42_XTSF-Phase3
ちょっと長いです
「―――であるからして、本機はウェポンコンテナにもENGを装備し、機体本体を含め合計3基のENGでエネルギーを確保する設計となっています」
「それだけ聞くとかなり重いって気がするけど」
「ウェポンコンテナ内部構造を見直し、側面と背面に追加スラスターを設置しています。機動力は開発初期に比べても大幅に向上しています。
ただし設計の詰め込みにより機体バランスは非常に悪く、急遽開発した機体制御用OSの支援がなければ正常に飛行することはできません」
「本末転倒じゃないか。まともに飛べるんだろうな?」
「開発初期から現状までフルスペックの50%程度の性能しか出せていませんが、現状のセッティングでも理論上は機体性能の80%を活用できる見込みです」
「見込みって……」
「開発計画はフェーズ3を進行中です。
最終フェーズでは残りの20%をカバーするための開発が進められており、その成功はあなたの手腕にかかっています。
我々S.I.P開発チームが最終フェーズで行うべきことは、あなたの操縦特性に合わせた機体セッティングのみです」
基地に着いてから10分もしない間に、俺はX-TSF開発チームメンバーに連れ去られた。
足早に俺を連れ去ったのは中年の技術者だったが、驚くことにその彼が開発責任者だった。
どうやら開発中の機体を十全に扱えるテストパイロットがおらず、本来想定していた性能の半分すら引き出すことが出来なかったらしい。お陰で基地内ですれ違う全員が気が立っていて、値踏みされるような視線に晒され続けた。
そうやって開発初期からフラストレーションが溜りに溜まった所に、クレアが直々にスカウトしてきた最適解(仮)こと俺が到着したのを聞き、居ても立っても居られなった彼は基地入り口で待ち構えていたのだった。
せめて荷物だけは置かせてくれと言う俺の後ろを背後霊のように追い回し、荷物を置くのを見届けた次の瞬間には肩を叩かれて回れ右、現場に直行となった。
そんな彼、”トーマス・フランクリン”と名乗る技師は目的地に辿り着く前から早口……それはもう早口で機体や機能の説明をして来る。
専門用語が飛び交う説明を必死に理解しようと頑張ってはみたものの、残念なことに専門家の話を理解出来るほど俺の頭は良くはなかった。途中から何を言っているのかさっぱり分からなくなった俺だったが、そんな俺に気を遣う素振りすら見せず解説は続き、今に至る。
正直、話を聞く限りだと地雷案件を引き受けたとしか思えない。理論上の機体性能を聞かされたって、いちパイロットでしかない俺にはどうしようも無いだろう。
「目的地に着きました。
貴方には理論的な説明を行うよりも実践させた方が速そうですね、X-TSF搭載技術の話も半分以上理解できていないでしょう。
と言う訳で、つべこべ考えずに実機を動かしてきて下さい」
「は?」
凄まじい早口に押され、何も疑わずに付いて行った先に現れた重厚なドアを抜けた場所は、機体を収めるハンガーだった。
ハンガーには試作機や練習機によく採用されている、全身を灰色にペイントされた機体が固定されているのが目に入る。
機体背部には、本来この機体の特徴になるはずだった換装機能の変わりに取り付けられた、実弾兵装を多量に詰め込んだ巨大なウェポンコンテナ兼メインスラスターが装備されている。
資料で見た時から思っていたが、実物を見た印象でも空飛ぶ武器庫にしか見えない。ほぼ機体全長と同じ背部コンテナのせいで機体バランスが滅茶苦茶なのも一目で察することが出来る。
