29_新たな出会いと傭兵ギルド_挿絵有
241021 挿絵追加
しっかりと身体を休ませた翌日。
昼前に目が覚めたこともあり、端末にはクルーの殆どが出掛ける旨の連絡を残してホテルを出て行っていた。
アンドー、シズ、ハイデマリーはラビットの補修方法の確認へ。
アレンとエレンはセイバーリングの予備パーツを集めるために故郷へ連絡を取りに行ったらしい。
となると俺もTSFを見繕いに出歩くべきなんだろうが、既に昼前と言うことで外出しようにもどうも気乗りしない。
さてどうしたものかと考えるが、今日くらいはゆっくりしても罰は当たらないだろうと自分を言い聞かせることにした。
結局今日一日を休養日にあてようと決め、借り受けたホテルの共有スペースに足を運ぶ。
が、行った先でエリーとリタが待ち構えていた。
「オッキーおはよう、ちょっと遅いんじゃない?」
「おはよ。よく眠れたみたいで良かった」
「なんだ、出かけてなかったのか」
そういえば端末には連絡が入っていなかったなと思い返す。
「もしかして待ってたのか?」
「そうだよ? セントレア・コロニーに行くって約束したじゃん」
「オキタが私の面倒を見る約束だったはず。なら一緒にいるべき」
なるほど、こうやってイツメンというグループが出来上がるんだな。
女の子二人と一緒に町ブラができることに少し気恥しいものを感じるが、イカンイカンと思い返す。
閉鎖空間の船の中で男女の仲になるとか周囲への影響が大きすぎる。
何より色々と我慢できなくなる可能性があるから自制しろとハイデマリーに忠告されたばかりだ。
ダメだ、ちょっと気が緩むと直ぐに変な方向に思考が傾く。
それもこれも、昨日から様子がおかしい二人のせいだ。
「セントレアに行くのは良いけど、まず飯が食いたいな。腹減った」
「じゃあ食べ歩きしながら傭兵ギルド行こっか。
ハイパーレーンの連絡船に乗ればすぐ着くから向こうで食べよ。
リタも傭兵登録しないといけないんでしょ?」
「うん。傭兵登録しておかないとTSFの違法所持でヴェルニスを徴収されるかもしれないから、出来れば今日のうちにやっておきたい」
「因みに今の身分は?」
「退役済みの元帝国軍人」
「マジでやったな、あの司令官」
昨日の今日で身分の偽装、シズのハッキングよりも薄ら怖いものを感じる。
あの人が決めたことが本当であり事実になるのだろう。
昨日リタを迎えた時にあの場の野次馬が何も言わないどころか、逆に祝福するような声を挙げるくらいだ。
徹底した上意下達、こっちに実害がないからいいんだが……あまり関わり合いたくないな。
「じゃあ行こうぜ。連絡船ってのはどれだけ本数が出てるんだ?」
「5分に1本くらい」
山手線感覚で乗れるとは恐れ入った。
☆
エスペランサ・コロニーからセントレア・コロニーまでの移動時間は極僅かだった。
地球に居た頃の感覚なら、星系内の移動とはいえ年単位で時間が掛かるはずだ。
それをハイパーレーンのお陰で1駅移動する程度の時間で宇宙を駆けることができる。
慣れた感覚とはいえ、その事実を思うとまだここが夢の中なんじゃないかと思ってしまう程だ。
「久しぶりに来たけど、セントレア・コロニーはやっぱ凄い人だね~。
せっかくだし色々見て行こうよ」
「私は初めて来たけど、凄い都会だね。ここなら本当に何でも揃いそう」
「ビル高けー、ここがコロニーの中だってこと忘れるくらいだ」
ギガント級コロニーと言うだけあって人が多いのなんの。
東京かと思う程の人と街の密集具合に目が回りそうだ。
「とりあえずご飯だよね?
