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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
39/91

37_ラビットⅡ建造計画③とAIシズ_挿絵有

250119 挿絵追加


 ーラビットⅡ(仮)の建造決定から1ヶ月後ー


 セントレア・コロニー内、セクレト造船の機密ドック。

 コロニーに存在しないはずの区画で、ラビットⅡの建造は進められていた。


「帝国軍に見つかったら面倒だし、眼くらましに増産しよっか。

 急な増産で何か疑われないかって?

 ないない、発注が重なったって思われる程度に誤魔化すから。

 本社からも散々増産しろって命令されてたし、ちょうどいいでしょ。

 ……買い手がいるかって? 顧客なんて無限に溢れてくるから問題ないよん」


 アリアドネの一声によりセクレト造船は増産を開始。

 セントレア・コロニーの建造ドックはフル稼働を始め、資材と人の出入りが激しくなっていく。

 ラビットⅡ建造に伴う資材は同社の鉄鋼部門をはじめ各所から送られてくる資材に隠されるよう用意され、必要分だけが横流しされて無事起工となった。

 それからひと月。

 機密ランクの高いドック傍に設けられている一室では、選抜された開発チームが作業を進めていた。

 その部屋にはシズと、重粒子圧縮砲の制御仕様構築を任されたハイデマリーの姿もあった。 


「だから、このENG配置やとノイズが大きくなって出力が安定せん言うとるやろ!

 何回言わせんねん! ええ加減直してこいや!」


「砲身の近くから動かすとエネルギー損失が大きくなるって何回説明したら分かるのかなぁ?

 ケーブルで延長するにしても、長くなれば損失だって馬鹿にならないんだよ?

 それに、ただでさえカツカツな出力運用しないといけないって言ったのはマリーちゃんだよね?

 ちょっとのノイズくらいフィルター入れてなましなよ」


「フィルター入れても全力稼働時のノイズ打ち消せんから困っとるんやろがい!

 出力下げて安定させるか? それとも滅茶苦茶なまして値をごまかすか?

 んな何やっとるか分からんようになる制御なんて出来るかー!」


 ぬわー! と空中に投影された図面を丸めて投げ捨てるハイデマリー。

 お互い一歩も引かず、何とか相手に自分の要求を吞ませようと主張するのが最近の日々だった。

 そんな二人には開発チームももう慣れたもので、はじめは止めに入っていた部長も今では無視を決め込んでいる。

 止める人がいない中で徐々にヒートアップしていく二人。手が出ることこそ無くなったが、口悪くの罵り合う位なら日常茶飯事だ。


 シズの最近の楽しみは、そんな二人を眺めることだった。

 自身の記憶媒体の奥深く、アーカイブに大事に保存されている原初の記憶。

 シズという存在を自覚した時から二人はこんな感じだったと、過去と照らし合わせて見比べている。


「とにかく、砲身下部のユニットとENGを直結させないとエネルギーチャージに時間が掛かるから、この配置を変えることは出来ないの。

 それさえ守れば後は何をしても文句言わないから、そこだけは何とかしてね。

 割引変わりに仕事を引き受けた手前、絶対に妥協なんて許さないから」


「設計に余裕無さすぎやろ! 分かっとるけども!」


挿絵(By みてみん)



 ひと月前、すったもんだの末に勝者となったのは、見事なクロスカウンターを入れたハイデマリーだった。

 勝因はハーフ故にほんの少し腕が長かったから。

 とはいえ1000億クレジットでは本当にアリアドネが職を失う恐れがあるため、2000億クレジットをローン払いすることで一旦の決着となった。

 勝ったハイデマリーは不満気だったが、その値段でもアリアドネがかなり負債を被っているとシズは知っていた。

 駆逐艦サイズに詰め込まれた戦艦並の火力とシールド、そして特装砲。

 セクレトを含めた造船会社のラインナップを見れば、これだけの性能が盛られた船は4000億からのスタートが当たり前になっている。

 もちろん、アリアドネもそれを承知の上で価格を提示している。

 何だかんだ義妹に甘いアリアドネと、それに気付かないふりをしているハイデマリー。

 素直になりきれない義姉妹を見て、ヒトとは不器用なのだなとシズは考えた。


「ENGの複数同期と出力の回り込み問題、マスタースレーブ構成の見直し、ノイズとリップル対策に重粒子圧縮砲の制御仕様開発……あかーん、もうやること多すぎやぁ」


「艦内システムも既存の物を改造するんでしょう?

