるでしょうね」


「そがぁな都合ええ話があるんかいの?」


「そこの男爵サマはウチらのこと嗅ぎまわっとったんやさかい、いろいろと知っとるんやないか?」


「グラスレー侯爵と老練翁伯爵のことなら知っている。だが、それだけでどうにかなるなど―――」


「それだけちゃうわ、ボケ。ペラペラ喋るつもりないけどな、艦隊司令どころか帝国近衛にも伝手があんねん。ウチらのこと舐めんのも大概にせぇよ」


 ……まさか、本当に? 疑念の籠った視線を送って来る二人に、俺は自信を持って頷いた。

 第二艦隊のクラウン司令、情報局のガーデン少佐。ΑΩ関連であればあの二人に話を通すのが一番早いだろう。友と呼んでくれる近衛軍のメルセデス三席も声を掛ければ手を貸してくれるはずだ。


 この場の彼らが考える以上に、ラビット商会は帝国中枢に近い存在だ。


 G.Eを相手に切羽詰まった末の行動だろうが、自分たちが何に手を出してしまったのか。今になってそれを理解し始めたのか、爺婆と男爵の顔色が悪くなっていくのが目で見て分かる。


 やっていることは虎の威を借りる何とやら、いや、ハイデマリーの口調的にヤクザの恫喝か? 何でもいいが、舐めてきた輩の立場が悪くなる様は見ていて気が晴れるものだ。


「っちゅーても、ウチかて鬼やない。アンタらの身の振り方次第でその依頼を受けてやってもええ。

 ……そういや、ブラックメタルは何を差し出してもええから助けてくれ言うとったなぁ?」


 ドスの効いた声でカリナナを見るハイデマリー。

 もう涙目になっているカリナナは首をフルフルと横に振ったが、ハイデマリーが笑うと震えながら首を縦に振った。


「その前に、アンタらこの騒動が終わったらどうするつもりなんや。2度の戦争でお互い思う所もあるやろし、さよらなバイバイノーサイドってわけにはいかんやろ」


「戦争なんかもうこりごりじゃけぇ、わしらぁやらんのんよ。できるんなら、二つの星系またいで共同出資会社を立ち上げよう思うとるんじゃ」


「我々としてもその案で問題ない。今更どうこうする理由も無くなったのでな……」


「ほーかほーか、そりゃええこっちゃねぇ!」


 代表二人の話にハイデマリーは喜色を浮かべた。あーあ、悪い顔させちまったなぁ。こうなった時のハイデマリーが一番怖いのに。


「じゃ、対価としてその新会社の権利を49%ほど貰うわ」


「ふッ―――ふざけるな! そんなこと出来るわけがないだろう!」


 男爵が机を叩いて立ち上がった。ハイデマリーを見下ろす顔には溢れんばかりの怒気が込められていた。

 男爵が怒る気持ちも十分理解できる。49%の権利といえば、単独で決議の拒否権を持つラインを超えている。実質的支配を可能にする50%こそ超えていないが、第三者に首根っこを押さえられた状態には変わらない。


「ほ~、オプシディアン・ハーベスターズの代表は拒否するんか」


「当たり前だろう! 何故貴様らにそれ程の権利を持たせないとならないのだ!!」


「あ゛あ゛!? お前ら全員の命をそれで済ませたろ言うとるんやろが!! 半分でも温情やと思わんかい!!」


「それではG.Eに搾取されるのと何も変わらん!」


「じゃかしいわ! 今ここでアンタらの息の根止めて全部終わらせたろか!?」


 椅子に立ち、机に片足を載せて凄むハイデマリー。スカートを履いていることを忘れるくらい気分が昂っているんだろうが、普段がアレなだけにちょっと怖い。

 男爵からすれば吹っ掛けすぎなんだろうが、命の対価としては安い方だろう。むしろこちらが総取りしたところで文句は言えないとすら思える。


「……ブラックメタル鉱業連合はのぅ、お嬢ちゃんの言うこと、ぜんぶ呑ませてもらうけぇの」


 睨みあいを続ける二人、その間を割った爺さんに驚きを隠せない。到底呑めないだろうと思っていたが、、、


「やはり耄碌していたか御老体! このようなぽっと出の者に、今まで大事に守り通してきた企業を奪われるのだぞ!?」


「じゃけど、社員の命は守られるんよ。ワシらにとっちゃ、それがいっちゃん大事なんじゃけぇ。何より最初に何を差し出してもかまわん言うたんは、ほかでもないワシらじゃけぇ。それにの、ぽっと出てのお嬢ちゃんに命預けるんは変わらんけぇな」


「貴方がたにとっても企業は全てだったはずだ! それをおめおめと!」


「ケツ持ちがセクレトに変わるんじゃったらの、差し出すモンはきっちり差し出さんと納得せんじゃろ。それになにより、このお嬢ちゃんの機嫌損ねたら、ワシら終わりじゃけぇの」


「爺さんはよー分かっとるやん。ほんで? そちらさんはどうすんの? どっちでもええけど、権利渡さん場合は勝手にしてくれや」


 どかっと椅子に座り直して足を組む姿は小さな暴君だ。

 怒りで顔を歪める男爵。詰みだな、これは。自分たちでどうにも出来ない事態、その解決依頼を持ち懸けた時点でこうなる可能性はあった。それもこれも、全部ハイデマリーを甘く見たのが悪い。


「…………分かった。だが、確実に、今回の一件は解決して貰う!」


「ふひひ―――まいど! ラビット商会にお任せあれってな!

