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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
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54_袋小路の戦い


『オキタ中尉、連中の第一目標は我々のΑΩ搭載機だ! 時間が掛かれば掛かるだけ袋小路に追い込まれることになる、敵増援がワープアウトする前に最速で敵中央を突破するぞ! 全隊私に続け!』


「オラオラァ! 近衛三席のお通りだクソ野郎ども! そこどけぇーーーー!!」


 雄叫びを挙げるオキタのデスペラードから片腕2門、両腕計4門の20㎜ガトリングが火を噴く。背部ウェポンコンテナからベルトリンクを通して給弾される弾薬は、秒速60発という高レートで立ちはだかるヴォイドをただの鉄屑へと戻していく。


『私の前に立つ者は何であろうと斬り捨てる ―――ハァァァァァ!!』


 そのオキタの視界の端で、ひと際素早い機動でヴォイドをなます切りにしているのはメルセデス・フォン・ノヴリス三席の専用機”エスパーダ”だ。

 エスパーダは右手に片刃の剣、左手にビーム射撃が可能な砲塔を背面に取り付けた偃月刀を装備した、近接戦に重きを置いた機体構成になっている。極限まで人の動きを模倣することを目的に作られた機体のため、関節部といった可動域を阻害する箇所に装甲板は取り付けられておらず、コックピットブロック周辺を除けば内部フレームが丸見えの状態なのだが、それだけに機動性は一般TSFの比ではなかった。


『ハッハァ! まだ共和国の塵芥共の方が斬り甲斐があるな!』


(怖っわ! 本当に人が乗ってる機体、いや機械か!? 動きが武道家っていうか、もうアニメの類だろ! こちとら真面目にリアル系で頑張ってんのに、一人スーパー系とかジャンルがちげぇよ!!)


 そんな近接戦用の機体を操るメルセデスの腕前は、オキタをして常軌を逸していると感じるほど。

 対ヴォイド戦において近接戦闘は寄生される可能性が上がる非常にリスキーな戦法だが、極まった個人技だけで近衛軍の頂点まで上り詰めた女傑には関係の無い話だった。

 触手を伸ばしてくるヴォイドには、その触手を目にも止まらぬ剣戟で切り払い。ビームやレーザーといった射撃武器で牽制しながら突撃して来るヴォイドには、射撃を切り捨てながら脇を切り抜けていく。

 オキタはその姿に第2艦隊の近接狂い、もとい武家で構成された貴族部隊を思い出したが、敵を処理する”速さ”という点ではメルセデスが一枚も二枚も上手であると思い知らされた。


『さあ袋小路の一つ目、戦艦級が5隻ワープアウトしてくるぞ! オキタ中尉、どちらが先に戦艦を墜とすか勝負といこうか!』


「っ! 上等!!」


 二人の視線の先にワープアウトしてきたのは5隻の戦艦級ヴォイド。多数の小型種を抱える空母の役割も持つⅦ型を墜とすには、2人の後ろに控える艦隊火力に頼るのが対ヴォイド戦のセオリーだ。

 だがその艦隊も既にヴォイドの群体の中に突入しており、艦隊の外縁部では既に互いの艦隊が入り乱れ、敵味方が交差するように砲火を交える殴り合いに発展している。四方八方から襲い掛かるヴォイドへの対処に負われてしまっている今、正面に向けられる火力が単純に不足してしまっているのだ。

 そこへ運命の袋小路になり得る戦艦級の襲来。故に、メルセデスはこの場を速やかに突破するためエースパイロットによる戦艦級潰しを提案したのだ。


 その意図を理解したオキタはすぐさまフットペダルを踏みこんで加速。だが袋小路はこの後にも続く。それを理解しているからこそ、オキタは声を張り上げた。


「俺一人でやる! 静止4秒、小型種の相手だけ頼む!」


『はっはっは! この私に援護させるか! いいだろう、宇宙一の安全圏を作ってやる!』


 デスペラードの前に躍り出たエスパーダが迫りくる小型種を捌いていく。戦艦級や随伴する多数のヴォイドから飛んでくるビームやレーザーは、デスペラードが誇る大出力のグラビティシールドが無効化していく。


