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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
84/91

81_巻き込まれ、もとい積極策


 オキタのインタビューが終わった後、ハイデマリーはブリッジで通信回線を開いていた。


 相手はオルフェオン商業連合。ガリアン星系で2週間も足を止めているラビット商会に対し、速やかにその場から引き上げるよう連絡を受けた所だ。


 しかし商業連合は連合に参加している商会や企業に命令を下す権限は持っておらず、強制力などは一切発生しない。


 それでも繰り返しガリアン星系から離れるようにと言い続ける商業連合の担当官に対し、まだ荷下ろし作業に時間が必要だと伝えたハイデマリーだったが、担当官はその主張には一切取り合わず、遂には商業連合から”戦争に加担するつもりか”と謂われない疑いを掛けられてしまった。


「ウチらをブラックメタル側として戦争登録!? なんでや! ウチらは顧客に物資運搬しとるだけやで!?」


『戦争中の企業に補給物資、工作機械の搬入。一方の企業に肩入れという危ないラインを渡っているのは、貴女が一番理解しているでしょう?』


「せやかて勝手に登録されるんはおかしいやろ!

 帝国の法を破ったわけでもないし、商業連合の規約に違反しとるわけでもない。それに片方の企業に肩入れしたわけでもない! ウチは顧客が求めとるもん売っとるだけや! 必要あるならオプシディアン・ハーベスターズにだって物資搬入くらいしとるわ!」


『オプシディアン・ハーベスターズと戦闘状態に入った貴女方へは、貴族連を通して商業連合宛てに連日苦情が入っています。

 戦争に参加しない場合、取引終了後は星系から速やかに撤収することが傭兵、商人問わず義務付けられていることはご存じかと思われます。今のラビット商会のように滞在期間が2週間を超えている点について詰められると、我々としてもこのような連絡を入れざるを得ないことはご理解ください』


「そんな当たり前のこと言われるまでも無いわ!

 けどな、何べんも言うけどガリアンⅠコロニーに港湾労働者組合がおらんのや。おらん以上はクルーで荷下ろし作業をせんとどうしようもないことくらい、アンタらも理解しとるやろ」


『ではそれが終われば出立すると?』


「やから何べんもそう言っとるやろ……何でこないしつこく聞くんか、聞いてもええか?」


『商業連合は組合員の安全確保のため、必要と判断されればその所在を把握し、速やかに危機を伝える責務を負っています』


「ああ言えばこう言うやっちゃな……オプシディアン・ハーベスターズの木端貴族からの圧力って、連合がウチに直接連絡入れるくらいやばいんか? いや、むしろ貴族連からのか?」


()()()()()()()。いち担当が出来るのは、マニュアルに沿って上の意向を伝えるだけです。例えそれが商業連合にとってどれほど屈辱的なことだとしても』


「はぁ……ちゃんちゃらおかしいとは思ってたんや。再三の撤収要求に帰還日の提示を求められるなんてこと、”自由に勝手に”が合言葉の商業連合が言ってくるんは何かあるんやろってな。

 ほんで、何時迄に撤収せな強制的に戦争に組み込まれるん? 明日か? 明後日か? それとも秒読みやったりするんか?」


『貴族連が主体になっているとはいえ、正規からかけ離れた申請です。恐らく関係各所への根回しは相当な労力が必要なはず。商業連合では帝国に受理されるまで今から1週間は掛かると見ていますが、なるべく早くの撤収を推奨します』


「成程なぁ。つまり今回が最後通告、商業連合なりの義理立てっちゅうことか」


『はい。本件はオルフェオンの貴族連が絡んでおり、事は既に商業連合の手に余る事態となっています。我々に出来る事は当事者へ迫る危機を伝えるだけ、以降は”自由に勝手に”お願いします。

