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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
着任、ラビット商会
3/82

03_雇い主と元中尉_挿絵有

簡単用語

TSF:人型兵器。MのつくスーツだったりAのつくコアみたいなもの

VSF:戦闘機だったり戦闘艦のようなもの

ヴォイド:変異異性体。何にでも寄生する銀河の厄介者


241006 段落修正


「お腹空いてへん? 空いとる? ご飯まだやんな?

 ウチもまだやし、詳しい話もしたいから一緒に行こか。

 飯代? ええって! それくらい奢るやん!」


 などと勢いに圧倒されて近場の庶民的なレストランに入ってご馳走になっている。

 頼んでいたハンバーガーは全て平らげ、追加で頼んでいた温かい飲み物で一息ついたところだ。


「ちょい待ってな。ウチこんな見た目やろ? 食べんのも遅いねん」


 宇宙ハーフリングの成人女性……でいいのだろうか。

 130㎝にも満たないであろう、ちんまりとた見た目は種族的なものだろう。

 ハムハムとサンドイッチを口に入れていく姿を見ると、子供を相手にしているような感覚に陥る。

 すごく失礼な話だが。


「兄さんが何言いたいかは分かっとるけど、ウチはヒトとハーフリングから生まれたハーフ・ハーフリングやからな?

 もうちょい成長するやろうけど、こんなナリでも歳食っとるでな?」


「左様で。見たのはお前が初めてだからな。失礼なら謝るが」


「別にかまへんで、この見た目で得することも多いし。

 ちなみに母親がハーフリングで、親父がヒトな。

 ウチが言うんもアレやけど、親父はよくオカンに手出せたと思うわ」


「そういうのが好きな人もいるんじゃないか? 宇宙広いし」


「せやないとウチも生まれてへんしな。ロリコンな親父に感謝や」


 サバサバしている性格なのか、あっけらかんと言うハイデマリー。

 俺もこっちで目覚めてから色々な種族を見てきたから理解はあるヨ。

 ロリコンなんて可愛いものだって分かってるサ。


「ごっそさん。いやぁ、何となく入った店やけどハズレじゃなくて良かったわ」


「ハズレ? この辺りに来たのは初めてだけど、通りも綺麗だしまともな店に見えたぞ」


「だからこそやん。

 仕事の話ってのが色気ないとこやけど、せっかく兄さんとご飯するのに美味しくなかったらつまらんやろ?」


「奢って貰うのに文句を言うほど薄情なつもりはないんだが……」


「その文句は不味いモン出す店への文句やろ?

 ウチに言うとるんじゃないから言ったらええねん。クレジット使ってんのにおべっかまで使う必要はないわな。

 まぁ、兄さんが初対面の小娘にも気使ってくれる良い人やってのが分かって良かったけど」


「……ハイデマリー的には、俺を誘って良かったって考えは変わらないのか?」


「あ、観察しとるんのに気付いた?

