48_対ヴォイド戦闘評価試験②
「えー、明日には実戦が始まるにもかかわらず、ヴォイドとの戦闘経験が少ない君たちのために、誰でも簡単にヴォイドを撃墜できる手法をレクチャーをします」
アスチュートのブリーフィングルームに集まったセクレト警備部門+リタに向かって話始める。リタを除いた全員が少し不安げな表情をしている姿を見て、俺はもっと不安になって来た。
大丈夫だよな? シミュレーターで訓練したって言ってたし、クレアが選んだ優秀な人材なんだよな? 元軍人もいるし、帝都で揉んでやったロン毛みたいなナンチャッテ傭兵なんて雇ってないよな!?
そう思って列の先頭に座っているクレアを見ると、何時もはピッタリと合う視線をプイっと外された。
あぁー……これ本気で不味のかも。帝都方面は比較的安全だろうし、戦闘経験が少ないって言ってたもんな。
思い返してみれば帝都の傭兵ギルドでも腕利きは見なかったし、居たのも良くて二流までだったしなぁ。そんな傭兵でも大企業と専属契約出来るって知ったら、帝都から離れた銀河系で傭兵やってる連中は卒倒するんじゃないか? 金払いも帝都方面の方が良いだろうし……。
良し、今だけ配属されたど素人君を相手にしている教官の気持ちになろう。
そうと決めればとりあえず基本からだな。傭兵掲示板にヴォイドの写真くらい落ちてるだろ……あるな。端末で拾った画像はモニターに映す。
「じゃあまずはヴォイドの種類だ。
今映しているⅠ型とⅡ型は小型種に分類される。
大きさは50㎝から2m程度、飛び道具は持ってない。主要な攻撃手段は体当たりだけだから、脅威度は非常に小さい部類だ。
ぶつかられても機体のシールドに触れた瞬間に溶けていくから、寄生される心配もいらないぞ」
"なら安全だな"
"寄生される恐れがないなら、まぁ"
俺の説明に何人か安心してるけど……まあ、いいか。ちゃんと説明したら分かってくれるだろう。
「1匹ずつなら怖くないが、こいつらはとにかく数が多い。密集したコイツらが何百体と突撃してくる姿を想像して欲しい。
はじめはシールドが防いでくれるが、突撃が続くとシールドへの負荷は上がり続けることになる。
すると次第にシールドに回すエネルギーの余剰分が無くなり、いつかはシールドは剥がれるだろう。
コイツらの狙いはそこだ。馬鹿にならない物量の特攻でシールドに負荷を掛け続けて破ってこようとする。運が悪かったらシールドは突破されて即寄生だから気を付けろよー」
実際にシールドが突破される動画が傭兵掲示板に落ちていたから再生する。
群がられている民間船が迎撃しきれず、次々に特攻かまされている様子だ。
ヴォイドは艦のシールドに当たった瞬間から弾けているが、延々とおぞましいまでの物量がシールドにぶつかり続けるとどうなるか……ああ、耐えきれなくなったシールドが剥がされて寄生され始めたな。
”うげ……”
”マジかよ、あんな小さいのでも数で来られたらひとたまりもないのか”
「舐めて掛かるなよ? 数で来られたらアスチュートだってタダじゃ済まないかもしれないんだ。
それに連中は俺たちと同じ背丈をしている。艦内に侵入されたらどうなるかくらい、想像つくよな?」
そこまで言って、ちらっとリタに目線をやった。
3年前のコロニー失陥時、リタはこいつらに襲い掛かられていた。そんな記憶のフラッシュバックが起きていないか気になったが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「因みに、最前線で戦う部隊は此奴らを相手にするほどの余裕がない。もっとデカくて危ない連中とやり合うからな。
だから後方で艦の直掩をする奴らが対処してくれ。帰って来る場所を守るのがお前らの仕事だ」