「携行武器をマウント、圧縮陽電子砲”スフォルツァート”連結開始」


 左右の背部ウェポンユニットに分割して備え付けられているデスペラードの最大火砲。連結式の砲塔が組み立てられると、一本のロングバレルが形成される。右脇から前面へと展開されたロングバレルを両手で構え、オキタは網膜投影された長距離スコープに向かい目を細める。


「エネルギー充填完了、ターゲットロック、誤差修正016 012、ぶっ飛べぇ!!」


 デスペラードが搭載する三機のメインエンジンから直接エネルギーを供給されたスフォルツァートは、圧縮した陽電子を砲弾として発射。5隻の戦艦級ヴォイドの中心で激しい光を齎しながら開放されたエネルギーの火球はそのまま戦艦級を飲み込み、光が消えた時には周辺のヴォイドごと消しとばしていた。


「強制冷却開始、次弾発射可能まで180sec!」


 ロングバレルが氷結で覆われるほどの強制冷却機構が働き、砲塔は急激に冷やされていく。それも途中のままロングバレルは連結を解除され、再びガトリングに持ち替えたオキタはひと息ついて周囲の索敵をするが、相も変わらず大量の敵反応に吐きそうになった溜息をぐっとこらえた。


『なんだオキタ中尉! ()殿()()使()()()のではないか!』


「アレは戦艦を墜とすための装備だし、これくらいはして貰わないと困るっての!」


『いや、そういう意味ではないのだが……無自覚か、それも良し』


 スフォルツァートは戦艦クラスであれば確殺できるように作られた装備だとオキタは言うが、それを聞いたメルセデスは眉をひそめる。


(まさか、本人は気付いていないのか?先の一撃はTSFが単機で出せる火力ではない。とすれば、先程の現象がΑΩによる力の増幅か? だとしても、先程のそれと今もなおオキタ中尉に集束していく”力”の源泉はいったいどこから……)


 近衛として当然のようにP.Pの素養を持ち、機体制御にも転用しているメルセデスの目には、今もどこからともなくデスペラードに集束していく力の波動がはっきりと見えていた。


(まあ良い。今日この宇宙で、決定的な何かが起こる予感がある。それはこの場所、そしてその中心にいるのがこの傭兵だ。派遣して下さった陛下には感謝しても足りん!)


 ヴィジョンの中で何度も死を意識させられているのも関わらず、メルセデスの目は爛々と輝いている。敵を切り裂き鉄屑に変える作業は慣れたものだが、彼女にとっても軍団規模のヴォイドに寡兵で戦いを挑むのは初めての事。


『敵の勢いが止まらねぇ! 畜生! やっぱ中央突破なんて無謀―――!?』


『援護を頼む! 誰か援護を!』


『助けてくれ! 奴らに群がられて、ひっ、コイツらッギャアアアアアアアアアア』


 今も通信の向こう側からは最期の声が耳に届いている。ヴィジョンにより定められていた死を覆せず散っていく仲間は自分の部下か、顔も知らない戦友か。

 その最期の声を聴きながらメルセデスは考える。この戦いが終わった時、いったいどれほどの人間が生き残っているだろうか。そしてこの戦場から生き残った者たちは、いったいどれほどの鋭い刃に鍛え上げられるのだろうかと。

 不利な戦場、瞬き一つの間に幾人もの仲間が無に還るなかメルセデスは哂う。自分の命に手が届く感覚に脳を震わせ、快楽にも似た感覚を全身を震わせて楽しむ。戦闘狂(メルセデス)は哂う。