 でも気悪くせんといてな? この仕事し始めてからの癖になってもてん」


 商人は人の機微によく反応するというが、あっけらかんと観察していたことを話すのだろうか。

 人によっては失礼に感じるだろうが、ハイデマリーが見た目で得しているのはこの部分なのだろう。

 幼く見える少女面に観察されても特に何も感じない。


「悪いも何も、感心するくらいだよ。

 俺は人の機微とか分からない部類だし、人と話すよりTSFに乗ってる方が楽なくらいだ」


「ん、ありがとな。そう言って貰えると安心するわ」


 口元を拭いて、同じく温かい飲み物を啜るハイデマリー。

 お互いに一息付けたところで本題に入るとする。


「俺を雇いたい話だったけど、とりあえず自己紹介から始めた方がいいか?」


「書類上は知っとるけど、そうして貰った方がええかな。

 味気ないやん? せっかくの出会いやのに書類上だけの関係なんて」


 二カッと笑う姿には裏表の無さを感じる。

 うーむ……登録したての俺を即決で雇用しようとするくらいだ、裏があるものだと思っていたが。

 ……ダメだ、少女がニコニコ笑っているようにしか見えない。


「俺のことはオキタって呼んでくれ。

 つい先日までは帝国軍のTSF乗りで現傭兵。

 元々の階級が中尉だったからか、傭兵ギルド登録時には准尉を貰っている。

 ああそうだ、クレジット不足で今はTSF業は休業中だぞ。

 一定額が貯まるまでVSFで小遣い稼ぎを予定しているところだ」


「うん、あんがとさん。じゃあウチと契約するってことでええね?」


「はええよ。目がガンギマリすぎてて怖いんだが」


 鼻息まで荒いぞこの小娘。

 待て、手をワキワキさせるんじゃない。

 立つなバカ、座れ。立つと机に顔が隠れて見えなくなるぞ、小さいから。


「ウチと契約して傭兵になってーや」


「……その前に教えてくれ。何で傭兵ギルドに登録したばかりの俺なんだ?

 傭兵ギルドにも腕利きはいるだろうし、実績も上の奴だっているだろう。

 その中で何で俺を、しかも即決で雇用したいと言っているのか。

 嘘偽りなく答えてくれると俺的受けポイント高いぞ」


「元帝国軍の中尉を准尉待遇の基本給で雇えるとかマジ最高!

 今の内に囲っておきたい!」


「買い叩くつもり満々だったのかよ! 世知辛い……はぁ」


 脱力して背もたれにもたれ掛かる。恐ろしいこと言うなこの子。


「悪い話でもないと思うけどな?

 前の所属じゃどうだったか知らんけど、傭兵になったら純粋に宙賊の賞金とかヴォイドの討伐数がそのまま貰えるし。

 そこにウチからの基本給も入るからそこそこの値段になると思うけど」


「……マジか? 軍は討伐数に合わせてなんてくれなかったぞ?」


「そこが傭兵との差やろな。位の高い傭兵ほど高給取りなんはそれが理由や」


 駐屯地に偶にいる羽振りのいい傭兵はそれが理由だったのか。

 こっちはPXの食事がメインなのに、傭兵連中が高い酒買って煽られた時は腹が立ったもんだ。

 何が「や~い!安月給の甲斐性なし~!」だあのクソガキめ。

 ちなみに賞金額ってどれほどのものなのだろうか。

 手元の端末でざっと確認すると……


「宙賊の撃破賞金ってこんなに高いのか」


 10万クレジットなんて最底辺も最底辺、扱いとしては食い逃げとかその程度。

 ソートでVSFやTSFの所持に限定すれば、3桁4桁万クレジットの連中も腐るほど端末に出てくる。

 宙賊は普段から徒党を組んでいるから、賞金が手に入れば燃料弾薬費を考慮しても一回の出撃で半年は遊び惚けることが出来るんじゃないのか。

 ヴォイド相手にするのが専門だったから知らないが、もし宙賊がシミュレーター通りの腕しかないとしたら……俺は大金持ちになれるかもしれない。


「准尉待遇の相場は月30万か……40万出せるなら契約してもいい」


「40? 何言うてんのよ、オキたん。ウチはアンタに2倍の80万出すで!」

挿絵(By みてみん)



「帝国軍の大尉待遇だぞ。払えるのか?」


 命が掛かっているとはいえ少なくない金額だ。

 それも基本給だ。軍では任務上出撃の機会が多かったが、傭兵はそうでもないだろう。

 となると、何も起きなくても護衛だけしていれば月に80万入ってくることになる。

 そう考えるとこの契約は美味しすぎる。


「ウチの稼ぎはそれなりやし問題ないで。

 それに、TSFトップエースを月80万で雇えるんは破格すぎるわ。

 ウチじゃなくても60万は出すやろな」


「今はVSF乗りだ、望まれた仕事ができるとは限らないぞ?」


「はよ戦果上げてTSFに乗り換えてな?

 なんなら購入分のローンを無金利でどうや?

 あ、でもオキたんに釣り合うTSFってなると市場に出回っとるやつじゃ足らんよな。

 ウチの顧客には企業連中もいっぱいおるし、何なら貴族にも伝手があるからそこに話通すんもアリやな。

 むしろそれが正解まであるか?

