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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
53/91

50_対ヴォイド戦闘評価試験④


 近衛・企業の連合艦隊は戦場から少し離れた位置にワープアウトした。

 ワープアウトした艦隊からは続々と艦載機が発艦。既に戦闘状態に突入している帝国軍駐屯部隊を掩護するため、艦載機たちはスラスターの光を煌めかせながら突き進んでいく。


 アスチュートから発艦したオキタのデスペラード、リタのヴェルニス・パイロットラインはその最先鋒を行く。発艦時の電磁カタパルトで得た速度そのままに宇宙を往く二人の目に、帝国軍に襲い掛かっているヴォイドの群れが映った。


「凄い数。これが小規模?」


「いや、明らかに小規模群体の総数を上回っている。

 チッ、だから言わんこっちゃない。近くの中規模群体に捕まったんだろう」


 多数のヴォイドを前にリタは眉を顰めるが、オキタは経験から総数が中規模群体に近いものだと否定する。


「それで、私達はどうする? どこに加勢する?」


 ビーム、レーザーの光が行き交う戦場まであと僅かと言う所で、リタはオキタにそう問い掛けた。対人経験は元特殊部隊出身だけに多いが、対ヴォイド戦の経験ではオキタに軍配が上がる。であればスペシャリストに従うのが筋だと、リタはそう結論付けた。


「駐屯艦隊も組織的な防衛戦は出来てるな……こっちの艦隊も足並みを揃えるだろうし、あそこに入っても対空砲火の邪魔になるだけか。

 よし! 当初の予定通り、俺たちは横合いから最前線に突っ込むぞ!」


「了解」


 圧倒的な物量を前に持ち堪えている帝国軍艦隊を放置し、2機は戦場の横から最前線に突っ込んで行く。


「久しぶりだなこの野郎ーーー!!!」


「α2、Fox3」


 手あたり次第にミサイルをばら撒きながら、群体の密集宙域に突っ込む2機。

 帝国軍TSF部隊と撃ち合っていたVSF級、TSF級は横合いからミサイルの雨に晒されて爆散。機械の躯を宇宙に晒していく。


『企業の連中か!? 有難い、いいタイミングだ!』


『ヒュー! 銭ゲバ連中の癖に、最前線に突っ込んでくるたぁ肝が据わってんじゃねぇか!』


「言ってろ言ってろ、こちとら契約傭兵だっつーの!」


「ご注文はセクレトまでどうぞ」


『2機ともセクレトの新型か! そりゃあいい、噂の新型ちゃんはさぞかしイかした……おいおいおい! イカれた機体してんなぁ!?』


「良いだろ? 全身武器庫で抜群の継戦能力だ!」


 通信を繋いできた帝国軍に余裕の笑みを返すオキタ。その間にも手に持ったアサルトライフルを使って敵機を撃墜し、もう片方のショットガンで迫りくる敵機を迎撃していく。

 弾切れとなれば背部ウェポンユニットから伸びた補助アームが弾倉を交換、絶え間ない弾幕で敵機を近寄らせない。


「シールドを張ってないヴォイドは柔らかい。なるほどね、数だけ立派なのは言い得て妙」


 片やリタは両手に持ったビームマシンガンでⅠ型Ⅱ型の小型種を屠り、背部から展開されたビームキャノンでVSF/TSF級といった中型種を貫いていく。


「リタ!」


「分かった」


 二人の間に言葉はいらない。

 長年寄り添ったかのような阿吽の呼吸で宙域の中核を担っているⅥ型ヴォイド、巡洋艦クラスの大物に目を付けたオキタは、リタを伴って機体を奔らせる。


 2機の接近に気付いた巡洋艦が、迎撃のために対空機銃とミサイルを発射する。

 オキタは飛んでくるミサイルを瞬時にロック、デスペラードは背部ウェポンユニットの上部を開放。超小型高機動ミサイルが敵ミサイル迎撃のため発射され、巡洋艦が放ったそれらと衝突して宇宙に爆炎を咲かせる。