 ……私個人としては、商業連合を舐めている貴族の鼻を明かせて欲しい所ですね』


「ま、よくよく考えるわ。あんがとさん、商業連合が組合員を見捨てた分けじゃないってことが分かっただけで儲けもんや。通信終わり」



















 ―――バレンシア会議1日目

 ―――ガリアン星域外縁部 ブラックメタル鉱業連合 採掘基地




『……』


『……』


「……誰か何か言えよ」


『……ご、ごめんなさい、なのです……?』


 いや、別にカリナナに謝罪を求めたわけじゃないんだが……というか、珍しくこの場にいる全員何も悪くない。悪いとしたら、こんなタイミング仕掛けて来た推定オプシディアン・ハーベスターズに雇われた傭兵連中だ。


 つい先程までは銃弾が飛び交っていた採掘基地も今は静けさを取り戻し、機体のセンサーからは周囲にちらばった鉄屑の反応だけが返って来る。それらは俺たちを襲って来た連中、その成れの果てだ。


『しゃあない、みんなは気にせんでええで。ウチらはブラックメタルと無関係やって忠告した上で向かって来るんが悪いんやし、正当防衛で賞金首のクレジット稼げたって考えることにしとこ』


『で、でもマリーちゃん、私はアケボノ傭兵団のサンドマンで……』


『おだまり! 今のナナッちはラビット4、雇われ傭兵や。ハイ復唱!』


『ら、ラビット4のナナッチなのです!』


「いや無理あるだろ」


 どうしてこうなったのか? 話は今朝まで遡る。

 ある程度荷下ろし作業も進み、漸く終わりが見えて来た俺たちは死んだ目で格納庫に座り込んでいた。

 港湾労働者組合の組合員がいないとこんなに面倒なのかと、もう何度目になるか分からない溜息を吐いた所で、艦内放送でハイデマリーから集合が掛かった。


 作戦室に向かうとハイデマリーの他にカリナナも居た。俺と目が合うとプイと顔を逸らされるのもここ数日で慣れっこ、初対面で嫌われた印象は全然払拭されていないようだった。


 それはそれとして、2人を中心としたミーティングではこんなやりとりがあった。


”採掘基地に取り残されている人員と鉱石の回収?”


”なのです。星域内に押し込まれたせいで、碌な防衛設備もない採掘基地が前線になってしまったのです。なので敵が星系内に入り込む前に撤収する必要があると、爺様方の判断です”


”ブラックメタルの警備部門やアケボノ傭兵団は動けないの?”


”同じように前線になってしまった基地に同じ出撃しているのです。端的に言って手が回らないのですよ”


”っちゅうわけで人命救助や。ウチらは関係ないとはいえ非戦闘員もおる基地襲撃を無視するんも目覚めが悪いし、人命救助の依頼を断る理由もないさかい追加のクレジット貰て請け負ったで”


 こうして人命救助の依頼を受けることになった俺たちだが、企業間戦争に参戦していないラビット商会が、人命救助とはいえブラックメタル側に加担する作戦行動に出て良いのか。作戦の成否に問わず戦争に参加したと捉えられないか。


 ミーティングでも当然この話題について一悶着あったが、ハイデマリー曰く……


『貴族連の横槍が入ったから、あと1週間もしたらブラックメタル側で登録されるで』


 とのことだった。いきなりな話に当然誰も納得などできず、ミーティングでは貴族連に向けて非難轟々。

 ハイデマリーも同じだったらしく、既にグラスレー侯爵に連絡を入れているらしい。その上で、どうせ戦争に参加させられるなら誘い受けに出るべきだと積極策を提示した。


”庶民虐めて悦に浸る貴族なんかに負けてたまるかい! やってやんよ!”


”ゲリラ戦なら特殊部隊の十八番。マリー、一方的な狩りを始めよう”


”うへっへっへ、フラストレーションから解放されたボクらの狩りはちょっと過激だよぉ?”


