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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
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43_一幕_挿絵有

250119 挿絵追加


 ―――飛行試験から一夜明けて


 基地内に宛がわれた仮の自室。締め切ったカーテンの隙間から光が差し込み始めた頃になって目が覚める。


「あ゛~、二日酔いだなこりゃ」


 頭がはっきりしない。少し体が熱いのも、昨晩行われた歓迎会でしこたま酒を飲まされたからだろう。

 霞んだ視界を晴らすために洗面台へと向かう。


「ホテル……とまではいかないが、軍の基地と比べたら雲泥の差だな。尉官程度に宛がう部屋じゃない。

 流石は金持ち企業、力の入れようが違う」


 さらっと顔を洗った所で、漸く意識がはっきりしてきた。

 昨日、基地に帰投した後は本当に大変だった。

 基地に戻った俺を整備班の連中が囲んでくるわ、開発陣と一緒になって胴上げしてくるわ、早口で機体性能が~飛び方が~とか、何言っているか分からないけど褒めていると思うフランクリン技師とかに揉みくちゃにされた。

 その後はリタやクレアも含めたテンションのぶち上った連中と歓迎会にしゃれこんだんだが、今思うとこれがいけなかった。


「酒強すぎんだろあの二人……マジでありえねぇ」


 リタとクレアはむさ苦しい男連中にしこたま注がれていたが、それらを全部平らげた上で文字通りケロッとしていた。それどころか、俺のグラスに注いでくる余裕振りまで見せる始末。

 俺は俺で、そんな二人を両脇に侍らせながら―――個人的には肉食獣に挟まれた獲物の気分だったが―――昔聞いたことのあるキャバクラってこんな感じなのかと思いながら、注がれる酒をヤケクソ気味に煽っていた。

 両脇を美人で塞がれるのは正直嬉しい。交互に酌をされるのは男明利に尽きる。けど、グラスを開けた途端に競う様に注ぐのは勘弁して欲しかった。

 お陰で終盤の記憶がない。その辺で寝転がったような気もするが、こうやって部屋のベッドで目が覚めたと言うことは誰かが運んでくれたのだろう。感謝せねば。


「今日は新型の打ち合わせと、リタのヴェルニスについて改修案の意見を出し合う、だったか?

 こんな体調でも決まった時間に起きられるように慣らしてくれた軍の暮らしに感謝だな」 


 パパっと着替えて、セクレトの関係者であることを示す認識票を首からぶら下げる。

 セクレトの開発拠点はグラナダの帝国軍地上基地の一区画に建設されている。セクレトの人間には昨日で顔と名前を憶えて貰えただろうが、セクレトに割り当てられている区画外に出たら帝国軍や他企業の連中と顔を合わせる事も多くなる。

 こうやってどこの所属かを分かるように示しておかないと産業スパイに間違われるから、認識票は肌身離さないで下さいとクレアから昨日渡されたのだ。


 身支度を整え、自室の扉を開くと見慣れた青髪が目に入った。今やタンクトップにジャケットがトレードマークになったリタだ。


挿絵(By みてみん)



「おはよう。普通に起きれたんだ」


「おっす。おはようリタ、待ってくれてたのか?」


「まあね。昨日アレだけ飲んでたし、起こしてあげようと思ってたから」


「飲ませたのお前らだろ……因みに、どんな起こし方を予定していたのか聞いてもいいか?」


「ジャンピング・ボディ・プレス」


「オーケー、今後何があってもお前には起こされてやらないからな」


 軽口を叩きながら並んで廊下を歩くこと数分。

 セクレト区画を抜け、帝国軍や他企業と共同になっている基地食堂にやって来た俺たちだったが、丁度朝飯の時間帯らしく人が多い。

 さてどうしたものかと悩んでいると、最近になって見慣れてきた白髪が目に入って来た。

 あれはクレア……だよな? 昨日までの品の良いお嬢様の恰好から打って変わり、軍服のような服装に身を包んでいる。

 帝国軍の制服じゃないが、軍人に見えないクレアが着ても基地の雰囲気に溶け込んでいる。よくよく思い出してみるとセクレトの警備部門の制服だったか、セクレトの戦艦にいた連中が着ていた気がする。