直掩を任されているであろう連中が頷いたのを確認して、次の写真をモニターに映す。
「これがⅢ型とⅣ型、通称VSF級とTSF級で中型種に分類される。
文字通り人類のVSF、TSFを模倣して作られたヴォイドだ。
基本武器はビーム、レーザー、少数だが誘導兵器も備えている。初心者狩りの異名を持つ、対ヴォイドの登竜門的存在だな」
既にシミュレーターで墜とされた経験でもあるのか、顔色が悪い連中がちらほらといる。
外見が人類の機体と似通っているからか、初見だと同じ機体特性を持っていると判断して腰が引けるんだよな。分かるわー、俺も初めて見た時はアホ程注意してたし。
「VSF級は機動力が高く、TSF級は火力が高いのが特徴だが、連中の基本戦略は変わらない。数で押す、それだけだ。
VSF級は人間が操縦するような機動は取らないし、ひたすら突撃を繰り返すだけだから背後が取りやすい。突撃を避けたら反転して攻撃、それで倒せる。
TSF級も連携や搦め手で追い込んでくるような真似はしない。手足やスラスターがこっちのTSF準拠だからそれなりの動きはするが、それでも脅威になるほどでもない。
怖いのは数撃ちゃ当たる方式で火線を集中してくることだが、これも距離を取って適切に対処すれば脅威にはならない。足を止めさえしなければ何とかなる」
ガンカメラの動画があったのでモニターに再生する。
操縦者は順調にⅣ型を撃墜しているが、その後ろからワラワラと湧いて出てくる敵に足を止めて対応しているようだ。
足を止めるとどんどん正面圧力が高くなっていくのが見て取れる。ほら、次第に敵ビームの火線が点から面に変わっていく。気付いた時には逃げ場を潰されて終わりだ。
ガンカメラが白くなり映像が止まった。このパイロットは運良く撃墜されただけで済んだようだ。
「見て分かったと思うが、絶対に足を止めるなよ? 搦め手も連携もしないと言ったが、気付いた時には囲まれて逃げ場がないなんてのはザラだからな。
あと、出来る限り格闘戦は避けること。中途半端にしか破壊できなかった場合、連中は即座に触手を伸ばして来るぞ。
どうしても必要な場合は即座に斬り抜けて、連中に寄生されるリスクを減らしてくれ。射撃で撃墜した時も、慣れるまでは必ず敵機の反応が無くなるのを確認するように」
”あの……寄生された場合はどうなるのでしょうか?”
何度も寄生されると言ったからか、気になったのだろう女性が聞いて来た。
気になる気持ちは凄く分かる。俺も自分の目で見るまでは、どんなものなのか気になっていた。
幸い、その後に何度も見てきたから答えは持っている。
「まず機体の自由が奪われ、手あたり次第に近くの仲間を攻撃するようになる。
それだけで終わればいいが、ヴォイドは人間だろうがお構いなしに寄生する。中の人間がどうなるかは……まあ、察してくれ」
”そうなった場合、どう対処すれば良いのでしょうか? 助けられないのでしょうか?”
「当人であれば躊躇わず脱出レバーを引いてほしい。待っていてもただ終わりを待つだけだから、一か八かに賭けるしかない。
僚機が寄生された場合は、寄生された箇所を撃ち抜くことで対応可能だ。
ただもし目の前で仲間が寄生されて、もう助けられないと悟ったときは……楽にしてやれ」
”……”
俺がそう言うと全員が黙った。
助ける手があるんじゃないか? そう思う気持ちは分かる。
けど無いんだよ。誰も帰ってこれないんだ。
「ヴォイドに寄生された末路を何度も見てきたから言えるが、酷いぞ、アレは。初めて自分の目で見た時は吐いたし、思い返してからも何度か吐いた。
傍で見た俺はそれだけで済んだが、寄生された当の本人はどうだろうな? 何て言うと思う?
