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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
道標
69/91

66_私のヒーロー

リタ視点で話は進みます


「さっき食べたハンバーガー、値段が張るだけに旨かったよな~。チェーン店らしいけど、やっぱ素材にこだわるって宣伝してるだけのことはあったよな?」


「オルフェオンからスターゲートを使って直通で届くから冷凍処理されてないのかもね。合成食料でも冷凍処理の有無で味が変わるらしいから」


「へー、そんなもんか。流石は元お嬢様、詳しいな」


 ハンバーガーショップでお腹を満たした後、引き続き商業区を散策を再開する。

 どこにでも売ってそうな雑貨の何がそんなに珍しいのか。目に付いた物を片っ端から手に取り無邪気に笑う彼の姿は、とても帝国軍の元トップエースには見えない。どこにでもいる年相応の青年のそれだ。

 そんな彼も、ひとたび戦場に出ると戦術を盤上から引っ繰り返す可能性を秘めた凄腕パイロットに早変わり。この見た目と行動のちぐはぐさに狂わされた人間は多いだろう。彼に救われた私もその一人だ。


 そんな彼に、いったい私は何を返せるのだろう。ラビット商会に拾われて以来、私は自分に問いかけ続けている。








 彼と初めて出会った場所は、今はもう喪失した私の故郷だ。

 リターナ・ベル、今は捨てた私の本当の名前。ベル子爵家の一人娘に生まれた私は、辺境とはいえゼノンシス=コア銀河系に根を張る貴族の一員として、何不自由ない生活を送っていた。


 そんな私の生活が一変したのは、コロニーにヴォイドが侵入したその日だった。


 今思い返すと予兆はあった。どれだけ忙しくても家に帰っていた父と母が戻らなくなり、私の傍には常に誰かが控えるようになっていた。けれどあの頃の私は何も知らず、その日が来るまで幸せで平穏な時間を満喫していた。


 突如、聞いたことの無い音と共にコロニー内に警報が鳴り響く。それが何を意味するか知る由もなく、私は屋敷内のシェルターへと避難させられた。

 それから数日間。時折揺れるコロニーの振動を感じながら、私は一緒に避難出来た傍付きたちと一緒に身を隠していた。

 お父様が助けに来て下さいますからね。ぐずる私にそう言って慰めてくれた人は、ひと際大きな轟音と同時に飛んできた分厚い扉の下に消えた。


 扉を破ってきた異形の化け物。初めてヴォイドを見た私の感想がそれだった。

 私は私を逃がすために犠牲になった人たちに背を向け、ただひたすら走り続けた。普段は清閑な住宅街だった、もう廃墟になった街並みを走って、走って……屋敷から執拗に追いかけて来た1匹のヴォイドに追い詰められた私は、迫る死を前に死ぬ覚悟も戦う覚悟も持てず、ただ震えて最後を迎えるしかなかった。




 そんなときにやって来たのが、今も目の前でエリーへのお土産を選んでいるオキタだった。






「エリーの土産はシルバーアクセでいいか。リングは……そう言えばオークリーでも似たようなの買ってやったから別の方が良いか。なあリタ、女の子ってどんなのが好みなんだ?」


「さあ?」


「つれねぇなぁ、俺こういうの分からないんだよ」


 だからと言って、目の前に私がいるのに別の女の話を振る男がいるか。デートだと宣言したのにデリカシーの欠片もない。ラビットの皆をフラットに見ているからそんなことが言えるのだろうが、好意を伝えている私の前ではそういう話をして欲しくはない。


「宝石とかでいいんじゃない? 誕生石とか」


「ん~」


 少しイラっとしながらそう返すと、何やら顎に手を当てて考え始めた。


「リタなら何欲しい? 俺にプレゼント貰ったとして、何だったら嬉しい?」


 この男……人の気持ちをかき乱すだけかき乱しておいて、シレっとこういう事を言うから質が悪い。私とクレアが開発計画中に何度襲ってやろうと思ったかも知らないんだろう。”いっそのことお手付きにしましょう”と誘われた提案を受け入れれば良かったと少し後悔。