『閣下、前方の宙域に新たな空間座標の予約が入りました。ジャミング不可、ワープアウトまで60sec』


 だが笑ってばかりではいられない。

 墜とした傍からワラワラと湧いて出てくるヴォイドの軍勢。先ほどオキタが殲滅した戦艦の穴を埋めるように、もう新たなワープアウトが空間予定していると母艦から通達が入る。


『艦隊はどうなっているか!』


『撃沈される艦が増加しております。特に企業部隊の損害甚大、艦隊外縁部の艦は集中砲火を浴びて多数撃沈されています。艦隊総数尚も減少中』


『それでも征くしかあるまい。突破までの時間は?』


『最大加速にておよそ600sec。ですが、400sec後には敵増援の主力が多数出現予定』


「ワープジャミング艦はどうなってる!? 敵増援を止めないと摺り潰されるぞ!」


『既に過半数を消失。敵増援、尚もワープアウトしてきます! 空間予約止められません!!』


「クッソ! マジでヤバくなってきたなぁ!?」


 弩級戦艦2隻は全火力を正面へ集中している。随伴艦も独自の迎撃は最小限に、撃沈覚悟で道を切り開こうとするも、増え続ける敵の防衛線を前にあと一歩が足りない。

 それでも纏まった戦闘が出来ている艦隊中央はまだマシで、艦隊外縁の船は徐々にその戦闘力を喪失していっている。


『泣き言抜かすなラビット2! 目の前に集中しろ、突入部隊は我々しかいないんだぞ!』


「んなもん分かって―――ッそっちはダメだ! 避けろ!」


『ぁっ』


 オキタとメルセデスに付いて来ていた帝国軍の一機がビームを避けきれず、短い言葉を残して爆散していった。


『中尉も三席も、いよいよ状況が極まって来ましたな』


 帝国軍の隊長機が通信を繋げるが、その彼も額に汗を浮かべながらの形相だった。今にも心が折れる、一歩間違えれば死ぬ戦場の中で辛うじて耐えている様子に、オキタは声を張り上げる。


「こんなところで死んでたまるか!! まだまだこの宇宙を生きたりねェんだよ!!」


 折れる。図らずも艦隊の中心として戦っている自分か、メルセデスが諦めてしまえば艦隊全てが折れてしまう。オキタは自身に迫る死、明確な詰みを理解しているからこそ艦隊に対して声を張り上げる。


『…っ! そんな……ワープ反応多数っ! 敵増援来ます!』


 そんなオキタの前に、無常にも敵増援の主力艦隊が行く手を阻むようにワープアウトを完了した。最期の袋小路となるのは40㎞級の弩級戦艦5隻、60km級の超弩級戦艦1隻を中心とした帝国軍1個艦隊に相当する敵艦隊。


『……馬鹿な、早すぎる』


「ΑΩが未来を見せるなら、それを手に入れたヴォイドも俺たちの動きを見越して動けるってことかよ―――クソ…!」


 呆気にとられるメルセデスの呟きに、オキタは可能性の一つとして考えていた言葉を漏らした。

 ヴォイドは何でも寄生し、寄生した物は何でも利用する。それは取り込まれたΑΩも例外ではないのだろう。詰まる所、ここまで未来を読んで行動していたつもりが、実は互いに同条件で戦っていたに過ぎないのだと気付いた。


 そして今にも敵艦隊からの総攻撃が始まろうとしたところで、ヴォイドはその動きの一切を停止させた。


「なんだ、止まった……?」


『待って下さい! またワープ反応が―――ヴォイド艦隊の更に後方です! 最大望遠で共有します!』


 アスチュートの管制官から送られてきた映像を網膜投影で見る。そこにはオキタはおろか、この場にいる誰もが見たことの無い艦隊と、巨大な構造物があった。


「見たことの無い艦隊と……要塞?」


 ヴォイド艦隊の攻撃が始まる寸前、ソレは突如としてこの宇宙へやって来た。






『見つけた』


『……』


次回で3章は終了予定です。その後はエピローグを2話か3話繋げて…その後はどうするか考えます

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