70_オルフェオン到達
―――オルフェオン銀河系 スターゲート近郊
「ラビットⅡ、ワープ完了。オルフェオン星系に入ります」
スターゲートを超え、何事もなくオルフェオン星系に到着。窓から見える景色はバレンシア星系と代り映えが無い。惑星と多数のコロニー、あとは遠くで光っている星。遠い銀河間のワープを経験したはずなのに、辿り着いた宇宙の見た目は変わらない。だから人が生きていけるのかもしれないが。
『こちらオルフェオン駐屯軍。貴船のID認証と艦内スキャンを実施する、進路を維持しろ』
「ラビットⅡ了解」
スターゲート付近に待機していた帝国軍艦艇から通信が入る。違法な貨物が無いかスキャナーで艦内を丸裸にしているのだろう。
ゲートを通って来た船は肉眼では数えられない程いるため、帝国軍も幾つかの船を纏めてスキャンできるように航路を指定して来ているようだった。これだと違法貨物が見つからない限りは臨検されることもないだろう。
「……」
とは言うものの、何かとお騒がせなのが俺の雇い主だ。
後ろからだと表情を伺えないが、微動だにしないハイデマリーは何を考えているのやら。
あのアリアドネと二人で作った船だ、密輸船が持っているようなスキャナーを掻い潜る装置を積んでいても可笑しくないと思うのは俺だけだろうか。
『スキャン終了、違法貨物なし。オルフェオンへようこそ』
そうこうしているうちにスキャンが終了したようだ。周りの船はその場でワープに入ったり、目の前に広がるオルフェオン星系のコロニー群へ向かったりと動き始めた。
「シズ、オルフェオンⅢコロニーに向かってくれへんか」
『了解しました。進路をオルフェオンⅢコロニーへ』
「アレンはコロニーに連絡入れて、船止められる宇宙港教えてもらってな」
「了解。オルフェオンⅢ、こちら―――」
ハイデマリーの指示でラビットが淀みなく動いている姿を見ると、みんな慣れているんだなと感心する。普段はブリッジに居なかったから知らないのも当然だが、俺が知らない間もこうして宇宙を飛び交っていたんだと思うと、なんだか不思議な気分になる。
『こちらオルフェオンⅢコロニー。ラビットはステーション9の宇宙港へ向かえ』
『見えました。レーザー誘導をキャッチ、オートパイロットに移行』
「ランディングギアの展開忘れんとってや」
「ギア展開。気密シールドまで3,2,1……コロニー宇宙港へ侵入」
「船体シールドカットや」
「シールド・オフ」
『タッチダウンまで3,2,1……ラビットⅡ着陸完了。お疲れさまでした』
指定された宇宙港に降り立ち、ラビットⅡは船内環境を維持できる出力まで主機を落としたアイドリング状態に移行。あまりにも短い時間での移動だからか、本当に銀河系の移動をしたのか疑いたくなるような不思議な感覚だ。
「はい、全員ちゅうもーく」
艦長席に立ったハイデマリーが手を叩く。元々が小さいからか、後ろからだと背もたれに隠れて頭しか見えない。
「今から1時間後に商業連合のオフィスで商談があります。
ウチについて来たい人手挙げて~」
手を挙げたハイデマリーに吊られて手を挙げる。商談には興味があるし、折角色々な場所に行ける機会があるのだから試さない手はない。その他にはシズと、後はアレンが手を挙げていた。
「ほなウチの護衛は3人にお願いするわ」
挙手制……いや、別にいいんだが、俺も生身での要人護衛は初めてだ。自然と右太もものホルダーに入れた新品のレーザーガンに手が伸びる。胸ポケットに入れた拳銃も含めて使う機会は無い方が良いが、その時には動けるように準備しておこう。
「じゃあボクは傭兵ギルドに情報収集に行ってくるよ。リタ、一緒に行ける?」
「いいよ。私もオルフェオンは初めてだから見て回りたい」
「二人は企業間戦争についてよく聞いてきてな。ウチも探り入れるけど、たぶん傭兵ギルドの方が情報多いやろうし」
「りょーかい!」
明るく敬礼するエリーに一抹の不安が過る。俺がいなくて大丈夫だろうか?