「基本的な操縦方法は帝国軍の正式採用TSFと変わりません。
兎に角飛んで、データを集めて来て下さい。細かい要望は後で聞きます」
こちらに歩いて来た、これまた辛気臭い顔をした整備兵からインカムとパイロットスーツを渡される。
いきなり実機に乗れってか? 無茶苦茶だなこのトーマス・フランクリンって開発者は。
しかもこの場で着替えろって? リタもクレアもここに居ないから別にいいんだけども。むさいオッサンだらけの整備班にパンイチ姿見られたところで何があるわけでもないし。
「機体慣らしくらいだったらパイロットスーツはいらない。インカムだけ貰えるか?」
「加減速のGで死にますよ」
「……オーケー、黙って着よう」
「オキタ中尉、こちらの高所作業台をお使いください」
「どうも」
Gで死ぬとか初めて言われたわ。
とはいえ開発者の提言なら聞いておいた方が良い。ささっと着替えて高所作業車の作業床に乗る。
そのまま機体の胴体部にあるコックピットまで上げて貰い、中へと入る。
「へー、再誕計画って言うくらいだからコックピットはあまり変わらないと思ってたけど、計器類は結構見やすくなるように変わってるじゃないか。
……へへっ、やっぱ新型はテンション上がるぜ!」
コックピットのハッチを閉め、誰もいない空間で笑う。いきなり乗せられたことや、操縦の説明が一切ないとかの文句は、コックピットに入ってしまえば全て吹き飛んでしまった。
この機体がどこまでやれるのか? 俺はこのじゃじゃ馬をどこまで制御できるのか? シートに座り、シートベルトを付けると俄然期待も高まる。
胸を躍らせながら機体の補助動力装置を起動させると、網膜に機体外部の映像が直接投写されていく。
網膜投影の感度良好、360度どこを向いても遅延なく目で追える。
続けてコックピットのメインモニターに、システムが順に立ち上がっていく様が映っていく。
「S.P.A.T? 聞いたことが無いな、S.I.Pの独自OSか?」
何て読めばいいんだ? スパッツ? なんて蠱惑的……いやいや、ふざけてる場合じゃない。
基本は変わらないって言っていたから、機動シークエンスは従来と変わらないはず。機体のAPUを入れた後は主機を始動させればいい。
機体とウェポンコンテナそれぞれ一つずつ、計三つのENGをアイドル状態で起動させると、機体のエネルギーフローを表すチャートが一気に上限に張り付くのが見えた。
ん~……出力の上限値が今まで見たことのない数値を示している。これは確かにヤバそうだ。
ENGが3基、単純に既存のTSFの3倍のパワーはあるってことだからな。戦艦にも搭載されているグラビティシールドを発生させるにはこれ位の出力が必要になるんだろう。
圧倒的なパワーにスーツを着ないと死ぬほど掛かって来るG。これに乗っていたテストパイロットが満足に性能を発揮できないってのも無理はないのかもしれない。
『オキタ中尉、こちらセクレトCP。
貴機のコールサインはα1です。開発完了まで宜しくお願いします』
「α1了解、こちらこそよろしく。
ところで、リターナ中尉とクレア専務が何処に居るか分かるか?」
『御二人ともCPに居られます。リターナ中尉、クレア様に通信を回します』
視界の右上にリタとクレアの顔がポップアップされた。
別れた後に何処に行ったか不安だったが、二人供セクレトCPでこちらをモニター出来ているようで何よりだ。
