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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
41/91

39_長い時を生きる人たち②

241023 ちょっと加筆+文章修正


造語と用語解説

P.P:パラノーマル・ファンタズム。超常現象の意。読み方は単純にピーツー。

B.M.I:ブレイン・マシン・インターフェース。2024年現在で研究が進められている技術。

   劇中では外科的手術で機械を身体に埋め込んだ強化人間の意味で使ってます


 少し込み入った話になるから休憩しようよ。

 そうアンドーを誘い、作業を中断させたエリー。

 持ってきていた携帯飲料を投げて渡し、セイバーリングの足元に一緒に座り込んで話を切り出す。


「アンドーはさ、エルフのことどう思う?」


「何と言っても、まず見た目だろ。男はイケメン、女は美女揃いだ。

 嫉妬で宇宙が灼けるって喩えが生まれるくらいには羨まれているじゃないか」


「最初にソレが出てくるのがアンドーらしいなぁ。じゃあ、他の意見は?」


 ふむ、と顎に手を当ててアンドーは考える。

 続けて茶化すのも良いが、話を聞くと言った手前ふざけすぎるのも良くない。

 少し真面目な話でも振ろうと、アンドーは最近になって気付いた話を振ることにした。


「お前さんの機体を見ている整備士から言わせてもらうと、とんでもない技術力を持った集団だな。

 帝国とエルフのTSF技術は1.5世代開きがあるってのが一般論だが、儂にはそうは思えんかった。

 その疑念が確信に変わったのが、この間の一件だな。

 共和国の第10世代VTSFヴェルニスと戦える機体が7.5世代相当?

 っは、冗談も程々に言えってもんだ」


 セイバーリングを見上げるアンドーの目は疑問に溢れている。

 一般的に1.5世代程度の技術格差があると言われていた帝国とエルフだが、いざ箱を開けてみればその程度の差では済まなかった。

 帝国が正しくそれを認識したのは、皮肉にも脅威となりつつある共和国軍と、第六世代ELF‐セイバーリングの戦闘結果からだった。

 機体出力、推力、機体単体の搭載火力にバックパックユニットによって得られる恩恵。そして、第10世代を名乗るに相応しい特殊なシステム。

 それらすべてが鹵獲したリタのヴェルニスを解析することで丸裸となった。

 そしてフルスペックのヴェルニスを意のままに操る者が現れた場合、その性能はそれまでの世代を置き去りにすると言っても過言ではないことを、帝国軍は回収したデータの中で認識した。

 逆説的に、前評判通り帝国の7.5世代相当にあたるセイバーリングとヴェルニスでは、エリーが如何に天才的なパイロットであろうと、機体性能の差から為す術もなく墜とされていたであろうとも。


「オッキーも戦えてたけどね~」


「アレが参考にならんのはお前さんが一番知っておるだろ。

 第一、機体を壊すようにしてやっと戦えておったのと、そんな奴に付いて行ってフレームに歪みひとつないセイバーリングじゃ比較にもならんわ」


「あちゃぁ、やっぱバレちゃうか。

 失敗したなぁ、本国から怒られちゃうかも」


「まあ、お前さんたちに色々あるのは察しておる。

 言えないのなら言わんでいいぞ」


「気を使わなくていいよ。

 ボクは軍人じゃないし、機密なんて知ったこっちゃないから」


 唇を尖らせて言うエリー。

 見た目相応の姿に娘のように感じてしまうアンドーだったが、それはそれとして。

 エルフが自領域から出てくる"それなりの理由"というものを、アンドーは常々考えていた。

 付き合いが長くなるにつれ、どうでも良くなってしまう程度には考えて”いた”のだ。

 ラビットのクルーが何を隠していようが、アンドーにとっては今更だ。どうでも良いと考えている節すらある。

 決して無関心なのではない。

 隠し事程度どうでも良いと言い切れるほどラビットという場所に居心地の良さを感じている以上、相手の懐に入って探られたくもない腹を探るつもりは無いという一種の気遣いだ。

 しかし、エリーはその気遣いの壁を越えて話し出す。


「ELF06-セイバーリング。ボクたちからすればただの第6世代TSFだけど、たぶん帝国軍からしたら第10世代以上にあたるんだろうね。

 世代定義については、もちろん知ってるよね?」


「勿論。定義付けされた機能を搭載していることが条件だ。

 古くはステルス性があることが条件だったり、アウトランダーのように単体で亜光速を発揮できたり」


「そうだね。じゃあ、エルフにおける第6世代の定義って何だと思う?

