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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
54/91

51_不可解な感覚

お久しぶりです。そうです、私がリハビリ中の大根です


 デスペラードの火力を全面に集中させる。ミサイルが、ライフル弾が密集し群体と化した小型ヴォイドを削り取っていく。後詰めのヴェルニスが放つビームがその傷口を広げていくと、耐えかねたのか密集していた群体はバラバラと、ある程度の群衆に分かれてこちらへ突っ込んでくる。

 その一つ一つ、視覚外の敵の動きすらも手に取るように分かる。

 敵の攻撃が、次に何が起こるか予測出来ている、ではない。

 敵の火線も、その挙動も()()()。敵がどう動くか、リタがどう動くか。自分がどう動けば効率よく敵を撃墜できるか、何となくそれが分かってしまう。


(まるで未来から示された軌跡を辿っているような……この気持ち悪い感覚、どこかで)


「そこだろ?」


 右腕のアサルトライフルを何もない空間に向けて発砲すれば、吸い込まれるようにそこへ移動して来たヴォイドに直撃する。

 気持ちが悪い。まるで決められたレールの上を走らされているような感じに背中がざわつく。


『α1、天頂方向から敵機』


「分かってる」


 左手に持ったショットガンを放つと、至近距離で喰らったⅢ型が蜂の巣になる。

 これもだ、これも、あれも、さっきも、今も。リタの声が届く前に危険が迫っていることは分かっていた。

 俯瞰している、とでも言うのだろうか。コックピットに座っているのに戦場とは別の所から見ているような。

 怖気がする。

 直ぐ近くではリタが同じように機体を躍らせている。リタも同じように何もない空間へとビームを置いている。ヴォイドの群れは面白いように置かれたビームの奔流に吸い込まれていく。

 視界に軌跡が映る。怖気がする。

 殺人的な加速も、面制圧の弾幕も、特筆すべきデスペラードの機体性能は今の俺を構成する一つの要素に過ぎない。自分が想像する最低限の動きで、最大限の戦果を。

 ああ、()()()()()()

 今なら何でもできると思える万能感―――そう、この感覚は初めてじゃない。

 この機体に乗るようになってから感じるようになった妙な感覚は、リタとの模擬戦を繰り返している間にも強くなっていた。

 けど、それよりも前だ。もっと前から、俺はこの感覚を知っている。

 そうだ、この感覚は伯爵の―――


『宙域の敵殲滅を確認。オキタ、平気?』


「……え? あ、ああ、もう終わったのか。大丈夫だ、疲れてもない」


『……やっぱり、オキタはその機体に乗り始めてからどこかおかしい。さっきも戦場だってのに心ここにあらずって感じだった』


「そうだな……でも、それはお前もじゃないのか? B.M.I-Linkなんて奥の手、こんな序盤から使う必要なんてないだろ」


 おかしいのはお互い様だろうと、話を逸らすように問いかける。通信モニターに映るリタの顔には白い模様が浮かんでいた。

 身体への負荷がどれほどのモノなのか想像も付かないが、傷つくようなことをして欲しくなかった。ましてや、ヴォイドは取りついた相手に寄生する。機体と一体になった時に取りつかれた場合のリスクは計り知れない。


『私のコレはやむを得ない処置。気付いてないようだから言うけど、そうでもしないと付いて行けないほど今のオキタは極まってる。今のオキタ相手じゃ、たぶん本気になったエリーでも置いて行かれる。普通じゃないよ』


「そこまでか……? 確かに、何時もより冴えてる自覚はあったが」


 苦々しく言うリタに驚きながらそう返すと、頷きが返って来る。


『その感覚の原因は分かる? 出撃前に言ってくれなかった事と繋がる?』


「いや、正直分からないんだ。俺にP.Pの素質はないらしいから」


『何で唐突にP.Pの話を……待って、それってまさか、そんな! アレを積んでるの!?』


 狼狽える姿を見せるリタに、今度は俺が頷き返した。


『ああ、もう、最悪。よりにもよってΑΩ搭載機をオキタに渡すなんて。あの時でさえ宇宙の一部が一時的とはいえ消失したのに。どれだけ積んでるかは分かる?』


「コックピットブロックを囲うようにぐるっと。総量は不明だ」


『不味い……共和国の解析だと、老練翁伯爵の機体に搭載されていたのは主機を構成する部品の極僅か。たったそれだけのΑΩで一帯に急激なエントロピー増加現象が起きたことくらい帝国だって承知しているはず。帝国中央は一体何を考えているの? そもそも事態を深刻に捉えていない? あり得ない話じゃない、中央の連中なら辺境の崩壊よりも目に映る力を欲するだろうし』