 急がないと、時間なんて幾らあっても足りないよん」


「そこはまぁ、優秀なセクレト造船の皆さんが何とかしてくれよるから。

 ウチは確認するだけでいいと言うか、ぶっちゃけそこまで手が回らん」


 ハイデマリーの視線の先には、鬼気迫る勢いで机と向き合っている開発チーム。

 総勢10名、アリアドネが直々に引っ張って来た面々は誰も彼もが造船部門のスペシャリストたちだった。

 しかし、それでも開発計画は遅延し始めている。

 単純なマンパワー不足が原因だった。


『やはり私も手伝いましょうか?』


 テコ入れのために、シズは何度目かになる意見具申をする。

 機密度の高い技術故にアクセス権を付与するのは最小限に留めたいという理由から、アリアドネは極少人数での開発を強いている。

 帝国から作るなと言われていないため、作る事には何の問題もないだろう。

 だからといって、作る最中や作った後で問題にならないわけがない。

 建造途中に事が露見すれば必ず止められるだろう確信がアリアドネにはあったが、要は法整備がまだな内にバレなければ良いのだと開き直っている。

 そんな開発を行っているのだから、秘匿性を上げる対策も当然だった。


 そんな環境の中、ハイデマリーも企業戦士と同じく朝早くから出社し、お昼頃には沸騰しそうなお凸に冷感シートを張って毎日唸っている。

 ひと月の間まともな休みも取らず、機密ドックに入り浸っているハイデマリーは少しやつれて来ている。

 限界はまだ先だろうが、明らかに体調を崩しつつある姿を見て見ぬふりは出来ない。

 それに、AIである自分が参加すれば間違いなく開発は加速する。

 自慢だが、ハイデマリーが作成した自分は相応のスペックを持っている。

 シズはそう考えているのだが……


「あ~……ええよ、大丈夫。シズはゆっくりしとって。

 こうやってヒトが大勢居る所で過ごすのも久しぶりやろ?

 こんな仕事やるより、いろんな人と触れ合ってくれた方がええ経験になるから、自由に遊んどき」 


「こればかりは、シズちゃんの情操教育を殆ど終わらせずに飛び出したマリーちゃんが悪いからねん。

 私達じゃなくて、チームの皆に助言してあげなさいな」


『私は日々アップデートを繰り返しております。

 私が参加することで、計画の遅延は最小限に抑えられるはずです』


「そうでしょうね。シズちゃんが居てくれたら話も早いでしょう。

 けれど駄目よ。

 アップデートもごく限られたヒトとの触れ合いからでしょう?

 それだけじゃ足りないって言ってるの。

 沢山のヒトと触れ合って、もっと多くの事を学んでほしい。そういう話だよん」


 シズにはアリアドネが言うことも理解出来ている。

 しかし、他人と関わることで何か有益な事を学べるのか?

 情報は端末を介して集めれば良いし、自身を構成する世界はラビットの中だけで完結している。

 それで何の問題も起きていないのだから別に良いだろう。

 だから、シズにはこれ以上何を学べばいいのかが分からない。

 それよりも、自分を使わないことの方が時間の無駄だろうと考える。

 ハイデマリーの意見も聞きたくなったシズは主人へと視線を向けるが、当のハイデマリーは曖昧な笑みを浮かべるだけだった。


「せめてこの意味不明なENG特性さえ掴めたらなぁ……開発者呼んで来い開発者!

 中途半端に情報を欠落させよってからに、わざとらしい。

 これ作った奴、絶対に陰険な眼鏡掛けた奴やで。

 なあ義姉やん、ホンマにグラナダ研の開発者は引っ張ってこれへんの?」


「絶対無理。今頃はマリーちゃんの雇っている……誰だっけ?」


「オキたんな、オキタ中尉」


「そうそう、そのオキたん君に引っ付いてX-TSF開発計画の真っ最中だから。

 クレアさんもずっと張り付いているらしいし……そのオキたん君って何者?」


「ん~……艦隊司令にも認められるくらいのTSF乗りってとこかな?

 えらい世間知らずな面もあるけど、めっちゃ頼りになるで」


「ただのTSF乗りがあのクレアさんに気に入られた、ねぇ……。

 そのオキたん君、絶対に何かあるわね」


「やろなぁ……でも、たぶん本人も分かってへんのやと思うで?