 そんなクレアが口をパクパクさせてこちらに何かを伝えようとしている。離れているせいで何を言っているのか全く聞こえないんだが、小動物みたいでちょっと面白い。


「クレア嬢が席を用意しているってさ」


「え、お前この距離で聞こえたのか?」


「聞こえなくはないけど、クレア嬢のあれは口パク。私は思考を読んだだけ」


「飯の席を探すために使われる能力って……ていうかお前、さらっと他人の思考読むの止めろよ。気にする人もいるだろうしさ」


「向こうも承知してるから大丈夫。じゃないとクレア嬢の思考は読めないし。

 ほら、配膳受けて早くいこう」


「へいへい。お、流石は重要拠点の食堂。種類多いな」


 軍事基地の食堂といえば、栄養バランスがきっちり考えられた、それなりに旨い食事が用意されているのが普通だ。

 とは言っても、今となっては思い出になってしまった地球で食べていた、天然由来の食物が並ぶことはない。

 これは需要に対し、供給量が圧倒的に足りていないのが原因らしい。

 もちろん農業や食物プラント、年中食べ物を生産する専用の惑星やコロニーなんかも多くあるらしいが、天文学的な帝国の人口全てを支えられるほどの生産量は無い。

 だから人工的に食べ物を生成する技術が発展し、それによって帝国臣民の腹は満たされている。今じゃ庶民の口に入る物は、何が原料になっているかも分からない物ばかりだ。

 だからクレアと初めて会った時、招待されたランチで天然物が出てきた際に俺たちは震えていた。何せ、今となっては天然物は貴族しか食べられない高級品だからな。

 とはいえ、人工食物が不味いかと言われればそんなこともなく。むしろ環境や気象条件に左右される天然物と比べると最適解に最も近いと言われている。

 特に東雲技研なんかは、昔の地球の食事を思い出させてくれる味を用意してくれている。二日酔いに効くしじみ汁っぽいのは非常にありがたい。

 朝から大量の食事をトレーに載せるリタを横目に、二日酔い気味な俺は軽食程度を選んで受け取った。


「お二人とも、おはようございます」

「おはよう」

「おはよ」


 そのままクレアの居る場所まで行ってみると、周囲には不自然なまでの空席が出来上がっていた。


 それもそのはず。美人なクレアとお近づきになりたいと近寄る輩はいるかもしれないが、帝国近衛軍のメルセデス三席とミハエル中佐が同席した場所に近づく勇者はいないだろう。


「昨日の機動は実に見事! オキタ中尉、貴殿の腕前たっぷりと見せて貰ったぞ!」


「は、ありがとうございます」


「開発日程の決まっている中で特例許可を出すのは褒められたことではないが、あのような美しい機動を見られるのであれば、貴殿らの飛行訓練を特例で許可した甲斐があったと言うものよ!」


 座った途端に、待ってましたと言わんばかりに話し出したメルセデス三席。リタの奴は俺に相手を任せたと言わんばかりに、三席を無視して食べ始めやがった。

 と言うか、グラナダ航空管制から特例の許可を出したのはやっぱこの人だったのか。

 知っていたのかと横目でクレアを見ると、何とも困ったような表情を浮かべている。クレア自身、昨日のいきなり行われた飛行試験はイレギュラーだったらしいからな。

 初対面の頃から察していたが、この三席の前ではクレアでさえ振り回されている側らしい。


「貴殿に触発されてか、飛行テストの申請が山ほど届いておるらしいぞ!

 出来損ないと馬鹿にしていたセクレトの新型があれ程の性能を示したのだ、計画に参加している企業も気が気でないのだろうな!

 ここだけの話、セクレトには―――『閣下、その話はまだ』 ―――おっと、そうであったなミハエル! 忠言感謝する!」


 いま絶対ヤバいこと口にしようとしたな、このうっかり閣下。

 隠し事が出来ないのか、隠し事とすら認識もしていないのか、どちらなんだろう。

 どちらにせよ、巻き込まれる俺たちや、部下のミハエル中佐の頭が痛くなるのは間違いない。


「んんっ、凌ぎを削る計画遂行を期待しているぞ! 本計画の成功は帝国の、ひいては皇帝陛下を守る剣となるのだからな!」


「承知しておりますが、計画を降りたセクレトにそれを言っても仕方ないでしょう?」


「うん? ああ、それもそうか! クレア嬢の言う通りだな、はっはっは!」


 うーん、ただ頭の緩い人って訳ではないんだろうが、どうも脇が甘すぎると言うか。

 悪い人ではないんだろうし、近衛の第三軍団長に任命されるほど優秀ではあるんだろうが、ミハエル中佐のような介護者には成りたくないな。外から眺めている分には楽しそうだけど。