 まあ、それも後の祭りかな。とはいえ貰って嬉しい物……あまり思いつかない。物欲なんてそんなにないし。……でも、強いて言うなら。。。


「チョーカー、とか」


 言ってから気付いた。何を言っているんだ私は。


「チョーカー? あいつには似合いそうもないからパスだパス。いや、一周回って犬っぽいからいいのか? んー……無難にピアスでいいか。耳長いから映えるだろ」


 私の失言に気付くことなく、オキタはピアスを持ってレジに向かった。

 とはいえ私の意見はガン無視。相変わらず人の話を聞かない姿には溜息が出る。






 初めて会った時もそうだった。泣きじゃくる私なんてお構いなしで、無理矢理コックピットに連れ込まれた。







『そこの女の子無事か!? あ゛ーもう! 右腕おしゃかになったじゃねーか!』


 装甲板は剥がれ、コックピットがむき出しになっているTSFでヴォイドを殴り飛ばしながら現れた1機のTSF。寄生されてしまった右腕を強制的に外し、左手に持ったチェーンガンで敵を仕留める姿は物語に出てくるヒーローと重なって見えた。


『どこか痛いとこないか? ないな? 良し! 敵が集まる前にここから逃げるぞ! コックピットから落ちないようにちゃんと掴まってろよ!!』


 助けられた後、私は帝国軍が管理する避難所に保護されることとなった。

 貴族である私は個室を与えられたが、今思えば暴動を起こすかもしれない住人から遠ざけてくれたのだろう。宙域を統治する貴族の子供だ、ヴォイドの侵攻を防げなかった恨みは相当なものだったはずだ。

 それが身寄りを失った女の子となると、傷つける方法は幾らでも考えられる。それが現実に起こり兼ねないほど、当時のコロニー内の治安は混乱していた。


 それから数日間、私は出撃時と帰還時の人数が揃っていない人達を窓から眺め続けた。でもその視線はずっと一人だけに向けられていた。小さい背丈のレジスタンス、大人に混じって戦い続ける私のヒーロー。

 彼に助けられた人は日に日に増えていった。私だけのヒーローは、気付いた時には皆のヒーローになっていた。









「ピアス買って来た。案外値が張ったけど、まあクレジットには余裕あるし許容範囲だろ」


「クレアから成功報酬貰ったからね。ヴォイドの撃墜数に合わせて臨時収入も入ったし、今の私達は少しお金持ちかな」


「ハイデマリーが指咥えて見て来たもんな。そうだ、何か甘い物でも買ってってやろうぜ」


「ならこの先に美味しいシュークリームのお店がある。折角だから食べていこう」


「お、いいね。しょっぱい物食べたからか甘いものが欲しかったところなんだよな」


 








 結局オキタと話せたのは数回しかなかった。お互い遠くにいる姿を見つけた時に手を振りあう程度で、そのたびに彼は頭をはたかれていた。彼はレジスタンスで私は貴族、生きるか死ぬかの環境でも明確な身分の違いが邪魔をしていた。

 まともに、とは言っても挨拶程度の話が出来たのはコロニーを脱出する日になってからだった。あの頃から操縦技術がおかしかった彼は脱出作戦の先陣を任されていて、出撃の準備をしている隙間に運よく声を掛けることが出来た。


『あの! 助けてくれてありがとう!』


『あ? 何だ忙しいのに……って、あー! あの時の青髪! なんだよお前何処の建物にいたんだよ! どこにもいねーから心配してたんだぞ?』


『軍の人に連れられて、えっと、、、』


『あー……分かった、とりあえず無事で良かった。助けたのに死んでました~何て言われたら、片腕失ってぶん殴られた俺のたん瘤に申し訳が立たねーからな』


『おいガキ! 出撃準備整ってんのか! くっちゃべってないで機体の確認しろ!』


『ち、うっせ……わりーな、俺行くわ。えーっと?』


『り、リタ! わたしリタ!』


『おう、リタ。おれはオキタだ。安心しとけ、俺がお前らを守ってやるからな!』


 助かったら今度はちゃんと話せるかな。そう思っていた私は共和国に連れていかれ、再会出来たのは惑星オークリーでのΑΩ争奪時だった。

 再会した時の私は共和国軍人、彼は帝国側の傭兵として敵対関係だった。オークリーに向かってくる商船名簿に名前があった時はまさかと思ったけど、実際に会ってみればすぐ分かった。