 ぶつぶつと呟くリタの発言には色々と物騒な単語が含まれている。

 急激なエントロピー増加現象? が何を意味するのか俺には理解できないが、あの時に目の前で消失現象……コロニーサイズのヴォイドを含む群体をマルっと消し飛ばしたことは覚えている。

 それでも俺は、クレアにP.Pが搭載されていると聞いた時には”確立されてない技術を使うのは止めてくれ”程度の認識しかなかった。使うつもりも無いし、使えないのであれば害はないだろうと。


「とにかく、今はそんなこと言ってる場合じゃない。もう全員気付いているだろうが、今相手にしているのは中規模群体を遥かに超えてる。早く別の宙域の応援に行かないと」


『待って、違和感はそれだけじゃないの。

 オキタ、もしかして予測線が見えてる?』


「予測線? 白い軌跡みたいなのは見えてるが、それのことか?」


 さっきから視界に映る線、それをモニター越しに指でなぞる。


『それで合ってる。その軌跡は、私がこの状態になって初めて知覚できるようになる未来の予測線なの。

 幾つも示される予測線を私の脳と機体のCPUで処理して、一番可能性の高い軌跡を視界に表示するのだけど』


「だけど?」


『予測だから、いくら確率が高くても外れることはある。

 でも今回は違う。全部予測線が示す通りだった。まるで確定した未来を見せられているような、言ってしまえば未来の先取り。やっぱり、お互いの感覚が共有されているんだね』


「それがΑΩの力なのか?」


『分からない、判断するには要素が少なすぎる。

 でも、ΑΩが齎すのは感覚の共有だけじゃないのはハッキリしている。そうじゃないと、ううん、だとしてもあんな未来予知、いくら私でも簡単に出来る芸当じゃない』


「珍しく言葉に詰まるじゃないか。勿体ぶらずに教えてくれ」


『力を増幅? させる機能がある。作用範囲は分からない。けど外部から私の力が底上げされたような感覚……あれは、B.M.Iを通してオキタから感じられたモノだった。B.M.Iを通して流れ込んで来た感覚に、私は吞み込まれそうになったの』


「吞まれそうになった感覚? ……万能感、とかか?」


『……たぶん、それに近いかな。何でも出来る、なんて柄でもないことを思うくらいには。

 オキタにも私の感覚が流れ込んでるから予測線が見えたんだと思う。

 今もオキタから流れて来てるよ、特大の奴がね。

 これまでもオキタから放たれる気配は十分強かったけど、それでもヒトの範疇に納まるものだった。

 けど今は、自分の感覚を疑いたくなるほど”集束していく”のを感じる。正直、少し怖い』


 気まずそうに言うリタに何を返せばいいのか、俺は言葉に詰まった。

 俺は馬鹿だから、リタが話した内容の半分も理解できていない。エントロピー? とか増幅だとか、感覚の共有なんて言われてもピンと来ない。かみ砕いて説明してくれるシズも此処には居ない。

 ただ、このまま此処で話しをし続けても何の意味も無いことは分かる。

 だったら今は戦いに集中するべきだ。難しい話は生き残ってから考えればいい。この力がヴォイド殲滅に使えるのであれば、それを使いこなしてしまえばいいだけなのだから。


「一度補給に戻ろう。戦況も悪化してるし、撤退も視野に入ってるだろ」


『……分かった、今は戦いに集中する』


 感覚の共有ってのは厄介だな、どうも気を遣わせてるのが分かってしまう。




   ◇




”デスペラード、ヴェルニス・パイロットラインの帰艦シグナルを確認。補給を要請しています”


