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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
77/91

74_ガリアン星系

20250706:以下に挿絵追加と削除

59までの主要メンバー紹介と備忘録

71_企業と貴族の不穏な関係



 宙賊機とその母艦を全て沈め、俺たちはラビットⅡに帰還した俺たちを待っていたのは感極まったハイデマリーのハグだった。


 何せ完勝も完勝。弾薬や推進剤は消費したものの機体には傷ひとつなく、40近い敵機を全て撃墜したラビット商会の新たな船出は最高の出来、だそうだ。

 宙賊相手にそこまで褒めないでもと若干引いてしまったが、エリーはこのくらいは当然だと胸を反らしていた。


 そんな俺たちのためにハイデマリーが温泉を用意してくれていた。

 そう、あの温泉だ。ラビットⅡには個室のシャワールームとは別に、共同の浴場モジュールとして温泉が用意されているのだ。


 何もない宇宙で水をふんだんに使うのは自殺行為に思えるが実はそんな事はなく。

 この宇宙には俺が想像もつかなかった面白い物質が数多く存在していて、その一つがアクアリナイトと呼ばれる水を生成できる鉱物資源だ。


 俺も詳しいことはよく分からないが、水酸基(-OH)だけを選択的に操作して水を生成する量子分子変換技術があり、鉱物資源の中でもアクアリナイトは高級品として取り扱われているらしい。

 ラビットⅡは大型で純度の高いアクアリナイトを使っているらしく、船の価格が高い理由その1だそうだ。機体の洗浄にも大量の水が必要だから宇宙船には必須な鉱物だが、消耗品だからランニングコストも掛るのによくやるよ。

 あとは水の蓄えや循環システムなど、諸々必要なモジュールを組み合わせると宇宙船でも水がほぼ使いに放題になるそうだ。


 まあそれはともかく。温泉に浸かってとにかく疲れた身体を癒してこいと言われ、比較的汗を掻いていた俺とエリーが先に風呂を貰うこととなった。


 問題はどの順番で入るか。一番風呂がイイと手を挙げたエリーを行かせることに賛成し、残されたのは俺と、何故かエリーと一緒に入りに行かなかったリタ。


 順当に行くなら俺が先に入ることになるが、絶対碌な事にならない予感がしたため最後に入ることに決めた。

 そんな俺に向かってリタが腕を組んでデッカイ物を見せつけるようにしてきて―――うおデッ―――じゃない、やわらk……って違う! ダメだ、戦闘の後だからか色々と気が昂ってる。

 落ち着けお猿さん、俺は賢いお猿さんだろう。ビッグでソフト、それでいてストロングなたわわに惑わされるお猿さんだとしても、時と場所だけは選べる賢いお猿さんでありたい。滅!


 そうやってセルフで邪念を取っ払い、仏の如く微笑返した俺にリタが舌打ちしていたが知るか―――そうやって3人交代で浸かり終わってブリッジに顔を出す頃には、ラビットⅡはガリアン星系の主用コロニー群まで最接近していた。


「ハイデマリー風呂上がったぞーって、エリーとリタはないのか」


「オキたんおつー。二人は部屋でゆっくりするやって。

 それよりどうやった? 部屋のシャワーと違ってええ湯やったやろ?」


「すげー良かった。今までタイミングが合わなくて入るのを断ってたのが勿体ないくらいスゲー良かった。正直無駄なクレジット使って馬鹿じゃないかと思ったけど、アレは癖になるわ」


「うさぎの湯は毎日営業中やさかい、気が向いたら入ってな。

 あ、今回は特別やけど、普段は男女の時間は守らんと怒るから」


「そりゃ勿論」


 風呂に入る文化圏に居た記憶があるからか、やっぱ温泉は至高の一時だ。身体を芯から温めて、あがった後のさっぱり感の中に残る少し気だるげな感じ。そこに流し込む爽快感のある飲料。もうたまらん。


「今までは時間とか合わなかったから断ってたけど、明日からは風呂メインで時間組み立てることにする」


「おや? ではオキタ氏と一緒に温泉に浸かれる日も近いということですね?」


「楽しみですね。お背中お流ししますよ?」


「あ~、まあ、時々な?

