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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
着任、ラビット商会
7/90

07_対宙賊殲滅戦_挿絵有

240121挿絵追加。宇宙明るすぎんか

241010段落修正

 

 艦橋でのブリーフィングを終え、残された時間で十分な休息をとった。

 今回は傭兵ギルドの依頼のため、輸送艦ラビットとハイデマリー達は出撃しない。

 コロニーで俺とエリーの安全を祈ると笑って送り出してくれた。

 エリーと出撃前の最終確認としてコールサインや作戦の確認をし、ラビットに取り付けられている外部コンテナへ移動した頃には、アンドーが機体の最終調整を終えて待ってくれていた。


「言われた通りスラスターの設定を極端に弄っておいた。

 正気とは思えんが、扱えるんだろな?」


「当然。それより、エリーの方へ行かなくてもいいのか?」


「お前さんはラビットに来てから初めての出撃だろう。

 そんな奴を一人にしてみろ、エリーの奴に何されるか分からん」


「そんな殊勝な奴かね。じゃ、行ってくる」


「気張れよ、若者」


 ハイタッチで別れて外部コンテナに乗り込む。

 艦の耳にあたる部分として搭載されている外部コンテナ……正確には強襲用コンテナと言って差し支えないだろう。

 TSFないしはVSF1機を収容でき、単独での超光速ドライブも可能な「コンテナ艦」がこれからは俺の母艦だ。

 一人で使うには少しばかり大きな強襲用コンテナのコックピットに座り、主電源を入れたところでラビットのクルー達とエリーから通信が入った。


『ラビット1、エリーだよ。セイバーリング用意良し』


「ラビット2、オキタ。アウトランダー問題ない、いつでも行ける」


「ラビットホーム了解。

 コロニー宇宙港から発進許可を確認、コンテナとラビットの締結解除。

 二人とも、気を付けるんだよ』


「おう」『もちろん!』


 少しの振動と共にコンテナと艦の接続が外され、オートで宇宙港を進んでいく。

 コロニーと宇宙の境界になる淡いシールドを超えた頃から、眼前には漆黒と星の宇宙が広がっていく。


『ドッキング行くよー』


「ラビット1からのドッキングセンサー、認識した。

 強襲用コンテナのドッキングまで3,2,1……ドッキング完了」


 コンテナとラビットが接続されていた部分がコンテナ同士で接続され、コの字型の双胴艦状態へ移行する。この状態になればドッキングは完了だ。


『チェッキングプログラム……オールグリーン。

 強襲コンテナの完全同期を確認。

 オッケー、帝国艦隊からのビーコンも確認したよ!』


 外部モニターの視覚範囲を広げると、周囲には傭兵のコンテナ艦が幾つも待機していた。

 同じ依頼を受けた傭兵仲間だが、軍に居た頃とは違い、顔も知らない連中との合同作戦と思うと一抹の不安が過る。

 幸運なのは、能天気なエルフが隣で飛ぶことくらいか。


『こちらは帝国軍外縁派遣艦隊旗艦インダストリーである。

 艦隊はこれより再集結を行い、超光速ドライブによるワープを開始する。

 なお、ワープ後は艦隊斉射まで無線通信を封鎖。

 各自所定のポイントにて待機、合図を待て』


 傭兵稼業の第一歩に感じた不安を飲み込む間もなく、艦隊は光よりも早く姿を消した。




 ☆




 操縦桿を握る掌は少し熱く、フットペダルを置いた足には少しばかり力が入る。

 既に帝国・コロニー駐屯艦隊と傭兵部隊は既定の宙域で別れ、宙賊の根城となっている小惑星帯に隠された基地の天頂部分で各々のコンテナから発進。

 身軽な機体一つとなったところで艦隊の一斉射を待ちわびている。


 だが、通信が封鎖されているこの緊張感だけは何度経験しても慣れない。


 少しばかりの緊張を感じながらアウトランダーの隣に目をやると、エリーが乗る機体『ELF-06セイバーリング』が待機している。

 細身のシルエットに背部の特徴的なウイングスラスター。

 両手にはビームライフル、腰部にはビームサーベル発振器が1本装備されている。

 ELF-06は帝国とは別体系の技術を持つエルフが独自開発したTSFの第6世代機だ。