コロニー内の治安がどうなのか分からないが、エリーとリタのコンビなら大抵の問題は大丈夫なはずだ。こう見えて二人供武闘派だから。
だから問題になるのは、見た目に惹かれてホイホイとちょっかいを出す方だ。いよいよとなればエリーの黄金の右足が金的を捉えるだろうけど、そうなる前にリタにはストッパーの役割を果たして欲しいところだ。
「エレンとアンドーは留守番な。変なのが近づいてきたら追っ払ってや」
「承知した。ついでに船のチェックでもしておこうかの。アリアドネの奴にとんでもなく分厚い整備マニュアル渡されたからな」
両手でこれくらいと厚みを表現するアンドーに、それは無茶だろと頷いておく。
『私の子機を巧く使ってください。本体の私とはネットワークで繋がっているため、不明点は問いかけて頂くと回答できます』
「頼む。流石にこれを全部は覚えきれん」
「では私はCICになれるためUI周りを確認しておきます。
アレン、ハイデマリー氏とオキタ氏の護衛は任せますよ」
「ええ、任されました」
「シレっと俺を護衛対象にするなよ」
射撃訓練は俺の方が点数高かったんだからな。P.Pが使える分お前たちの方が実際には強いだろうけど、ナチュラルな気遣いをされると俺だって傷つくんだからな。
そう思っていると、ハイデマリーにポンと胸を叩かれた。
「オキたんも賞金首やさかい、まずは自分の心配しよか?」
邪念の一つもない、いっそ爽やかさすら感じる笑顔で言われた。スススっと寄って来たシズが端末を俺に見せてくる。画面には一覧になった名前が載っているレッドギルドの賞金サイトが映っており、シズが”オキタ”と書かれた欄を選択すると。。。
『名前:オキタ
年齢:不明
経歴:元帝国軍所属
技能:TSFパイロット
金額:100万クレジット、生死問わず』
「安っす! ―――え? 安っす!?」「ボクの方が高いやったー!!」
「高いわド阿呆! レッドギルドなんて真面な共済もない、クレジットも集まらん有名無実なギルドで100万も懸けられとるんやから十分高いわ!」
「いや俺の懸賞金安いって!」
「安くない言うとるやろがい!」
納得いかねぇ! エリーが200で俺が100!? そりゃ俺はエリーと比べたら傭兵になってからの日は浅いけど、元々は結構腕自慢で鳴らしてたエースだぞ? そんな俺がこのちびっ子に2倍差……悔しい、自信失いそうだ。
「ねえねえ、ボクに負けるのってどんな気持ち? やっぱコールサインもボクがラビット1だし、オッキーは永遠の二番手テテテテ痛い痛い!?」
「生意気な事を言うのはこの口か! この口だな!? 俺が面倒見なけりゃ基地すらまともに歩けなかったクソ生意気なエルフの悪い口は塞がないとなぁ!!」
「ごーべん言い過ぎダァーアァー!?」
「もうちょっとだけ許さん」
「ホァー>_<!?」
ヘッドロックしながら鼻を摘まんでやると直ぐにギブアップを宣言するが、なら最初から言うなってんだ。罰としてもうちょい虐めてやる。
「あーもう、アホなことしとらんではよ行くで。約束まで時間ないんやから。
アレン、後部格納庫にウチの新車あるから先に行って準備しといて」
「おや、自動車を購入されたのですか。何時もは港で借りていたのに」
「デキる女は車の一つくらい持てって義姉やんに言われてな。腹立ったから東雲技研の新車買ってやったわ。
……そこのボケ二人はいつまでやってんねん! はよ行くで!!」