スペース握りメシが最近流行ってるらしいし、それ買って食べようよ」
「スペース握りメシ?」
「炊き立ての合成ライスに魚系の合成食品を包んだ食べ物だって。ほらこれ」
エリーが端末に映る画像を見せてくるそれは、どこからどう見てもおにぎりだった。
まごう事なきおにぎり、しかもシャケイクラ入り。
これは間違いなく旨い……旨いんだが、こんなハイカラな街に来てまで態々おにぎりを食べる気はしない。
「ご当地バーガーが食べたい。
キッチンカーで買うようなちょっと高いハンバーガーがいい」
フェアとかでやってるキッチンカーのハンバーガー、一度は食べてみたいと思っていた。
基地やラビットで出てくるハンバーガーは食べ飽きたし、そろそろ新しい味を開拓したい。
探せばバレンシア星系の特産品とかを使っているモノが出てくるかもしれないし。
「え~、ハンバーガーなんて何処でも食べれるじゃん。リタは?」
「静かなテラスでランチ」
「お、お嬢様っ…!」
「お前が元貴族だったのを忘れてたわ」
「嘘だよ。別に食べられればなんでも良い」
ニヤっと笑うリタだが、たぶん行ってみたいんだろうなと言うのが分かる。
何せ目が輝いていて、期待を隠しきれていないのだ。
こうなってしまっては仕方がない。
さっとエリーに目配せをすると、仕方がないと言わんばかりに肩を竦めてくれた。
「じゃあ静かなテラスでランチだな。エリー、場所探せるか?」
「ちょうどお昼過ぎだし、穴場を探すしかないよね。うーん……」
「別に無理に探さなくてもいいよ?」
「せっかく帝国に戻ったんだ、良い物食べたいだろ」
「そうそう。共和国で何食べてたか知らないけど、セントレアでは食べられない物なんてないんだから贅沢言って良いんだよ。
とは言っても、この時間だと何処もいっぱいだなぁ~」
俺も自身の端末で近場の店を探すが、どこも満席の表示となっている。
シズに広域エリアサーチで探して貰おうにも、お昼時の時間帯だと希望の場所は空いていないだろう。
マズったな、もう少し俺が早く起きてれば店も選べたはずなのに。
「―――もし、そこの御三方。
静かな場所でのランチをお探しでしたら、私共のお店にご招待いたしますわ」
端末と睨めっこしていた時に、ふと耳に届いた女性の声に振り返ると、そこには白髪を綺麗に切りそろえた同年代の女の子が立っていた。
「誰だ?」
「おほほ、そう邪険になさらないで下さいまし。
私は少しばかり事業をやっておりまして、このセントレアでも新たにお食事処を開店する予定ですの。
ところが急ごしらえでスタッフを集めたせいか、お恥ずかしながら実務経験の乏しい者ばかりになっておりまして。
あなた方を招待する代わりに、オープニングスタッフの実地訓練をさせていただけません事?
もちろんこちらからお誘いさせて頂いているのです、代金は頂きませんわ」
いきなり声を掛けられて、しかも身内話を聞かれていたような話の掛けられ方。
パッと見るだけで品の良さが伝わってくるお嬢様に見えるが、正直怪しいことこの上ない。
タダより怖いものはない、ハイデマリーならそう言って即断るだろうが、背と腹が引っ付く寸前の俺たちにとっては渡りの船でもある。
「……どうする?」
「いいんじゃない? 何かあってもこの面子なら大丈夫だって」
「私が言い出したことだし、問題ない」
全員懐に銃は持っているし、いざと言う時は何とでもなるか。
むしろ白兵戦に慣れてない俺が一番お荷物な気が……マジか、認めたくない事実に気付いてしまった。
「こちらの名刺をお店に付きましたら提示して下さいまし、話は付けておきます」
「店名は……Es nuestro secreto……? どういう意味だ?」
「”私達の秘密”ですわ。是非楽しんで下さいまし」
☆
ランチは……まあ、旨かった。
日当たりのいい静かなテラスで、当店自慢のコース料理とやらを堪能させて頂いた。
旨かった、たぶんとんでもなく旨かったんだと思う。
リタとエリーが出てきた料理に”自然食品!?”って白目を向いて驚くほどには満足していたからな。
どの食器を何の料理に使えばいいか分からないという点と、セントレアの五つ星ホテル、その屋上テラス席を貸し切りしていた点を除けば、俺だって正気を保って味わえていただろうさ!
何がちょっとしたお食事処だ。
本来ドレスコードで行くような場所に普段着の傭兵3人がおっかなびっくり案内されて、気付いたらレッドカーペットの上だ。
あの女、本当に何を考えてたんだ。
超高額な請求が来るかと思いきや、言っていた通り無料だったし……分からない、都会怖い。
そんな生きた心地がしないランチを終え、所変わってセントレアの傭兵ギルド本部。
セントレア・コロニーの傭兵ギルドは帝国におけるギルド本部扱いらしく、受付ロビーでさえかなり大きな造りになっている。
受付も俺が登録したギルドにいた厳ついオッサンではなく、ぴしっと制服を着こなした品の良さそうなお姉さん方がずらりと並ぶ。宇宙に出ようが人の考える事は変わらないということだ。
ただ、ギルド内には一目で傭兵と分かる人物は少なく、だいたいがスーツ姿かギルド職員の制服を着た人たちだ。
ギルド本部なら登録傭兵の情報も多数集めているだろうし、目的にあった傭兵を紹介して貰えることを狙った客なのだろう。
しかしエリーとリタがいるせいか、一部お零れを狙った連中からの視線も送られてきているのが鬱陶しい。
傭兵は自由奔放だと思われているせいか勘違い野郎が多い。俺も軍に居た頃からよく知っている。
そうじゃないと当時からエリー係なんてさせられてないからな……。
これ以上物見遊山をしていると何時エリーがキレるか分からない、とりあえず空いている所で話を聞こうと受付まで足を運ぶ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「登録1名、更新2名で頼みたい。
所で傭兵の数が少ないようだが、首都星系なのにこんな感じなのか?」
「皆様バレンシア星系外からお越しでしょうか? でしたらこの光景も珍しいかもしれませんね。
バレンシア星系の治安は非常に安定しており、傭兵の方がこちらへ来られること自体が珍しいのです。
ここでは名のある傭兵を探す大企業の方と、企業の方との雇用契約を目指されている傭兵の方しか参られません」
「そりゃあ常時帝国軍が展開している首都星系だからね、傭兵が矢面に立って戦っちゃうと軍の面子が立たないよ。
というか、こんな場所攻め込むアホが居たらクレジット払ってでも見てみたいね。
ってことは、ボクらみたいなのはお邪魔虫かな?」
「いえいえ、皆さまもれっきとしたギルド員です。
しっかりとご案内させていただきます」
そう言って手を伸ばしてくる受付嬢に俺とエリーはギルドカードを、リタは身分証明書を渡す。
「エリー中尉は……はい、宙賊の掃討作戦でご活躍された功績が加味されます。
今回は昇進できませんが、この調子ですと次回更新時には大尉に昇格できそうですね。
存分に宇宙のゴミ共を駆逐していってください」
「おおう、お姉さん言うねー。任せときなって」
宙賊の掃討任務っていうのは、俺がラビットに加入したあと直ぐに参加した宙賊掃討作戦のことか。
確かに沢山の宙賊を屠ったし、エリーに至っては巡洋艦を1隻墜としていた。
この分だと俺も昇進が近いかな?
