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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
47/91

45_胎動


 セクレト整備ドッグでは、最終フェーズに入った機体の組み立て作業が始められていた。

 第3フェーズまでとは違い、最終フェーズではデータ取得を目的に制限されていた機能も全て開放。機体の各種パラメータも俺のパーソナルデータを基に更新され、実戦配備仕様へと更新されるらしい。

 整備場では機械の作動音とそれに負けないくらい大きな声の整備兵たちが作業を進めている。

 そんな最中、陣頭指揮を執っていたトーマス・フランクリン・Jrが俺とクレアを見つけて歩み寄ってきた。


「専務、中尉。お待ちしておりました」


「Jr、オキタ様へ機体の説明を」


「了解しました。あとJrはお辞めください」


「いいじゃないかJrで。爺さんと被るし」


「……仕方ありません、お二人であればその呼び方も許可しましょう」


 よしよし、凄い嫌そうな顔をしているがJr呼びの許可が出たぞ。目元を引き攣らせていても上司には逆らえないのが宮仕えの辛い所だよな。分かるぞーその気持ち。


「では本機の説明に入ります。

 既に通知した通り、最終フェーズではこれまで制限していた機体性能をフルスペックまで解放します。

 まずENG出力ですが、機体に備え付けられている3基のENGを同期させることでグラビティシールド(G.S)を常時展開することが可能になります。

 理論上はビームやレーザーを完全に無効化できますが、シールドの出力が低下すれば突破されるため巡洋艦クラス以上の主砲を受けることはお勧めしません」


「この機体ならそうそう直撃を貰うこともないと思うが気を付けておく。

 ENG出力が上がることで、機体の推力に変化はあるのか?」


「最大値は第3フェーズから変更ありませんが、今後1か月の運用データを基にエネルギーマネジメントが中尉向けに最適化されます。

 機体制御用の補助OSも中尉の邪魔をしないよう改良を加えるので、扱いやすさは格段に上がると保証しますよ」


 推力は前回から変わらずと。ハード依存の部分でもあるし限界機動のテストはしていたのだから、そこは初めから解放していたのだろう。

 反対に機体挙動については俺向けにワンオフ化してくれるってことか。いよいよ専用機って感じがしてきて気分が上がる。


「次にアクティブステルス『ソットヴォーチェ』ですが、こちらは任意で発動が可能です。

 使い古した技術で対策も立てられやすくはありますが、本機は単独で電子戦機並みのジャミングとステルスを可能とするシステムを搭載しています。

 ここで詳細を説明しても理解して貰えないと思うので、後ほどマニュアルをご確認下さい」


「酷いな、俺だって少しは理論を分かった上で操縦してるってのに」


「おや、そうでしたか。では本機がエスコート・ジャマーとしても有用で小隊の欺瞞に「わかった、分かった俺が悪かった!」マニュアルは後ほど部屋へ届けます。

 いいですか? 私は中尉に難しく考えることを望んでいません。敵機からのロックを阻害できる、レーダーから消えるができる。この二つがスイッチ一つで任意に発動できると覚えて貰えれば結構です」


 これが出会って二日目の人間に対する態度か? 歯に衣着せない人だとしても、完全に馬鹿だと思われている事実は流石にショックだ。


「分かったよ、使いこなせるように努力する。

 じゃあ武装についてだが、ウェポンラックの上半分はミサイルキャリアーだよな。下半分に搭載する実弾兵装は何が選べるんだ?」


「アサルトライフル、ショットガン、ガトリング、キャノン砲、レールガンと言った所でしょうか。一通りの実弾兵装は予備兵装・予備弾薬含めて収容可能です。

 本機のウェポンラック内サブアームを展開するリロード方法はご存じかと思いますが、説明が必要ですか?」


「どうせボタン一つなんだろ?」


「勿論です」


「じゃあいい。前に光学武器をリクエストしたんだが、それはどうなった?」


「本機はグラビティシールドに機体動力を費やすためエネルギー兵装はデッドウェイトに成り兼ねないと申し上げましたが、専務からどうしてもと言われたので御用意しました。機体背部に既に取り付けています、確認してください」


 そう言われ機体背部に回って見てみれば、ウェポンラックと機体の狭い隙間に折り畳み式の筒が左右に取り付けられていた。


「本機の最大火力兵装、圧縮陽電子砲『スフォルツァート』です。エネルギーを圧縮した砲弾を打ち出し、直撃時にその力を開放して大規模破壊現象を引き起こします。本機のスペシャルウェポンとして、戦艦級ヴォイドまでなら確殺をお約束しますよ」