『やっほ。いきなり面白いことになったね、オキタ。久しぶりのTSFだろうから少し心配』
『申し訳ありません、オキタ様。私の部下が暴走してしまって……あとで言い聞かせておきます!』
「スクランブルだと思えば何ともないさ。
むしろリタの言う通り、久しぶりにTSFに乗れるっていうんで、ちょっと感動に震えてるくらいだ」
『恥かく前に変わってあげようか? 気難しい機体なんでしょ』
「言ってろ、ただの武者震いだ」
『オキタ様、どうかご武運を』
「ありがとさん。……ああそうだ、クレアに一つだけ言っておくことがある。
俺を選んだお前が正しかったって、全員に見せ付けてやるよ」
『え……』
ウインクを一つかまし、通信を切る。
ここに至るまで、俺はS.I.P開発チームについて一つ感じたことがあった。
それは閉塞感だ。誰も彼も辛気臭いかピリピリしていて、笑顔一つ浮かべやしない。
けど、それも仕方がないのかもしれない。
だってこの基地にはセクレトの他にも、開発計画に参加した企業や帝国軍が駐留しているんだぞ。
本来持っている性能の半分すら発揮できない機体は、言っちゃなんだがただの失敗作だ。
他の企業や軍関係者はそれを見て冷笑しているだろう。セクレトも堕ちたものだ、だから開発計画を降りたのか、って。
そうやって舐められて、悔しくないはずがない。早口のフランクリン技師だってそうだろう。
自分たちが作ったTSFはこんなものじゃない。もっと凄い物なんだと、声を大にして言いたいはずだ。
今まではそれも無理だった。でも、今はそうじゃないかもしれない。
ここの全員が希望を持っているはずだ。クレアが選んだ俺ならばと。
ただ雇われただけの俺が気負う必要がないのは分かっている。けれど、折角セクレトのトップが俺を選んでくれたんだ。
その選択が間違いじゃないってことくらいはこのファーストフライトで証明しないと、俺もクレアも恰好つかないだろ!
『グラナダHQより発進許可でました。
X-TSF、発進位置へリフトアップを開始します。発進区画、非常要員は退避してください』
「メインシステム起動」
『メインシステムの機動を確認。X-TSF、発進シークエンスを開始します』
機体がエレベータによって天井へと運ばれて行く。ハンガーの天井が開くと眩しい空の光が目に入った。なるほど、ここは地下だったのか。
『ハッチ開放。X-TSFをカタパルトへ移行します』
視界一面に広がる砂と岩の大地。いいね、遮る物が何もない。
セクレトが作ったとっておき、その真価のお披露目には丁度いい。
『カタパルト接続、全システムオンライン。
進路上に障害無し、空域監視データはチャンネル③で固定します。
リニアカタパルト出力上昇、発進タイミングをオキタ中尉へ』
「コントロール受諾。X-TSF、α1出るぞ!」
カタパルトの凄まじい勢いを機体とパイロットスーツの機能で相殺させつつ、青い空へと急上昇する。
フットペダルを全力で踏み込むと、機体とウェポンコンテナ合わせて3つのスラスターからなる殺人的な加速が生まれ、身体がシートに貼り付けられるような感触を覚える。
直進性は期待通りだ。じゃあ次、後退、宙返りと機体各所に取り付けられているサブスラスターを噴射して細かい機動力を確認する。
ウェポンコンテナの側面に取り付けられているスラスターを片側だけ全開噴射してみると、バカみたいな加速でスライド移動すら可能だった。これは敵のロックオンを外すのにかなり役立つぞ!