 それよりコロニー群が近いけど、そろそろ到着じゃないのか?」


 圧が、圧がすんごい。振り返って来た双子の爽やかな笑顔に引きつつ話を変える。


『はい、ミスター・オキタ。到達まで巡行速度で10分です。モニターにコロニーを表示しますか?』


「頼む」


 ブリッジのモニターには肉眼でも捉えられるほど近づいてきたガリアン星系のコロニー群が映っている。俺がこれまで見て来たモノと比べると数は少なくサイズも小さい。


 そんなコロニーの周辺には採掘用の小惑星を引っ張って来たのか、コロニーの近くから少し離れた所までに小惑星が群れを成している。採掘されきったのか穴だらけで放置された物や、人の手が入っていない新しそうな小惑星まで様々だ。お陰でブリッジの宙域図に示されている重力分布が歪な形を形成している。


 帝都やオルフェオンが都会なのは分かるが、これはちょっと……と思ってしまう。本当にただ採掘するためだけの場所みたいだ。


『ガリアン星系の主な収入源は鉱石採掘です。

 大小幾つかの企業が存在しており、その全てでアライアンスを組んだ姿がブラックメタル鉱業連合。つまりブラックメタル鉱業連合とはガリアン星系その物です』


「ガリアン星系のほぼ全ての人がブラックメタル鉱業連合に依存しないと生きていけないってことか。だいぶ歪な環境だな」


『ゼノンシス=コア銀河系以外の辺境はどこも同じです。帝国広しとはいえ資源は有限、辺境の開発は常に棚上げされてきた歴史があります』


「もっと言うと、こういった星系に住む殆どの人が星系外に出ていくことはありません。生まれた場所で日銭を稼ぎ、子を育み、死んでいく。それが辺境に住む人たちの一生です」


「そうなのか? このご時世、宇宙船一つで何処にでも行ける時代だろ。もっと自由に生きてみようとか考えないのか?」


「勿論皆さんそう考えているでしょうが、そう簡単にいけば今頃辺境から人は居なくなってしまっていますよ」


 結局何を言いたいのか分からん。勿体ぶってないで教えろと双子に回答をせかすと、彼らは揃って苦笑した。


「単純な話で、皆さんクレジットがないんですよ。宇宙船一つにどれだけのクレジットが必要になるかはご存じでしょう?」


 思わず借金まみれの雇い主に視線が行ってしまう。なんやねんとでも言いたげな目を向けられるが、なんやねん。


「ハイデマリーだって個人で船持ってるじゃないか」


「オキたん辛辣すぎ……言いたいことは分かるけどウチかて商売始めた頃は借金で首回らんかったし、宙賊に襲われるリスクの中で商売が安定してきたのもここ数年やで? 今もちょ~っと苦しいけど、そんな中で頑張れとるんはそれだけ稼ぎ方を知っとるからや。」


「じゃあ傭兵はどうだ? 中央はともかく、帝国軍の手が足りてない辺境なら引く手数多だろ」


「せやろな。けどオキたんみたいな元軍人ならともかく、他は一般人か良くて作業用を動かしてきた素人やろ?

 傭兵になって数年以内に廃業なんてのもザラやし、実際オキたんと出会う前に何人か雇ったことあるけどお星さまになってしもたしな。

 傭兵ギルドがそんな連中に借金させてまで高価な船と機体を預けると思うか? 普通に考えてないやろ。やから傭兵の装備は比較的安価で手に入りやすい旧式なんや。何も軍の機密保持だけが理由とちゃうで」