殺してくれ? 助けてくれ? そんなことは言えない。言ってるのかもしれないが。ただ泣き叫んで悲鳴を上げるんだよ。何時までも耳に残るタイプの悲鳴だ、かなり効く」
質問してきた女性の顔が恐怖に染まった。
ああダメだ、思考があの頃に引っ張られすぎた。
後ろ手で頭を掻いて考えをリセットする。俺の馬鹿、これからって時に無駄に怖がらせてどうするんだよ。
「とにかく俺が言いたいのはだな、せめて人らしく送ってやれってことだ。
けどそうならないために訓練してきたんだろ? なら大丈夫だって、訓練通りやれば死にはしないって。
周りには一緒に戦う仲間がいるし、俺やリタ、今回は近衛まで居てくれるんだ。そう簡単に死なせねえって」
気の利いた言葉の一つも言ってやれない自分に嫌気が差す。
軍に居た時にだって誰かを励ます言葉を大勢を前に言ったり、今みたいな教官の真似事なんてしたことがない。それで上手くいっていたし、カバーしてくれる仲間たちがいた。
”お前はただ前で飛んでくれればいい。それが一番良いんだよ”
かつての戦友の言葉を今になって思い出した。確かにアイツの言った通り、口下手な俺には気の利いた言葉は言えないみたいだ。
それでも、対外的には二つ名持ちのエースパイロットの言葉だと思ってくれたのか、不安気だった面々の顔も少しは見れるモノにまで戻っていた。
「話を続けるぞ? これがⅤ型、Ⅵ型、Ⅶ型だ。見ての通り、ここからは大型種の艦船クラスになる。
火力は数字と共に大きくなり、駆逐艦、巡洋艦、戦艦クラスと攻略難易度も高くなる。
中衛から前衛の部隊はさっきのⅢ型とⅣ型を相手にしつつ、このクラスを沈めることが最終目標になる。
沈めることが難しいなら武装を破壊して放置してもいいし、味方艦に砲撃要請するのも有りだ」
”けどTSFの火力で沈められないことはないんですよね? オキタ中尉は何度もⅦ型を墜としてきたと聞いてます”
「勿論出来る。知っての通り、ヴォイドはシールドを張らないから攻撃がそのまま通る。だから装甲を破壊できるだけの武装があれば十分撃沈可能だ。
弱点はここ、背部の推進機関だ。ENGが直結しているらしく、ここを破壊してやれば誘爆が広がる。後は武装部分も誘爆が狙えるから積極的に狙っていくのもおススメだ」
とはいえ、駆逐艦級はともかく巡洋艦以上になると対空兵器も豊富で簡単には近づけない。
周囲にはVSF級とTSF級が護衛についているし、墜とすにはかなり苦労する。戦艦相手に勝ち目があるだけで賭けに出るには十分だが、それを此処の連中に期待するのは酷だろう。
「皆察していると思うけど、俺は機体が試験機だからとか、そういう理由で後ろに控えるつもりは一切ない。クレア……専務や、開発スタッフには悪いとは思うけどな。
けど、そんな甘えが通用する相手じゃないことは俺が一番理解している。出し惜しみをして犠牲者が出るのだけは見過ごせないから、そこは理解して欲しい」
そう言ってクレアを見ると、今度はしっかりと目を見て頷いてくれた。理解のあるクライアントで助かる。
「ここに居る誰よりも前で戦うつもりだし、巡洋艦クラス以上は俺が相手をする。だから他の連中は任せるぞ?」
近衛の二人もそのつもりだろう。あの二人は端から企業を戦力として考えていない。
それに銀河外縁を根城にしている駐屯部隊もいる。慣れてない以上は専門家に任せてしまうのが一番だ。
「全員で生き残って、旨い酒でも空けようぜ!!」
パンッと手を叩き、レクチャーを終えた。
◇
企業と近衛軍の艦隊編成も終わり、ハイパーレーンに入るまであと僅かとなった頃。俺はアスチュートの宛がわれた部屋で機体のマニュアルを再度確認していた。
ハイパーレーンを抜けた後は2度の長距離ワープを敢行し、既に展開している駐屯部隊と合同でヴォイドの殲滅に入る。
おやすみと言って部屋に帰ったリタのように寝ててもいいんだが、気が高まっている以上は何かをやっていた方が落ち着ける。
そうやって何度も読みこんだマニュアルを再確認していたところ、部屋に備え付けられている呼び出し音が鳴った。
「オキタ様、少しよろしいですか?」
「クレア? 大丈夫だ、どうかしたのか?」