 さ、三人とも帰るで~。あ、男爵のおっちゃんはΑΩをコロニー周辺にでも投げといて、勝手に回収するさかい。ほなな~」




 ころっと機嫌を戻したハイデマリーについて会議室を出る。

 車の前席にアレン、エレン。広い後部座席にハイデマリーと二人で乗った所で、ハイデマリーは頭を抱えながら百面相を始めた。


 ころころと変わる表情は見ていてとても愉快だが、一体何を考えているのだろうか。声を掛けようとしたところで、ハイデマリーはガバっと頭を上げてこちらを見る。


「堪忍、堪忍やでオキたん! 負担掛かるのはオキたんらやのに、売り言葉に買い言葉で勝手に決めてしもた……」


「何でそんな面白いことやってるのかと思えば、そんなことか。別にいいよ、ハイデマリーが思うように動いてくれた方がこっちはやり易いから」


「う~、そうは言ってくれるけどほら、こういうのは皆と相談してからやないと……」


 足をバタつかせ、また頭を抱えてくねくねし始めた。何だろうこの生き物、ちょっと可愛く見えて来た。


「座席の上で悶えるのはいいけどさ、パンツ見えてるぞ」


「そう言えばハイデマリー氏、先程机の上に足上げた時も見えてましたよ。可愛い白のフリル」


「あ゛ーっ! 誰がタダで見てんねん! いっそ殺せーっ!!」


 足をバタバタとさせて、もはや見せに来ているとしか思えない。はしたないから止めておきなさい。。。


「なあ、真面目な話してもいいか?」


「うぅ……ぐす、ええよ」


 泣くなよ、何か悪いことした気になるだろ。

 ハイデマリーが居住まいを正した所で話し掛けるが、大丈夫だろうなこれ……。


「さっきの権利の話だけど、49%で抑えて良かったのか? 全部ラビット商会で引き取って、それをセクレトに売ることも出来たろうに」


「あんな会社を? ないない、あんな連中をクレアちゃんが欲しがるかいな」


 手でパタパタと否定するハイデマリーだが、そうなのか? 結構使い処あるような気がするんだが。


「ΑΩが採れる可能性がある星域だぞ? 他にも鉱物資源、例えばアクアリナイトとかも取れるはずだろ? 手に入るなら手中に収めた方が何かと便利な気がするんだが」


「えぇ……? オキたん、マジで言ってるなら再教育もんやで?」


 引くわー、みたいな感じの顔をされてしまった。あれ? 俺何かおかしなこと言ったか?


「ΑΩなんて爆弾みたいなもんやん。いつ起爆するか分からんモンと仲良くなんて出来へんわ。

 しかもΑΩが出た~言うたら絶対に帝国が関わって来るやん。そうなったら採掘仕事は帝国公認の公共事業みたいなもんや。貴族連やら評議会なんかがわらわらとやって来てアレせぇコレせぇって注文ばっかしてくるしやろうし、何も儲からんわ」


「あー……その光景が何となく目に浮かぶ気がする。しかもアレだろ、漏れなく共和国の連中から目を付けられる」


「そ、だからその時点でウチはノーセンキュー。頼まれたって引き受けるかいな。

 あの爺さんはそれも分かっとったから”全部差し出すつもり”とか言っとったんやろ。ほんで自分らはウチらの下で飯のタネだけご相伴にあずかりますって魂胆や。喰えへんやっちゃでホンマ、年寄りほど手強いモンはおらんわ」


 まじかあの爺さん。辛酸舐めましたみたいな雰囲気醸し出しておいて、実は丸ごと全部責任を投げつけようとしてたのか。


「ちなみに権利49%の内34%はクレアちゃんに投げつけるつもりや。舵取りだけはウチらやのうて、信頼のあるセクレトに任せた方がええやろからな。あの代表二人もそれを望んどるやろし」


 ……って思っているのも本当だろうけど、ハイデマリーの考えも大体読めて来た。神妙な顔でうんうん頷いているが、たぶん面倒くさいからクレアに大半を投げつけるつもりだなこの商売上手。


「はぁ……クレアのご機嫌取り、大変そうだな……」


「え~なんのことだかマリーちゃん分かんないな~。でもぉ、優秀なクルーがおってとっても助かっております、はい。頼むでオキたん、義姉やんはウチが何とかするけど、クレアちゃんの方はホンマに任せたからな」


「えぇ……そこで滅茶苦茶真剣な顔する……?」


「しゃあないやん! ΑΩなんて爆弾抱えとる会社なんてのはな、生かさず殺さずのラインで操っとる方が今後のためや。セクレトが監視してくれるってんならそれが一番よ。

 ウチらは権利やのうて、事業で生まれた利益の一部を配当として拝借する。個人商会にとっちゃ、配当金生活こそが一番健全な稼ぎ方っちゅーもんよ!」


 ガハハッ、勝ったな! などと笑うハイデマリー。左団扇な生活を夢見ているのだろうが、その影でクレアのご機嫌取りに奔走するクルーのことも思い出しておいて欲しい。


 そう言う意味も込めて、エリーにしかやったことのないヘッドロックをかましておいた。


「おわ!? オキたんギブギブ! ナニコレ痛!?」


「良かったなハイデマリー、これで()()も特別扱いだ」


 もう遠慮とかしてやんねえ。


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