「おおう、ちょっと予想の斜め上で何言おうか迷っているんだが……俺は普通のビームライフルとかを要望したつもりだったんだよ。それは搭載出来ないのか?」


「可能ですが、通常火力であれば実弾兵装で事足りるでしょう。ビーム系統は取り回しもよく強力ですが、実弾兵装であれば昨今の耐ビームシールドに偏重しはじめたTSF/VSF環境へのアンチテーゼになります」


「言われてみれば、確かに最近の機体は耐ビームに寄ってるか」


 兵器開発は鼬ごっこだ。強力な攻撃手段が出来ればそれに対する防御手段が生まれる。ここ数年でビーム兵装の火力が上がったせいで、機体側も光学兵装向けの防御に重みを置かれている。この機体のグラビティシールドなんかがいい例だ。

 逆に実弾兵装は予備弾薬が機体重量にも影響を与えるからか、強力な兵装が開発されにくくなっている。つまり態々フィジカルよりのシールドを張る機体は少ないと言う訳だ。そんな環境なら実弾兵装でも十分な効力を発揮するだろう。


「通常兵装で太刀打ちできない状況ではビーム兵器・実弾兵装共に火力不足に陥った場面であると考えます。であれば、最大火力を叩きこむしかない。

 スフォルツァートは左右の砲身を組み立て・連結することでロングバレルを展開。ウェポンラックに搭載されたENGから動力ラインを直接確保して運用します。

 これまでは出力不足でTSFに取り付けることは出来ませんでしたが、この機体であればそれも可能です。機体コンセプトである領域支配殲滅機を体現する兵装と言えるでしょう」


「本当はビームライフルとか、次点でビームキャノンを担ぐのを想像してたんだけどな。

 でもいいぞ、気に入った! 使用時の注意事項はあるのか?」


「発射時の機体制御のため必ず足を止めてから撃って下さい。

 また発射後に強制冷却装置が作動するので連射はできません。クールタイムは180秒です」


「分かった、切り札として使うようにする。

 あとは機体フレームの話が残っているけど、アウトランダーにも搭載されていた情報伝達合金フレームだろ?」


 情報伝達を可能にする合金を埋め込んだ機体フレームだが、第3フェーズの機体から既に組み込まれているだろう。

 得られる恩恵はB.M.Iホルダーが搭乗した際に機体とパイロットをダイレクトにリンクさせ、反応速度を大幅に上げることだが、B.M.I強化施術を受けていない俺には関係ない話だ。

 この機能自体はアウトランダーにも搭載されているから目新しい物でもないし、今更説明されてもな。


「……」


「……あれ? 俺なんか間違ったこと言ったか?」


 今まで早口で捲し立てていたJrが急に黙り込んだ。視線は俺ではなくクレアの様子を窺うように見ているが、何かあるのだろうか?


「いいえ、オキタ様の仰る通りですわ。Jr、もう結構ですので作業に戻りなさい」


「了解しました。では中尉、機体が組みあがった後の慣熟飛行で会いましょう。

 ……コックピットブロックの換装も必要なので、しばしお時間頂きます」


「おう、よろしく頼む」




























「やはり中尉には伝えるべきです」

「必要ないわ。今はまだ」

「中尉は搭乗者ですよ? 事前に通達しなければ危険に晒すだけです」

「そうならないようシステムは封印したでしょう? なんのためのOSですか」

「S.P.A.Tは正確に動作しています。秘めた領域にあるものも含めて。

 ただの人間に扱える代物とは思えませんが」

「問題ないわ、彼の生体データを手に入れたもの。結果は直ぐに出る」

「本気で実行するおつもりですか?」

「当然実行します。それに、製作者であるお前も共犯ですわ。

 見たかったのでしょう? かつて帝国が封印した技術の"再誕"を」

「……本当によろしいのですね?」


「ええ。評議会も、それを望んでいますもの」



ソットヴォーチェ、スフォルツァート(スフォルツァンド)は音楽用語です。

言葉に出した時の響きも洒落乙なので採用しました。


ランキングに載せて頂きありがとうございます。書き溜めようと開いて驚きました。今回は繋ぎの話のため短いですが、期待されているなら返さねばと思い立ちまして。それではまた

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