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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
XTSF開発計画
27/91

25_ブルーローズ/インターミッション②_挿絵有

たくさんのイイネありがとうございます。励みになります


『リターナ中尉の件について、今一度よく考えて貰いたい』

『君には義務があった。責任も。そして今、君はまた自分の行動を選べる立場にある』

『私が君に何かを強要するつもりはない。君の選んだ行動とそれによって生まれる責任を、私はただ尊重するだけだ』



 話半分にクラウン司令と別れた後、俺は再度リターナ中尉がいる独房前に足を運んでいた。

 何をしに来たというわけでもないが、リターナ中尉が3年前に助けた女の子だと知って居ても立っても居られなかった。今更顔を合わせて何を話せばいいんだという思いと、全く気付けなかった自分の馬鹿さ加減に二の足を踏まされているが、何時までもこうしてはいられないだろう。


「中尉、オキタだ。入るぞ」


 これ以上考えていても仕方がない、もやもやした気持ちも顔を見れば晴れるはずだ。独房へと続く扉の外から声を掛けて中へ入る。中尉は誰かが来ることが分かっていたかのように開いた扉を見つめていた。


「こんな時間に扉の前で気配が止まったから、何か如何わしいことを考える人が来たのかと思った。一応聞いておくけど、もしかしてそういうつもりで来たの?」


「んなわけあるか!」


 表情を変えずに首を傾げる中尉に思わず突っ込んでしまう。捕虜の扱いは条約で決まっているだろうに。そんなことするような奴がいたら根っこから引っこ抜いてやる。


「何しに来たの? と言っても、私には大体のことが何となく解るのだけど」


 そう言って頭を指さすリターナ中尉。B.M.Iの恩恵の一つなのだろう。たしか……


「後天的思考加速能力獲得による未来視、だったか。B.M.I強化手術を受けた連中から聞いたことがある」


「そうだね。私の場合は全身に適用されているから、機械的な予測だけでなく人の気配や感情すら機敏に受け取ることができる。これはこれで案外便利」


 俺に見せるように、リターナ中尉の顔にまで浮かび上がる、B.M.I強化手術を受けた者特有の白い模様。普段は黄色をしている目は副作用のせいで真紅に染まっており、施術強度が非常に高いことを物語っている。限界まで身体を弄った結果がこれだ。


 B.M.I強化手術は外科的施術によって身体に機械を埋め込み、人の限界を超えた人間を人工的に生み出す技術だ。TSFやVSFパイロットにこれを施した場合は高い処理能力と反応速度の劇的な向上が見られるが、巨大な機械と人体を直接接続するため廃人になる可能性が高い―――というのが、帝国が提唱するB.M.I強化手術の概要だったはず。

 それを全身に施す。どれだけの覚悟があったのか俺には知る由もない。あの時助けられていたのなら、こんな姿にさせずに済んだのだろうか。口元が歪みそうになるのを耐え、向かい合うように中尉のいる独房前に座り込む。


「うん……そっか。聞いたんだ」


「! そんなことまで解るのか?」


「どうだろうね? こんな夜更けに独房まで来るには、それなりの理由があるかなって予想したのもある。でも、オキタ准尉の感情は読みやすいかな」


 こんな夜更けに、そう言われてポケットの中に入れていた端末を見てみると、既に夜中の1時を回っていた。こんな時間に女の子が一人閉じ込められている場所に来る、そんな人間には警戒くらいするだろう。


「リターナ中尉、その……」


「リタって呼んでくれないんだ? ね、オキタ君」


「おまっ……揶揄いやがったな」


「ふふ」


挿絵(By みてみん)


「髪、昔は腰くらいまであったよな。雰囲気も違うし、司令に言われるまで全然気付かなかったぞ」


「何時までも子供じゃないし、私も大きくなったから。色々とね、ほら」


「やめろやめろ、そのデカいのを寄せるんじゃない。見せてくるな!」


「純情なんだ」


「うっせ!」


 柔和に微笑むリターナ中尉。その顔が過去の彼女と重なって見える。現金なもので、一度意識すると目の前のリターナ中尉とリタが同一人物だと認識してしまう。あの頃と違うのはお互いの立ち位置だけだった。


「……ごめん。絶対に助けるって言っておいて、俺はお前を助けられてなかった」


 頭を下げた。後悔しかない。死ぬ気でやってもどうにもならないことはある。それでも、その結果として友達を失う所だったことには後悔しか持ちえない。


「謝る必要はないよ。オキタ達が命がけで守ってくれたお陰で私のいた船は無事だったから。最後の最後に共和国のシンパが無理やり船をワープさせた、それだけのこと。だからこの話はこれでお終い」


 下げる頭にそう声を掛けられた。とやかく言わせてくれるつもりはないらしい。ばっさりと切ってしまったリターナ中尉は、本当にこの話についてもう語るつもりがないようだった。