 その爆炎によって開かれた道を、高機動兵装”アルタ・モビリダ”を装備したヴェルニス・パイロットラインがVSF形態で直進していく。

 機体後部に集中配備されたスラスターの莫大なエネルギーを受け、機体はみるみる加速を始めていくが、行く手を阻むように護衛の中型種が迎撃に上がって来る。


(ヴォイドの迎撃機、流石に防衛線が厚い。ここは進路を変更して―――)


 1機2機程度なら歯牙にも掛けないが、四方から襲い掛かって来る空間に飛び込むつもりはない。

 リタが操縦桿を倒して機体の進路を変更しようとしたところで、厚かましい程スラスターの火を焚いた機体が視界に入った。


「遅い遅い!」


 追い抜いて行ったのはオキタのデスペラードだ。

 迎撃に上がって来た中型種の群れに真正面から突入、上下左右を縦横無尽に、機体に備えられている多数のスラスターを使って蜂のように飛びながら、両手に持った火器を振り回す。


 それを見たリタは慌てて操縦桿を元に戻し、後ろを気にしない僚機の後を追い掛ける。


(速っ……! あんな重い、武器庫みたいな機体なのに!

 模擬戦なんて比じゃない、この機体でも付いて行くのが精一杯なんて―――!)


 リタの目の前で踊るように飛ぶデスペラード。

 近くで見るとまるで瞬間移動かと見間違う程の機動力を前に、近づいて来るヴォイドは為す術もなく撃ち落とされていく。

 その後を数歩遅れて追随するリタはただ飛んでいるだけなのだが、それでも離されないようにするだけで精一杯な事実に唇を咬んだ。


(機体のせいじゃない、私が気付かないうちにセーフティを掛けているからだ。

 アレに追いつくには、エリーを追い越すには、私も覚悟を決めないといけない)


 今も目の前から離れていくオキタの背中を見て、リタは己が自然と取っていた安全マージンを取っ払うことを決めた。

 リタは深く息を吸い込み、頭の中のトリガーを思い切り引いた。瞬間、琥珀色だった瞳は真紅に染まり、パイロットスーツ下の地肌には白い機械文様が浮かぶ。


「置いて行かれて、たまるかっ!」


 機体を安全に運用するために設定されているリミットを開放し、危険域ぎりぎりまで出力制限を広げる。直後、機体のマルチ(M)インフォメーション(I)ディスプレイ(D)に表示される、B.M.I-Linkシステムの文字。

 共和国製の最新鋭機にのみ備え付けられたソレは、B.M.I強化手術を受けたパイロットだけが恩恵を受けられる、人を人として扱うことをやめた無法の技術。

 そして、完成されたB.M.I強化兵であるリタが受ける恩恵は一般兵のそれとは一線を画する。

 身体と機体を直接接続することによる反応速度の向上だけではない。機体に搭載されているCPUの予測と脳に埋め込まれた機器をリンクさせることにより、リタの目には未来予知に匹敵する”先の世界”の軌跡が映るようになった。


 自身と機体の機能を完全開放したリタは、それでも歯を食いしばりながら機体を操り、遂には前を行く背中に追い付いた。


「道は拓いたぞ! かましてこい!」


 護衛を斃し、迎撃を掻い潜り、決定打が届く距離に近づいた時には邪魔者はいなくなっていた。


「視えてる―――逝け」


 チャージされたビームキャノンが巡洋艦の基幹部を撃ち抜く。シールドを持ちえないⅥ型巡洋艦は誘爆を繰り返し、轟沈していった。


「「次!」」


 宙域を支配していた巡洋艦が墜とされたことによって一時的に敵の圧力は弱くなったものの、放っておけば直ぐに別のヴォイドが空いた穴を埋めてくる。

 そうはさせまいと2人は前へ前へ、戦線を押し上げるためにフットペダルを踏んで機体を加速させて行く。


 そんな2機のやり取りを遠巻きに見ていた帝国軍は、一連の出来事に頬を引き攣らせていた。


『なんっだアレ!? 狙い定めてから撃沈までが早すぎんだろ!!?』


『凄い通り越して恐怖すら感じたんだが……あんな機動見たことねー』


『いえ、前に教練動画で見ました。ただの与太話だと思ってましたが、もしかしてあれがメリダ星系の……いるんですね、宇宙にはあんなのが』


『キサマら泣き言は後にしろ! あの2機に続くぞ! ”Soy el(我らこそ) Ultimo(最後)”!!』


『『『 ”Soy el(我らこそ) Ultimo(最後)”』』』


 最前線で戦っていた帝国軍の手練れ部隊も巻き込みつつ、戦況は帝国軍不利から拮抗状態へと遷移していく。





   ◇





”企業・近衛暫定連合艦隊、帝国軍の左翼に展開します”