「世知辛いな」


 双子も同意するように首を縦に振っている。


「宇宙を自由に移動できることと、宇宙で自由に生きられることはイコールでは無いと言うことですね。残念なことですが」


「とはいえオキタ氏の言う通り外に出ていく方もいます。

 それでも大抵の人は生まれた場所で生きていくことを選ぶので、此処にいる全員は世界から見たら珍しい部類に入るというわけです」


「なるほどなぁ……せっかく一度の人生なのに勿体ない」


「それも分かるけど、でもそれが分相応ってやつなんやろ。

 それが嫌やったからウチは宇宙に出たんやし、案外行動すれば何とかなるもんかもしれんで?」


 にんまりと笑うハイデマリーの言う通り、仕方なくで行動するくらいならいっそのこと冒険してみると何とかなることも多いだろう。伯爵に拾われた俺がそうだったように。


「……ん? ちょっと待ってくれ、じゃあここの人たちは後がない状態でドンパチしてるのか?」


「それはそうでしょう。彼らはここで負ければ全てを奪われることと同義です。必死にもなりますよ」


「ブラックメタル側はそれすら出来ん状況らしいけどなぁ。要は詰んどるっちゅーこっちゃ。

 あーあ、辛気臭くなってしもた。でもウチらには関係ないし、やることやってちゃっちゃと次行こうで」


『ガリアンⅠコロニー宇宙港に入港します。ラビットⅡシールド・オフ』







    ◇







 ガリアンⅠコロニーに入港したラビット商会を待っていたのは興奮冷め止まぬ群衆だった。

 どこを見渡しても人人人。入港管理局での手続きを終えたハイデマリー率いるラビット商会一行を一目見ようと集まった人たちで騒然としていた。


「さっきの戦闘見てたぞ! スゲーなお前ら!」


「本当に商人なのか!? 見たこと無い機体だったし、帝国の仲介役だったりするのか!?」


「馬鹿だなお前、()()()()()()()()()()()セクレトの新造艦だって話だろ? 」


「じゃあこの人たちはセクレトの関係者ってこと? セクレトが後ろ盾になってくれるの!?」


「口だけの仲裁で何も出来ないG(ゼネラル).E(エレクトロニクス)の腰抜けとは違うんだ!」


「実はセクレトの特殊部隊かも!? じゃないとあんな一方的な戦いになるはずが無い!」


「アンタ達のお陰だ! これでガリアンは救われる!!」


「お願いだよ! 商会長に会わせてお礼を言わせてくれ!」




(こりゃアカン、最悪のタイミングで来てしもたんか)


 歓喜の声を挙げる人たちを見て、ハイデマリーは頬が引き攣るのを隠せなかった。


 ハイデマリーの予想は当たっていた。

 ブラックメタル鉱業連合は今日、オプシディアン・ハーベスターズの艦隊集結を待って降伏の交渉に臨むつもりだった。


 貴族が見栄の為に起こした戦争には何の意味も無く、意味もなく死んでいくのは戦いに駆り出されたガリアン星系の住民たち。ブラックメタルの首脳陣はそれが心底馬鹿らしく嫌だった。


 例え降伏しようとも、命まで奪われるわけではないはず。


 例え降伏しようとも、最低限の保証は約束されるはず。


 星系を根っこから支える企業が無くなろうと、今までの生活を支えてきた企業()が基盤から崩れ落ちようとも、手となり足となって働く仲間がいればきっと何とかなるはずだと。


 ブラックメタルの穏健派はそんな希望を抱き、まだ戦えると訴える主戦派を黙らせるために偵察機を星系外縁へと放っていた。偵察機から送られて来るオプシディアン・ハーベスターズの艦隊集結映像を住民に向けて流し、降伏することに納得して貰うために。


 住人達はコロニー内に流れ始めた映像を見ていた。その視線の先にはオプシディアン・ハーベスターズが誇るベーシック級戦艦と、ならず者で構成された宙賊の艦隊。


 それを見たガリアン星系の住人達は青褪めた。

 オプシディアン・ハーベスターズに降伏するだけならまだしも、宙賊艦までコロニー内に入れた場合その後に何が起こるかは想像に容易い。

 ただの終戦締結だけで済むはずがなく、帝国が終戦の宣言を出すまで控えめに言っても大量の血が流れることになるだろう。


 誰もがそう予想し、やはり戦ってでもブラックメタルを守るべきではないのかと考え始めていた所に一隻の船が現れる。


 その船は住人達が抱いていた暗い感情を吹き飛ばすほど強力な力を秘めていた。


 今では誰も彼もが興奮するように褒めたたえている。ガリアンⅠコロニーの住人が諸手を上げて興奮する程にラビット小隊は強かった。

 それもただ強いだけでなく、母艦も含め最新の装備を揃えた謎の商会。

 それでいて御三家の一角との関わりを匂わし、その商人がオプシディアン・ハーベスターズを一時的な撤退に追いやった。



(何でこんなことになるんや! ウチらはセクレトとは無関係……とは言えんけど、今回の件に関しては完全に無関係なんやで! 手遅れなる前に誤解解きたいけど、こんなんもう誤解が事実になってしまいよるやん! どないせえっちゅうねん!)