「さて、それでは私達も仕事があるのでな! 貴殿らも引き続き頼むぞ!」


 そう言って嵐のように去っていく二人を見送る。

 珍しく溜息を隠そうとしないクレアを横目に、俺はリタよろしく朝飯を掻っ込むのだった。




   ☆




 朝食を取った後、俺たち三人は開発室に移動したのだが、そこにトーマス・フランクリン技師の姿は無かった。

 近くの開発者に話を聞くと、機体ハンガーで最終フェーズの組み立てに向けて整備員と意見交換をしているのだとか。

 開発主任がいない以上は俺もすることがないので、急遽招集されたヴェルニスの改修チームの開発室に三人で向かうことにした。


「―――! ――!」


「騒がしいな、何かあったのか?」


「本当ですね。どうしたのでしょうか?」


「とりあえず行けば分かる」


 部屋に近づくに連れて大きくなる騒音を不安に思いながら部屋の扉を開けると、年配の老人が杖を振り回しながら怒り回っていた。


「こんなもんを作る共和国はヒトの心っちゅうもんがない! 奴らはやはり悪魔じゃ! 儂は悪魔の手助けなどせん!!」


 モニターに映っているヴェルニスに向かって唾を吐く爺さん。

 かなりヒートアップしているようで、止めに入っている若手を杖で叩いている暴れっぷりだ。


「私の機体に難癖付けてる、あのお爺ちゃんは誰?」


「あの御老人はトーマス・フランクリン、元X-TSFの主任開発技師です。

 引退していた所をリターナ様の機体の修理と改修をお願いするためにお呼びしたのですが、あのお方は少々共和国嫌いなところがありまして……」


「少々には見えないが……あれ? あの爺さんもトーマス・フランクリン? じゃあX-TSFを担当しているフランクリン技師は?」


「彼はトーマス・フランクリン・Jr、フランクリン元主任のお孫さんですわ。フランクリン技師はJrと呼ばれるのが恥ずかしいらしく、本人は絶対に名乗る時に言いませんの」


「ああ、どうりで。目元がそっくりだ」


 Jrねぇ。呼んだら早口で怒り狂いそうだから間違っても呼ばないでおこう。

 そのJrにはあとで機体の話をしにいくとして、今は目の前の爺さんとリタの機体についてだな。何に文句を言っているのか俺には分からないが、あれだけ暴れる”悪魔”とやらの正体が知りたい。

 そう思っていると、リタが爺さんに近づいていった。


「お爺ちゃん。私の機体に何か文句でもあるの?」


「文句じゃと? あるに決まって―――まさか……お嬢ちゃんが、あの機体のパイロットかい?」


「そう。ヴェルニスは、ここで開発されている帝国の最新鋭機にも負けない機体だと自負している」


「何てことを……共和国は、こんな少女まで……」


 わなわなと持った杖を震わせている爺さんは、まるで何かに耐えているようだ。


「なあ爺さん、俺にはリタのヴェルニスの何が問題なのか分からないんだ。速いし火力もある、換装すればどんな任務にも対応できる良い機体だろ? 教えてくれ、何がダメなんだ?」


「あの機体には搭乗者との繋がりを強固にするB.M.I-Linkシステムが搭載されておる。

 搭乗者のB.M.I強化強度が高いほど操縦性や機体追従性にも利があるのじゃろう、極まれば思考だけで機体を動かせるほどの機能が搭載されておる。正に人機一体、完成された第10世代とお触れが出るのも理解できるわ。

 じゃがそれは、機体と搭乗者が強く繋がっていてこそ発揮することができる諸刃の剣じゃ。強大な力を得る代わりに、被弾時のダメージすら搭乗者に跳ね返ってくる程のな」


 苦虫を潰したように言う爺さんに一つ、俺は”俺とエリーが斬り落とした”足のことを思い出し。


「この機体は足を斬り落とされたんだぞ。じゃあ、リタは足切断の痛みを……」


 こちらを振り返ったリタは、能面の笑みを浮かべていた。



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― 新着の感想 ―
控えめに言って最高です。何故総合ランキング入りしないのか不思議な位の良作。
機体には痛点なんて無いだろうから、脚部喪失時に『喪失感』を感じることはありそうだけど、態々痛覚フィードバックを実装してるとしたらやっぱり共和国に人の心なんてないんや… ??「痛くしないと覚えないだろ…
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