”各企業からも全部隊が出撃完了の模様、直掩展開しています”

”帝国軍とのデータリンク確立急げ。味方の砲撃でやられる真似だけは避けろ”


「さて、お嬢様。ここからは私の指示に従って頂きますが、よろしいですな?」


 アスチュート以下、企業・近衛の連合艦隊は拙い艦隊運動ながらも帝国軍の左翼に展開を完了した。

 であればここから先は企業の役人に出番は無く、戦う役目を負った自分たち警備部門の領域であると、セクレト級2番艦の艦長を任されている老年の男性、ディエゴは蓄えた髭を撫でながら隣に座るクレアに視線を投げ掛けた。


「ええ、ディエゴ艦長。どうぞ良しなに……ああ、あの御二人だけは確実に連れ帰ってくださいね」


「ご自身も戦場におられるのに無茶を仰る御方だ。

 しかし皆、お嬢様に拾われた命です。お嬢様の仰る言葉に異を唱える者などこの艦には居りません」


「よろしい。あと、そのお嬢様と言うのは辞めなさいと言ってるでしょう。オキタ様やリターナ様に何度も笑われているのよ」


「承知しました、クレア様。

 ―――アスチュート逆進。相対速度、帝国軍艦隊旗艦に合わせ。

 主砲副砲、砲撃開始。本艦が艦隊火力の基幹だ、我らセクレトの威を示せ」


 ディエゴの命令によって、全長40㎞からなる弩級戦艦の全火力が敵密集地帯に向けて放たれる。眩いばかりの火線は多数のヴォイドを飲み込み、爆炎と共に真空へと還っていく。

 その隣では近衛第三軍旗艦ブランデンブルクを始め、戦列に並んだ各企業の艦も砲撃を開始。中規模群体を相手にするには十分な規定艦数による集中砲火が宙域のヴォイドを殲滅していくが、その総数が減っているのかは人の目では判別がつかなかった。


 戦闘宙域を真円で表現した空間投影モニターで敵総数が減る様子を見守るディエゴだったが、減った傍から湧いて出てくるヴォイドを前に僅かに眉を潜めた。


(―――なるほど、これは些か不味い。いずれ違和感に気付く者も出るだろうが、判断が遅れれば戦況は一変する。

 私の任務はクレア様の安全を第一に考え、傭兵二人を無事連れ戻す。最悪の場合傭兵は捨て駒にするつもりだが、最前線で暴れているあの二人を見るにその心配もなかろう)


 艦橋に設置されているモニターの一つは、前線で戦うデスペラードとヴェルニスを追う専用モニターとして使われている。ディエゴがその画面に目をやると、帝国軍の部隊と共に前線を押し上げる姿が映っていた。

 2機はまるで障害にもならないと言わんばかりに駆逐艦級を墜とし、押し寄せる小型種は行き掛けの駄賃だと轢き殺し、近寄って来る中型種に銃撃を浴びせる。


 たかが傭兵、されど一騎当千のエースが二人。セクレトの威を示し続けている2機の姿に艦橋の雰囲気も明るい。


「ウフフ」


 極めつけはうっとりとした笑みを浮かべているクレアだ。その目にはオキタのデスペラードが映っている。まるで熱に浮かされた恋する乙女だ。

 そんな主人の姿を見たディエゴ艦長は趣味が悪いなと、決して口には出せない思いを抱いた。


 多くの戦場を渡り歩いて来たディエゴは、所謂エースパイロットと言う存在を何度も見ている。

 そんなディエゴからしてみても、B.M.I強化施術も受けず、操縦したらミンチになる機体を平然と操っているオキタと、全身をB.M.I強化施術によって改造され、オキタに付いて行けているリタは異質に見えた。