「最優先で対処しろ。後部第三ハッチ開放、整備班に通達。

 2機の収容と共に現宙域からの離脱準備に入る。……よろしいですな?」


 アスチュート艦長、ディエゴは通信モニターの先にいるグローリー艦長、メルセデス三席、そしてゼネラル・エレクトロニクスの部長級幹部に向かってそう問いかける。

 既に開戦から1時間。止まらない敵増援のワープアウトに耐え続けた帝国軍と近衛・企業連合艦隊だったが、艦隊正面戦力の1割強を喪失。被害の大半を帝国軍が請け負っているが、企業の警備部門にも損害は広がりつつある。

 尚も激しい砲撃戦が続く最中、艦隊火力の要であるアスチュートの艦橋では撤退に向けた準備が進められていた。


『えぇ、えぇ、間もなく帝国軍を除く艦隊の同期が済みます』


『もう少し早く終わらなかったものですかね? ウチの連中(駐屯艦隊)が何とか耐えてるとは言え、あなた方の損失もバカにならんでしょうに』


『各企業それぞれ独自規格を持っていますからねぇ。戦闘中に規格の違う艦の大規模同期を可能にするなんて真似、弊社の技術力が無ければもっと時間が掛かっていたはずですよぉ?』


 敵が中規模群体以上と見抜くや否や、グローリー艦長の提言に従い撤退の準備を進めていた近衛・企業連合艦隊だったが、撤退に向けてネックになっていたのが各艦がワープに必要な動力の確保、艦隊の同期だった。

 艦隊には弩級戦艦を始め小型の駆逐艦から戦艦と多様な種類の艦船がおり、それぞれの企業に所属している艦は動力にもバラつきがある。非戦闘宙域であれば必要動力のチャージを待てば済む話だが、戦闘中となればENG出力とエネルギーストレージの違いから必要動力を用意することが困難になり、無理矢理ワープを実行したところでワープ中に落伍する艦が出てしまう。

 それを可能にしたのがゼネラル・エレクトロニクスだった。

 こんなこともあろうかと準備していたシステムを各艦に配布し、戦闘中に規格違いの艦隊をワープできる手筈を整えたのだった。


「まさか艦のシステムを一部書き換えることになるとは思いませんでしたわ。この借り、いずれどこかで」


『クックック、セクレトの白雪姫にそう言われるとは光栄ですねぇ。貴女が総帥になるのを首を長くして待っていますよ』


「ワープ後の宙域には既に?」


『今頃は弊社から要請を受けた帝国軍と、ゼネラル・エレクトロニクスの主力警備部門が援軍として来る手筈となっておりますねぇ』


『加えて、私の近衛第三軍も全軍招集を掛けている。グラナダ到着後はそちらの動きと呼応してくれると信じている!』


 舞台は整った。残る問題は、どうやって離脱するか。

 強引に離脱するか? だが離脱までのエネルギー充填中はどうしても艦隊火力が下がるうえに、大規模ワープを開始するまでの数十秒は無防備を晒すことになる。そうなると小型艦のシールドはすぐさま干上がり、ワープどころでは無くなってしまうだろう。

 では無防備になる艦隊を誰が? どう守るか?

 此処にいる全員がこの場で誰かが敵を引き付ける役割が必要だということ、詰まるところ同時に撤退出来ない……まず間違いなく生きて帰れない囮役が必要になることは、この1時間の戦闘中に理解している。

 そして全員の視線はこの場を任されている指揮官、戦艦カスケード艦長のグローリー大佐に向けられた。


『では本官たちも準備しましょう。せっかくの花道なのでね、送り狼は一匹も通しませんよ』


 帝国軍駐屯艦隊、グローリー艦長は草臥れた帽子を被り直しながら何とでもないように言った。


色々と新たな単語が出てきておりますが、勘のイイ方は所謂古典を履修済みと思います。エッセンスはそれで、そこにオタク+なろう成分を追加した~と言えば聞こえは良いですが、要は私の妄想ですね。

ゴールは定めたので私の好きなように過程を書くだけです。

ここまで言えばある種のネタバレですが、まんま同じゴールにはならないです。


次回までまたお時間頂きます

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― 新着の感想 ―
久しぶりに、一気に読めるSF物に出会う事が出来ました。続きを楽しみにしています!
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