部屋のロックを外すと、クレアが中に入って来た。
年頃の女の子が男の部屋に入るのは、と言いかけたところで、クレアの様子が何時もと違うことに気付いた。
「……お茶でも飲むか?」
「はい、お願いします」
部屋に備え付けられている湯沸かし器からお湯を取り、ティーパックを置いたカップに注いでいく。作法も何も知らない淹れ方だが、全部セクレト製だ。それなりの味にはなっているだろうと思い、紅茶の入ったカップをクレアに手渡す。
「座ってもよろしいでしょうか?」
「……ああ」
ベッドを見て言ったのを不味いだろと思いつつも肯定した。
洒落た椅子なんてない部屋だ、座れる所なんて限られている。
「……」
「……」
クレアと間に、少しの間を開けて腰を下ろす。
男と女、密室、それも男の部屋で。意識し過ぎているせいなのか沈黙が痛いが、クレアが落ち着いて話し出すまでは黙っていることにする。何時だって余裕のない男ほど無様な物は無いのだ。
「オキタ様の話を聞いて、少し怖くなりました」
「そのことか。ちゃんと言わないと皆の為にならないと思ってな。
でも、アレでも言葉は選んだ方だぞ?」
「そうなのですか?」
「そうだ。俺が居た基地の新兵教育ならノーカットで”どうなるか”を全部見せる。怯えさせて、怒りを覚えさせて、対抗できるだけの力を持たせてやる。
それだけでもダメでな。たとえ戦える力を持っても、生と死の狭間を飛ぶパイロットになれたとは言われない。
出撃と帰還、反復した経験を得て初めて一人前として扱われる。
それまでは何時まで経ってもガキ扱いだよ。少なくとも俺が居た所じゃそうだった」
思い出しながら話す俺の昔話を、クレアは俯いて聞いていた。
クレアは命のやり取りをするような立場じゃない。刺激が強すぎたんだろう。
そんなことを思っていると、僅かにあった俺との隙間を埋めて座り直してきた。
より近い距離になったことで、クレアが付けている香水の匂いを感じてしまう。内心で頭を振った。
「オキタ様から見て、私はどのような女に見えますか?」
上目遣いで見上げてくる姿に”無防備な女です”と、反射的にそう応えそうになった。何とか踏みとどまれたのは、真剣な表情で俺を見つめる顔が目に入ったからだった。
そんな顔で見られたら、俺も不埒な考えは捨てて真っ直ぐ向き合うのが礼儀だろう。
「そうだな……初めはセクレトの専務ってことで警戒もしたし、何を考えているのか分からないから正直怖かった。けどここ数ヶ月一緒にいて、俺なりにクレア・セクレトって人物が分かって来た」
「それはどのような?」
怒るなよ? そう前置きをおいて。
「他の企業役員に喧嘩を売られたら怒るし、思い通りにいかなかったら不機嫌な顔もする。
メルセデス三席に振り回されて疲れた顔をしていても美味しい物を食べれば直ぐ元気になるし、食堂で甘い物が出たらもう一個欲しそうな顔も見せる」
そこまで言いきった所で、クレアの白い頬が赤くなっていことに気付いた。
プルプル震えている所悪いが、お前が望んだ俺のターンはまだ終わっていないのだ。
「俺が記録を更新したら自分のことのように喜んでくれる。
俺だけじゃなくて、リタの面倒まで見てくれる面倒見の良さもある。
何か裏でこそこそ動いているのも知ってるけど……まあ、クレアのやることだし別にいいかって思う」
「! 気付かれていたのですか?」
「俺は分からなかったけど、耳の良い自称護衛が付いているんでね。
まぁそれも含めて俺から見たクレア・セクレトは、役割と肩書以外は何処にでもいる女の子と何も変わらないな」
セクレトの専務ってむしろどんな感じ? 何の仕事してるか聞いていい?
気障ったらしい言い方をしたと少し恥ずかしくなったので、前々から聞いてみたかったことを口にした。
クレアはそんな俺を見て少し笑った後、身体を傾けてもたれ掛かって来た。思わず受け止めてしまったが、女の子特有の柔らかさをダイレクトに感じてしまった。
「私は弱いですね。寄り掛かれる人が見つかった途端、立場も役割も忘れてしまいそうになっています」
「別にいいんじゃないか? その日暮らしの傭兵が相手じゃなければ」
「フフ、私だって初めはそんなつもりは無かったのですよ?
