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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
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69_ラビットミーティング


 スターゲートを利用したオルフェオン銀河系へのワープまで残り1時間。今はスターゲートから少し離れた指定ポイントでワープの許可を待っている状態だ。

 複数の船団の往来が可能なほど広いスターゲートだが、不意の衝突を防ぐため平時は片側一方通行で運用されている。

 これは常にどこかの星系、もしくは銀河系と繋がっているスターゲートからは多数の船団が現れるためであり、200m級から60㎞級までが交差可能な配置を多次元的に考えるくらいなら、片側一方通行にして衝突を避けようというのが狙いらしい。


 俺たちが居るバレンシア星系のスターゲートは、恐らく銀河最大の交通量を誇っている。星系一つが帝都であり、政治や経済、文化、軍事の中心となっているバレンシアの生産能力は人口比で見るとあってないような物であり、生きるための糧は全てスターゲートの向こう側からの輸入品で賄われているからだ。

 そのため船の往来は非常に多く、ひとつの星系で少なくとも数時間、銀河系と繋がる場合は日単位でスターゲートの航路は固定される。

 今俺たちの横を通り過ぎていく船団もオルフェオンからゼノンシス=コア、その首都星系バレンシアにやって来た連中だ。帝都の人間を喰わせるためにセクレト、東雲技研、ゼネラル・エレクトロニクスといった30㎞級の輸送艦を旗艦とした企業御三家の輸送船団や、大きさで劣るが数を揃えた企業の船団がブリッジの窓越しからよく見えている。


「ワープまで時間があるから、簡単にオルフェオンのおさらいと今回の商売について再確認しとこか。シズ、説明よろしく」


『はい、ミス・ハイデマリー。

 皆様もご存じとは思いますが、オルフェオン銀河系は帝国の一大生産拠点です。主要な星系はほぼ全てが開拓され、資源採掘、工業製品の生産と加工、食料の生産など、星系や惑星の環境に合わせて1次・2次産業が盛んな特色があります。

 惑星以外にも多数の生産コロニーを要し、その生産力は今や帝国全土を補える程ですが、近年は鉱物資源枯渇の懸念から別銀河、または外宇宙への開拓を視野に入れているようです。

 その点も踏まえ、つい数百年前の技術革新ではフロンティア銀河系の企業と共同で恒星や白色矮星、中性子星からエネルギーを取り出す技術を確立させ、エネルギー問題は一旦の解決策を得たようです。

 ですが依然として鉱物資源の枯渇については懸念が訴えられているようで、価格は緩やかな上昇傾向にあります』


「つまりウチらみたいな輸送を兼ねた貿易商(3次産業)はオルフェオンで出来た物を他所に持って行って売るか、他所で出来た製品をオルフェオンに持って行って売るか、ってことになる。

 まあ量が必要な鉱物や食料なんかは御三家が自前で生産したり買い取ったり、挙句には自前で加工までして他所で売りよるから、そこに手を出してもあんま儲からんわな。規模がちゃうわ、規模が」


「でもマリーはオルフェオンで一旗揚げるつもりなんでしょ?」


「せやな。御三家は大口顧客を相手にするだけで満足しとるし、御三家以外で売り上げ出しとる中小企業が頑張ったところで帝国臣民の購入意欲は賄えてへん。要は抜け穴がデカいっちゅーことや。ちょ~っと取り扱い注意な商品とかは特にな。

 やから商業連合が隙間を埋める環境の整理をして、ウチらみたいな個人商人や零細企業が活躍できる場を提供して貰っとるっちゅーわけやな。

 ええ機会やから皆にも見せたるわ。これが商業連合が募集しとる依頼や、どうや凄い数やろ?」


 ハイデマリーが艦長席に用意されたスイッチ類を操作すると、艦橋のモニターに商業連合が募集している案件が表示された。ゼノンシス=コア~オルフェオン間だけでソートされていてもスクロールバーの一番下が見つからない。確かにこれだけの数があれば、稼ぎを出す方法は幾らでもあるだろう。


「ふ~ん、確かに凄い数だね。これなら実入りの良い商売なら順調に稼げそう……ってうげぇ、ブラックメタル鉱業連合にオプシディアン・ハーベスターズも商業連合に依頼出してるの? 長い間戦争やってるからって御三家から大口契約切られたグレーコープじゃん!」


『正確にはゼネラル・エレクトロニクス以外から契約を打ち切られた企業です。

 2社の企業間戦争が手打ちになったと()()()()()()数年前に再契約が結ばれていますが、工場の生産能力を武器の製造に傾けたところで売り上げは大幅に減少。企業規模は全盛期の半分以下まで低下しています。

