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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
59/91

56_エピローグ上


 ―――帝都バレンシア星系 コロニーエスペランサ 帝国情報局本部



 帝国軍次期主力TSF選定計画、通称リィンカーネーション計画から1カ月後。

 事後処理も全て終わり、久方ぶりに纏まった時間が確保できたグローリー大佐は自身のオフィスで趣味である紅茶を楽しんでいた。


 グラナダ星系方軍面軍外縁部守備隊所属戦艦カスケード艦長グローリー大佐……というのは、数ヶ月前に情報局によって用意された仮の身分。その正体は帝国軍参謀本部直轄の諜報機関、ブラックオプスを専門とする帝国情報局の将校である。


 ラビット商会が惑星オークリーでのΑΩ防衛戦に勝利した直後、グローリー大佐は帝国中央評議会からの指令を受け指揮下の艦隊と共にグラナダ星系へ進出。大佐に下された司令は、後ほど組み上げられるΑΩ搭載TSFの戦力評価であった。

 数ヶ月に及ぶ計画終盤の裏で、グローリー大佐旗下の艦隊は間引き作戦によって多数のヴォイドを誘引、リィンカーネーション計画の実戦評価試験の場を整えることに成功する。その後の実戦評価では評議会が求めるデータの収集を行い、グローリー大佐の長きに渡る外縁部での任務は終了したのだった。



「グローリー大佐、レポートを読ませて頂きありがとうございます」


「満足してくれたかい? 私のティータイムを邪魔する程度には気になっていたのだろう。聞くところによると、君もオークリーでのΑΩ強奪事件に関わっていたそうじゃないか、ガーデン()()。ああ、そう言えば昇進祝いをまだ送れていなかったね」


 そんなグローリー大佐のオフィスには、彼の同僚でもあり、老練翁伯爵と帝国中央評議会の指令で以前からオキタの動向を探っていたガーデン中佐の姿があった。


「いえ、お気遣いなく。レポートのコピーを頂いても?」


「構わないが、この後直ぐにでも情報局のデータベースにも載る内容なのだがね。後で幾らでも読めるだろうに、せっかちな奴だな君も」


「出処がハッキリしている情報が欲しいので。昨今は情報局のデータベースすらアテになりませんが、大佐がこの手の仕事で虚偽を記載することはないと確信していますから」


「それが私の仕事だからね。しかしレポートの改竄とは嘆かわしい、仮にも情報を操る部署のデータベースの筈なのだがね。優秀な人員が配置されていることを喜ぶべきか嘆くべきか……」


「それぞれが派閥に所属している以上、必要以上の情報は毒にしかなりませんから」


 情報局のデータベースには膨大な情報が収められている。その情報の質と種類は多岐に渡り、中には帝国上層部や企業役員の不都合な情報まで存在している。

 その誰かにとっての不都合な情報が隠蔽・改竄される傾向にあるのは、情報局の人間にとって周知の事実だった。その下手人が同じ情報局の人間であることも含めて。

 ガーデン中佐はそうやって歪曲された情報を掴まされることを嫌ったため、こうして休暇中のグローリー大佐のオフィスまで足を運んでいるのだった。残念ながら、そうしなければならないのが今の帝国情報局の現状である。


「中央評議会はΑΩの情報を公開するつもりのですか? アングラな情報サイトでは既に情報が流れており、確度の高い情報には賞金も賭けられていますが」


「公開はしない。ΑΩは御伽噺の世界にしか存在しない金属だし、グラナダ星系で起きたヴォイドの本格侵攻は帝国軍と近衛軍の奮戦によって退けられた。それが全てであり、私が提出するレポート上でもいずれそうなる。ようは放っておけってことだよ」


「企業にはなんと? 少なくない被害を受けている以上、彼らも黙ってはいないでしょう」


「ヴォイドの大群を前に生まれた恐怖心によって不幸にも集団幻覚を見た―――見たことにされた彼らには、いつも通り多額のクレジットを握らせたさ。これで黙らないなら処理するしかない。まあ、それも何時も通りのことだよ」


「それも評議会の命令ですか?」


「そうだ。いま君とこうして話していることも、結構リスクあるんだよ?」


 同僚でさえ処理対象になり得る。分かっているだろう? そう目配せをするグローリーに、ガーデン中佐も視線を落として応える。


「存じています。ですが、私も正確な情報は知っておきたいので」


「情報を降ろせない以上、情報局と関わりの薄い貴族連からの圧力は強まるだろう。そのための窓口が君と言う訳か。やれやれ、おちおち紅茶を楽しむ時間すら与えて貰えないとは困ったものだ」


「貴族連との信頼関係を水面下で築くために必要な経費、と思えば安い物でしょう」


「おいおい、その言い草はないだろう。その信頼関係に私は含まれていないし、いい思いをするの君だけじゃないか。私だって貴族連御用達のレストランで自然食のフルコースを味わってみたいものだよ」


「では宗旨替えなされますか? 歓迎しますよ」


「いいや、遠慮しておく。私みたいな日和見主義者は中道を歩いているのが一番気楽なんでね」


「ええ、私もそう思います。では大佐、ご休憩の所失礼しました」


「老練翁伯爵によろしく言っておいてくれたまえ」


「はい、大佐も評議会のお歴々に惑わされぬようお気を付けください」


 ガーデン中佐がオフィスを退室するのを見送った後、すっかり無くなってしまった紅茶のお代わりを作るため、グローリーは電気ポットでお湯を沸かすために立ち上がる。

 その手の中には、先程ガーデン中佐が見ていたレポートから既に削除された項目が記載された電子データが握られてあった。


「彼には悪いことをしたね。提出前なのは間違いないが、一次検閲済みなのを伝え忘れていたよ」


 意図的に隠した情報は純白の要塞について。初期のレポートでは要塞についても記載があったが、提出前にとある筋から事前に報告を読みたいとの話があり、見せた後で記載内容を変更するよう指示を受けていた。

 曰く、将来的には大事だが現時点では些事である、とのことらしい。

 報告は仕事、給料分くらいは業務に忠実であることを信条としているグローリーには受け入れがたい指示であったが、決して逆らってはいけない場所からの命令であれば彼も受け入れざるを得なかった。


「狸、入るぞ」


「はぁ……そろそろ来る頃だと思っていましたよ、メルセデス三席」


 怒り心頭という表情を隠しもしない近衛軍第三席メルセデス・フォン・ノヴリスの来訪に、グローリーは本日何度目になるか分からない溜息を吐くのだった。


エピローグ上と銘打っていますが、中・下で終わるような気がしないです

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