”一個分遣艦隊の数分かってるのか? お前らがそれでいいなら別にいいけど……まあ何とかなるか”


 まさか打って出ることになるとは思っていなかった。盤上の戦力差だけを見るなら諫めるべきなんだろうが、ついこの間の戦闘を考慮するとその必要があるのかとも思ってしまった。


 理由は単純、相手が弱すぎた。


 宙賊相手とはいえ40機弱を瞬殺、それもリタを温存した状態での戦果だ。今まで戦ってきた相手が相手だからか、数だけを見て苦戦する可能性を少しでも考えた俺からすると、あの結果は拍子抜けも良い所だった。


 そんな連中を相手に、ブラックメタルの警備部門やカリナナたちアケボノ傭兵団は攻めきれなかったという。じゃあ練度が低い部隊なのかと思い戦闘中の映像を見せて貰ったが、戦力として考えていい程度の力はあった。


 つまるところ、俺たちはもう少し自信を持っていいのではないかと言う結論を得た。


 その結果が今だ。襲い掛かって来た巡洋艦4隻と傭兵50機を被害無しで殲滅出来てしまった。


「専用機持ちエースが3機とプラスα、新型艦が1隻でこれか。個人商会が持っていい戦力じゃないな、これは」


『ウチは頼もしい限りやけどな。ぶっちゃけどうよオキたん、オプシディアン・ハーベスターズと真正面から戦ったら勝てそうか?』


 思わず出た独り言に、ハイデマリーが厄介な質問を投げかけて来た。


 数の面では圧倒的不利だが、それでも勝てるというのが俺の結論だ。

 それにデスペラードのΑΩ、ラビットⅡの特装砲を考慮すれば負ける姿など想像できない。一方的な蹂躙になる可能性だってある。


 けどハイデマリーにそのまま言うとなぁ……調子に乗って油断しそうだから、どう言ったものか悩ましい所だ。


『勝つんじゃない? 向こうにエースが居るか次第だけど、ボクは負ける気がしないよ?』


『うんうん、勝つに一票頂きました。リーさんは?』


『……うん、負けないだろうね』


『よっしゃ! これで2票やな』


 このおバカ二人組、人がどう伝えるべきか悩んでいる時にいけしゃあしゃあと。


『ほんで? オキたんはどう思うん?』


「……勝つさ、むしろ負ける方が難しいだろうよ。

 けどなハイデマリー、勝負事に絶対はないんだ。楽観視だけはしてくれるなよ」


 どれだけ響くかは分からないが釘だけは刺しておく。一度のミスで墜ちるように、一人のミスで部隊丸ごと無くなる可能性がある以上は楽観視など出来るわけがない。


『大丈夫やで、ウチは皆の言葉で安心したいだけやさかい、楽観視なんてせえへん。

 ほな採掘基地の人と、詰め込めるだけの鉱石を格納庫に入れてガリアンⅠコロニーまで戻ろか』


「了解」


 ああ、ここでも搬入作業があるのか……。


『―――ああそうや忘れる所やった!

 オキたんはクレアちゃんに連絡入れといてな。スターゲート経由のリアルタイム通信で』


「? ああ、戦争に巻き込まれる件の連絡か。援軍を頼めばいいのか?」


 たぶん呼べばすっ飛んでくるぞ。あのお嬢様普段はちゃんとしてるのに、急にアグレッシブになるから。


『傍受される可能性があるさかい、何でもない話でええで。本命はウチが義姉やんに送るから』


 あー、確かにセクレトと関係あることはバレてそうだよな。


 じゃあ傍受先を混乱させるために、ちょっと恋人に送る感じで面白可笑しく連絡してみるか。



ここから更に時系列がややこしくなって行くので後書きに記載していきます。


バレンシア会議1日目

・ラビット商会

ブラックメタル採掘基地防衛戦、敵ナレ死。オキタとハイデマリーの連絡がセクレト組に届く。


・セクレト

ラビット商会からのメールに驚きつつもバレンシア会議1日目を無事終了。G.EのCEOが会議を抜けたニュースが流れる。


時間と距離の話ですが、銀河を超えてリアルタイムで情報をやり取りできるスターゲートの存在から考慮しないものとします。

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― 新着の感想 ―
どこぞのSFシューターゲームレベルなんですかね、この自称商会(・ω・`) 問題宙域に居る相手全部撃ち落とすお積りで?(ォィ
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