 今はサードパーティとして傭兵ギルド向けに船や機体のパーツを販売し、何とか企業のメンツを保っています』


 企業間戦争。初めて聞いた時は一企業が戦争するのかと文化の違いを感じたが、企業間で摩擦が生じた場合は戦争に発展するのが世の常らしい。

 しかも帝国法では企業間の戦争が禁じられていない。なんならルールを守って正しくやりましょうとお触れまで出している。

 もちろんやり過ぎた場合には帝国軍が出張って来るらしいが、余程のことがない限り帝国軍が間に入ることはない。帝国も自分たちの権益に直接関わるなら兎も角、民間の小競り合い程度にしゃしゃり出るほど暇じゃない。ルールを守って勝手にしろというスタンスを貫いている。


 この間の開発計画で一緒に戦ったセクレトや他企業の警備部門は、だいたいが企業間戦争に備えて立ち上げられた部門だ。宙賊にヴォイド、果てには同業者との戦争準備。この宇宙にある企業は武力を持っていないと商売も儘ならない。平和って何だろうな? そう思う心も無くなって日が経つが、それもそれで何だか虚しい。


「マリー、どっちかがオルフェオンでの顧客の一つ?」


「流石リーさん、相変わらず冴えてんな。

 デカい加工機械が10台ほどあったやろ? あれはブラックメタル鉱業連行に卸す商品や。加工機械なんかはゼノンシス製の方が精度がええからな、商業連合からの依頼で運ぶことになってん。前金ももろたで~」


 余程支払いが良かったのかホクホク顔のハイデマリー。そんなハイデマリーに水を差す様に、アレンとエレンが困った顔を浮かべながら振り返って来た。


「ハイデマリー氏、前金を貰う仕事はもう嫌だと言っていませんでしたか?」


「嵌められた挙句、後金を払うはずの相手を宇宙の塵にして大損しましたよね」


「あーアレか。あの一件は本当に働き損だったな。儂も久しぶりの鉄火場で火傷負ったし」


「裏切り騙し討ちは世の常だけど、あんな目に遭うのはちょっとごめんかな~」


 振り返った双子も、アンドーとエリーも苦い顔をしている。俺がラビット商会に入る前に何があったのかは知らないが、前払いの仕事はそれだけ裏があるってことなんだろう。


 と言うことは、今回もかぁ……。


「しゃあないやん! ウチらの口座は火の車! 働かなければ生き残れない!」


「マリーのメイン口座でしょ? ボクいっぱいクレジット残ってるもん」


「俺も」


「私も」


「お黙り! 傭兵なのに口座が潤っとる方がオカシイんやからな! 普通は機体や船の運用費で火の車なんやからな!」


 普通じゃなくてすまない。この間のヴォイド討伐報酬で口座が見たこと無い桁まで膨れ上がっていて本当に申し訳ない。


『皆様のご懸念通り、ブラックメタル鉱業連合からは依頼を受けた感謝と共に再三の注意喚起が出ています。

 ブラックメタル鉱業連合としては既に戦争は終わっている認識だそうで、相手からの攻撃が止まない現状に辟易しているのだとか』


「ちなみにどっちが勝ったんだ?」


『ブラックメタル鉱業連合ですが、戦後処理は6:4です。ほぼ引き分けですね』


「帝国の調停は?」


『完了していますね』


「じゃあ攻撃するのルール違反じゃん! 帝国軍は何やってんのさ!」


『オプシディアン・ハーベスターズ側は新たな戦争として申し出ており、帝国はそれを受理したようです』


 泥沼じゃないか。不完全燃焼で終わったか、結果が気に食わなかったか。6:4なんて曖昧な結果だ、負けてないと主張する輩も多いだろう。一度戦争が終わったのに再度仕掛けるくらいだから、余程腹に据えかねているはずだ。


『記録によると最近は小競り合いしか起きていないようですが、2社はまだ企業間戦争の真っ只中。互いに戦力を蓄えている段階だと思われます。そんな場所に工業用の加工機械を持ち込もうとしているのですから、当然オプシディアン・ハーベスターズ側からの妨害があると思うべきでしょう』


「つまり同業(傭兵)との戦闘もあるってことか」


 戦力を失って再度の戦争だ、雇われた連中が必ずいる。ちょっかいを出して来るのなら企業の警備部門だろうが傭兵だろうが関係ない、等しく宇宙の塵にしてやるぜ。ラビット商会を守るのが俺の仕事だからな。


