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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
58/91

55_初遭遇の幕開け


 ―――アスチュート医務室


 艦隊がヴォイドの包囲網突破しようとしている最中、クレアは意識を失ったリタをアスチュートの医務室へと運び込んでいた。


「ナプキンはどちらに? リターナ様の汗を拭いて差し上げたいのですが……ああ、構いませんわ。私がやりますのでお前はそこで蹲っておきなさい」


「も、申し訳ございません……」


「多量の発汗に消えない顔の紋様、B.M.Iが暴走しているとでも言うのですか? パイロットスーツを脱がしますわ。女同士ですもの、恨み言は聞きません」


 アスチュートの医務官はΑΩが齎した悪夢から正気を取り戻してはいるが、未だ使い物にならないと判断したクレアは自らリタを介抱するため、慣れない様子でリタのパイロットスーツを脱がし、その素肌を外気に晒す。


「……話には聞いていましたが」


 素肌の汗を拭こうとしたクレアの動きが止まる。クレアの目に映ったのは汗ばんだリタの肢体と、B.M.I施術を受けた者だけが発現する魔法陣のような白い紋様の数々だった。

 B.M.Iの使用中のみ身体に浮き上がる模様は、人体改造を受けた分だけその数を増していく。では、地肌の方が少ないリタはどれ程の手術を受けて来たのか。

 クレアは第二艦隊司令官のクラウンから聞かされたことを思い出していた。

 記憶にもまだ新しい、帝国支配領域における一つの銀河系においてコロニー失陥という大事件が起きたこと。なんとか生き延びたは良いものの、避難の最中に共和国に連れ去られたこと。その後の共和国で生きるためにB.M.I強化施術を受けたという話だ。

 だとしても、だとしてもだ。目の前のこれはダメだろう。こんなのもは自分より少し年下の女の子が受けて良い所業じゃない。自身が帝国人の中で特に恵まれた環境にいると自覚していながらも、クレアはそう思わずにはいられなかった。


「クレ、ア……?」


「意識が戻りましたか?」


「戦況は……?」


「今は休んでください。大丈夫です、オキタ様がきっと何とかして下さりますわ」


「オキタ……駄目、駄目だ! オキタを逃がして! 早く!」


 未だ意識がハッキリとしない状態のリタを宥めるようにクレアは言うが、リタはクレアの腕を掴みながら叫んだ。


「痛っ、リターナ様、どうか落ち着いて!」


「オキタの存在を捕捉される!!」






   ◇






「何だアレ……」


 突如として現れたそれは純白の要塞だった。

 最大望遠で共有されるまでも無い、遠く離れた場所からでも視認出来るほど巨大で純白の要塞が、無数の純白の艦隊を率いて突如この宙域にワープアウトしてきた。


「メルセデス、アイツら見たことあるか?」


『――――――』


「 ……メルセデス三席? マジかよ、この状況で通信が死んだ? 冗談キツイって」


 色々な回線を試すがどこにも繋がらない、全ての通信が不通になっている。データリンクも死んでいるようで、艦隊から送られる敵情報も更新がされない。幸いにもヴォイドも一切の動きを止めているからいいものの、この状態で攻撃されたら一溜りもない。


「っ動いた! けどこの動き、俺たちを無視しているのか?」


 要塞が現れて以降一切の動きを止めていたヴォイドは反転、俺たちを無視して要塞に向かって行く。

 要塞は奴らの基地なのか? そう思い追撃を悩むが、ヴォイドは要塞に対して攻撃的な挙動を見せている。次の瞬間には純白の要塞に向かってヴォイド群からの攻撃が開始された。


「仲間じゃないのか……あの要塞、本当に何だ?」


 ここからだと詳細は分からないが、ヴォイドの攻撃を受けても要塞は反撃一つしていないようだ。それどころかヴォイドの攻撃が効いているようにも見えない。要塞のシールドに弾かれているのだろうか、レーザーやビームはおろか、ミサイルでさえ要塞表面に衝突した際に見える淡い光に阻まれているようだった。


『オキタ中尉、聞こえるか?』


「メルセデス? 通信が復活したのか?」


『接触回線だ、こちらも有線以外の通信手段が失われている』


「そっちもか。それよりもアレ何だ? 見たことは?」


『私にも分からんが、大規模同期ワープのチャンスであることに間違いない。ブランデンブルクには先程光通信で撤退命令を出した。今頃は全艦に通達されているだろう』


 機体後方の映像でも、こちらの艦隊には目もくれずに要塞へ向かって行くヴォイドの姿が目に入った。至近距離にいる艦すら襲わない姿は、これまで戦ってきたヴォイドでは見たことも聞いたことも無い挙動だ。


