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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
策謀の企業間直接戦争
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67_出港準備


 オルフェオン銀河系へ向かう当日。進宙前のラビットⅡが保管されているセクレト造船の機密ドッグには、出港準備に追われるラビットクルーと関係者たちが集まっていた。船が保管されている低重力区域で貨物リフトを動かしているのは、機密ドッグの存在を知っており、セクレト造船と縁の深い港湾労働者組合の組合員と、ラビットⅡの建造に関わった関係者だ。


「組合の皆さんは小さいのが奥、でっかいのが手前になるように順番に搬入したってや。エリー、小物は重量棚に並べて固定しっかりな」


『りょうかーい』


「アレンとエレンは届いた商品と帳簿に差異がないか確認。商品数多いからな、確実に頼むで」


『今の所は問題ないよ、ハイデマリー氏』


「リーさん、武器弾薬搬入作業どうや? 予定通りに終わるか?」


『シズの子機がフォローに入ってくれてるから大丈夫。注文と届いた数にも誤差なかったよ』


「オッケー! シズ、引き続き皆のフォロー頼むで」


『はい、ミス・ハイデマリー。並列作業に何も問題ありません』


 ハイデマリーが陣頭指揮を執り、ラビットの面々はそれぞれに割り当てられた仕事をこなす。そうやって数日掛けて集めた物資の搬入作業は順調に進められていく。


セカンドラビット(ラビットⅡ)の後部格納庫は前より格段に広いでな。ゼノンシス=コアは特産品がないから仕入れが考えるんが面倒やったわ。向こう着いたらジャンジャン売るでぇ!」


 無線機を通してそう言うハイデマリーは仕入れの品が決まるまでの間、毎日タブレットと睨めっこしながらそうぼやいていた。

 ネットワークに接続したシズがオルフェオンの需要予測をシミュレーションしてくれるからまだマシだと言っていたが、前よりも大きくなった格納庫を埋めるために頭を悩ませているようだった。

 その甲斐もあり、今回の遠征に向けてゼノンシス=コアでしか手に入り辛い多種多様な物を仕入れている。

 大きいものなら工作機械からレアな車を数台、小さい物なら金属加工品や調度品まで。他にも傭兵向けに仕入れたTSF/VSFの修理部品やパーツ。バレンシア星系の貴族向けに販売されている冷凍処理された自然食品や酒類。果てには子供には見せられない映像を記録したデータチップなどなど。商業連合を通して依頼を受けた物から、個人・業者問わず直接輸送依頼を受けたものまで様々だ。

 

 そんな物品の搬入作業を眺めているのは、ついさっき強襲コンテナ艦へ機体の搬入作業を終えた俺とアンドーだ。


「改めて見るとやっぱ大きくなったよな。前が250mで今回は400m級だろ? 駆逐艦よりちょっとデカい輸送艦を個人で持つのはそういないんじゃないか?」


 デカデカとウサギのロゴが入った船体は以前よりもかなり大きく見える。


「輸送艦じゃなくて強襲揚陸艦な。間違えたらアリアドネがすっ飛んで来て修正させられるぞ」


「セクレト造船の新規格、ラビット級強襲揚陸艦だったか? アリアドネも私情入ってるなぁ。冠名が入った1番艦を個人貿易商に渡すなんて聞いたことがないぞ」


「それだけセクレト造船側にも今回の建造に思う所があったんだろうさ。ハードは社長、ソフトは社長の義理の妹が担当すると言われて文句を付けられる奴はそもそも関われておらんだろう」


「それもそうか。それにしても二人とも天才肌だからなぁ、選抜された連中でもついて行くのに必死だったんじゃないか?」


 ハーフリングが頭脳に秀でているとはいえ、あの二人は別格だろう。しかも方向性が違う天才だ、あんなの囲まれたら”頑張ります”以外言えないだろう。それすら言えなくなったら戦力外、せっかくの選抜チームから外されるのは、技術屋からしたら屈辱以外の何物でもないはずだ。


「実際そうだったらしいぞ? 艦の制御系統はハイデマリーが既存の物をベースに組み替えたそうだが、血眼になって説明攻めにあったとか何とか。お陰で納期直前にはデスマーチ上等な環境でな、限界を超えたとかで一度帰って来た時は体臭がキツイのなんの。シズが風呂に叩きこんでおったわ」