「わはははは! 良いなこれ、気に入った!」
追従性に少しぎこちなさを感じるが、機体制御用の補助OSと操縦の兼ね合いが巧くいっていないんだろう。
それを考慮しても素直な操縦性と、アウトランダーすらお話にならない高い機動力。まさしく俺の為だけにあると言っても良い出来だ。
『α1! α1聞こえていますか!?』
「こちらα1、セクレトCPどうぞ」
『無事ですか!? 生きていますか!?』
「……? α1からセクレトCPへ。質問の意図が分からない」
『オキタ、私。率直に言うと、アホみたいな瞬間加速で挽肉になってないか心配してた』
「この程度でか? 冗談だろ」
『ほらね、だから心配するだけ無駄だって言った』
『いえ、あの加速で無事でいられるはずが……』
『オキタの耐Gはスペシャル。正直人間かどうかを疑うレベル。そんじょそこらのパンピーと一緒にして貰っては困る』
「お前はどこ目線で言ってるんだ」
CP内の慌てたやり取りが回線を通して聞こえてくる。俺の身体を心配するような会話だったが、この程度で何とかなるような軟な造りはしていない。
俺の身体をむち打ちにさせたいなら、これの倍くらいの加速力は持って来て貰わないと。
「α1からセクレトCPへ。テストフライトに相応しい評価項目はないか?」
『中尉、フランクリンです。
本計画では機動力を測るためのフライトコースが用意されています。早く飛べば飛ぶほど評価ポイントが高い単純なタイムアタックですが、それだけに機動力の違いが表れやすい評価方法となっています。
その機体にも練習用の模擬コースが入っているのでそちらを試しましょう。機体ナビシステムを起動させて下さい』
「どれどれ……これか。最速タイムは3分32秒、指定された飛行ルートを飛ぶタイムアタックか。
イイね、やろう。セクレトCP、グラナダHQからテスト許可は出るか?」
『本日S.I.Pの試験飛行予約はありませんが、HQへ掛け合うので待って下さい……グラナダ航空管制から特例での許可出ました。
セクレトCPから該当空域の試験部隊へ。これよりS.I.P-X-TSFがフライトコースでのタイムアタック評価試験に入ります。
グラナダHQ許可のもと空域封鎖を実施します、付近の機体は退避願います』
「やれそうだな。じゃあ網膜投影、ナビシステムとの連動開始だ」
視界内に飛行ルートの指示棒が表示される。
今回のテストはナビシステムの指示通りにコースを飛び、最速タイムを狙うタイムアタックだ。
機体内のモニターでルート全体を確認してみると、山あり谷ありあり、ルートから外れると撃墜判定を受けるコース形態が確認できた。
『宙域からの退避確認、周辺空域に機体なし。
α1、テストフライトの準備が整い次第タイムアタック評価試験を開始してください』
「α1了解。カウントダウン開始……3,2,1,ゴー!!」
スラスターのスロットルを最大まで上げ、フットペダルを思いっきり踏み込む。
慣らしで感じていた圧倒的な加速力を感じながら、一つ目の緩いカーブにそののままの速度で突っ込む。
普通の機体なら曲がり切れずにコースアウトになるだろうが、スラスターだらけのこの機体なら何の心配もない。
コーナーへ突っ込む際にウェポンコンテナのサイドスラスターを吹かし、無理やり機動変更を掛けて折れるように曲っていく。
そのまま緩い降下へ入る。降下後は急上昇になるが、地表近くまでは降下指示が続いている。
重力に従って機体の降下速度が膨れ上がって来た。
……機体操作に若干のズレがあるな、ここは少し早めに減速を掛けて地面との衝突を避けるか。リスクを取るにはまだ早いだろう。
もうちょい、もうちょい降下出来る……まだもうちょい、ちょい、ちょい、ここだ!!! 機体の背部スラスターが地面と平行になるまで操縦桿を引っ張って降下速度を打ち消す!