 トップエースの専用機体作るっていえば企業連中もこぞって手上げそうやし……オキたん! TSF作ろうか!」


「お前の入れ込み具合がこえぇよ」


 小柄な少女面がフンスフンスと鼻息の荒いのは外面が悪すぎる。

 周囲の目は痛いが、ハイデマリーはお構いなしのようだ。どうやら俺を逃がすつもりはないらしい。

 ここで断っても困ることはないだろう。宙賊でもヴォイドでも一人で刈れる自信がある。

 戦闘だけなら自信があるが、それ以外のことに疎いのは自分のことだ、ちゃんと分かっている。

 宙賊の場所は知らないし、遭遇戦を期待するだけでは燃料費もバカにならないだろう。

 となると、TSFに乗り換えられるまでの時間に雲泥の差が生まれる。

 時間を掛けずにステップアップするにはこの話に乗っかるのがベスト、か?

 雇い主が妙に鼻息荒いのが気になるが、それを除いても渡りに船なのも確かだ。


「分かった、降参する」


「ええんか!? よっしゃ!」


「契約内容は月80万でいいし、むしろお願いしたい。燃料弾薬費は?」


「護衛任務中は商会で持つで。

 ウチがコロニーに居る時に個人で受ける仕事分は自腹切ってもらうけど」


「専属じゃないのか?」


「行く先々に付き従ってもらうって意味では専属やし、ウチを最優先して貰うで?

 でもずっと宙域を移動しとるわけじゃないし、仕入れや休暇でコロニーに滞在する日数も増えるんよ。

 そん時はギルドの仕事を受けてええでってことや」


「破格の条件に思うんだが、それでいいのか?」


「ええよ? オキたんがこの星系外でも有名になれば、ウチらの商会を襲うアホも減るやろうし。

 ぶっちゃけた話、オキたんが加入しても交易の儲けだけで生活できる算段はついとる。

 せやから宙賊の賞金なんてウチはいらんよ」


 あっけらかんと言うが、本当に大丈夫なのだろうか?

 少女の見た目とやり手の商人らしい言動がアンマッチなせいか不安になってくる。

 まぁいいか、いざとなれば契約を打ち切って個人傭兵に戻ればいいだけだ。


「他に質問は?」


「ある。護衛仲間についてだ」


 一番大事なことだと言ってもいい。

 荒くれ者や癖が強い傭兵ギルドの連中だ、背中を預けられないと判断したら一人でやる場面も多くなるだろう。

 考えたくないが、後ろを注意しないといけない場面に出くわすことも考えないといけない。


「どれほどの船か船団を護衛すればいいか知らないが、俺一人だとカバーしきれないこともある。

 信頼できるウィングマンは必要だ」


「護衛対象は最低限の武装しかない船一隻。

 元気モリモリ平たい胸族のガキンチョポニテエルフがおるで」


「……待て、その字面のエルフは前に会った気がするんだが?」


 元気モリモリ薄い胸メスガキエルフとか、銀河広しといえどそうそう居てたまるか。

 単身エルフの自軍を飛び出して傭兵やってる特異なエルフはあのガキンチョくらいだろ。


「あれ? じゃあ本当に面識あるんや。あの子が勝手に言ってるもんやと」


 PXで高級酒買い漁ってたクソガキが仲間とか、世の中狭すぎませんか。





 ☆





 彼をこのコロニーで見つけたのは本当に偶然だった。

 星系軍のトップエースが帝国軍を辞めたという話はウチの耳にも届いていたが、粉を掛ける前に彼は駐屯地から姿を消したらしい。


 曰く、一人でヴォイドの群れに突っ込み囮役を遂行し、何食わぬ顔で帰ってくる

 曰く、彼が哨戒に出たという理由だけで、宙賊がそのエリアからいなくなった

 曰く、次期帝国近衛に席を移すことを期待されている


 などなど、彼に対する評判は星系に轟いていた。

 そこに居るというだけで味方の士気を上げるジョーカー、それがTSFトップエースのオキタ中尉。

 星系を任されている貴族からの覚えもよく、絶大な信頼から中尉の機体チューンには貴族の私財も投入されているとか。


 そんな彼が帝国軍を退役した。

 正確には、懲戒処分になるところを彼の上司や貴族の嘆願によって依願退職扱いとなった“らしい”。

 本当の理由はこの時点でウチは知らんかったけど、この噂は光よりも早く星系を駆けた。

 余程のモグリでない限り、彼の所在はこの星域において何よりも優先される。

 彼がいる場所がセーフティエリアに一番近くなるのだから、命懸けの仕事をする傭兵や商人は逃したくない情報だ。


 だからこそ誰もが思ったはずだ。

 あれ? もしかして、オキタ中尉を引き抜くチャンスじゃね?