 帝国でいう所の第7.5世代相当と言えば、彼らの技術力がどれほど高いかが分かる。

 量が揃えられない彼らの強みは質であるため、ELFシリーズはエルフでなければ起動すらできない。

 俺も試しにコックピットに入れさせてもらったことがあるが、モニターすら付かず寂しさを覚えたものだ。


  そんな機体と肩を並べる俺の機体は、1.5世代相当の技術格差があるVSF-06Sアウトランダー。

 艦首に搭載されているビーム砲こそ貧弱だが、ミサイルと展開式の可変翼ビームブレード。

 そして現世代でも通じる機動力と、それを後押しするオプションの追加ブースターがあれば、ある程度はエリーの機体に合わせることができるだろう。


「スゥ―――……フゥ」


 一呼吸。機体情報を示すマルチ(M)インフォメーション(I)ディスプレイ(D)に表示しているカウントダウンが10を切る。

 3,2,1……幾条ものレーザーが艦隊から照射され、機雷でも撒かれていたのか小惑星帯で爆発が頻発した。

 レーザー照射が終わった所で光学カメラが小惑星に隠されていたアジト……工場のように見える基地を捉えた。

 その宇宙港と見える場所から敵機が出撃したのを見て、俺は思い切りメインスラスターのフットペダルを踏みぬいた。


「……ハハッ!」


 一切ひねりの無いWOTによる加速が周囲を置き去りにする中、俺は素直な挙動を魅せてくれた機体が楽しくなって声を上げた。

 向かってくる俺たちに気付いた数機の敵VSFが機首をこちらに向けるが、こちらは既にロックオン済みだ。

 アウトランダーがただの型落ちのVSFだと舐めてもらっては困る。

 未だ最前線で快速を活かした偵察任務をしている機体だ、天頂部からの奇襲に対応できるものならやってみろ! 直撃を確信して発砲したビームは寸分違わず敵機を貫き爆散させた。

 命中したのを確認した次の瞬間、2条のビームがアウトランダーの脇を通り抜け眼前の敵機を貫いた。

 後ろに控えていたエリーの射撃だ。


『腕が2本ある分、今日はボクが活躍させて貰うよ!』


「ぬかせ! このまま直進して戦域を中央突破、反転して反復攻撃を仕掛けるぞ!」


『砕けた惑星の破片や艦隊の砲撃に当たらないでよね!』


 既にこちらに気付いている敵機からは迎撃のビームが飛んできている。

 サブスラスターを駆使して上下左右に揺れてそれ回避し、行きがけの駄賃と言わんばかりに進路上の敵機を打ち抜いて敵機の間を2機ですり抜けていく。


「背中を見せたら追いたくなるよな? でも、相手は俺たちだけじゃないぜ!」


 遅れてきた傭兵たちが宙賊機に攻撃を開始。

 味方艦隊から出撃したTSF/VSFの混成部隊が戦域に到達するころ、俺たちは遅れながらも敵が迎撃態勢を整えつつある戦域を上から下に駆けて突破、機体を反転させて再度突撃を駆ける。


 それを繰り返すこと数度、混戦模様になりつつある戦場で打開策を模索している所に通信が入った。


『インダストリーからラビット隊へ。

 砲撃警報発令、該当宙域から離脱せよ』


「適当に撃ってくれ! 勝手に避ける!」


『それどころじゃなくなってキタってね!!』


 堂々と敵中ど真ん中を横切っているからか、上下前後左右から放たれる対空迎撃がそろそろ鬱陶しくなってきた。

 こうなってしまえば轢逃げのような戦法も通用しなくなり、通信から聞こえるエリーの声からも少し余裕がなくなってきた。

 そんな中、ふと敵基地から4隻の巡洋艦を引き連れた戦艦が出てきている姿を確認した。


「あの戦艦が旗艦か?」


『だろうね! でも、今はアレに構ってるところじゃないよ!? とりあえず味方と合流しないと!』


「何言ってんだ、もう狙われてる!」


『あわーーーーー!?』


 気の抜けた声を上げつつ掠りもしないエリーを見て、まだまだ余裕がありそうだと評価を見直す。

 敵は相当俺たちにおかんむりなようで、一度で飽き足らず艦隊から再度の統制射撃に晒されることとなった。


『どーすんのさ!? このままじゃジリ貧だよ!!』


「……囮! 突撃! 援護貰って生存!」


『ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』

挿絵(By みてみん)