 ヒントはこの間の戦いでセイバーリングに起きた事象だよ」


 そう言われてアンドーが思い出すのは、つい先日のオークリーの戦いだ。

 アンドーは艦内でコンテナ艦の切り離し作業のためブリッジに居なかったが、戦いが終わった後で双子やハイデマリーから、セイバーリングに起きた現象について聞いていた。


「蒼い光を纏ってビームを弾いたとかいう、不可思議な現象か」


「当たり! それでね、これはリタに聞いた話だけど、似たような機能はヴェルニスにも搭載されてるんだ。

 どこから情報が漏れたのかは知らないけど、確かに第10世代を名乗る資格はあるんじゃないかな」


「ヴェルニスに搭載された機能? 世代を名乗るに相応しい機能と言えば、B.M.I-Linkか。

 セイバーリングにも、アレと同じ機能が搭載されているのか?」


「流石アンドー、察しがいいね。でもね、それそのものじゃないよ」


 B.M.I-Linkは、B.M.I強化手術を受けた人間だけが享受できるシステムだ。

 文字通り身体に機械を埋め込み、強化し、脳まで弄繰り回した果てに機体と一体化し、戦闘能力を格段に引き上げる無法の技術。

 ただでさえ優秀な機体をさらに強化するため、ヴェルニスにはその機能が搭載されている。

 リタのように完成されたB.M.I強化兵であれば、身体と機体とを直接接続することにより、機体の反応速度と追従性を格段に向上させることが出来る。

 また機体に搭載されているCPUの予測と脳に埋め込まれた機器をリンクさせることにより、未来予知じみた先読み攻撃すら可能になる、今までにない強力な機体システムとなっている。

 

「ヴェルニスと違って、セイバーリングに搭載されているのは、搭乗者のP.Pを感知して機体性能を上げるシステムだよ。

 装甲が蒼く光ったのも、ボクのP.Pに反応した結果なんだ」


「それはまた、とんでもないシステムだな。エルフ発の超技術か?」


「ボクらにしてみれば、使い古した技術なんだけどね。

 P.Pっていう自然的に発生する現象を利用しているのがセイバーリング。

 外科的施術によって強化された肉体を機械と一体化させるのがヴェルニスのB.M.I-Link。

 機体性能を上げる部分だけは似てるけど、それ以外はただのデッドコピーだよ。

 ビームを弾くなんてのは出来ないって、リタも言ってたし」


「確かにP.Pは未だに人知の及ばない異能、儂らには何も分からん。

 むしろ、共和国のB.M.I-Linkすら帝国軍からしたら寝耳に水だろう。帝国でも開発されていただろうが、実戦投入できるほどの完成度では共和国に負けておる。データをぶっこ抜いた所まではいいものの、その先の研究なんかは帝国だってこれからだろうしな。

