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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
86/91

83_都合のいい戦力


―――バレンシア会議3日目



 ラビットⅡの自室。空間投影されたモニター越しに、俺は早朝からスターゲートを介したリアルタイム通信でクレアと連絡を取っていた。


『―――という訳で、ゼネラル・エレクトロニクスは特殊部隊の派遣を決定しました』


「あー……何と言うか、相変わらず間が悪い、いや運が無いのか?」


 思わず苦笑が出る。トラブルは慣れっことはいえ、こうも立て続けだとハイデマリーには何かを引き寄せる性質があるのだと思わざるを得ない。


『行く先々でトラブルに見舞われていますものね……正直、私もこの話を聞いた時は頭を抱えそうでした』


「だよなぁ……けど、ずっと荷下ろしするよりはマシか。このままだと身体が鈍っちまう」


『もう、心配していますのにそういうことを仰るんですから』


 恰好だけはバリキャリなまま頬を膨らませるクレア。うん、可愛い。


「悪い悪い、けど特殊部隊の派遣か……田舎貴族相手に部隊を差し向けるだけの理由がある、そういうことだよな?」


『はい。誰にも知られずに全てを闇に葬るだけの理由、ゼネラル・エレクトロニクスを脅せるほどの材料、そして採掘企業オプシディアン・ハーベスターズ。

 ここまで判断材料が揃ってしまえば、導き出せる答えは自ずと絞られます』


「……ΑΩか」


 腰を据えて探せばそう珍しい物でもない、グラスレー侯爵はそう言っていた。とはいえ……


『恐らくは。でも、伝説上の鉱物とこう何度も関わることになるとは思いませんでしたわ』


「俺もだ。オークリーから始まってここまで、全部ΑΩに振り回されてる」


 いい加減、因縁めいたものを感じる。

 

「スターゲートの接続予定からある程度はG.E部隊の動向が探れそうだが、特殊部隊の規模は分かるか?」


『昨晩から各銀河系のスターゲートを監視させていますが、G.Eの艦隊が動員された報告や記録は見つかっていません。御三家の輸送艦隊は大規模故に目立つので、普段と違う艦船がいれば目を引きますし、見落としは無いと思います。

 また、昨日の今日で即応できるとなると大規模な部隊動員は考え辛いため、現在は擬装艦の可能性を踏まえた監視に切り替えていますわ』


「流石クレアお嬢様、お早い行動力で」


『クレアで結構です! まあ、誉め言葉は嬉しいのでそれはそれとして受け取っておきます。

 大規模な部隊を動員すると、帝国軍が真っ先に反応するのはG.Eも承知のはず。これらから、小規模の部隊がオルフェオンに向かうと考えられますわ』


「成程な。スターゲートの通過前後でスキャンを受けるだろうし、スキャンを受けても不自然さを感じさせない部隊規模となると、クレアの言う通り少数精鋭での奇襲作戦がメインってことになるが……裏を返せば、小規模でも任務が出来るだけの部隊が来るってことだ」


 G.Eの精鋭部隊、思い出すのは第11世代TS再誕計画だ。

 あの時G.Eのテストパイロットとは何度か模擬戦をした。結果は俺やリタの圧勝に終わったが、決して悪い腕じゃなかった。特殊部隊と銘打っているくらいだ、あの時のテストパイロットかそれ以上の練度の部隊が送り込まれて来るのだろう。


『今回の一件はG.Eのブラックオプスです。私旗下の作戦室が出した結論では、オルフェオンに向かう輸送船団に紛れ込ませるつもりではないかと申しています。

 そして派遣できる艦の素性ですが、アリアドネの見解によると、艦の欺瞞工作を施したとしても、輸送船に擬装できるのは最大でベーシック級戦艦までとのことです。

 出力の低い旧型艦なら欺瞞のしようはあるとも言っていましたが、ベーシック級以上となると艦のサイズが10kmを超えるため現実的ではない、とも』


 成程。艦の素性はともかく、動員される部隊規模と手法については俺も同意見だ。

 そして一個分遣艦隊を潰せる部隊であることを考慮すれば、恐らく艦載機搭載能力ではなく艦の打撃力を重視しているはず。そう考えれば、例えベーシック級戦艦が派遣されたとしても艦載機は1隻につき50機程度だろう。