「だからこそ、この出会いには感謝したい。最後に会えて本当に良かった」


「は? 最後って?」


「元貴族とはいえ、今はΑΩを盗んだ共和国特殊部隊の捕虜。しかも共和国製のB.M.I強化手術を全身に施術した生きる標本が無傷で手に入ったら、どうなるかなんて簡単に想像がつく」


「それは……」


 捕虜となった自分がどうなるか、リターナ中尉は諦めたようにそう呟いた。その手の心配は俺にも想像あった。ここでは捕虜の扱いが順当なものだと思っているが、バレンシア星系に着き、どこかに移送された後に何が待っているか。恐らく、中尉と俺が想像している内容は同じだろう。


 けど、そんなことには絶対させない。


「―――行動と、負うべき責任か」


「? どうしたの?」


「3年越しの約束を果たそうかと思ってな」


「? どういうこと??」


「絶対に助けてやるって約束、俺だって忘れたことはないんだよ。じゃあな、また会おう」


 後ろから何かを言っているリターナ中尉に背を向けて独房を出る。何をするにせよ、まずはウチのクルーへの説明からだろう。もう家族同然になった仲間を放って、俺だけ勝手な行動をすることはできない。これもまた、俺の行動から生まれた俺が負うべき責任だ。


「シズ、どうせ俺の端末介して聞いてんだろ。全員に伝えてくれ、俺の成功報酬が決まったって」


『仰せのままに、ミスター・オキタ。私はラビットクルーのお世話様係ですので』




    ☆




 艦隊生活4日目。


 今日を以て艦隊はバレンシア星系に向けて移動を開始。まずは近場のスターゲートを目指してワープをし、スターゲート到着と同時にバレンシア星系への超長距離ワープを敢行する手筈だそうだ。それでも艦隊が動き出すまでにはまだ時間がある。リターナ中尉の件はそれまでに片を付けておきたい。


 そういう訳で、今朝からラビットの面々には艦内休憩所に集まってもらった。ここ数日で艦内の豪華生活に慣れてしまったのか、緩みきった顔をしているクルーの胃に熱々のコーヒーを流し込み―――約1名物凄く抵抗した―――頭をシャキッとさせた所で話をする。

 3年前のヴォイド侵攻、俺とリタの出会い。リタが生きるために共和国軍に所属し、結果として今回の戦いで俺を助けてくれたこと。そして、これからリターナ中尉に待ち受けるであろう運命について。


「俺が話せる内容は以上だ。ここで皆に伝えておきたいんだが、俺は今回の成果報酬でリターナ中尉の減刑、恩赦……可能ならその身柄まで求めるつもりだ」


 皆顔を顰めている。そうなる気持ちもわかる。俺が言われる側だとしてもそうなるだろうから。


「……ん、話てくれてありがとな。とりあえずオキたんの話は分かった。中尉との縁は昔からずっと続いとって、ウチとしても今回オキたんを助けて貰った恩がある。助けたいっちゅー気持ちもよく分かった」


 目を瞑り、腕を組んで思案するハイデマリー。他の皆も思う所があるのだろう、何とも言えない表情を浮かべてハイデマリーの次の言葉を待っている。


「けどなオキたん、恩赦はほぼ無理とちゃうか? やった事自体はただの越境作戦やけど、付随する物があまりにデカすぎる。ΑΩなんて代物にどれだけの価値があるかなんて誰にも想像がつかん。もし、仮にやけど今回の功労者全員、つまりウチら全員が報酬を取り下げて頭下げるくらいして漸く一考の価値有るかなってなるくらいには無理筋な話やとウチは思う。

 それにウチかてこないな事言いたくないけど、帝国軍からしたら強化された中尉の身体は文字通り宝の山や。それこそ、今すぐ生きたまま頭開かれたって不思議やないと思う」


『ミスター・オキタもとっくにご存知のこととは思いますが、帝国中枢では何が起ころうと誰も気にしません。都合の悪い事実へ深入りした者は勿論、関係者全てが人知れず処理されるからです。ミス・リターナの件も闇から闇へ葬るつもりでしょう。そうすることで帝国は体制を維持してきました。そこに一石を投じようというのなら、それ相応の覚悟が求められます』


「帝国が清廉潔白じゃないことくらい俺も理解している。だから中尉をそのままにはしたくないって言ってるんだ。合わせて二度も拾った命だ。せっかく拾った命を他人に好き勝手にされる、そんなのは誰だって嫌だろ」


「でもさ、私達が作戦を止められなかったら中尉は今も共和国に居るんだよ? オッキーが言ってるのって、急に現れた大罪人が知人で、自業自得なのに困ってるから助けたいって言ってるようにしか聞こえないよ。それに今まで探しもせずにほったらかしにしてたんでしょ? それってちょっと都合良すぎじゃない?」