でも、こうしていることで安心感を得てしまう自分を知ってはもう……」
何を言いたいのかは察する。でも困る。立場もそうだが、お互いに捨てるには大きい物を抱えているし、捨てるつもりもないだろうから。
クレアだってそれを分かっているから言葉にしないのだろう。だから俺も”いつも通りの”勘違いとして済ませるのが正しい。そりゃあクレアみたいな可愛い子に言い寄られたのにお預けなんてのはちょっと、いやだいぶ、かーなーり勿体ないとは思うけど。
「貴方にとって、私は庇護すべき対象になりますか?」
「なる。ここから先においては間違いなく」
「私は弱いですか?」
「弱い。けど、それは強さの方向性が違うだけだと俺は思う」
腕に頭を擦り付けるようにして縋りつくクレアに応える。
「俺はTSFに乗って直接戦うことが出来るけど、企業や権力みたいな見えない連中を相手に戦う方法を知らない。
クレアは直接戦う力は無いけど、見えない連中を相手に戦えてるのは見ていて心強いし、本当に強いなって思う。
要は向き不向きなだけなんだなって俺は思う」
「向き不向き、ですか?」
縋りついていた頭が離れたところで、揺れる眼と眼を合わせる。
「そうだ。敵をやっつける俺がいて、やっつける武器を用意するJrや爺さんがいる。Jrや爺さんを活躍させる企業があって、その企業の中で踏ん張ってるクレアがいる。
ほら、こう見たら皆が持っている強さが繋がってると思わないか?
誰かが欠けても成り立たなくなるし、誰もが自分の精一杯を絞り出して成り立つのが社会って言うんだったら、俺たちは全員揃って初めて強い存在になれるって思うんだ。
……大企業のトップを張ってるクレアにしてみたら、何を今更当然の話をって思うだろうけど」
「オホホ……オキタ様らしい青臭い考えですね」
クレアは今まで見たことの無いキョトンとした顔を見せてくれた後、いつも通りのしたり顔を向けて来た。
「なんだよ、悪いか?」
「いいえ、本来社会とはそうあるべきなのです。
はぁ……私としたことが、日々に忙殺されていたせいで初心を忘れておりましたわ。思い出させて頂きありがとうございます」
馬鹿にされているようで気恥しくなった俺は顔を逸らした。あー熱い、企業のトップに分かったような事を口走ったせいで冷汗が出そうだ。
そうやって顔を手で扇いでいた所、頬を掴まれて強制的に顔を横へ向けられた次の瞬間、慣れない感触が唇を襲ってきた。
「―――お、おまッ!? さっきまで諦めた感じだったじゃねぇか!?」
時間にして僅か数秒。確かに”ヤッた”なコイツ!?
「私は諦めるなんて一言も言っていませんのに、何を勘違いしていらっしゃるのですか? むしろ抑えられないと言いましたのに。
私はクレア・セクレトですのよ? 総帥の座も、貴方様も、欲しい物は全てを手にしてみますわ。
けれど、先程の事は、その……”Es nuestro secreto” ですわ」
「揃いも揃って男の趣味悪いって……」
初めて会った時に見た”獲物を見つけた”とでも言わんばかりの力強い眼差しの奥に、女の子らしい恥ずかしさを隠した瞳が向けられる。既視感あるなぁと思いつつ、小声でボヤいた。
そんな声が聞き届けられることはなく、クレアは立ち上がってこちらを見てくる。先程までとは違う決意をした……違うな。今決意した、そんな覚悟が見て取れる。
「評議会との協定違反になりますが、私も事ここに至っては全てを話そうと思います」
評議会! 考えてもみなかった単語が聞こえたことで驚いたが、クレアが次に放った一言はその驚きを遥かに超えるものだった。
「あの機体には、オキタ様たちラビット商会が守ったΑΩが使われています」