 声を大にして否定したいハイデマリーを他所に、噂を聞きつけた人がどんどん集まってくる。

 今はラビットクルーが総出でハイデマリーの壁になっているが、だんだんと人が集まってくる群衆は控えめな行動から一転、壁にすら彼らは興味を示し始めておりいつ暴走するか分からない状況。


 一度船まで戻るしかない。ハイデマリーがそう思っていた所、甲高い声が入港管理局で足止めされていたラビット一行に届いて来た。


「ンンッ! 通しなさいな! その方々は私どものお客様ですのよ!」


 屈強な男たちを引き連れて現れたのは40を過ぎた頃に見える神経質そうな女性だ。

 彼女の歩く前は男たちによって無理やり舗装され、険しい顔を浮かべて仁王立ちをするオキタとアンドーの前までたどり着いた。


「クルーの方ですわね? そこ、どいて下さる?」


「一昨日来やがれババア。こいつら下がらせる方が先だろうがよ」


(オキたん言い方ァ!?)


 開口一番に喧嘩を売ったのは完全にキレているオキタだった。

 ハイデマリーは自身の安全を優先してくれていることに感謝はすれど、過激に過ぎる言い方に頭を抱えたくなった。


 キレているのはオキタだけではない。導火線の短いエリー、爆発すれば止まらないリタ、双子でさえもいつも浮かべている笑みにキレがない。唯一冷静なのは懐にしまった銃に手が届いていないアンドーくらいか。


「失礼なクソガキだこと。其方が望むのならそうですわね……お前たち、懲らしめてやりなさい!」


「ヘッ、上等!」


 女の言葉に男たちが前へ出る。それに合わせてオキタが前へと出て、その脇を好戦的な笑みを浮かべたエリーと眼の据わったリタが固める。


『止めますか? ミス・ハイデマリー』


「当然やろ、これ以上ややこしくしたくないわ。

 アンドー、あのアホ三人を適当にノして―――」




「待つのですゾーラ! その人は私のお客様なのですよ!」


 もう面倒だから首根っこ掴んででも船に戻ろうとした途中で、群衆をかき分けて出て来た影が一つ。

 サッとガードに入ったオキタが硬直したのを見たハイデマリーが何だ何だとシズの影から顔を出すと、、、


(なんや思たらただのニャクス(ネコ耳)族やな、い、か…………デッ!?」


 その大きさ、リタを上回る。あどけない顔立ちで暴力的な胸部装甲を持つニャクス族の女の子を前にハイデマリーも思わず声を挙げてしまった。


「マジマジ視るな! オッキーの変態!」


「イッテぇ! って何だぁ!?!?」


 視線を固定したまま動けずにいたオキタは太ももに蹴りを入れられていた。

 エリーが追撃を入れる前によろめいた所をリタに捕まり、前を見るなと言わんばかりにその頭ごと胸元に沈められていた。恐らく今頃は息苦しさと幸福感を感じているところだろう。


「ああもう無茶苦茶や。とりあえずお二人さん、ここじゃ真面に話も出来んから船かコロニーの中に案内してくれませんか」


「ではブラックメタルの事務所へ向かいましょう。車を回しますわ」


「ああいや、車はウチらで用意するさかい場所だけ教えてくれんか」


「あ、じゃあ私がご一緒しますですよ」


「ほんま? ほなお願いするわ。えーっと?」


「カリナナです。よろしくですよ、ハーフリングのお姉さん」



20250713:73_ヴォーパルバニー解釈違い感があるので削除


本章結末までのプロットは出来ていますが、そこに至るまでの細かい内容を考えているので少々お時間いただきます。

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― 新着の感想 ―
エリー追撃入れようとしてたん!?怖。 ウサギの湯、効能に発情とか有りそう…あっ!飲み水にも使ってたら…。
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