「ラビット2からインダストリー。敵艦隊への砲撃支援要請!」


 敵に囲まれ、離脱が無理な時にやることは決まっている。

 軍に居た頃も何度もやってきた"囮は俺に任せろ"作戦。

 敵の圧力が一番高い所で大暴れし、混乱しているところに支援砲撃を貰う戦法だ。

 軍に居た頃の俺と共闘経験があり、自分が何に巻き込まれているのか気付いたのだろう。

 ブチ切れた声を上げるエリーがモニター通信まで繋いでキレ顔を披露してくるが、これが一番効果的なのだから仕方がない。


『こちらインダストリー、ガーデン少佐だ。

 ラビット2、こちらは敵前衛への対処により敵艦隊への射線が通っていない。

 少し時間を貰うことになるぞ』


「それでもやりますよ! やらないと俺ら死ぬからな!」


『死ぬなら一人で死んでよね!?』


『敵正面の圧力は想定より高いが、ラビット隊の陽動は幸いにも巧く嵌っている。

 艦隊の火力を前面に集中、敵前衛を突破したのち艦隊による砲撃戦を開始する』


『ボクたちが蒸発しちゃう前に急いでよね!』


 奇襲が嵌ったとはいえ、全体で見れば楽観視できない状況なのか。

 となると艦隊の援護を待つ間に敵艦数隻を俺たちで墜としておけば、一度の援護射撃でケリがつくかもしれない。


「行くぞエリー! あの戦艦を墜とす!」


『仕方ないから付き合うけどさぁ!!』


 戦艦1巡洋艦4の艦隊へ2機で吶喊。

 たった1機のVSFとTSFで何が出来るのか?

 敵も侮っているだろうが、目の前にいるのはちょっとやそっとで墜とされるような傭兵じゃないってことを教えてやろう。


「ミサイル! 全弾持ってけ!」


 搭載数の少ないミサイルを全弾発射。

 もちろんハリネズミの様な防空体制を張る艦隊には届くこともなく全弾が迎撃された。狙いはミサイルを当てることじゃない。

 爆風で僅かに空いた対空の隙間を縫うように飛ぶ。


『こんのぉおおおおお!!』


 セイバーリングがアウトランダーを追い越し、両腕のライフルでチャージされていたビームの斉射が巡洋艦のシールドを剝がしていく。


『ブッタ斬る!!』


 チャージサイクルに入ったビームライフルを投げ捨て、ビームサーベルを構えて突撃するセイバーリング。艦橋部分を真っ二つにするように斬り抜け、そのままの勢いで艦後部のメインスラスターにビームサーベルを突き立てた。


『巡洋艦一隻打ち取ったりぃぃ!? 少しくらい余韻に浸らせてよ!』


 スラスターの爆発が広がり沈みゆく巡洋艦だが、それを眺めるような余裕は俺たちにはない。

 墜とされた巡洋艦の仇と言わんばかりに艦隊から対空弾幕が張られるがもう遅い。懐に入られた艦がどれだけ柔いかを教えてやる!


「可変翼ブレードオープン!」


 ミサイルは撃ち尽くした。艦首ビーム砲は巡洋艦には効かない。

 であればどうするか? 答えは簡単。

 ビームを纏わせた翼で戦艦に突撃だ。

 アウトランダーのビーム翼と戦艦のシールドが接触し、激しい中和反応が周囲を照らす。


『バカめ! 戦艦のシールドがVSF如きに破れるものか!』


 混線しているのか、敵戦艦から聞こえてきた声にニヤリと口元を上げた。

 どうやら敵は、この機体がぶっ飛んだ加速力を持つ快速船だということを忘れているらしい。


「亜光速ブースターオン! ぶち抜けえええええええええええええ!!」


 この時のためにオプションで取り付けていた、星系間の移動にも使われる亜光速追加ブースターを全開。

 拮抗していたはずの戦艦のシールドを質量×速さで強引に突破し、戦闘機の翼で斬りかかる。

 ビームを纏った翼を船体の装甲に突き立て、艦の周りを360°螺旋状に切り込みを入れながら斬り抜けてやると、そこにはボロボロになった哀れな戦艦の姿だけが残った。


「っしゃあ!! どんなもんよ!」


『エ、ナニソレコワイ』


 とはいえタフが売りな戦艦が表面を切り裂かれた程度で沈むわけもなく。

 無事な対空砲がこちらを捉えて射撃を続けてくるが、時間稼ぎの役目は十分に果たした。


『艦隊による統制射撃を開始する。

 艦隊、照準を生き残った4隻に集中しろ。撃てー!!』


 俺とエリーが脇目も振らず撤退していくのを尻目に、帝国軍・コロニー駐屯軍による集中砲火によって残存艦も葬られ、ここに宙賊殲滅戦は終結したのであった。


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