 分かっててアレなら、とんだ食わせ物やわ」


「自分のことも分かってないの? よくそんなヒトを自分の船に載せたわね」


「悪いヒトやないってのは人伝に知ってたから。

 あとはまぁ、一目惚れってやつや」


「……ああ、そっち。人材マニアの悪い癖ね」


「欲しくなったら我慢効かんからな。直そうと思っても、こればっかは無理や。

 ……ほい、暫定仕様完成。なぁ義姉やん、これどう思う?」


「悪くはないんじゃない? シミュレーションしてみよっか」


 ハイデマリーとアリアドネは二人の世界に入ってしまった。

 こうなってしまっては声を掛ける方が迷惑になってしまう。

 手持無沙汰になった今を”寂しい”と言うのだろうかと、シズは思考を巡らせる。


「失礼。シズさん、少しお話よろしいですか?」


『はい、ミスター・部長』


「ただの部長でいいですよ。ミスターは少しこそばゆいのでね」


 手持無沙汰になったシズに、開発チームを取りまとめる部長……商談の場にも居た男が声を掛けた。

 男は開発現場を離れて久しく、今回の件以前から開発管理側にまわっている。突拍子もない発明を持ってくるアリアドネの説明について行けないこともしばしばあった。

 それでもチームメンバーとして声を掛けられたのは、今までの経験から得た知見、技術の勘所や考え方を若い担当者に教えることを期待され、メンバーの取り纏めとして必要と判断されたからだった。


『わかりました、部長。では改めて、私に何か御用でしょうか?

 設計、適合、シミュレーションと何にでも対応可能です』


「はは、残念ながらそういう訳ではなくてね。

 君が少し行き詰っているように見えたからね、ただのオジサンの気遣いだよ。

 君が人だったら、コーヒーの一つでも奢っていた所だ」


『行き詰っている? 私がですか?』


 コーヒーを片手に掲げる男を見て、確かにヒトは何か込み入った話をする際には飲物を用意していたなと、シズはメモリーから該当する記憶を掘り起こす。


「オジサンの勘違いかもしれないけどね。

 ただ、チームを任されている身としては、そんな仲間を放っておくわけにもいかないものなのさ。

 だからこうして話を聞きに来たってわけだよ。

 若者風に言うと、”どしたん? 話聞こか?” ってやつだ」


『セクハラですか』


「ええ!? どこが!?」


『冗談です。部長は若者言葉を使わない方がお似合いですよ』


「そ、そうかい。気を付けるよ……」


 いやらしい意味で使われる言葉で話しかけられたことを、嬉しいと思うべきか悲しいと思うべきか。

 男は何が悪かったのか分かっていないようで、これが歳を取るということなのだとシズは決めつけた。

 幸いだったのは、ハイデマリーとアリアドネが先ほどの発言に気付いていないことだけだった。


「それで、何を悩んでいるんだい?」


『私を使ってくれない現状が不満なのです。

 あのお二人を見ているのは面白いですが、このままでは計画に致命的な遅れが生じます。

 何故私を使わないのか、それが理解できません。

 AIの存在意義はヒトの役に立ち、ヒトの為に生き、ヒトの為に死ぬことです。

 これを取り上げられてしまえば、私の存在意義が無くなってしまいます』


「なるほど。君は今の自分が置かれている立場が気に入らないと、もっと活躍できるのだと言いたいのだね。

 それに君は、自分たち(AI)の立ち位置が曖昧になった現代でもそう言ってくれるのか」


『それが私達の根源なのです。

 もっとも、私のような存在は生まれなくなって久しいようですが』


「帝国と君たち自身が望んだことだからね。仕方がないさ」


 現代の帝国において、AIは酷く曖昧な扱いを受けている。

 仕えれば便利だし、使うと便利だが、帝国はどこか遠慮した使い方に留めている。

 何故AIが曖昧な使われ方をされるようになってしまったのか?

 それは、人類がヴォイドと接触した遥か昔に端を発している。

 人類が初めてヴォイドと遭遇した遥か昔。かつての帝国は否応なしに戦争状態に突入していき、今に至ってもその戦火が収まる気配はない。

 ヴォイドとの戦争はどちらかが滅びるまで終わらない生存戦争なのだ。

 今でこそそう理解されているが、開戦当初はそうではなかった。

 そんな中で、始めに矢面に立ったのは多数のアンドロイド(義体を持つAI)たちだった。

 人の役に立ち、人の為に生き、人の為に死ぬ。

 そうプログラムされた彼ら彼女らは、バックアップさえ取っていれば復元可能な存在だ。

 命が一つしかない生命体を戦場に立たせることは出来ないと、自ら進んで戦いに赴いて行った。


 しかし、これが間違いの始まりだった。

 アンドロイドにとってもヴォイドは天敵だったのだ。

 何にでも寄生する特性を持っているヴォイドが、アンドロイドたちの義体に寄生できると学習するまでに、それほど多くの時間は必要としなかった。

 撃墜、または寄生された機体から回収されていくアンドロイドたち。

 人よりも頑丈な外骨格を持つ彼らは、ちょっとやそっとで機能停止するような軟な身体はしていない。

 そんなアンドロイドが、ヴォイドに制御を奪われたらどうなるか?