 アレらをエースと、ヒトの範疇に収めていいのか?と、ディエゴは誰にも言えない思いを抱えた。


”艦隊旗艦より通信、モニターに出します”


 ディエゴが思案している間に漸く艦隊の陣形が整ったのか、旗艦であるブランデンブルクから通信が届く。


『近衛第三軍旗艦ブランデンブルク、軍団長のメルセデス・フォン・ノヴリスだ。

 勝手だがパーティに参加させて貰うぞ! 大遅刻だがな、はっはっは!』


「セクレト警備部門第2艦隊旗艦アスチュート艦長、ディエゴです。

 こちらは帝都中央方面を担当されているクレア・セクレト様です」


『駐屯艦隊旗艦カスケード艦長のグローリーです。

 先におっぱじめておいて何ですが、高名な近衛第三軍と轡を並べることができ光栄です』


 快活な挨拶をするメルセデスに、くたびれた中年のグローリー艦長が緩い敬礼で応えた。

 掴みどころの無い小僧だなと、ディエゴは独りごちる。


『早速で悪いが、状況を説明して貰おう!』


『御覧の通り中規模群体に捕捉されましてね、我が方は押されております。

 本来は少ない敵さんが通るのを待つだけだったんですが、何故か大きなお友達が徒党を組んでやって来てしまいましてね。艦隊は密集陣形で防衛線を維持、攻撃は艦載機部隊に任せっきりで援軍を待っていた、というのが現状です。

 それでも艦隊からは幾らか落伍者が出てますが、まあ仕方ないでしょう。こんな仕事してるんです、早いか遅いかの違いだけです』


「……すまんな、グローリー艦長」


『いえ、そんなつもりで言ったんじゃ無かったんですがね。それでディエゴ艦長の気が収まるなら受け取っておきましょう』


 企業の御守りで死なせてしまった将兵がいることにディエゴは謝罪を示すが、チクりと皮肉で返されてしまった。


『それより、これからのことですが―――アレ、当てにしていいんですよね? 新種のヴォイドとかじゃなく』


 モニターに表示されるα小隊の撃墜スコアは今も加速度的に増えている。2機に牽引されるように付いて行く帝国軍部隊も戦果を挙げているが、それでも先頭で機体を躍らせているα小隊には及ばない。


「善戦して下さっている2機はオキタ中尉、リターナ中尉です。所属はラビット商会ですが、軍の方にはこう言った方が早いでしょう。ヴォイドキラー、ですわ」


『ヴォイドキラー? あの? では、彼がメリダ星系の二つ名持ちですか。

 除隊したと聞いた時は人事部の正気を疑いましたが、なかなかどうして、戦場からは離れられないようで。

 では、彼らにはこのまま前線の圧力を減らし続けて貰いましょう。その間に私達は撤退の用意を』


『撤退? グローリー艦長、押されているとはいえ我らが加勢した今は均衡状態を保っているにも関わらず撤退とはどういうことだ!?』


 声を張り上げるメルセデスに対し、グローリーは困ったように被っていた帽子を取って頭を掻く。


『加勢頂いた状態で拮抗していることが問題です。本来であれば弩級戦艦が2隻になった時点で連中を圧倒し始めていてもおかしくない。

 しかし、敵は減ったように見えない。何故だと思います?』


 試すような視線を向けるグローリーに、メルセデスは面白そうに口元を僅かに上げて続きを促す。


『敵総数は今この瞬間も増え続けています。

 事前情報が間違っていたかヴォイドに化かされたか、私達が中規模群体だと思っていた敵総数は今や不明です。

 加えて、観測艦からは敵ワープに伴う空間座標予約がずっと続いているとの報告もあります。こちらのワープジャマーは既に全力稼働中なのですがね? このままだとジャミングなんてお構いなしに突破されてしまいますよ』



遂に50話。飽きずによーやっとる


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― 新着の感想 ―
クセが強めの艦長いいよね… 撤退の見極めも上手い
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