04_艦と愉快なスペースエルフたち_挿絵有
エルフ:長命種で顔が良い。帝国とは別の自国星系持ち。不思議な力があったりなかったり
ハーフリング(ハーフ含):小さい。頭が良い。実は金にうるさい
ヒト:平々凡々。いいとこ取りでもあるし、器用貧乏ともいう
241006 段落修正
ハイデマリーとの契約も済んだところで、宇宙港に停泊している母艦を案内して貰えることになった。
宇宙港の規模にもよるが、2000m級の大型艦までなら余裕で港湾施設に収容可能なコロニーがほとんどだ。
2000m以上の超大型艦クラスになると専用の港湾施設が必要になるのだが、所謂都会のコロニー以外に出張ることは稀だろう。需要と供給の関係上、運用コストに見合わないらしい。
「ウチの船は250m級のギリギリ小型艦に収まる範囲やからなー。
停泊料も安くて済んでるんよ」
「250mは輸送艦にしては小さめの部類? だよな。
それで儲けが出るのか?」
「それは運んでる荷物次第やな。
ウチはそれ程かさばらん物を取り扱うようにしとるし、クルーも多くないからこれくらいの大きさが一番扱いやすいんよ。
小さいと宙賊からも逃げやすいし、やっぱ小さいのは正義やで!」
噛み締めるようにグッと握った拳も小さいが、ハーフとはいえ実は小さいことを気にしているのだろうか。
直接聞くのは憚れるが、護衛対象としても小さいほうが守りやすいので良しだろう。
「っと、こっから先は低重力ブロックやな。そろそろ着くで」
《ここより先低重力ブロック》の案内板を潜ると港湾ブロックに入る。
靴底に着いているマグネットで歩くこともできるが、すれ違う人は全員地面を蹴って宙を移動しているのでそれに倣うことにする。
「あの卵みたいな形の紺色の船がウチの“インテグラ”や。
艦首付近の上部に外付けのコンテナ2つ付いとるやろ? それでウサギの耳みたいやねってことで、ラビットって呼ばれとるんよ」
ハイデマリーの指さす先には一隻の紺色の船があった。
言いがかりに近い気もするが、ウサギが丸まった姿に似ている気がする。
耳にあたる部分の外部コンテナと艦内は移動ができるようになっているようだ。
「外部コンテナ一つに機体一つの割り振りやから好きに使って貰ってええよ。
買った機体もここに届けてもらうようにしとくから、あとで整備班に挨拶しといてな」
「了解、仲良くする。
そう言えば、この船の艦長はハイデマリーなんだよな?
専用の艦長職を雇ったりしないのか?」
戦闘になるのなら商人のハイデマリーには荷が重いだろう。正面切って戦うのは俺になるけど、母艦が狙われることも十分考えられる。そうなった場合の対処を出来るのか正直不安になる。
「あー……せやな、帝国軍に居ったらそう思うんもしょうがないか。
あんな、オキたん。小型の輸送艦で専属の艦長職を雇っとる商会なんてあらへんで?
雇うのもタダちゃうし、ラビットは武装も最低限しかないから雇ってもやること無いねん
やからウチが艦長でも十分ちゅうわけ。
ラビットが狙われてもウチの指揮で何とかするさかい、そこは安心しといて」
呆れられたように言われた。
こっちで目覚めて直ぐに帝国軍に入ったからか、このあたりの常識? があまりよくわかってないんだよな。
けど自分の力だけで何とかしようって考えは好きだ。
ただのちっこい商人だと思っていたけど、覚悟が決まっているのは土壇場でかなり役に立つだろう。
「艦尾で商品の搬入作業中みたいやし、後部カーゴスペースの方から案内しよか。
誰かおったら都度紹介するわ……って、早速一人おるやん。
おーい! エリー!」
「うわ出た、やっぱりアイツか」
カーゴスペースに浮きながらタブレット端末と睨めっこをしている小柄なエルフを見つけた。
帝国軍に居た時に何度か顔を合わせた傭兵だ。
いい奴だし腕も良いんだが……なんかこう、典型的クソガキムーブが少し鼻につく。
あー気付いた、こっち来るぞ。
「マリーお帰り~って、あー! オキタ中尉だ!
なになに? もしかして本当に帝国軍クビにでもなったの?」
「相変わらず五月蠅い奴め。
ちょっと貴族の機体を壊しただけで、運悪くそれが帝都にバレただけの依願退職扱いだ」
「……え、本当にクビ? アハハハハ!
いつか面倒見てもらえなくなるかもって思ってたけど、まさか本当になるなんて、面白いねキミ!」
「やかましいわ。人の話聞いてるか?」
「もしかして一緒に働くの?
だったらボクは先輩だし階級も上なんだから、ケイイを持って接するよーに!」
「だから話聞けよ。
……もういい、相変わらずのクソガキっぷりどうもありがとう。
元気にしてたか?」
「まあね! ボクは天才だから、そこらの宙賊やヴォイドは野生のクレジットでしかないのさ!」
元気モリモリ平たい胸族のクソガキエルフことエリー(本名忘れた)が胸を張って偉そうに態度でのたまった。
エルフは長命種なので見た目で判断できないが、こいつは外見も内面も言動含めて10代中盤程度にしか見えない。
「話には聞いとったけどホンマに知り合いやったんや。エリーの戯言やと思っとったわ。
せやったらエリーにも勧誘来てもろたら良かったなぁ」
「あ~、ごめんね?