「なあ、本当にこの店で合ってるのか?」


「このお店で合ってる」


「カップルだらけじゃねーか」


「そういうお店だから気にしたら負け。入るのが嫌ならテラス席」


 テラス席には”私たちは熱々のカップルなんです!” と見せつける男女。私はテラス席でも一向にかまわない。むしろどんどん見せつけるべき。


「テラス席って、アレを衆人環視の前でやるのか……?」


「私はうぇるかむ。どんとこい」


 ひとつのグラス、♥のストロー。衆人環視の前でラヴ注入してそうな甘々ドリンクを飲む度胸があるならテラス席でも構わないと伝えるが、本当は恥ずかしさで心臓がどきどきしている。

 二人でストローを加えている光景が、普段はシャットアウトしているはずのB.M.Iを通して脳内に流れ込んできた。むせそうになるのをグッと我慢して隣を見ると、オキタの頬が少し朱く染まっている。

 なるほど、この手で行けばいいのか。今日も一つ勉強になったが、この朴念仁には押して推して押し倒す勢いじゃないと勝負にならない。今ばかりは表情の変わり辛い自分に感謝だ。


「嫌なら中に入る?」


「すぐ入ろう。こんなとこ誰かに見られたら恥ずかしくて死ねるわ」


「みんなエスペランサコロニーだから見られることはないよ」


「クレアとか居そうじゃん。甘党だし」


「それは……」


 カップルのお店に一人で来るお嬢様とか可哀そうで泣ける。でもお忍びとか言って甘未廻りやってそうなのも想像できる。あの子は機嫌悪くなると甘未に逃げる所あるから。


「いらっしゃいませ、カップルのお二人様ですか?」


「はい。カップルです」「違います」


「彼は恥ずかしがり屋で」「違います」


「あはは、彼氏さん恥ずかしがらなくていいですよ。私バイトですけど、だいたい恥ずかしがってるのは彼氏さんの方って分かってますから。ではご注文をどうぞ」


「だから違うって言ってるんですが……?」


「オキタうるさい。私はシュークリームとミルクレープをひとつずつ。飲物はホットコーヒーをブラックで。ほら、オキタは?」


「……シュークリームひとつとアイスティーで」


「畏まりました。番号札を持って空いている席にどうぞ」


「ありがとう」


 番号札を貰って席を探す。テラス席にまで人がいるから混んでいるのかと思いきや、お店の中はそれ程混んでいない。つまり、テラスにいる人たちは自分で見せつけに行ったと。あれが無敵の人か? なんて呟きが隣から聞こえて来た。どうやらオキタも私と同じ結論に達したようだった。

 空いている壁際の席を見つけ、オキタと向かい合って座る。お店の空気に充てられているのか少し居心地の悪そうな顔を浮かべているのが少し面白い。せっかくだからもう少し虐めてみよう。


「私達カップルに見えるんだって」


「こんな場所に進んで来る連中はそうだろうよ」


「じゃあ私達もそうだね」


「……降参だ、もう好きにしてくれ」


 むぅ、もう少し弄れるかと思ったのに早々と降伏してきた。少しげんなりした様子に少しやり過ぎた気もするけど、普段ヤキモキさせられている分いい気味だと思っておこう。


「――――――ねえ、聞いてもいい?」


「んー? どうしたよ、急にあらたまって」


「どうして私を助けてくれたの?」


 目が合わないように視線を下げて口にする。何となく魔が差したから聞いた、と言う訳ではない。何時かはちゃんと聞くつもりだった。今ここで聞いたのは、今の隙だらけなオキタになら聞いても大丈夫だろうというズルい私の打算だ。


「報酬も勲章も全部捨てて、それでも私が欲しいって。オキタがそう決めたって皆から聞いた」


 オークリーで堕とされた時、私の惨めな人生は漸く終わりを迎えると思っていた。身体を弄って、苦しい訓練にも耐えて、私を助けてくれた人に会いたい一心で生きてきたのに、そんな自分を墜としのたはずっと会いたかったその人だった。