「オプシディアン・ハーベスターズは兎も角、それで俺たちを何とか出来ると思っているのなら舐められたもんだな」


『……あの、言っておきますけどオキタ様たちはG.Eの作戦対象ではありませんからね? 向こうが仕掛けてくるまでは大人しくしておいて下さいね??』


 不安そうな顔を浮かべるクレア。俺たちが無茶をしないか心配なんだろうけど、信用ないなぁ。


「勿論大人しくしておくよ。セクレトと関わりのあるラビット商会がG.Eと諍いを起こしたら面倒になるだろうからな」


 御三家のパワーバランスがどんなものなのかは知らないが、3社が拮抗することで今の経済的平和が保たれているはずだ。それを崩すような真似をされたら、クレアの立場からしたら溜まったもんじゃないだろう。


『? ……ああ、勘違いしていらっしゃるようですが、私はそんな心配はしておりません。

 降り注ぐ戦火を払うのは当然のことですので、現場の判断は全てお任せします。

 なので私には銃後の守りをお任せ下さい。本気でG.Eと対決するなら私も覚悟を決めます』


「おいおい、セクレトの次期総帥候補が覚悟決まり過ぎじゃないか? そこまで迷惑掛けられるわけないだろ。俺たちと違って、お前は替えの利かない立場の人間だろうに」


『そんな私を射止めた人の言葉とは思えないですわね……あなたが命を懸けるのなら、私も全てを懸ける。当然のことですわ。むしろこの程度の覚悟も持てないのなら、私はあなたを生涯のパートナーとして選んでおりません』


「お、おう……」


 さも当然のように、むしろ何を言っているんだと睨まれてしまった。


『私が心配なのは、オキタ様たちが怪我をしないかだけです。オキタ様が墜とされるなど微塵も考えておりませんが、他の方たちは違うでしょう。それだけですわ』


「あー……まあなんだ、クレアが心配してくれているのは伝わったよ。ありがとう」


 エリーやリタも俺と似たような腕だとか、そんなことはともかく。そこまで覚悟を決めて想ってくれていることが嬉しいやら悲しいやら。ここまで真剣に考えてくれている、クレアの期待と気持ちだけは裏切らないようにしないとな。


『本当に気を付けて下さいね? G.Eとオプシディアン・ハーベスターズに何等かの契約があった以上、最悪の場合は……』


「ΑΩ搭載機同士の戦闘も考えられる、だろ?」


 頷くクレア、俺もその可能性は高いだろうと思う。

 以前からオプシディアン・ハーベスターズと関わりのあったG.Eは、再誕計画よりも前にΑΩに触れていたはずだ。

 そして再誕計画に参加していたことにより、ΑΩ搭載機の実戦データも取得出来たはず。俺とリタが引き起こした共鳴のデータも含めて。


『完成度は、ひょっとすればデスペラードを上回っているかもしれません』


「何だ、さっきとは違って不安そうだな」


『機体性能が負けているかもしれないと思うと不安にもなります!』


「ふーん」


『ふーんって、そんな軽い問題では……』


「軽い問題なんだよ。クレアはまだ知らないようだから、俺がとっておきの教訓を教えといてやる。

 ”どれだけの性能差があろうと、勝負を決めるのはパイロットの腕”だ。どうだ? 不安なんて無くなるだろう?」


 ドヤ顔でそう返してやった。

 舐めているわけじゃないし、油断しているわけでもない。どれだけ機体が進化しようが、宇宙を光速以上の速さで駆けることが出来るようになろうが、機械で身体を改造していようがいまいが、その機体を操るのは俺たち人間だ。


 身に沁みついた経験、経験から血となった知識、培った瞬時の判断力は決して裏切らない。生き残って来た純然たる事実、積み重ねた実績。ただの強がりじゃない、裏付けられた自信なんだぜ。


