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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
80/91

77_嘗ての戦友たちへ①_挿絵有

20250720:修正

オキタが指揮していた部隊を小隊→中隊へ


 ラビットⅡの自室。ベッドに腰かけて、拳大の大きさ程度の球体のスイッチを入れる。


「撮れてるか?」


『はい、ばっちりです。ですがよろしいのですか? 編集も私の方で出来ますが』


「お前に任せたらどう切り抜かれるか分かったものじゃないからな。俺がしっかりと編集しておくから、シズは動画が撮れているかだけ確認してくれ」


『分かりました。ではこれ以降、私から声を発することはございません。何かご用命がありましたらお声がけ下さい』


「サンキュ、じゃあ撮影開始だ」


 宙に浮く球体に向かって宣言する。まあシズの子機なんだが、一種の撮影ドローンみたいなものだ。


 目的は商会の仕事風景やら生活の一部を撮影して、俺の近況やラビットのメンバーを嘗ての戦友たちに紹介することだ。


 何でこんな事をやっているのかと言えば、カリナナを見て昔の仲間たちのことを思い出してしまったからってのが一番強い。


 嘗ての仲間たち。所謂辺境の帝国軍なんだが、伯爵が手ずから部隊編成を行った精鋭部隊だ。軍を辞める前まで、俺はその部隊で中隊長を務めていた。

 帝国宇宙軍メリダ星系外縁方面艦隊第88TSF連隊オルトロス中隊。俺が指揮する第1中隊(オルトロス)から第4中隊までが連隊の構成部隊だ。


 第1中隊の中でも直接指揮を執っていた小隊メンバー3人は、俺が在籍していた3年間の辛く苦しい時間を分け合った魂の兄妹たちと言っても良い。


 辺境の激戦地故に入れ替わりが激しい辺境で、3年もの間唯一隊員の入れ替わりが無かった最強の小隊。

 そう言われていたからか、俺が退役するって決まった時には連隊を巻き込んだひと悶着……あー、結構酷いアレやコレやがあった。


 そのせいか別れ際に貴族の坊ちゃんから”ほとぼりが冷めるまで連絡を取るのは辞めた方が良い”と言われ、退役以降は考える事も避けていた。とはいえあれからもう半年以上は経っている。そろそろ元気にやってるって連絡を入れても良い頃合いだろう。


 ”クロ”には世話になったし、几帳面なアイツのことだから連絡を入れなかったら機嫌悪くなるだろうし……もう手遅れかもしれないけど。

 ま、まあ伯爵とはこの間会ったし、上手い事フォローしてくれていることに期待しよう。88連隊は伯爵が立ち上げた部隊だからな!


 色々考える事はあるがとりあえず始めよう。じゃあまずは挨拶からだな。

 記憶を掘り起こして思い出せ俺、今の俺はY〇utuber だ!


「ブンブン、じゃない。よ、久しぶり。お前らの大好きな超絶イケメン中隊長ことオキタだ。

 今クソガキって言った奴は漏れなくヴォイドの餌にしてやるから首洗って待ってろよ。っとまあ、挨拶はここまでにして……サイロ、ジオ、それにクロ、っとすまん、クラウディアも元気にしてたか?」


 ヘタレ政治犯の”サイロ”少尉、部隊の潤滑油で貴族のお坊ちゃん”ジオ=パスリー”少尉。それに俺の副官だった”クロ”こと”クラウディア”少尉。


 今でも鮮明に思い出すことが出来る嘗ての戦友に向かって話し掛ける。


「俺が辞めてからもう半年以上経つが、そろそろそっちも落ちつ―――くことはないか。

 俺が居なくなった混乱から立て直した頃だと思うから、こうやって連絡してみようと思った次第だ。

 本当はメールでもいいかと思ったんだが、こっちの近況を連絡するならいっそのこと動画にしてみたらどうだってサポートAIに勧められてな。今に至ってるわけだ」


 なんだろう、自室とは言え誰もいない場所に向かって一人で話すのスゲー居た堪れないんだが。昔も今も、動画配信者の人ってメンタルに毛生えてるだろ。じゃないと小っ恥ずかしくてこんなの出来ねえよ。