ボクも行きたかったんだけど、"シズ"が仕入れに行くっていうからお留守番がいるんじゃないかなって? 荷物の積み込みもあったしさ」
「別にええよ~、結果的にオキたんも契約してくれたし結果オーライや!
オキたん、エリーの紹介は別にせんでええやろ?」
「何度も会ってるからいらないな」
「ボクたちはマブダチだからね!」
「違うが」
「ボクが認める数少ないマブダチなんだから、オキたんは少しは喜びたまえよ!」
「オキたん言うなぶっ飛ばすぞ」
「いいじゃんか! マリーは良いのにボクはダメだって言うの!?」
互いに危ない場面を乗り切ったり背中を預けられた経験もあるが、それはこいつの機体に付いていけるのが俺の機体しかなかったからに過ぎない。
どうあがいても年に数回程度しか会ってない腐れ縁程度だろう。
おい、腕を引っ張るんじゃない。
「はぁ……」
「あっ……ごめんね? 怒った?」
「この程度で怒るか。お前がどんな奴かは知ってる」
掴んでいた腕を引っ込めて上目で探るようにエリーが見上げてくる。
こういう所が無駄にあざといんだよな、てか顔が良いなこん畜生。
これで俺より年上だっていうんだからエルフってのは神秘だ。
「ウチがオキたんを案内してもええけど、二人で積もる話もあるやろ。
エリー、積み荷の確認はウチが変わるさかい、オキたんの案内頼んでええか?」
「オッケー! じゃ、行こっか!」
「あ、おい! 悪いハイデマリー、また後でな!」
「ほーい、ゆっくりしていきや」
再び掴まれた腕をそのまま引かれてカーゴスペースを後にする。
エリーのやつ、体が小さい癖に力だけはあるんだよな。
駐屯地でガラの悪い連中に絡まれてる時も一人で何人かノシてたし。
エルフはサイキックだか何だかで体を強化することもできるらしいし、そういうこともあるのだろうか?
そんな非科学的なことがSFチックな世界に蔓延っているとは思いたくないけど。
「じゃあ順番に行こうか。
といっても、さっきのカーゴスペースが一番大きい場所で、あと面白そうなのは各自の私室と艦橋くらいしかないんだよね。
それともボクの部屋でも行く?」
「食堂とか医務室とかあるだろ」
「おお! それもあったね、じゃあ食堂に行ってお菓子食べよう!」
「案内だけしてくれればいいからな?」
廊下についてる移動レーンに乗って移動すると、それほど広くない部屋の入口に着いた。
食堂なんだろう、小奇麗な机と自動調理器具が置かれてある簡素な部屋だ。
そこに二人、これまた美麗なエルフの男二人がお互いを見つめ合いながらお茶をしていた。
一見すると絵になる空間だが……なんかこう、少し視線がネットリしてないか?
「やっほー、アレンにエレン。二人とも。今日もお熱いねぇ」
「これはこれは、エリー氏ではないですか。搬入作業ご苦労様です」
「私たち双子の相瀬に混ざりに来られたので?
嬉しい申し出ですが、我々兄弟の隙間に入るには、まだ貴女への愛が足らないのです」
「あ、うん。そうじゃないからダイジョウブダヨ」
これはまたキャラが濃いエルフたちだな、あのエリーがスンって顔してやがる。
つまりアレだろ、この美麗でイケメンエルフ二人は双子の兄弟でデキてるってやつ。
まったく、銀河は広いぜ。
「オキタちゅ……准尉がマリーと契約したから、ボクが艦内を案内してるんだ。
オキタ、こっちが通信担当のアレンと、索敵担当のエレン。
こんなんだけど、スッゴク優秀だから仲良くして損はないよ」
「やあ。君がオキタ元中尉だね?
私はアレンだ。エリーから話は聞いているよ」
「そして私がエレンだ。
見分けがつかないと思うが、時間を掛けて覚えてもらえると嬉しいな」
「オキタだ。TSF乗りだが訳あってVSFに乗ってる。これから世話になるよ」
「「末永くよろしく」」
長命で高度な技術力を持つエルフは自国の星系からあまり出てこないで有名なんだが、エリーといいこの双子といい、自由に暮らす連中もいるんだな。
帝国とは別路線を歩けるほど力のある国だから、外と関わりを持つのは本当に稀だと思うんだが……。
どれくらい稀かと言うと、隣の10台半ばにしか見えないエルフが、珍しいという理由だけで駐屯地でナンパされまくるくらいだ。
「とても優秀と聞いていたが……うん、イイね。アレン、彼は“イイ”よ」
「そうだね、エレン。彼は“イイ”よ」
「背筋に響くこと言わないでもらっていいか、そんな気はないからな?」
ネットリとした目を向けるんじゃない! マジかよって顔をしたエリーが見てくるが、まさかお前勘違いしてるんじゃないだろうな。俺は違うからな? 女の子が好きだからな!?