「~~~~~~ッ!!」
スラスターの噴射角度がイメージと少しズレたのを確認したが、身体に圧し掛かって来る圧のせいで声を発する余裕はない。
機体の頭を立たせ、角度の大きい急上昇へと突入する。
スーツと機体の耐G性能を越えているのだろうか、血液が脳に供給できなくなり視界がボヤけてくる。ブラックアウトの症状だが、まだまだ耐えられる。
上昇の後は平面飛行、少し間を置いての直角コーナーはサイドブースターの噴射で平面移動、歯を食い縛って機体を進行方向へ向け直す。
ここまでは最低限の減速でやって来れた。
残りのコースも機体に取り付けられているスラスターを使い、鈍重な機体を振り回しながら突き進む。
最後に螺旋状のコークスクリューを披露し、タイムアタックのコースを踏破した。
「っぷはァ!! 流石に初めての機体でこれはしんどい!!」
息を忘れていたかのように、空気を肺へと送り込む。集中しきっていたからか、久しぶりに全身に酸素が回っている感覚がした。
ちょっと身体が痛いが、これくらいなら明日に引きずるような物でもない。少し休めば元に戻る程度だ。
惜しむのは機体制御OSと俺の操縦があまりマッチしてないことだ。とはいえ、そこさえ嵌ればもっと良くなる。そんな手応えを感じられただけでも飛んだ甲斐はあったか。
それは今後の課題として、今はタイムが気になるな。
「α1からセクレトCP、タイムを教えてくれ」
『ただいまのタイム、3分8秒……新記録です!』
「あちゃぁ、3分切れなかったか」
やっぱりOSとの嚙み合わせが巧くいってないからだ。それさえ何とかなればあと数秒は削れそうな気がするんだけどな。
「……あ、そっか。補助OS切ればいいんだよ」
邪魔するならOFFにしてしまえばいい。補助輪を付けたままってのもカッコ悪いしな。
何で気付かなかったのかと思いつつ、コンソールを弄って補助OSをカットする。
「多分これで切れたはず……うおっとっと、挙動が過敏過ぎて滞空するのも気使うなコレ。
でももっと素直な反応するようになったし、これならやれそうか?」
例えるなら、さっきまでのがオートマ運転で、今がマニュアル運転ってとこだ。
これなら機体側で勝手に機動補正を掛けないから、完全に俺の思うがままに扱うことができる。
よし、もう一回さっきの行ってみよう。
「α1からセクレトCP、リスタートのリクエストは聞いてもらえるのか?」
☆
1度目のタイムアタックの最中、セクレトCPに詰めている人間はX-TSFのタイムアタックを固唾を吞んで見守っていた。
直進とはいえ、恐怖で正気を失ってもおかしくない速度で突き進む機体。コーナーは減速せず、あまつさえサイドスラスターの噴射で無理やり軌道を変える殺人的な機動がパイロットにどれだけの負担を掛けているのかは、この場にいる全員が想像するに容易い。
地面とキスするのかと思う速度での急降下に、思わず悲鳴を上げてしまう管制員もいたタイムアタックも、3分8秒という今までの最速記録を24秒も縮める驚愕の結果が出た瞬間に、小さな悲鳴は大きな歓声へと変わった。
周囲から失敗作の烙印を押されていた機体が、今までの記録を大幅に上回る。
思わず立ち上がり、お互いを抱き締め合う人達。今までしてきたことは無駄ではなかったのだと、誰もが喜びを表現していた。
そうやって誰もが喜びに浮かれている輪から少し離れた場所で、クレアは一人その光景を見ていた。口元を手で覆い、誰にも見られないように哂いながら。
(全て想定通り。やはり、選んだ私の目に狂いは無かった)
(これでフェーズ3は終わり、最終フェーズへと駒を進めることが出来る)
(例の計画を早めなければ。軍の横槍が入る前に、アレを機体に組み込まなければなりません)
(そして次期総帥選の準備も……フフフ、彼らは必ず協力してくれるでしょう)
クレアの哂いは止まらない。
リィンカーネーション計画の参画を決定したのは現セクレト総帥だが、X-TSFの素体となった機体は、元々は別の次期総帥候補が推し進めていた計画の機体だ。
諸般の理由から計画が頓挫したため、倉庫で廃棄を待つだけだった機体を再利用し、最新鋭機にまで高めたのはクレアの功績になる。
次期総帥候補への当てつけとしては、これだけで十分な意味合いを持つ。
それに加え、エリート揃いのセクレト社内の選抜パイロットではなく、在野の才を引き立てるという視野の広さも見せつけることが出来た。
(厄介なクラウン司令のせいで当初の計画は狂いましたが、老練翁が関与していない今しかチャンスはない)
(やはりラビット商会をこのまま手中に……いえ、流石にリスクが大きい)
(忌々しいリストさえなければどうとでも出来たものを。全く、優秀過ぎるというのも困ったものです)
『α1からセクレトCP、リスタートのリクエストは聞いてもらえるのか?