「釈然としないな……何なんだアイツら」


『生き残れるチャンスを得た、今はそれでいいだろう。見ろ、生き残った部隊が帰艦し始めている。貴殿も急げよ』


「メルセデスは戻らないのか?」


『私は最後まで観測する責務がある。この異常事態を皇帝陛下に届けなければならない』


「なら俺も残る。急にこっちを襲ってくる可能性もまだあるからな」


 そうは言ってみたが、今も無視されているだけにその可能性は無いだろう。

 それよりもあの純白の要塞だ。今の所何も動きは無いが、一体どこの誰で何をしに来たのか。何故ヴォイドが俺たちを無視して襲い掛かっているのか。

 全てが謎の存在に包まれた存在なだけに少しでも情報が欲しい。そう思い機体カメラを最大望遠にして観測していると、要塞から何かが出て来たのが見えた。


「っ! 何だ!?」


『オキタ中尉? どうした中尉! 戻ってこい!!』


「なんだ!? 機体が勝手に動いて、止まらない!?」


 メルセデスのエスパーダを振り払い、静止していたデスペラードが意志に反し加速を始めていく。機体を止めようと操作を入力しても止まらず、ぐんぐんとヴォイドを追い抜いて加速していく。機体のインフォメーションディスプレイには既存のOSを書き換え中と文字の羅列が奔る。


 Singularity Pulse AIpha‐OMEGA Transmutation "system CUDA" activate


「何かヤバそう……! おい待て待て! 兵装が勝手に起動してるぞ!?」


 純白の要塞からすぐ近くの地点でデスペラードが静止、ヴォイド艦隊に向け俺の意志とは無関係に機体の右脇からスフォルツァートが連結されて構えられる。


『撃って』


「は―――? 何時からそこにいた!?」


 機体のすぐ真横に現れたのは、要塞と同じく純白の装甲を持つTSFだった。どこか共和国のVTSFを思わせるシルエットの機体だが、それにしてはかなり装甲を厚く着込んでいる。こんな目立つ色の機体を俺が見逃した? あり得ない、カメレオンみたいに宇宙に溶け込んでいたとでも言うのか。


「しかもレーダーに反応が無い? はは、わかんね」


『撃って』


「お前は誰だ? 俺の機体を操ってるのはお前か?」


『役割を果たして』


「あの要塞は何だ? お前らは敵なのか?」


『必要なのは純粋な意志で引き金を引くことだけ』


「会話って知ってるか?」


『撃たないなら死んで』


「は? ―――っ、おい!ヴォイドがこっちに侵攻方向変えて来たぞ!?」


『撃って』


 その場を離れようとフットペダルを踏みこむが、機体は相変わらず俺の言うことを聞かない。どういう訳か機体は圧縮陽電子砲の発射態勢で固定されているみたいで、この状況を抜けるには撃つしかない。


「ああもう糞ったれ! そこまで言うなら撃ってやる! 撃てばいいんだろ!! 死んだら化けて出てやるからな!」


 ここまで来たらもうヤケクソだ。


『必要なのは純粋な意志で引き金を引くことだけ』


「純粋な意志――――――」


 俺が今持てる純粋な意志と言えば、目の前のヴォイドを全て消し飛ばすただそれだけだ。この世界で目が覚めてから、事あるごとに辛酸を嘗めさせられ続けて来たクソッタレ共。

 そんな奴らを全て消し飛ばす、ただそれだけを強く考えて意識をトリガーに集中する。深く、深く、心の底からひたすらに思う。こいつらを絶滅させるだけの力が欲しい、そのためにトリガーを引くのだと。コックピットが淡く発光している気がするが、それすら気にならない程一撃に自身の全てを込めるようにして―――


「引き金を、引く!!」


 発射の反動に機体が軋む。青白く光る圧縮された砲弾は周囲のヴォイドを巻き込みながら群体の中央まで進み……


「……マジかっ、2度目は言い訳効かねぇかも……けど、何か掴んだぞ…!」


 全てを無に還した。そこに現れたのはいつぞやの光景。

 宇宙に大穴が空いた状態……言い換えるなら、完全な無だった。


以下、独り言です。


3章は本話を持って終幕です。プロローグと同じ終わり方ですが、主人公が専用の機体を得て、漸くスタートラインに立てたと言う所になります。

次話ではエピローグで補完可能な内容を展開予定です。主に各陣営の考えと狙い、次章以降への展望になると思います。


3章までに帝国・近衛・辺境・企業・貴族・ヴォイド・共和国・ΑΩと今後の話を膨らませるネタを出してきました。メインストーリーではこれらを下地に新規要素を追加、既存の要素を明文化してライトSFチックなテーマで書きたいと思っています。

更新頻度は下がるかもですが、気力続く限りは書いて行きます。最近は妄想するだけで満足してしまうので。


ここまでの反省点としては、宇宙の広さを全く表現出来ていない部分です。文明レベルを言語化出来ていないというか、私自身どの程度までで抑えるべきか迷っていた結果が現状です。これも4章以降で表現出来ていければなと猛省しておきます。

ここまで諸々書きましたが一つだけ。物語の中でトンデモなジャミング数を用意出来たグローリー艦長がただの辺境軍の大佐なわけがあるまいて。


以上、長い独り言にお付き合い頂きありがとうございました。次話のエピローグ上(仮)もお読み頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
画にならないと広さとか分かんないし画にしたところで文明力次第で距離とかゴミになるわけで難しいね…設定… それでも広い宇宙でたった一機の戦術機が敵の戦略消し飛ばしてひっくり返るのはロマンなのよな… 次話…
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