 フリーになったトップエースを引き抜くのはどこだ。

 名高い傭兵団か?

 ブランドに裏付けされた企業や商人か?

 はたまた貴族の懐刀となるか?

 宇宙を繋げるニューラルネットワークには彼の所在を確認する投稿が相次ぎ、有用な情報には少なくない金額が用意されたほどだ。


 ただ問題なのが……このオキタ中尉、意図しているのかせずなのか、他人からの評判を全く理解していない。

 帝国軍辞めた瞬間から宙賊からは賞金首扱いやぞアンタ! いや懸賞金掛けてるのは商業連合も同じかい!

 そんな自分の置かれた状況を知らず、呑気に傭兵ギルドのシミュレータールームに行こうとしていた所を、ウチは奇跡的にも見つけてしもたわけ。

 銀河逆転してもええから見つかってくれと、藁にも縋る思いで傭兵ギルドを訪れたウチの気持ちを返してほしい。


 そこからは商人としての弾丸祭りを覚悟した。つまり、クレジットでぶん殴るのである。

 運良く傭兵ギルドにおった連中がニューラルネットワークにオキタ中尉の情報を流して少なくない金銭を得ている中で、ウチは受付のオッサンを100万クレジットでぶん殴った。

 結果オペレータールームに入れてもらった。お小遣いが赤字やぞゴルァ!


 ただ、100万クレジットの価値は十分にあった。

 シミュレーターで見た光景は、正しく圧巻だ。


 クレジットの問題からTSFは諦めて戦闘機であるVSF、それも型落ち欠陥機を購入したらしい中尉だったが、動きはホロ動画で見たものと遜色なかった。

 むしろ今乗っているVSFの方が強くない?

 そう思ったが、契約傭兵のエルフが『TSFに乗ったオキタ中尉には勝てる気がしない(負けるとも言ってない)』と言っていたのを思い出す。

 そうだ、彼の本領は人型兵器TSFに乗ったときにこそ発揮される。

 では目の前これはどうだ?

 受付に聞けばVSFは両手で数える程度しか搭乗経験がないらしい。

 にも拘らず鋭い戦闘機動を繰り出すVSF。素人ながらに美しいとも感じた。


「―――イヒ、イヒヒヒヒ、欲しい……絶対に、彼が欲しいわぁ……!」


 欲しいものは手に入れる。

 商人として、人材マニアとしての食指が疼いて堪らない。


「ハイデマリーさんよ、今のアンタはこの星系で一番運が良いぜ。

 アイツと最初に契約交渉できるのは間違いなくアンタになるだろうよ」


「彼との契約交渉中に人払いをお願いしたいんやけど。幾らいるん?」


 ああ、こうなる事が分かっていたらクルーを連れてくるんだった。

 期待薄だからと一人で来た事を後悔しつつ端末に緊急招集を入力するが、彼がシミュレーションを終える方が早いだろう。

 ならばどうするか? 追加投資だ、もってけ泥棒!


「市場適正価格でいいですぜ。このテの依頼料は代々そう決まってるんで」


「え? そうなん? ここぞとばかりに値段釣りあげるかと思ったけど」


「傭兵ギルドと商業連合は持ちつ持たれつ、ですからね。

 目の前の一件で後の関係にヒビ入れるわけにはいかんでしょう」


 クレジットでぶん殴った甲斐があった、そう受け取っておこう。


 結果、ウチは想定されている相場よりも安い金額でオキタ准尉と契約できた。

 カマしたウチが言うのも何やけど、そういうとこやぞオキたん!


実在する車の名前って素敵。Fitって欧州だとやらしい意味になるらしい、知らんけど。なので欧州名はJAZZ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上司と縁のある貴族グッジョブだけど軍自体はやめた方がよかったくらいには信用できないなあ。 作品が作品なら企業が専用機作らせてくれ、そんで広告塔にもなってくれ!って言ってきそうな人材放出する…
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