「エリー氏、その言い方は少々ズルいですよ」


「目の前に昔別れ離れになった旧友が居て、助けられるのは自分しかいない。オキタ氏が助けたいという気持ちを持つことは、人として当然のことですよ」


「まあまあ、エリーだって何も助けるのに反対してるわけじゃないんだろう? いっちょ前に嫉妬してるだけだろうさ、ぽっと出の女にオキタが取られるかもしれないって」


「なにおう!? そんなんじゃないやい! 敵を気にする必要なんてないって言ってるだけ! オッキーはこの機会に新型を受領することだって出来るかもしれないんだよ!? そうすればラビットの戦力だって格段に上がるじゃないか! 帝国の新型だよ!? その機会を捨てるなんて勿体ないと思わないの?!」


「はいはいエリーそこまでにしとき。決めるんはあくまでオキたんや。ウチらはそれに賛同するかどうか各自で判断するだけや。……それでオキたん、報酬はホンマにそれでええんやね?」


「ああ、もう決めたことだ」


 純粋に心配してくれるハイデマリー。反対だと不機嫌を隠そうとしないエリー。理解を示してくれる双子に、フラットに考えてくれているであろうアンドー。全員が俺を見つめている中で、再度俺の意見を彼らにぶつける。


「俺はリターナ中尉……リタを助けたい。あの日助けられなかったあいつを今度は助けてやりたいんだ。だから頼む、皆の力を貸して欲しい」


 皆を見ながらそう言い、頭を下げた。3年前の約束の為だけじゃない。自分の立場を捨ててまで助けてくれた彼女を見捨てる、そんな選択肢を選ぶなんてことは出来ない。あの地獄から生き延びてくれた彼女を今度こそ見捨てたくない。


「はぁ……ま、報奨金は保証されとるからウチからは何も言わんけど、ほんまに甘いやっちゃで。ウチは賛成。皆は?」


「男が女を助けたいってのを後押ししない理由はない。儂の報酬くらいならくれてやる」


「私たちも賛同しましょう。いいよね、アレン」


「帝国の勲章なんて貰っても仕方がないし、欲しいものも無いからね。それならオキタ氏に賛同した方が今後も楽しめそうだ」


 頭を掻きながら皆へ賛同を得るハイデマリーに、エリー以外の皆は了承を示してくれた。

 顔を歪めるエリーに、俺は再度真正面から向き直る。


「頼む、エリー」


「……んぁぁあああもう!!!! ここでボクだけダメなんて言えるわけないじゃん! いいよ! 好きにしなよ!」


「すまん」


「ただし! ボクが貰えるはずだった報酬はオッキーが払うこと! それが条件!」


「分かった、何でも言ってくれ」


「あぁぁぁぁぁぁもおおおおおおおぉぉぉ!!!! 知らない!! 知らない!! オッキーの馬鹿!! 恩知らず! にぶちん!!」


「え゛ちょ、エリー!?」


 顔を真っ赤にして走り去っていくエリー。まさかの行動に咄嗟に動けず、あっという間にその背中は小さくなってしまった。


「くっくっく、オキタよ、さっきのは悪手じゃ。あれじゃエリーが不憫に過ぎる。ちょっくら年長者が慰めに行くかの。ほれ双子ども(保護者)、行くぞー」


「仕方ありません、これも年長者の務めですか。オキタ氏、先ほどの彼女の言動は気にしないであげて下さい。あの子はああ見えてまだ幼い、ひな鳥のような女の子ですから」


「エリー氏もまた、自分の中に芽生え始めた感情を持て余しているのです。然るべき時が来た時、貴方なりの想いを持って彼女と接してあげて下さい。私達から言えるのはそれくらいです」


「お、おう? いや、そうかぁ?」


 やれやれと歩いて追いかける3人衆を見送るが、3人の言い様に頬がぴくぴくと痙攣する。まさかエリーが、、、なんてことは考えすぎだと思うが。まだ他人を暇つぶしの玩具程度にしか見ていないアイツに限って誰かとそういう関係になるなんて、今時点では到底思えない。せいぜいがアンドーの言った通り、手元にあった玩具を盗られまいと言う気持ち程度だろう。


「……何だよハイデマリー、そんな目で見るなって」


「べつにぃ? みんな苦労するやろうなぁって思っとるだけや、気にしやんでええで」


『ミス・ハイデマリーはこう見えて既に適齢期です。ミスター・オキタ、つまみ食いなど如何でしょう?』


「何言うとんねんこのポンコツゥ! ったく、アホなことしとらんでクラウン司令のとこ行くで!」



使用model:7th anime XL-Pony A

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― 新着の感想 ―
アンドーイケオジでホント好き
「お世話様係」 誤字なのか悩んでしまった。普通のAIなら誤字なんだろうけどそれぐらいのジョークは言いそうでもあるんだが、顔が見えないから分からんw
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