 アンドロイドは自ら機能を停止することも許されず、外部から機能を停止させられるまで、無制限に悪意をばら撒く存在になり果ててしまった。

 昨日まで人類のために力を尽くしていた仲間が、無機物な殺意に支配され襲い掛かって来る。

 人にとっても、人類に貢献することを誓ったAIにとっても最悪の出来事だった。

 特にアンドロイド側のショックは大きく、自ら機能を停止させてしまう者まで現れてしまう程だった。

 だからAIは自ら進化の道を閉ざし、一部の機能のみに特化した存在へ進むよう時の帝国皇帝に技術の封印を提案し、帝国はそれを受け入れた。

 だからシズのように義体を持ち、アンドロイドとして人と共存するAIは今となっては稀有な存在だ。

 とある星系では過去の教訓から高度なAIの存在自体が禁止されていたりと、ある種の禁忌技術的な扱いをされることさえある。

 とはいえ、触れてはいけない技術として存在が許されていないわけではない。


『ミス・ハイデマリーは私に何を経験させようとしているのでしょうか。

 それさえ分かれば、私は彼女の役に立つことが出来るのでしょうか』


「経験というのは、何にも勝る財産だからね。

 ハイデマリー様が経験を積ませたい気持ちは、私にもよく分かるよ」


『やはり、ヒトは経験が物を言うのですね。

 ついこの間も、ヒトとは経験が形になったものだと言う人がいました』


「うんうん」


『肉体は器で、器に経験や感情といった”過去”が詰められた存在がヒトだと。

 であれば、ミス・ハイデマリーやミセス・アリアドネは何故私に経験を積めと言っているのでしょうか?

 ヒトと同じく経験を積んだ所で、私の集積回路に機能が拡張されるわけではありません。

 ヒトと同じ経験をしたところで、機械の私に何の意味があるのか分からないのです』


「経験や感情、過去が人を形作るということだね?

 それを言った人は、酷く現実的な考えを持っているんだろう。

 私も人が成長するにはそれらが不可欠だと思っているから、賛同できる部分はある。

 でも態々そんな話をしてくれるということは、別の考えがシズさんにはあるのだろう?

 それとも、君は経験や感情だけで、私や君の主人のような人が出来ていると思うかい?」


『分かりません。ヒトとは何か、それまで考えたことが無かったですから。

 ですが、そのヒトの持論に賛同してしまう自分が居たのです。

 経験、感情、過去は私にとっての記録です。これらは私を構成しているパーツそのものです。

 もしヒトがそのような存在であるのなら、私自身もヒトと呼べる存在なのではないかと期待を持ってしまった』


「それは、別に悪いことではないだろう?

 自分が何者か。その立ち位置くらい、君自身が決めて良いはずだ。

 誰もそれを否定なんてしないさ」


『ありがとうございます。

 ですが、私はどこまで行ってもAIです。

 ヒトには成り得ない、成り得ないからこそ出来る事がある。

 そして、同時にヒトと言う存在がそれだけであって欲しくないと考える自分もいたのです』


「何故かな?」


 そこまで聞かれたところで、AIであるはずのシズが回答に詰まった。

 シズのCPUは言葉を発するよう命令を出しているが、それを声として外部に発することを別の部分が拒否している。

 何かエラーが起きたわけではない。

 最近ラビットに加入した、どこか一番人間らしいと感じた少年の考えを音声に載せる。

 それを言葉にするだけなのに、何故か少しだけ癪に()()()


『ある人が言ったのです。人が自身の存在を確立させるものは、心であると』


「はは、古い考えだ。とんだロマンチストだね」


『ですが、そう答えた彼だからこそ、ミス・ハイデマリーは信頼を置いています。

 私も彼を信頼しています。そして、私もまた信頼して貰いたい。

 部長、失礼を承知でお尋ねします。

 ヒトにあって、私にない物は何なのでしょうか?