「でもこのメンツなら巻き込まれても何の問題もないでしょ。マリーも本格参戦するつもりもないんでしょ?」


「当たり前やん、巻き込まれても何もええこと無いわ。売るもん売ったらすたこらさっさでオーパーツ散策に出かけるつもりや」


「じゃあ何も問題ないね。

 あ、そうだ。オッキーにリタも、売られた喧嘩は全部買おうね。絶対に逃がしちゃダメだよ?」


「妙にやる気じゃないか。何かあるのか?」


「戦争で雇われてる傭兵ってね、賞金首に登録されてることが多いんだよ。企業が邪魔だと思う傭兵を登録して、優先的に狙う対象を絞るのが目的だね」


 なるほど、確かに面倒な奴は数に任せて押し潰すのが一番良い。大多数に狙われる方が面倒なのは身に染みて理解している。


「それで? 俺らもその賞金首を狩ってたら賞金首にされるってオチは要らないからな」


「話は最後まで聞く!

 賞金が懸かけられるのは傭兵にとって一種のステータスなんだよ? だってエース扱いされてるわけだし、生き残れば次の仕事も声掛けられやすくなるんだよね。

 それに戦争に登録されてない傭兵が賞金首を襲うのはダメってルールで決まってるんだ。破ったらギルドから除名、袋叩きにされちゃうよ。だから向かってくる連中は積極的に狩ろうね!」


「へー……襲われたのを追っ払うだけで戦争に加担したとか難癖付けられた挙句、賞金首になる姿が思い浮かぶのは俺だけか?」


 戦争に登録とやらはするつもりはないが、その辺は結構あやふやだったりしないか? オプシディアン某が俺たちをブラックメタル側の傭兵だと思ったら賞金首になるんじゃないのか?


「だーかーら、拍が付いてイイって言ってるじゃん。戦争に加担してない同業からは絶対に狙われないし、戦争が終わった後に残るのは懸賞金の大きさっていう名声くらいだよ?

 それに懸賞金なんてレッドギルドから懸けられてるし、今更一つや二つ増えたところで何も問題ないよ。ほら見てよこれ」


「レッドギルドって宙賊のことだろ? どれどれ……って、これ宙賊御用達のダークウェブじゃないか」


 エリーが見せて来た端末には、エリーの顔写真と共に200万クレジットの懸賞金が懸けらている画像が映されていた。

 成程、宙賊を狩るとあっち側の連中からも積極的に狙われるようになるのか。こうなってくるとどっちが狩る側なのか分からないが……これはこれでイイな。サンドバッグがクレジット抱えて走って来るとかちょっと羨ましい。俺にも賞金懸かってないかな。


「へへん、凄いだろ!」


「ドアホ、何わろてんねん。レッドギルド相手にしたって何もええことあらへんのやさかい、あんま心配かけやんでや」


「いいじゃん別に。それに傭兵ギルドで調べたら経歴くらい追えるけど、こっち(ゼノンシス=コア)じゃともかくオッキーですらオルフェオンじゃ無名なんだし。

 レッドギルドでも企業でもいいけどさ、舐めてくる連中をいちいち相手にするなら懸賞金付けて(格の違い)追っ払った方が絶対にイイって!」


 確かにな。ハイデマリーもどちらかに加担するつもりはないだろうけど、巻き込まれる可能性は非常に高い。

 エリーの言う通り銀河系が違うと情報の精度も大きく落ちるから、俺がメリダ星系でエースだったことを知らない連中ばかりだろう。俺より弱い奴に舐められるのも癪だし、一発かましてやった方が今後のためか。


「私も賛成。命を狙ってくる相手に情けを掛けるつもりはない。

 誰に手を出したか分からせた方が後が楽だし、分からないなら理解できるまで繰り返すだけ。その方がオルフェオンでも仕事がやりやすくなる。全部潰してクレジットにしよう」


 好戦的な笑みを浮かべるエリーとリタ。後は俺か?


「いいぜ。機体にお揃いのパーソナルマーク(ヴォーパルバニー)も付けたことだし、派手にやろう」


 勿論賛成だ。


「いやん、ウチの子が好戦的で頼もしい」


 お前がその首領だってこともお忘れなく。


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― 新着の感想 ―
揃って首狩り兎呼ばわりされるんかな(・ω・`)
なお、賞金かけられるのはマリーもセットになってそう(笑) こう企業間でアレコレ小競り合いやってる世界なら、某アセンが自由なロボゲーみたいに、人類の天敵エンドみたいなやり過ぎたオキタん√とかもあったり!…
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