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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
道標
63/91

60_インターミッション


 ホテル・バレンシアのスイートルーム。政府高官や企業役員が個人的なパーティで好んで使う広々としたし空間にラビット商会の関係者……などと、最早そんな一言では済ませられない有力者たちが集まっている。

 帝国三大企業の一つ、セクレトからは次期総帥候補のクレア、セクレト造船社長アリアドネ、グラナダ研のフランクリン技師とその孫Jr。

 その他にも老練翁伯爵、グラスレー侯爵夫人と有力貴族が揃っている。


『では僭越ながら、サポートAIである私がこの場を仕切らせて頂きます』


 各々好きな場所に座り―――俺の隣には当然と言わんばかりにエリーが踏ん反り返っているが、リラックスできる状態になった所でシズが話始める。


『まずはミセス・グラスレー。順番に話を進めたいのですが、そうすると貴女様のお話が最後になってしまいます。お忙しい身だとは思いますが、其方で進めてよろしいでしょうか?』


「好きにしな、婆も時間だけはあるからね。黙って話を聞かせて貰うさ」


 見た目は70代半ばくらいだろうか。重ねた年齢に似合う落ち着いた雰囲気を纏う壮年の女性。グラスレー侯爵夫人と言えば、世間に疎い俺でも家名だけは聞いたことがある帝国四大貴族の一角だ。

 たしか帝都バレンシア星系を含む銀河系とは別の銀河系、帝国支配領域である5つの銀河系の一つを任されている大貴族で、聞いた話だと無類の考古物収集マニアだったはず。

 ここにいるのはハイデマリーと個人的な繋がりがあるためとのことだが、後で話をしてくれる以上今は触らない方が良いだろう。

 目を閉じて聞く態勢に入ったグラスレー侯爵に頷き、シズは仕切り直して俺とリタに視線をやった。


『まずミスター・オキタとミス・リターナが参加した帝国軍次期主力TSF選定計画、通称再誕計画についてですが、こちらは開発計画の完了が関係者にアナウンスされています。

 帝国軍次期主力TSFには東雲技研が開発した試作第11世代”アルカナ”が内定、生産ラインが急ピッチで立ち上げられているとのことです』


「尖がった製品が多い東雲技研にしては纏まりのある機体だったぞ。総合力はそれなりってところか。それだけに器用貧乏感は溢れてたけど、リタはどう思った?」


「悪くはないけど物足りない、良くも悪くも万人向けって感じ」


『画一的な戦力としては申し分ない。しかしセクレトが開発したデスペラード、ヴェルニス・パイロットラインと比較すると性能差があると言わざるを得ない。

 そのような記述が軍のレポートにありました。御二人が言う通りのことを軍関係者も感じているようですね』


「シズさぁ、今更驚かないけどナチュラルに不正アクセスしたって言うなよ。軍関係者だっているんだからな」


 伯爵が何か言うかとおっかなびっくり視線を向けるが、面白いとでも言う様に髭を撫でているだけだった。ああそうでしたね、あなた有能だったら何でもイイって部類の人でしたね。


「あの2機はお爺ちゃん(フランクリン技師)とJrの傑作機。乗り手を選ぶ機体だけど、それだけにスペックはかなりの物。宙賊相手なら何機来ようが相手にならないし、たぶん正規軍が相手でも同じこと。突出した個を相手にしない限り負ける気がしない。採用できないのが勿体ないってメルセデスが悔しがってたくらい」


「お嬢ちゃん専用にチューニングした甲斐があったようで何よりじゃ。もっとも、共和国製VTSFの完成度があってのことじゃが」


「助かってる。次の換装装備も待ってる」


「任せい、グラナダ研はお嬢ちゃんを退屈させんぞ」


 ヴェルニス・パイロットライン、正直乗ってみたい所ではある。加速性と高火力ビームを使った一撃離脱戦法は前に乗ってたアウトランダーを思い出すし、人型に変形して中距離での打ち合いまで出来るのは魅力的だ。惜しいのは、俺がB.M.I強化手術を受けてないせいで機体性能を引き出せないってところか。


 とはいえ、俺のデスペラードも負けてはいない。領域殲滅機のコンセプトからして化け物を作る気満々だったんだろうし、機体特性をワンオフ化してもらってからはそれが顕著だった。

 これでも初期案だと量産性を考えて作ったという話だが、俺が乗る頃には乗り手を選ぶ化け物推力持ちの爆装兵器だった。俺専用にフィッティングが終わった後は、適当に機体を左右に振ってトリガー引くだけで試作第11世代との模擬戦も勝ててたし、ヴォイドと戦ってる時も無双ゲーやってる感じだった。


「デスペラードだって負けていませんよ。3機の大型ENGを搭載し、莫大なエネルギーから生み出されるグラビティシールドは防御面で圧倒的な性能を誇ります。武装も各種実弾兵装を選択可能、予備武装と弾倉を携行できるバックパックユニットを背負わせることで継戦能力も格段に上がりました」


「けどJr、お前俺に黙って勝手にΑΩを載せただろ」


 フランクリンの爺さんが得意気に言っているのが鼻についたのか、デスペラードの説明を始めたJr。それに被せるように文句を言うと、罰の悪そうな顔をしてこちらに向けて来た。