「VSFに乗ってた頃に、共和国の特殊部隊相手に生き残った男だぜ? 帝国の元トップエースが素人相手に負けられるかよ」


『……まったく、酷い人。そう言われてしまえば何も言えませんわ。あなたを信じます、無事の帰還をお待ち申し上げております』


「任せてくれ。お前に選ばれた以上、絶対に無様は晒さない」









    ◇








 ―――バレンシア会議3日目

 ―――オプシディアン・ハーベスターズ旗艦

 ―――アレハンドロ・グライム男爵




「何故だ、何故こうも目論見から外れるのだ」


 頼みの貴族連に切られ、G.Eとの関係も断たれたアレハンドロ男爵は八方ふさがりに陥っていた。


 ブラックメタルとの戦争は、男爵家のプライドを取り戻す戦いだった。

 星域を統治する貴族が一介の企業に負けるなどあってはならない。消極的な戦法しかとらなかった前回とは違い、2度目の戦争では手段を選ばず勝利をもぎ取って来た。


 あと少し、本当にあと少しだったのだ。ガリアンⅠコロニーに主砲で狙いを付ければ勝っていた。


 それが今や貴族連から関係を切られ、G.Eからは無駄な戦いは辞めろと降伏勧告まで受ける始末。これも全てはたった一つの商会が現れたせいだった。


 どうすれば勝てるのか。ラビット商会との戦いからアレハンドロ男爵はそれだけを考えていた。


「全戦力を投入すればあるいは……いや、それで勝てないと考えたから援軍を頼んだのだったな……」


 盤上に並ぶのは書き殴られた戦術の数々。包囲殲滅、誘引、離間の計など思いつく限りの策で盤上シミュレーションを行ったが、ラビット商会はいとも簡単にそれらを喰い破っていく。

 これらはただのシミュレーションだが、現実に起こり得る光景がアレハンドロ男爵には容易に想像できる。


「かの老練翁旗下でヴォイドを相手に3年間戦い抜いた青年、か。飛び抜けた質で圧倒的物量差を覆す、エルフの思想は人にも当てはまるものだな」


 人の形をした暴力装置だなと、アレハンドロは呟いた。


 ――――――pipipi


 端末に連絡が届く。宛名にはブラントン伯爵と記載があった。

 切り捨てた自分に何の用があるのかとメッセージを開くと、そこには『ゼネラル・エレクトロニクスの擬装艦が数隻、オルフェオン星系に到着』と書いてあった。


「老骨め、これで情けを掛けたつもりか?」


 アレハンドロが知るヴァン・サイファーとは、傲慢が人の姿をとった存在だった。

 擬装艦である以上、正規部隊とは考え辛い。歯向かい切り捨てられた自分と、自分を含めた密約を知る者を処理するために送り込まれたのだと直感した。


「想定した中でも最悪のケースだな……だがこのグライム男爵家、たかが企業如きにやられると思ってくれるなよ」


 端末をポケットに仕舞い、顔を上げたアレハンドロの目に力が宿る。

 既に勝敗は決したが、負け方にも美学があるとはアレハンドの自説だった。

 雇った宙賊と傭兵部隊は既に壊滅したが、男爵家の一個分遣艦隊は未だ健在。まだ足掻くだけの力は十分残っている。


 部屋を出て艦橋を目指す。

 艦橋に入ると部下達が一斉に敬礼で迎い入れてくる。艦橋にはグライム男爵家旗下の貴族だけではなく、元は炭鉱で働いていた者たちもいる。アレハンドロには、ここまで付いて来てくれた忠実な部下たちを意味の無い死で終わらせるつもりは無かった。


「閣下、オプシディアン・ハーベスターズ全艦出撃準備完了しております」


「うむ、例の物は?」


「はっ! 厳重に封印を施し、本艦格納庫にて保管しております」


「よろしい」


 自身の領域で偶然見つかった伝説上の鉱物ΑΩ。これが全ての始まりだった。ブラックメタルとの因縁も、G.Eとの密約も全てがたった一つの鉱物を争う物だった。


 であれば、こんなものは、、、


「在るべき物を有るべき者へ、か……フッ、俺もヤキが回ったな」


「閣下?」


「いや、何でもない」


 アレハンドロは手元の端末を操作する。すると、艦隊全体に自信のホロ画像が投影された。


「―――総員傾注、こちらはアレハンドロ・グライム男爵である。

 これより艦隊はブラックメタル鉱業連合の本拠地、ガリアン星系へと侵攻する。ブラックメタルは既に抵抗の力を失っている故、此処から先はあちらの戦意を折る戦いとなるだろう。