「誰一人欠けることなく……ってのが難しいのは俺も分かってる。

 けど俺がいた頃の仲間がまだ連隊に居ると信じてこの動画を送ることにする―――はい! 小難しい話終わり! 俺が真面目な話嫌いなの知ってるだろ?」


 パンっと手を叩いて雰囲気を変える。真面目に動画取ってたらジオの奴に面白可笑しく脚色されそうだしな。


「俺は今ラビット商会っていう個人商会の専属傭兵をやってる。

 ……いまクロ、じゃないクラウディア少尉の眉が動いただろ、誰か確認しておいてくれ。

 とにかく軍を辞めてからは傭兵になったんだ。そうそう、この間はバレンシア星系で伯爵とも会ったぞ。知ってるやつもいるかもな」


 伯爵が護衛も無しに出歩くとは思えないからな。連隊長とは言わないが、中隊長くらいは護衛に就いていたんじゃないかと思う。


 だから誰かに出会えるかもと期待していたんだが、その予想は外れて誰とも出会うことはなかったんだが。


「俺が今いるのはラビット商会が保有する船の自室だ。中々いい部屋だろ? 結構いいホテル並みに部屋が整えられてるから、基地暮らしのお前らには羨ましがられるかもな。だから撮ってるんだけどなぁ!」


 場面場面で煽る事も忘れてはいけない。頭のお堅い軍高官ならともかく、現場の人間なんてのは締める時以外は基本ノリ重視、ライブ感で生きてるのが殆どだ。


「とまあ俺のことはこのくらいにしてだ。今回は今一緒に行動している仲間や仕事内容を紹介していきたいと思う。

 ……よし、とりあえず部屋を出るか。シズ、動画は止めなくていいぞ。全員どこでポップしてくるか分からないからな」


 腰かけていたベッドから立ち上がって自室を出る。

 とりあえずブリッジにでも行ってみるか。今は荷下ろしで出っ張らっているとはいえ、誰かしらはいるだろう。


「艦内廊下も綺麗なもんだろ。この間セクレトアスティエロ(造船)から受領したばかりの新型艦なんだぜ。個人商会だからあまり懐事情に余裕はないのに、商会長が俺たちの事を考えて用意してくれたんだぜ。

 お前らが気になってそうな艦の武装なんかは後にするとして、まずはブリッジに向かってみようか」


 俺の斜め前方をドローンが撮影しながら進んで行く。子機とはいえシズが直接コントロールしているからか、細かな調整なしにカメラマン顔負けのアングルを意識してくれているようだ。


「ここがブリッジの入口だな。誰かいるか……っと、いたいた。

 ハイデマリー、ちょっといいか?」


「んあ? オキたんどないしたん?」


 寝起きなのか寝ていたのか、寝ぼけているハイデマリーが艦長席に座っていた。


「古巣に連絡しようと思って動画撮ってるんだ。皆の紹介もしようと思ってるんだが、今時間いいか?」


「なんや、そういうことか。ええよええよ。あ、ウチも挨拶した方がええか?」


「頼む」


 商業連合に行くときとは違い完全オフな恰好のところ申し訳ないと思ったが、ハイデマリーはニカっと笑って了承してくれた。


「この人がラビット商会の商会長で今の俺の雇い主、ハイデマリーだ」


「ども、オキたんのお仲間さん。ご紹介預かりましたハイデマリー言います。見ての通りハーフリングの血が入っとるハーフ・ハーフリングっちゅー種族なんで、子供と間違えんとってや」


挿絵(By みてみん)




「ハイデマリーは俺が退役して直ぐに出会った人で、初対面にもかかわらず俺を雇いたいと言ってくれた人だ。この人に拾われたから今こうしていられるわけだから、言ってみれば恩人ポジションの人だな」


「いややわぁ、そない褒めても何も出ぇへんで? あ、でもお仕事はぎょうさん出せるからキリキリ働いてや?」


 流石商人なだけあってスラスラと言葉が出てくる。……キリキリ働けってのは俺を扱き使っているって見せる為だよな?