次は補助OS無しで飛んでみる』
「そんな……α1、それは無茶です!」
「中尉、フランクリンです。
その機体は補助OS無しでは滞空すら心許ない繊細な機体です。
機体各部のモニターはCPでも行っているため問題ないことは確認できています、再走に問題はありません。
ですが、補助OS無しでの飛行は技師として容認できません」
『今も補助OSを切って滞空している。モニターしてるなら分かるだろ?
確かに挙動が素直すぎるきらいはあるが、この程度なら無理やり合わせ込める自信がある』
「……いいでしょう、先程のタイムアタックに免じて許可します。
ですが、少しでも無理と感じたらこちらから機体制御を奪いますからあしからず」
『α1了解。じゃあ行くぜ―――』
オキタから再走の打診が届き、セクレトCPは落ち着きを取り戻しつつも再びの喧噪に包まれた。
補助OSを切っての再タイムアタック。
再び開始されたタイムアタックは、オキタの驚異的な機体制御技術により進められていく。
再びタイムアタックに入ったオキタに対し、どこか恋する乙女のようにモニターを見守るクレア。
そのクレアの視界を塞ぐように、今まで静観していたリタが立ち塞がる。
「クレア嬢、忌々しいリストの存在さえなければ……何なの?」
モニターの光が影となり、クレアからはリタの表情が見えなかった。
しかし、リタの発する気配はP.Pを操るクレアからして、脅威と分かるほど"明確な敵意"が溢れていた。
「……あらあら? リターナ様。人の思考を覗き見とは、少しはしたないのでは?」
「やっと隙を見せてくれたね。思いの外、結果が良かったからかな? P.Pでの精神防御が疎かになってたよ。
流石はオキタ、無自覚に場を引っ掻き回すのには定評がある」
「……」
CPがタイムアタックに夢中になっている最中から、リタはずっとクレアの様子を探っていた。
初対面の時から隙を見せなかったクレアの真意。それが読み取れる瞬間があるとすれば、それは感情が昂った時しかない。
リタのその読みは当たった。僅かに漏れてきたクレアの意識を感知し、浅い表面だけだがクレアの考えを読むことに成功した。
「別に今更どうこうするつもりは無い。傭兵にとって契約は重要だし、私の機体も面倒を見て貰わないといけないから」
「それを信じろと? 貴女だけを此処から追いやることなど、私にとっては造作もありませんが」
「それはオキタが拗ねるから止めておいた方が良いと思う。
それに究極的には、私はオキタが無事ならそれでいい。オキタに迷惑を掛けないのであれば、最終的にそれがオキタの為になるのなら、私は何も言うつもりは無い。好きに謀略を巡らせておけばいい」
「私の邪魔はしないと?」
「必要ない。真正面から打ち砕くだけの力を、私達は持っている」
「言いますわね。これでも私、帝国でも有数の権力を持っていますのよ」
「だろうね。でも関係ない。
護衛も付けないほど強いP.Pを操る貴方でも知らないようだから言っておく。
真の暴力の前では、見せ掛けの力なんて何の意味も持たない。
あまり驕ると、凶暴なウサギにその傲慢さごと食い千切られるかもね」
『CP! 今のタイムは!?』
「2分……2分52秒です! 何なんですか貴方は! 全く最高です!!」
『当然だろーが! これでも辺境じゃエース張ってたんだからな!』
「フフ、私のオキタは凄いでしょ。でもその力を与えたのは貴女自身。
貴女はもっと知っておくべきだった。御しきれない力っていうのは、結構身近にあったりするんだよ」
『「舐めすぎなんだよ、俺(私)たちを」』
「……忠言、確かに受け取りましたわ」
この日を持って、セクレトのX-TSFは最終フェーズへの移行が決定された。
また、今回のタイムアタックの結果は第10世代TSF開発計画に参加する全企業、帝国軍の知る所となった。
あいつヤベーよ。文章でそう表現するのが難しいです。中々できないねぇ