「続いてオキタ准尉ですが……はい、オキタ准尉も宙賊の掃討作戦、並びにオークリー近郊での宙賊撃破の功績が認められます。
この功績ですと少尉に―――いえ、お待ちください。
ギルド幹部からオキタ准尉に関しての連絡? うそ、こんな事今まで一度も……」
「何か問題が?」
「……申し訳ありません、帝国軍からの推薦によりオキタ准尉は中尉へと昇格になります」
「軍から? 何か理由は?」
「申し上げられません」
「誰からの推薦かも言えないのか?」
「私にその権限はなく、申し上げられません。
ですがその、ギルド上層部からの通達では”軍の推薦とこれまでの経歴を考慮して昇進させろ”と一方的な通知だけが降りています。
いったい何を為されたのですか?」
「……まあ、色々あったってことで」
十中八九クラウン司令の仕業だろう。
リタの身柄と引き換えに勲章は渡せないとか言っておいて、平気でこういうことをして来るのか。
あまり借りを作りたくない、出来れば関わり合いたくない類の人にこんな事をされると、こちらとしては心情的に関係を切れなくなるからやめて欲しいんだが。
「では、最後はリターナさんの登録ですね。
ギルド登録にあたっての契約事項を読み上げますか?」
「いらない。どうせこの二人としか行動しないから」
「そうでございますか。
ではリターナさんは二等兵として登録を……え、待って、こっちも?
……大変失礼しました、リターナさんも特例として中尉スタートとなります」
「……私にまでこんな事するメリットって何?」
「俺に聞かないでくれ。とりあえず、何かに巻き込まれるのは覚悟しておこうぜ」
「うへぇ……面倒」
単なる親切心だったらいいんだが帝国の怪人のやる事だ。
いきなり『艦隊に合流して欲しい』なんて指名依頼が飛んできても可笑しくない。
「あの、皆さん本当に何をされたのですか?」
「ん~、まあ秘密って言われてないから別にいっか。
ボクたちね、この間までオークリーでとある作戦に従事してたの。
第二艦隊と一緒にね? これだけ言えばわかるかな」
「オークリーで任務、帰還したばかりの第二艦隊と一緒に……って、ええ!?」
「しー! 声が大きいって!」
口元を手で隠して驚く受付嬢にエリーが止めに入るが時すでに遅く、何があったのかと外野の注意がこちらに向けられてしまった。
「も、申し訳ありません、少し驚いてしまいました。
ギルドでも情報は落ちてきておりましたが、傭兵の名前までは開示されておらず……そうだったのですね、あなた方が……大変でしたでしょうが、いちギルド員としても皆さんのご活躍は大変喜ばしい限りです」
「そう言って貰える頑張ったかいがあるな」
「そうだねー」
「ノーコメント」
「ふふ、皆さんの更なるご活躍をお祈り申し上げます。
ではこちらがエリー中尉、オキタ中尉、リターナ中尉のギルドカードです。
では、これにて更新と登録作業は完了です。他に何かございますか?」
「ああそうだ、ギルド管理のTSFカタログはあるか? 機体の購入を考えているんだ」
「ございます。
データベースから一覧に纏めた物をご用意致しますので、あちらのお席でお待ちください」
商談用のスペースを紹介されたので、2人を伴ってそちらに移動する。
いつだって新機体ってのは選んでいる時が一番楽しいんだ。
カタログを眺めてスペックを比較する、そのスペックの一長一短に一喜一憂するこの瞬間、それが本当に堪らないんだよな。
「機体を失った准尉がお情けで中尉に昇進とは、傭兵ギルドの名声もあったものではないな!」
人が楽しみに浸りながら移動していると、スッと横から立ち塞がってきた茶髪ロン毛野郎が一人。
なんだこいつ、喧嘩売ってんのか。
偉大なるテンプレを一つまみ