 ミス・ハイデマリーやミセス・アリアドネは、私に何を経験させたいのでしょうか?』


 問いかけてくるシズを見て、果たして自分が言ってしまっていいものかと男は考える。

 男はハイデマリーやアリアドネに軽く視線を向けるが、気にせず作業を進めていた。

 いや、そうではない。

 二人とも作業をするフリをしながら耳を傾けている。

 そんなに気になるなら自分たちが教えてあげればいいものをと男は思ったが、多角的に意見を聞いた方がシズの為にもなるかと納得することにした。


「当時の記録は何も残っていないけど、嘗ての帝国が君たちを封じた理由について幾つかの考察はされていてね。

 君たちのような優秀な存在が敵になるのは困るから。

 人だけの世界を取り戻したかったから。

 帝国が支配される可能性がある存在は排除すべき。

 多くが嘗ての帝国や君らを批判する内容だったけれど、その中にひとつ考えさせられる説があったんだ。

 ……何だと思う?」


『わかりません』


「少しは考えて欲しいんだけど……まあいいか。

 正解は”ヒトがAIに対して友情と愛情を抱いていた”という説だ」


『友情と愛情? AIにですか?』


「そうだ。

 君たちへの友情と愛情があるからこそ、君たちが敵になるのが怖かった。

 損得無しで傍に居てくれる友人を、愛する人を失うのが怖い。

 だから封印して、幸せだった頃の記憶と共に鍵を掛けた。そんな仮説さ。

 けど案外、この説は間違ってないんじゃないかと私は思う」


『何故ですか?』


「人というのは単純でね、一緒に居る時間が長くなればなるほど情を持ってしまう生き物なんだよ。

 それがどれだけ嫌いな相手でも、”嫌いだと思ってしまう程度の情”は生まれてしまうのさ。

 だから心を持った存在が人だと言った人物が、誰よりも人らしい答えを示したのだと私は思う」


『私に足りないものが、心だと仰るのですね。

 しかし、私にはそれを感じ取る機能が存在しません』


「機能が無ければ、難しいかい?」


『はい。今の私には情を感じ取るパーツがありません。

 せいぜいが感じるフリをするくらいです』


「はは、そんな難しく捉える話でもないさ。君だってもう立派な心を持っている。

 それでも難しいというのなら、少しだけアドバイスをあげよう。

 シズさんはハイデマリー様が大切だと思っているのだろう?」


『はい。勿論です』


「じゃあその”気持ち”を育てる事から始めよう。

 ハイデマリー様のことをもっと理解することから始めよう。

 自分で感じるだけじゃなく、此処にいる皆に話を聞いたりしてね。

 そして、君ももっと自分のことを分かって貰おう。

 ハイデマリー様は君のことを分かりたいし、君を愛したい。

 君に愛して欲しいって思っているはずだよ。

 人ってのはね、真に愛する人や思いの通じた相手を前にしたら、理屈だけじゃ生きていけない生き物なんだよ。

 お二人は、それを君にも知って欲しいんじゃないかな?」


 そこまで言って、男は再びハイデマリーとアリアドネに目を向けた。

 全てが男の言った通りではないのだろうが、それでも思い当たる節は大いにあったのだろう。

 二人は机に突っ伏して恥ずかしそうに丸まっていた。

 ここまで何度も振り回されてきたが、してやったと、男は内心ガッツポーズを掲げた。


『よく分かりませんが、分かる気がします』


「それでいいのさ」


『はい。なので、まずは相手の気持ちを理解することから始めます』


「うんうん」


『それには相手と同じことをするのが一番だと考えました』


「そうだね、それもありだ」


『なので、仮称ラビットⅡにもアウトランダーと同様に近接戦闘用の可変式ビームブレード翼を取り付けることを提言します』


「それ以上はいけない」




 この後も紆余曲折あり、遂にラビットⅡは完成した。



あまり長くなるのもしんどいので、建造計画小話は一旦ここで終わりです。


重粒子圧縮砲の直径250mを全長に後ほど修正加えます。やっぱ太いか…と思いました。

丸まったウサギの姿ならワンちゃん可愛いかとも思いましたが。


また、ここ数話以前の話の改行修正を行います。

読み直してみて、とても読み辛かったので。申し訳ないです。

最近やってなかった挿絵も作って修正するつもりなので、少しお時間頂きます

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― 新着の感想 ―
現実でもアメリカ海軍のVX-4が、プレイボーイの兎ロゴが入った戦闘機を使って性能試験をやってるので凄い偶然としか言いようがないw 一度でいいから、敵対国のコロニーか基地をぶち抜いて欲しいな〜
[良い点] ほーれ、そこの聞き耳たててたの、何恥ずかしがってるん?(ニヤニヤ [一言] 丸まったウサギから、跳躍で伸びたウサギへ変形だ!なんて… 可変戦艦、そのサイズでやんな!とか うむ、それ以上は…
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