 しかしP.Pってのは、ビームを弾くほど強力な何かを発現させることも可能なのか?」


 人類が宇宙を自由に行き来し、スターゲートというワープ装置を操る時代になっても、人の中から発する異能の解析は進んでいない。

 それはP.Pを発現できる人口が非常に少なかったため、研究対象者として十分な数を確保することができなかったからだ。

 現在でも発現する数が少ないため、帝国や共和国ではP.Pを操る者は国によって管理されるだけに留まっている。

 そんな中、ほぼ全員がP.Pを発現できる種族がいた。

 それがアレンやエレンといったエルフ種だ。

 使い方によっては生身で戦場を蹂躙することすら可能であり、果てにはTSFの機能として超常現象を起こすトリガーとしてシステムに組み込むことが可能。

 その力があるからこそ、エルフは独自の星系領域を保つことが出来ている。

 帝国と共和国はその事実を認識しているため、B.M.Iという後天的な強化を身体に適用し、模倣によってP.Pを再現しようとしている。


 しかし、ここでアンドーには一つの疑問が生まれた。


「エリー、お前さんはP.Pが使えないと言ってなかったか?」


「――――――うん。そう、だったんだけどね……」


 エリーはP.Pを使えない。

 エルフは生まれながらにしてP.Pを使う素養を持っているが、P.Pが使えない例外も稀にいる。

 それでも、P.Pが使えないエルフはあまりにも少ない。ほぼ0と言って良い程だ。


「使えたのはあの時だけで、今はもう使えなくなってる。

 試したんだけど、アレンやエレンみたいに物を動かしたりできなくなってた」


 両手に視線を落とし、気落ちしたように言うエリー。

 白い目で見られるのが嫌で故郷を飛び出し、ようやく手に入れた力が再び失われてしまった。

 その事実がどれだけ心に負荷を掛けるか。

 アンドーには想像することしかできないが、エリーの様子がおかしい理由ははっきりと分かった。


「あれだけの力だ。何か、使えるようになる原因があるんじゃないのか?」


「……実を言うとね、エルフたちはP.Pの発現理由を知ってるんだ」


「なにぃ!?」


 サイコキネシスやビームを弾くという現象を発現できるのであれば、そこには何か理由があるはず。

 アンドーは気を紛らわせる程度のつもりだったが、エリーから返ってきたのは想像もしていない事実だった。

 帝国や共和国が欲しがり、それでも手に入らない力の発現方法をエルフたちは握っている。

 それがどういう意味を持つか、分からない二人ではなかった。


「その、理由というやつは……?」


「えへへ、ごめんねアンドー。それだけは言えないや」


 力なく笑うエリーに、アンドーもそれ以上の追求はできなかった。


「……絶対に他で言うんじゃないぞ。

 知られたら最後、帝国に侵略されてもおかしくない。

 最悪、お前さんたちが拉致される可能性すらある」


「そうなると大変だねー。

 無事じゃ済まなくなるから、この話はお終い……っと、二人から連絡だね」


 二人の端末に双子からの連絡が入る。

 エルフ本星と連絡が付き、2日後にはここへ装備一式と予備パーツが納品されるという内容だった。


「ELF-AC (E)? 見慣れん型式だ。

 ELFの規格はよく分からんがあの二人が発注した物だ、問題はないんだろうが……」


 アンドーは送られてくる装備品やパーツリストを確認するが、そのどれもが既存のセイバーリング用の部品とは違っていた。

 アレンとエレンが発注したとはいえ、発注先の手違いがあってこうなっている可能性もある。意図的に今までとは違う部品を揃えている可能性だってある。

 なので問題なく使えるのか確認しようと視線を向けた先に、苦虫を嚙み潰したような表情をするエリーがいた。


「おい、何て顔をしておる。やはり手違いがあったか?」


「絶対手違いだよ、ボクこんなの頼んでないもん。

 装甲やスラスターだけのつもりだったのに、ENGや武装まで項目にあるし。

 しかも送られて来るのは”アンセスター”の装備ばかり。

 あの二人、何考えているんだよ」


「アンセスター?」


「アンセスターはね、エルフ正規軍の正式採用装備の中でも特別な意味を持つんだ。

 先人たちから受け継いだ技術を磨くって意味が込められてる」


 エリーが端末で指差した部分にはAncestor-ENG(E)と記載があった。

 その他にもAC‐Sword-Rifle(E)、AC-Wing Thruster(E)などなど。

 アンドーが項目を捲っていくと、セイバーリングの組み立て予想CGが載せられていた。

 外見こそセイバーリングと似通ってはいるが、記載されている機体性能は完全に別物だ。

 ”飛び抜けた質で圧倒的物量差を覆す”というELFの設計思想が正しく反映された、まさしく怪物級のスペックを誇るモンスターマシンが生まれる事実に、アンドーの顔も歪んでいく。


「それも全部E兵装(エンチャンター)だよ。

 あ、E兵装ってのはね、P.Pの運用を想定した物を指すんだ。

 正規軍でも運用するのに認可が下りないことで有名なのに、何でこんなものが領域外に送られてくるんだろう?

 まさか、お爺ちゃんが?

 でもどうしよう、今のボクじゃP.Pを使えないのに……」


「……」


「もちろんP.Pが使えなくても、武装としてちゃんと使えるんだよ?

 P.Pが使えたら戦艦だろうと難なく叩き切れるビームサーベルを発振させたりできるだけで、P.Pが使えなくても十分な性能なのは間違いないんだよ。

 それどころか、送られて来る装備品を組み付けるだけでセイバーリング自体がフルモデルチェンジ並の性能アップになるんだけど……どうしよっか?」


「……さ~て、忙しくなるぞー。

 見たところ装甲どころかENGから新しく組付けなおす必要があるようだしの。

 じゃあエリー、明後日から宜しく」


 アンドーはどっこいしょと立ち上がる。

 P.Pの事といい機体の事といい、オッサンのキャパは越えましたと言わんばかりに、にこやかに笑って地面を蹴り、整備場から逃げるように飛んでいく。


「えちょっアンドー!? 逃げないで一緒にどうすればいいか考えてよー!!」


「知らん知らん! お家事情は双子と仲良くやればいい!

 それか新しい機体に向けて、そこの連中と模擬戦でもして腕を磨いておれ!」


 アンドーは整備場の隅から興味深そうに二人を見ていた第二艦隊の面々を指差す。

 エリーが指差された先を見てみると、出歯亀していた貴族たちはビクっと震え、苦笑しながら手を振ってきた。

 見覚えのある面々が覗き見していた事実に、やはりエルフって珍しいのかな? とエリーは当たり前の感想を抱いた。


「ったくも~……じゃあキミたちには、ボクと遊んでもらうよ!」


 声を大きく言うエリーに歓声があがる。

 短い期間ではあったが、交流のあった第二艦隊の面々は、この見た目少女のエルフが気になっていたのだった。


「ボクもちょーっとイライラしてるから、一方的になったらごめんね?

 でも大丈夫。ボクも本気出すから、キミたちにとっても有意義な訓練になるはずだよ?」


 新たな機体が組みあがるまではシミュレーションで。

 機体が組みあがった後は、実機で模擬戦を繰り返すエリーと第二艦隊のTSF部隊。

 機体性能の向上と共にメキメキと腕を上げていくエリーの姿に、後年第二艦隊発のファンクラブが設立されるのだった。



次回からは主人公視点に戻ります

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― 新着の感想 ―
デッドコピー(丸パクリ)じゃなくて劣化コピーでは? いい作品なのに時折用語で首傾げてしまうので勿体ないなぁと思っております。 軍事とSFは特にうるさ型の多い界隈ですのでご用心を(うるさい読者)
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