 あまりにも救いがない人生。でも、もうどうでもいいや。牢屋に入れられた時は全部諦めていたのに、そんな私を救ってくれたのもまた、あの時に見たヒーローだった。


「何で助けたかってお前、そんなもん俺が悔しかったからに決まってるだろ」


 少し目線を上げると、頬杖をついたふてぶてしい顔が目に入った。


「悔しかったんだよ。せっかくコロニー防衛戦で助かったのに、何かの間違いで死なれるのを放っておけるほど俺は人でなしじゃない。それだけだ。言っとくけど、俺はお前じゃなくても助けたぞ。勘違いすんなよ」


「……そ、そうだよね、変なこと聞いてごめんね」


 そう、そうなんだ。そうだよね、私は別に特別じゃない。オキタは皆を見ている。だから皆を助けようとする。彼はそう言う人だから。だから泣いちゃいけないんだ。


「でも!」


 大きな声にビクッと身体が震える。


()()助けたのがお前で良かったと、思う。まあ、なんだ……ほんのちょっとの間だったけど、俺ら友達だったろ。助けない選択肢とか、そんなもんあるかよ。そもそも守るって約束したの俺だし……。

 だから他意は無いからな、変な勘違いするんじゃねえぞ。……ったく、何泣きながら笑ってんだよ。俺が泣かしたみたいじゃねーか」


 ぶっきらぼうに、突き放すようにそう言われた。でもそれは温かい感情の裏返しだった。B.M.Iを通して伝わってくる。沢山の色がオキタから送られて来る。親愛、友情、愛情までも。恥ずかしさの裏に隠れた想いが私の心を満たしていく。

 もうだめだ、気持ちが溢れてくる。涙が止まらない。好きな気持ちが止められなくなる。人の気持ちを勝手にかき乱すだけかき乱す朴念仁。もう許してやらない。一生許してやるものか。


「お花摘んでくる」


「お、おう……ごゆっくり」


 びくびくしているオキタをよそに、私は個室で端末を取り出す。つい最近追加された友人の名前をタップ。数秒のコールのあと、目的の人は電話に出てくれた。


『はい、私ですわ。如何致しましたか?』


「今日一室予約」


『―――――いいでしょう、セントレアを展望できる一室を押さえます。あちらへの連絡は?』


「お願い」


『仕方ありませんわね、承りました。……リターナ様』


「なに?」


『良き一日を』


「……ありがとう」


『いえ、では後ほど』


「うん――――えっ?」


 スイーツを満喫してお店を出た後、私とオキタは1日デートを再開した。その間オキタは余所余所しい雰囲気だったけど、勘付いて居たのかいなかったのか。たぶん私を泣かせた方を気にしてたんだとは思う。

 だから帰ってから渡すつもりだと言っていたチョーカーをその場で付けてくれて、夕食は前にも行ったことのあるクレアが営業する高級レストランに行って……そこから先に何があったかを詳しく言うつもりは無い。

 でも勝ったのはオキタで、負けたのは私だった。一言で言うならオキタはヤクザだった。途中参加の邪魔者が入ってきたけど、それもまた私の思い出として閉まっておく。


リタの過去と現在を書いているので場面が飛び飛び、試験的に書いてみましたが読み辛かったら申し訳ありません。


あと最後の方、詳しく書くのは野暮なのでこんな形にしました。これで良かったのかはこの小説が終わるまで悩むことにします。

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― 新着の感想 ―
ヘタレはやっぱりヘタレだったわ、オキタん、おま…(・ω・`) まぁリタたんはもう一生離さないゾ …最後のこれはいつか同じシチュエーションで、途中参加者が増えるフラグ…!(只の妄想なのであしからずー(…
オキタんそっちのΑΩにも手だしちゃったかー。 お留守番してる子が焦って襲うのか、それとも脳が焼かれて曇るのか、実は早まっちゃったんじゃ? そしてなにも知らないアンドーがよかれと思って良いお店に誘って…
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