「うげ……別の意味で修羅場だったんだな」


「それだけの苦労があったからセクレト造船側もハイデマリーへ義理立てを決めたんだろうよ。

 それを抜きにしてもアリアドネはハイデマリーを溺愛しておるからな、これくらいのことは普通にやるだろうさ」


「ああ、それは簡単に想像できる」


 俺とリタが開発計画に行った後に色んな事があったんだなと改めて感じる。

 そんな紆余曲折があって出来たであろう艦のデザインを決めるにあたって、箱座りウサギをイメージしたらしい。

 艦の作り方は意外と簡単だ。コックピットやハブモジュールの組み合わせて艦内区画を作り、その周りに装甲板にもなる外郭パーツで覆い、船全体のデザインを決める。モジュールを組み合わせるだけで作れるから建造自体はそれほど時間は掛からないらしいが、企業ごとに特色が違うからこだわる人には組み合わせを考えるだけでかなり時間を食うらしい。


 そんなラビットⅡだが、まだ艦内に入ることを禁止されている。ハイデマリーはみんな一緒に出港前に入ろうと言っていたが、どうも目が泳いでいた。何か隠しいるのは確信したが、隠し通せるものでもないからその時が楽しみではある。


 と言う訳で、まだ外観しか確認できないラビットⅡの前方には艦の胴体を挟み込むように強襲コンテナ艦が二つ、戦闘時は胴体へ収納可能なブリッジが配置されている。

 以前のラビットはコンテナ艦がウサギ耳の役割をしていたが、今回はブリッジの外郭に意匠として耳っぽい通信アンテナが取り付けられている程度だ。これだと座ったウサギというか、ぐでっと伸びたウサギな気もするが……


「艦首側に大型2連装ビーム砲が1門、強襲コンテナに取り付けられたのも含めれば合計3門の正面火力か。まるで軍艦だ」


「ミサイル発射管は艦の胴体上下に全40基、近接自動レーザータレットが16基。駆逐艦より気持ち大きいサイズだが、ENG出力の差から火力・シールド出力は大幅に上回っておるな」


「極めつけはあの特装砲だ。詳細を聞いた時は冗談だと思ったよ」


「儂もだ」


 重粒子圧縮砲verセクレト6.0もとい特装砲アリアドネ。第二艦隊旗艦のブルーローズをはじめ、帝国軍正規艦隊旗艦が搭載している超重力子圧縮放射砲と同性能のSPECを隠した超兵器。シズ曰く、テンションの上がったハイデマリーとアリアドネがやっちまった結果らしい。

 よく帝国軍に建造を中止させられなかったなと思ったが、止められないために機密ドッグまで使っていたと言うのだからもう目も当てられない。


「げに恐ろしきはハイデマリー一家ってな。おっと、噂をすればだ。アリアドネ社長のお出ましだぞ」


 アリアドネは重力区画に続くタラップから飛び降り、陣頭指揮を執っているハイデマリーの横に降り立った。また一悶着あるかもしれないと観察していたが、隣り合って顔を合わせない二人。何やら話込んでいるようだが、アリアドネがハイデマリーの頭を撫でていた。ハイデマリーはされるがままで、喧嘩するほど仲が良いのはこの義理姉妹にも当てはまるようだった。


「話は変わるがオキタよう、お前さんリタと何かあっただろ?」


 ギギギっと油の切れた機械のような動きで隣を見と、アンドーがニヤニヤと笑いながら卑猥なハンドサインを送って来た。


「ヤッたのか?」


「……ああ、そうだよ。悪いか?」


 否定してもバレてるだろうから白状した。スケベ親父の顔面が更に鬱陶しくなってきたので視線を外して彷徨わせていると、何時ものタンクトップにスカジャンを羽織ったリタと視線が合った。控えめに手を振られたのでハンドサインを返しておくと、ふわりと微笑返してくれた。