 直近の荷下ろしが遅れているから急げって言われている気しかしないが。


「そういやハイデマリーは何で俺のことを見つけられたんだ? エリーの奴からは色んな掲示板で俺に賞金が懸けられてたって聞いたが」


「あり? 言ってへんかったっけ? オキたんが軍を辞めたって情報が出た時、そりゃもう商業連合の掲示板やら傭兵ギルドの掲示板やら、果てには貴族のネットワークまで大荒れやったんよ」


「そんなことになってたのか。じゃあ俺の居場所なんかに懸かってたのか?」


「せやで。みーんなオキたんを雇おうと必死やったってわけ。

 画面向こうの皆さんなら説明するまでもなく理解してくれると思うけど、まあオキたんはヤバいわな。

 ウチも何回か目の前で戦っとる姿見たけどオキたんまじパネェ。

 ヴォイドが出た?とりあえずオキタ。宙賊が出た? とりあえずオキタ。生意気な傭兵が喧嘩売って来た? お前オキタに勝てるの? なんて言葉が生まれるのも分かるわ」


「ちょっと待て、そんなとりあえずビールみたいな言われ方されてるのは初耳だぞ」


「まあええがな。いろいろ探し回っとったのはそうやけど、トップエースやし傭兵ギルドにでも居るんちゃうか思って行ってみたら出会えたってわけ。後はお話して契約して貰ったって感じやな」


「聞いて驚け、大尉待遇だ。すいません大尉、俺未だに中尉なのにお給料は大尉待遇なんです」


 ヨヨヨと瞼を拭って宣言しておく。軍に居た頃にこんな舐めた口利くと修正されるだろうけど、もう辞めたからセーフだろう。


「けど実際、オキたんが居ることの安心感はヤバいで? 辛い場面でも何とかなると思わせてくれるんは、やっぱトップエースの肩書が大きいわな。……せやからオークリーで堕ちた時はウチめっちゃ驚いたんやけど」


 あれはなぁ……機体さえ万全ならもうちょっと粘れたはずなんだが、結局のところアウトランダーじゃ共和国の特殊部隊を相手にするのは厳しかっただろう。

 特に後から出て来た隊長機。あのビット使いを相手にするなら、やっぱりデスペラードくらいは必要になってくる。

 今戦ったらどうなるか? なんて考えることもあるけど、こっちにグラビティシールドがある以上負けることはまずないだろうなって結論になる。戦いは性能だよ。


「俺が墜ちたって聞いて驚いている連中がいるかもしれないから説明しておくと、あの頃はVSFに乗ってたんだよ。しかも()()アウトランダーな。

 あの機体に可変ブレード翼があるだろ? あれを展開して突撃戦法を繰り返したせいでイエローアラートが出てな。機体不良になったところを撃ち落とされたってわけ」


「いやホンマに心臓に悪かったわ。思いっきり爆散するとこ見てもうたし、オキたん逝ったー!? ってガチで落ち込んだからな。もうあんな思いさせんのだけは勘弁な」


「悪かったって。今度からは善処する」


「そこは約束せんかい! ……ったく、頼むでホンマ」


 うーん、どうやら本当に悪いことをしてしまっていたらしい。肘をついて顔を膨らませているハイデマリーの機嫌が悪くなる前に次に行くことにしよう。


「じゃあ最後に一言貰っていいか?」


「うーん、せやな……あ! これ言ってみたかったんよ」


 グイっと身を乗り出すハイデマリー。画面に近づいているのでたぶん顔面ドアップになっているだろう。




「オキたんはもうウチんとこの子やからな。

 返 さ へ ん で ぇ」


 うお、すごい圧迫笑顔。ありがとうございました。




濃厚な寝取り?これは寝取りなのか? 困惑してます。

イェーイ連隊の皆見てるぅ? を言わせる人物は決まってます。

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ヴォイド&宙族A「オキタがでた!?でどうなったんだ!?」 ヴォイド&宙族B「ああ、皆寝た(永遠に)」 やっと観にこれた!オキたん過去掘り下げポイ展開歓喜!
見える、みえるぞ! クラウディア少尉が良い笑顔を浮かべて辞表を書き、伯爵の執務室に突撃する姿が!!
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