「クレア専務の命令があったからです。黙っておくようにとも。私は貴方に伝えるべきだと進言しましたよ」


「それは言ってないのと同じだって。クレアも戦闘の一歩手前には教えてくれたけどさ……もうあんな騙し討ちみたいなのは辞めてくれよな。整備員に勝手に機体弄られて死ぬとか、恥ずかしくてあの世に行けねーよ」


「え、ナニソレ。ボクそんな話聞いてなかったんだけど!」


「すいません、その説は大変ご迷惑を……」


「別にもう怒ってない、そのお陰で助かったのも事実だし。

 おいエリー、エリー! ステイ! 座れって! ……ったく!」


 弾けるように立ち上がったエリーの腕を捕まえて引っ張る。

 出鼻を挫かれたエリーがバランスを崩したのをいいことに、そのまま引きずり込んで膝の上でがっちりと拘束してやった。こいつ手が早いからな、クレアに危害を加えられても困る。

 それにしても、こうやってエリーを抱え込むのも4カ月ぶりになるのか。

 ちっこいのは相変わらずだが、触れた感触からちょっとずつデカくなっている気がする。モニターでの会話じゃ分からなかったが、こいつも成長してるんだな……などと考えていると、生暖かい視線を向けられていることに気が付いた。


「なんだよ」


「ええで、ええんやで。どうぞそのまま続けとき」


 ニマニマと笑うハイデマリー。何なんだと思っていると、伯爵までもが深い溜息を吐いていた。


「軍に居た頃と全く変わっとらんではないか。少しは進展したかと思っておったが、これでは先が思いやられる」


「伯爵殿もそう思われますか? 二人は少々ピュアな所があるようでして」


「少しでもヤラしい雰囲気になってくれれば、保護者としても安心出来るのですがね」


「う、うるさいやい! ボクだってやる時はやるんだぞ!」


「おい暴れんな!」


 足と手をバタバタして暴れる小柄な身体をグイっと。ちょっとは肉付きが良くなってきた腰を後ろから掴んで固定すれば、途端にしおらしくなるエリーの出来上がりだ。

 後ろからは朱に染まった長い耳が見える。意識しない意識しない、尻や腰の感触に思った以上に成長し始めてるなんて意識したらこんな事はもうできなくなる。だから意識してはダメだ。こうでもしないとジッとしないガキの扱いなんて早々変えられるはずがなかろうて。


「オキタ」


「何だよリタ」


「ファッ◎ュー」


「いきなり酷いな?」


「何で私にはしてくれないのにエリーにはやるの?」


「お前は色々とダメだろ」


「何で?」


 そりゃあお前色々と不味いだろ、と思いながら肉付きのいい部分に視線をやるとリタは意味深に笑った。


「オキタ様」


「クレア?」


「真面目な話をしているのです。そちらのエルフのお子さんは膝から降ろしたらどうですか?」


「―――あ、はい。エリー降りてくれ。俺まだ生きてたい」


「ヤだ」


 クレアの顔面にセクハラ野郎をぶっ殺すと書いてあった。マジでころころすると書いてあった。あんなのに逆らえる奴は居ない。だから降りてくれエリー嫌とか言うなよ、あ、コラ辞めろケツを腹目掛けてねじ込んで来るんじゃないそこ俺も敏感……ほらぁ! クレアの目が笑ってないじゃないか! 美人に蔑んだ目で見られると心にヒビが入るんだよ、開いちゃイケない扉が開きそうになるだろうが。


『ミスター・甲斐性なしは放っておいて話を戻します。

 試作機に搭載されていたΑΩですが、デスペラードに搭載されたΑΩだけ回収されていないと聞きました。ミス・クレア、本当ですか?』


「本当です。評議会でも回収と現状維持で意見が分かれていたようですが、現状維持で決着が付きました」


「そうなん? 貴重な物やし、回収するもんやと思っとったけど」


「正確には”回収出来なかった”が正しいのです。Jr、映像を」


「は。皆さん、こちらをご覧ください」


 Jrが空間に投影した映像には、コックピットブロックがむき出しになったデスペラードの姿があった。コックピットブロックをぐるっと覆うように付けられている青色の金属板、映像には注釈としてΑΩ合金と記載がある。

 映像に映っている整備士がΑΩを取り外そうと締結ネジを外し、青色の金属板をコックピットブロックから外した所でソレは起こった。


「はぁ?」

「ほぅ」

「うげ、呪いの装備かよ」


 整備士が手に持っていたはずの金属板は、取り外していた締結ネジごと”時間が撒き戻されたかのように”コックピットブロック外周に取り付けられていた。


「はっはっは! こりゃあ愉快なことじゃないか!」


 現実味の無い映像に絶句していた所、これまで黙って話を聞いていたグラスレー伯爵夫人が大声を挙げながら笑い始めた。


「老練翁、お前さんがそこの坊やを逃がしてでも隠したかった理由はよ~く分かったよ。成程、確かにこの婆に助けを求めるのが一番さね」


「グラスレー侯爵?」


「おめでただよ、坊や。アンタは適合者だったってわけだ」

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