「見せつけてくれるねぇ」


「うっせ」


 このスケベ親父、そんな俺の姿も面白がっている。わざわざ肩が当たりそうな距離まで近づいて来た。


「誰も悪いとは言っておらんだろ。むしろ、お前さんにもちゃんと玉が付いてることが分かって安心した所だ」


「どんな目で見られてたんだよ俺は。やる時はやる男だぞ」


「そいつは解釈違いってやつだな。パイロットやってる時は兎も角、女関係は追い込まれないと一歩を踏み出せない男だろう?」


「好き勝手言いやがって……この際だから全部ぶちまけるけど、その場にクレアもいたからな」


 ぶっきらぼうに言うと、隣から息を呑む音が聞こえて来た。ちらっとアンドーの顔を覗き込んでみると、ポカンと口を開けた間抜け面を晒していた。


「オイオイオイ、そいつは聞いてないぞ。大丈夫なんだろうな? その、囲まれたりとか」


「終わった後でマズイって思ったけど、大丈夫だったのには理由があるんだよ」


 正面切って言うのも憚れる内容なので、ちょいちょいと耳を寄せるように呼び寄せ、小声で返り討ちにしてやったと囁いた。


「――――こいつはたまげた! お前さんこそ真の男だ!

 ところで、何がどうなったらそんな状況になるんだ?」


「俺にも分からない……色々あったんだよ」


 オーバーなリアクションで飛びのいたアンドーに曖昧な答えしか返せないが、本当にどうしてこうなったのか分からない。兎に角ヴォイドを相手にするよりも手ごわい、人生で一番濃い一日だった。


「そうか……まあなんだ、こんな仕事を続ける限り何時くたばってもおかしくないからな。自由に生きるのが一番だと思うぞ。

 だからお前さんに文句言うつもりはないんだが……エリーの奴はどうするつもりだ? お前さんが一番付き合い長いのはアイツだろう?」


「……どうかな。でもアイツ、未だに俺のことを叩けば動くおもちゃ程度にしか見てないと思うぞ。俺がこんなこと言ったって聞かれたら怒るだろうけど、アイツはたぶん、自分で自分のことが分かってないんじゃないか?」


 俺に引っ付くのも誰構わず威嚇するのも、やることなすことが恥ずかしさの裏返しなら分かる。でもエリーのやつが、本気で何も考えてないんじゃないかと思う時も多々ある。何時だったか双子が『エリーが自分の気持ちに向き合えたら考えてやって欲しい』と言っていたのも、あながち間違ってないんじゃないかと思う。


「それにエリーも双子も、最近何か隠してる気がするんだよな。アンドーは何か気付かないか?」


 ΑΩの話が出て以降、エルフ3人組が少し余所余所しい。アレンとエレンは表面上からはもう読み取れないが、エリーは今でも目で見て分かるほどだ。時々観察されているみたいな視線を向けられると流石に俺でも気付く。


「儂もあいつ等との関係ももう長くなるが、お互い踏み込まない一線ってのは守って来たからな。それほど詳しいことはよく分からんのだ」


「じゃあ秘密は分からないままか。……なあアンドー、秘密ついでにひとつ聞いていいか?」


「面白い話を聞かせて貰った後だ、何でも聞けい」


「ラビットに入る前は陸戦隊にでもいたのか? 銃の扱いも巧いのに、この間の射撃訓練でスコアを抑えてただろ」


 そう聞くと、驚いたような顔を見せてくれた。


「こいつは本当に驚いたな。どうして分かった?」


「軍に居たときに陸戦隊から射撃訓練を受けたことがあったんだよ。それで、アンドーの構え方がどっかで見覚えあるなぁと思って。思い出したのはガンショップに行った時だ。隠してたんなら悪い」


「そういう訳でもないんだがな。確かに儂はハイデマリーに雇われる前まではパワードスーツを着てブイブイ言わせていた。辞めた理由は……まあなんだ、銃持って走り回るより、機械弄ってる方が性に合ってただけってことで頼む」


「オーライ、これ以上は聞かない」


 人の人生に歴史あり、なんて言葉がある。俺だって自分のことを話せない以上、これ以上何かを聞くのはフェアじゃない。


「コラァそこの二人! くっちゃべってないでこっち来て手伝わんかい!!」


 アリアドネと談笑していたハイデマリーにサボっている所を見つかってしまった。ドスの効いたがなり声を発する彼女の姿に苦笑し合い、俺たちはよっこらせと地面を蹴った。


20250622 商業ギルド → 商業連合に修正

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― 新着の感想 ―
これだけの感想と言うか、疑問だけで申し訳ないけれども、返り討ちにしてなかったらオキタんここに居なかったッテコト?囲まれるって…。
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