 既にガリアン星系外縁にある採掘基地のほぼ全てが我々の手の内にあり、残すところあと2つとなった。これらを電撃的に墜とし、そのままガリアンⅠコロニーへと向かう。その後、我々はブラックメタル鉱業連合との()()()()へと入る。


 散発的な反撃しかないだろうが、それだけに犠牲を出してはならない。もはや勝敗の決まった戦いで骸を晒す必要はない。諸君は私の命令にしたがって戦い、そしてまたこの地へと帰って来るのだ!

  ―――全艦ワープへ入る! 全艦出撃! 今日を以て我々の戦いを終わらせるのだ!」


 アレハンドロの命令によってオプシディアン・ハーベスターズ艦隊がワープ準備へと入っていく。



「望んでいないとはいえ、これで私は希代の詐欺師だ」


 ”勝敗の決まった戦い”と伝えた先程の演説は真実だ。既にオプシディアン・ハーベスターズは敗北している。

 ブラックメタルを降したところで、G.Eは関係者の息の根を止めるまで止まらない。どうあがいてもアレハンドロは死に、オプシディアン・ハーベスターズは解体され、G.Eの傀儡となった星系が生まれることになる。


 その執行人であるG.Eはオルフェオンに到達し、オプシディアン・ハーベスターズの攻撃準備に入っているはず。だからここから先は時間との勝負になる。



 しかしながら、この電撃的な和平交渉に向けた賭けにアレハンドロは勝っていた。



「閣下、こちらへ。……あちらからです」


「うむ……御老人、此度は私の無理な願いを聞いて頂き感謝する」


『こっちは最初っから戦うつもりなかったけぇ、ええタイミングじゃったわい。基地はもう引き上げさせとるけぇ、壊すなり何なり好きにしんさい』


「感謝する。ラビット商会の動きは如何か」


『追加で欲しい荷をちぃとばかし下ろさせとるけぇ、動くことはできんじゃろうのう。割り増しで買うけぇゆうたら、ほいじゃあ言うて喜んで作業始めたんよ。ええ子らやねぇ』


 そう、これから行うのはただの茶番劇だ。

 撤退が完了した抵抗のない基地を叩き、攻めるオプシディアン・ハーベスターズが勝っていると思わせて部下達の鬱憤を晴らさせる。ただそれだけの為に無人の基地を掌握する。


 そして、この作戦は既にブラックメタルの関係者たちとも話が付いている。


「G.Eが辿り着く前に和平交渉を済ませ、証拠となるΑΩの所在も含めてG.Eに全ての争いが収まったと宣言する。

 ΑΩはラビット商会からセクレトへと渡り、我々はセクレトと言う新たな後ろ盾を得る。絵空事だが、ラビット商会は受けてくれますかな?」


『知っとる可能性がある時点で、あの子らも消さんといけん対象じゃけぇね。商人が損するはずなかけぇ、あの子らもそりゃあ黙ってやられる訳にはいかんわな。

 まあ、悪いようにはならんじゃろ。戦争にゃ参加しとらん第三者じゃけぇ、できる作戦なんよ。

 それにあの子らからしても喉から手が出るほど欲しいもんじゃろうし、クレジット積んだらあの商会長も引き受けてくれるじゃろうて』


「そしてセクレトに今回の一件を握られたくないG.Eの目はラビット商会に向けられる、か。流石、長生きするだけのことはある」


『ほんまに、都合ええ時に現れた都合ええ戦力じゃけぇ。若いもんはしっかりこき使わんと、損じゃけぇね』


 全てはラビット商会がG.E部隊を打ち倒すことが出来るか。ラビット商会があずかり知らぬ所で、第三者に全て託す選択をブラックメタル鉱業連合とオプシディアン・ハーベスターズは決めたのだった。





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― 新着の感想 ―
ラビット商会にとっては不当に利用してくる爺婆共が一番の敵なのは最初から分かっているのに、なんでここまで唯々諾々と利用されてるのかがモヤっとする。会長そこまで無能だったか?
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